邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第194話 武門街 これからの予定 魂食み(ソウルスレイヤー)の食い意地

 

 

 武門街に到着したのは、昼を少し過ぎたばかりだった。早く街に着けたのは、霊園からの帰り道、運良く馬車に出会い、乗せて貰ったのだ。

ほんの少しの距離だから、代金は入らないと云う御者に、レンディアはそうはいかないわよと、銀貨一枚を握らせた。

「有り難く頂戴しときます。銀ベロで軽く飲ませて貰いますよ」

 御者はそう云うと、頭を下げて去って行った……銀ベロ?

 

 

 街の門を潜る頃には、雪はゆっくりとだが降る勢いを増していた。

この世界に来て、初めての雪か……何か感慨深い物があるな……。

すぐにでも荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)に戻るつもりだったが、シェーミィが屋台で軽く食べたいとゴネ始めた。

ゴネるシェーミィを宥める時間がムダと感じたレンディアが、ため息混じりに云う。

「分かったわよ、良い屋台に案内して」

「やった、こっち!」

勢い良く、屋台通りに走っていくシェーミィ。屋台飯は、店の食事とはまた違う風情と味があるからな。

「……全く、あんなに急ぐ事あるかね?」

苦笑を浮かべ、歩き出すグランさん。

軽く温かい物を腹に入れて、さっさと宿に戻るとするか……。

 

 屋台飯は、立ち食いソバに決まった。手早く済ます事が出来て、暖まるには一番良い。

食べたのは、甘く煮たアサリの様な貝とワカメが具の、コシのあるソバ。魚介の出汁が効いたさっぱりとした塩味のスープが体を温め、小腹を満たしてくれた。

 麺好きのグランさんも気に入るほど味も良く、二杯目を注文しようとしたシェーミィを止め、荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)に戻る頃には雪は本降りになっていた。

 

 

 「今帰りかい。朝から出て、結構時間掛かったね。遠出してたのかい?」

宿に入ると、女将のイーライさんが、早速出迎えてくれた。

 「遠出というほどでも無いけど、ピックマンの霊園にちょっとね」

応えるレンディアに、へーえ、わざわざあんな所にね、と云いながら、イーライさんは“碧水の翼”の、いつもの“指定席”に案内してくれた。

宿内の全てが見通せるテーブル席には、早くも一人の先客がいた──魔導卿ラーディスさんだ。

 

 「ああ、そういや魔導卿が少し前に来てたね。構わないだろ?」

イーライさんの言葉に、レンディアが頷く。無論、俺達も否は無い。

 「よう、邪魔しているぞ。イーライさん、茶のお代わりを頼む。レンディ達にも茶を」

ラーディスさんの注文に、あいよと応え、イーライさんは厨房に向かって行った。

茶の前に、まずは身支度を整えるか……俺達は、一旦部屋に戻る事にした。

 「兄上、後でね」

レンディアの言葉に、手を振るラーディスさん。

 

 「ピックマンの霊園に行って来たのか……あの風変わりな屍鬼(グール)には会ったか?」

ラーディスさんは、煙管に煙草葉を詰めながら尋ねてきた。

いつもの漆黒のローブ姿ではなく、灰色の無地のシャツを着ている。

下ろし立ての様に、襟や袖がパリッとした長袖のシャツ。

その袖口は、金色のカフスボタンでキッチリ留められている──精悍さと気品が合わさった、貴族然とした容姿と佇まいをした、ラーディスさん“らしい”装いだ。

 

 「ええ、会ったわよ。ずいぶん話好きの、変わったグールだったわよ」

レンディアの答えに、ふむ、ピックマンと会ったか……と云いながら、煙管をゆったりと吸い始めるラーディスさん。

 「彼とは、芸術関連の話でもしたか?」

 「いいえ、屍鬼(グール)になる前の話と、なぜグールになったかという話をしたわよ」

レンディアが、運ばれて来たお茶をカップに注ぎ、グランさんが俺達に配ってくれた。

 「ふーん、私も前に聞いたな。なかなかに興味深い話だったと覚えている」

ふう、と煙管を吹かすラーディスさん。何か感慨深そうに目を細めている……ピックマンとの会話を思い出しているのだろうか?

 

 

 「ソウルリーパー(魂を刈る者)を、討っただと……? もう少し、具体的に聞かせてくれるか?」

煙管をくゆらせながら、ラーディスさんが俺達に尋ねてきた……微かな冷気とともに、威圧感を感じる……。

 「具体的も何も、言った通りよ。私達に出来る事をやっただけよ」

ラーディスさんから漂って来る、冷気の様な威圧感を、レンディアはさらりと受け流す──

 

 ふーむ、とラーディスさんは背もたれに身を預け、煙管を吹かす。

先ほどまでの冷気は引き、威圧感は消え去っていた──後から、レンディアから教えてもらう事だが、ラーディスさんの冷気を伴うあの威圧感は、強い好奇心の現れだそうだ──

 

 「出来る事をやっただけ、か……ソウルリーパーの討伐は、本来それなりの人員と前準備が必要なんだがな。さすが“碧水の翼”と言っておくか……レンディ、ソウルリーパーの大きさはどれほどだった?」

そうねえ……とお茶のお代わりを注ぎながら、ソウルリーパー戦を思い出しているレンディア。

 「体格的、というか大きさは、グランより一回り以上はあったかしらね。とはいっても、物質的にいまいち安定しない存在だったから、よく分かりにくかったわよ」

レンディアの言葉に、ソウルリーパーの姿を思い出す──

 

 ソウルリーパー(魂を刈る者)の第一印象は、四方に波打つ、質量を持った黒い霧の塊といった感じに見えたな……その黒い塊は戦闘状態になると、霧の様な黒衣を身に纏う、亡霊の様な姿の異形体となった──不死族と悪魔の両属性を持つ存在。それがソウルリーパーだと、俺は認識しているが……さて?

 

 俺がソウルリーパーの事を思い出している最中にも、レンディアとラーディスさんの会話は続いていた。

 「ふーん、聞く限りでは……小型だな。さっきも言ったが、ソウルリーパー討伐戦は前準備が必要な大物だ」

ラーディスさんは、ぷかり、と煙管を吹かす。

 「ソウルリーパーは、地下でやりあう様な存在じゃない。陽の当たる場所、地表に引きずり出して、短期決戦で仕止める相手なんだ」

 「……小型という事は、さらに大きくなっていた可能性があった、という事ですか?」

ラーディスさんに、グランさんが尋ねる。

 「左様。霊園に巣くう不死族(アンデッド)を喰らい、成長し、やがては霊園全域に影響を及ぼす様な、強力な存在になっていただろうな。そうなったら──」

いつの間にか注文していた、黒ワインに手を伸ばすラーディスさん。

 「……そうなったらー?」

塩味の焼き菓子を手に、シェーミィがラーディスさんに尋ねる。

 ふむ、とラーディスさんが頷き、応えた。

 

 「緊急の討伐依頼が発生して、大騒ぎになっただろうな。ソウルリーパー(魂を刈る者)の脅威レベルによっては、魔城門(デモンズゲート)が顕現する事と同じ様な騒ぎになるだろうよ」

煙管をくゆらせながら、ラーディスさんは事も無げに云う。

 「デモンズゲート並みの脅威になる可能性もあったのですか……」

グランさんが呟く様に言い、冷めた茶を飲み干す。

 「ああ、そうだ。だが、そうなる前に始末する事が出来たんだ。この事はギルドに報告した方がいい。手柄になるぞ……ああと、今日の昼食は何だっけか?」

 ラーディスさんが、いつの間にかテーブル側に控えていた狼族の従業員──ラーシアさんに昼食のメニューを尋ねた。

 「今日は、肉ジャガイモ煮込みに貝と根菜のクリームスープ。酢漬け野菜は玉葱です。肉ジャガイモはよく煮込まれていて、お勧めですよ!」

肉ジャガイモ煮込みか……肉じゃがっぽいな。この世界に、しらたきあったっけか?

 

 「寒い時期の煮込みって良いよねー。いいくらいにお腹空いてきたから、ご飯にしよーよ」

先ほど食べたソバの事が、頭から消え去ったシェーミィが浮き浮きと云う。

 「ふん、そうしましょうか。ラーシアさん、昼食お願いよ」

かしこまりましたー!と、レンディアの注文にラーシアさんが明るく応え、厨房に行く。尻尾がパタパタと揺れていた。

 「昼食の後に、ヒルダの様子を見に行きましょうか。その時にでも、ソウルリーパーの事をギルドに報告しましょうよ」

レンディアが、ヒルダの事を口にする。そういえばヒルダの事があったな……さて、彼女はどんな調子だろうか?

 

 

 「霊園奥に地下湖。離れ小島に古い祠……ふーん。興味深いな……」

食後の茶の時間。霊園での出来事で、ソウルリーパー戦以外の事をラーディスさんに俺達は話した。

 「ふむ……ピックマンに会いに行くついでに、その祠を見に行ってみるさ。地下湖も興味深いしな」

ラーディスさんが、煙管をぷかりと吹かす。

 「あの地下湖は、なかなか見応えあったわよ。あと古い祠だけど、妙な雰囲気があったわよ」

レンディアの言葉に、ふむ、と興味深そうに頷くラーディスさん。

ピックマンの霊園の話を少しした後、ラーディスさんは自分の定宿、剣と鉄拳亭(ソード&フィスト)に戻って行った。

もうしばらくロングスウォード領に滞在するそうだ。

 

 ちなみに、肉ジャガイモ煮込みは、ほぼ肉じゃがで、しらたきでは無く、蒟蒻。お勧めというだけあって、なかなかに美味かった。

俺とグランさんは米で、レンディアとシェーミィはパン。意外とパンも合いそうだった。

 

 

 「……さて、改めて今日の午後の予定ね。冒険者ギルドでヒルダの様子を見て、霊園奥の地下湖と祠の存在と、ソウルリーパー討伐の報告をしましょうか……ええと、ソウルリーパーから回収した魔石は?」

 「ああ、それならクレイドルが持っている」

レンディアとグランのやり取りを聞いたクレイドルが、何か重要(・・)な事を思い出したかの様な顔になる。

 「魔石なら……あれは……」

云いながら、クレイドルは思い出す──

 

 お茶の前に身支度を整えるため、部屋に戻った際、魂食み(ソウルスレイヤー)が、ソウルリーパーの不気味に鈍く光る拳大の魔石に対して、やたら自己主張(強弱つけた小癪な微震動)を繰り返してきたのにウンザリし、剣を武具棚に収納する時、一緒に魔石を納めたのだ。

 一時、側に置いておけば落ち着くだろうと判断しての事だった──が、その結果。

 

 

 「……ソウルリーパーの魔石は、魂食み(ソウルスレイヤー)に食べられた」

何でも無い事の様に云うクレイドル。

 「何て?」

レンディアが首を傾げながら、不審げに云った。

 

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