邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第195話 ヒルダの訓練状況と今後の予定

ソウルリーパー(魂を刈る者)を撃退ではなく、討った、と……ふむ」

ギルドマスター室にいるのは、レンディアとクレイドル。そして、革張りのソファに深々と身を沈める巨漢の三名。

全身が“丸い”巨漢。正確には、“丸く、太い”だ。

ごつりとした厳つい顔以外、その体は丸く、太かった──ロングスウォード領の冒険者ギルドマスター、アルバートだ。

 

「いや、信じない訳じゃねえよ?ピックマンの霊園奥の地下湖と古い祠の事もな。それについては、改めて調査隊を出すさ。ソウルリーパーがいたという事も含めてな──」

でもなあ、とアルバートは続けて云う。

「ソウルリーパー討伐の、何か証明出来るモンがありゃあな、て事何だよ。そうすりゃ、ギルドでソウルリーパー存在の確認終了といくんだがなぁ」

アルバートは、ごりごりと太い指で顎先を掻く。

「……それ何だけどねえ」

レンディアがクレイドルを見る。その視線を受けたクレイドルが云った。

「……ソウルリーパーの魔石は魂食み(ソウルスレイヤー)に食べられました」

「……何て?」

アルバートが、呆気にとられた様に首を傾げた。

 

 

アルバートさんに、魂食み(ソウルスレイヤー)の説明をする事になった……まあ、当然だな。

「……前に聞いたのは、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)だったな。それ以外にも、そんなシロモノ(魔剣)持っていたとはなぁ……まだ何かありそうだな……えぇ?」

すっかり呆れ返ったアルバートさんが、ジト目で俺を見つめる。

「まあ、機会があれば他のシロモノ(呪物)もお目にかけますが……?」

「今んとこ必要ねえよ。周囲に害を為すようなモノでも無い限り、な……持ってねえよな?」

ため息混じりに、アルバートさんが云った。

「そういう危険なモノは持っていませんよ」

俺の言葉にアルバートさんは、まあいいだろうと呪物の話を終えた。

 

「ソウルリーパーを討伐した事は、まあ認めるさ……だが、証明出来ない以上は報酬だとかは出せねえよ」

「もちろん構わないわよ。その代わり、という訳ではないけれど、ピックマンの霊園の調査結果を教えて貰えると嬉しいのだけれど?」

レンディアの提案に、頷くアルバートさん。

「あそこはそれほど難度は高くねえから、調査だけならすぐ人は集まるだろうよ。最も、調査となると知識と技術が必要だからな。ちっと人選に時間かかるぞ?」

人選か。調査隊だから、腕っぷし自慢の荒くれだけじゃ駄目だろうな……調査の結果が出るまで、ロングスウォード領でのんびりってとこか……いや、どうかな?

 

「ま、そこらは任せるわよ……ええと、他に何かあったかしら……?」

何かを思い出す様に、宙を見つめるレンディア。

「アルバートさん。ヒルダの訓練状況は、どんな感じですかね?」

ヒルダの事を忘れかけていたレンディアに代わって、アルバートさんに尋ねる。

「ん? おお、あの嬢ちゃんか。騎士見習いだけはあるな。座学、戦闘訓練共に優秀だ。他の初級訓練中の奴等との関係も悪くねえみたいだな」

そうか、アルバートさんはヒルダが神聖騎士の見習いだという事を知っていたんだっけな。

「ふん。クレイに鼻っ柱折られて、だいぶ変わったとガーランドさんが言っていただけあるようね」

レンディアが皮肉混じりに云う。

「まあ、後で様子でも見てやれや。訓練が終了したら“碧水の翼”入りすんだろ?」

「そのつもりだけれども、そこの所は本人次第よ。気の合う仲間でも出来たら、その連中と組む事もあるでしょうよ」

ヒルダが他のパーティーを組むか……無いな。何となくだが、それは無いと感じた。

 

少しばかりの近況報告と、ロングスウォード領の様子をアルバートさんから聞き、夕食の約束をしてギルドマスター室から出た。

「さてと、ヒルダの様子でも見に行きましょうか」

まずは、ギルドの喫茶室で待機しているグランさんとシェーミィと合流だな。

早速、喫茶室に向かう事となった。

 

 

「おー、なかなか頑張ってるねー」

シェーミィが、感心の声を上げる。

ヒルダは三名の同期、同じ初級訓練の冒険者見習い達と組んで、連携しての戦闘訓練をやっていた。

ヒルダ達の戦闘訓練を見学している先輩冒険者達が、野次とも声援ともつかないアドバイスやらを飛ばしている。

 

「見ろ、ヒルダがリーダー役らしいな」

グランさんが、指を差しながら云った。

ヒルダ達は、対オーガ戦を想定しての四対一の戦闘訓練をしているそうだ。

オーガ役の訓練教官は、現役引退後に教官になった、元中級Bランクのリッグさん。上背のある、筋肉質の力士体型の人だ。

リッグさんは、訓練用の革の胸当てを肌着の上から身に付け、武器は訓練用の粗削りの棍棒(クラブ)を手にしている。

少し距離を取った所に、審判役の冒険者が一人。

 

「全員で真正面から攻めるな。一瞬で蹴散らされるぞ!囲んで相手の意識を散らせ!」

ヒルダ達四名の見習いに、対オーガ戦のアドバイスを飛ばす審判役。

近接戦が特に危険な魔物、魔獣に対しては、オーガに限らず的を絞らせず、動きを止めない事が肝心なのだが──ヒルダは三名に指示を出す前に、ほんの少し、瞬巡してしまった──それを、リッグさんが見逃すはずも無い。

 

「ふん……迷ったわね」

ヒルダの瞬巡を見抜いたレンディアが、ため息混じりに云った。

「遅い!」

リッグさんが、手にした粗削りの棍棒(クラブ)を横薙ぎに振るう。左側に回り込む動きを見せた見習いが薙ぎ倒され、そのまま地面に転がる。

「死亡だ。そこから動くなよ」

審判役の冒険者が、倒れた見習いに死亡判定を下す。

起き上がろうとしていた見習いが、肩を落として座り込んだ。

その様子を見る限り、それほどダメージは無いように見える。リッグさんは上手く手加減した様だ。

 

「私が引き付ける! 皆、相手の背後に回って!」

ヒルダが、思い切りよく指示を飛ばした──だがなあ……。

「ふむ。最初からそう思い切れていればな」

「そーだねー。ちょっと遅いかなー」

グランさんとシェーミィがヒルダ達見習いを見る。

リッグさんの正面に盾を構えるヒルダ。ヒルダの指示の下、リッグさんの背後に回り込もうとする見習い達。だが──リッグさんが真っ先に狙ったのはヒルダだった。

回り込もうとする見習い達には目もくれず、盾を構えているヒルダに棍棒(クラブ)を叩き付けた。

打撃を何とか受け流すも、衝撃を完全には流せず、体勢を崩して後退してしまった。

体勢の崩れたヒルダに、リッグさんが棍棒を袈裟斬りに叩き付けながら、肩を押し込む様に体当たりをぶちかます。

ヒルダは後方に吹っ飛ばされ、そのまま地面に横たわり、動かなくなった。

 

リッグさんは、倒されたヒルダに少し目をやり、さて、とばかりに残る見習いに向き合う──「それまでよ」

レンディアが、パンパンと手を打ち鳴らす。

「戦意喪失は、死亡判定でいいでしょうよ」

残る二人の見習いを見ながらレンディアが云う。

二人の見習いは、すっかり身を竦ませ呆然としている。

ふう、とリッグさんが太い息を吐き、審判役の冒険者を見やる。それに応える様に、審判役が云った。

「全員、死亡。全滅だ」

──判定は下された。

 

 

「おう、“碧水の翼”か。今のを見てたのか」

革の胸当てと棍棒(クラブ)を片付け、タオル片手のリッグさんが話し掛けてきた。

「ええ、最初からね……対オーガの訓練なんて、初級訓練中の見習いには早すぎると思うけど?」

治癒を受けているヒルダ達見習いを横目で見ながら、レンディアがリッグさんに尋ねる。

「まあな……あの見習い、ヒルダがオーガというのはどれほどのものか、体験出来ますかっていうもんでな」

やれやれ、といった感じでリッグさんが云う。

「それで対オーガ戦の訓練ですか……他の三人も同じ様に?」

グランさんの質問に、リッグさんが応える。

「ああ。見習い三人ともに、ヒルダに従うと抜かしていたな。いっぱしのパーティー気取りだ」

ふん、と鼻で笑うリッグさん。

 

「へー、アルバートさんから聞いてた通り、他の初級訓練の人らと上手くやれてるんだねー」

シェーミィの言葉に、まあなあとリッグさん。続けて云う。

「あのヒルダってのは、リーダー気質があるが……自分の判断の分を越えると、迷うとこがあるな。指示出しの時を見たろ?」

「ええ、見たわよ。判断と決断が遅いわね。あと、思い切れない所があるわよ」

リッグさんとレンディアの会話から、“碧水の翼”のリーダーとしての、ヒルダ評が出た。ただ、パーティーの一要員としてはどうだろうか?

気になるのは、そこの所だな……。

 

治癒が済んだヒルダ達が、宿舎へと向かって行くのが見えた。

夕食まではまだ時間はある。その前に、反省会か何かをするんだろうか……?

「おう、クレイドル。あの連中が気になるか」

「ええ、まあ。ヒルデ……ヒルダは知らない顔じゃないですからね」

リッグさんに聞かれ、つい最近のヒルダとの立ち会いを思い出した。

「俺も見てたが、お前とあのヒルダとの立ち会い、中々にえげつないものだったな……生意気な性根、へし折る以上のものになってたぜ?」

わっはは、と笑うリッグさん。

 

リッグさん、少数の見物人の中にいたのか……そういえば、ヒルデガルドとの出会いのきっかけは、少々思い上がった神聖騎士見習いの鼻っ柱折ってくれとの、ロングスウォード伯の依頼だっけか……実際は、神聖騎士団副団長のガーランドさんの依頼だったのだが。だいぶ前の出来事に思えるな……。

 

 

リッグさんから、ヒルダを含めた初級訓練者達の様子を聞いた。

今回の初級訓練者数は十二名ほど。現役冒険者に指導教官の依頼を出しているそうだ。

俺が城塞都市グランドヒルで初級訓練を受けた状況と同じか……ジャンさん、ミルデアさんにレンケインさん。三人からは色々学んだな……皆、元気だろうか?

冒険者を続けていれば、どこかでジャンさん達の事を耳に挟む事があるだろうし、再会する事もあるだろう。

 

「ふん。ヒルダもそれなりに馴染んでいる様で何よりよ……ああ、これ差し入れよ。初級訓練の連中に配るといいわよ」

レンディアがリッグさんに紙袋を渡す。渡された紙袋の中を覗いたリッグさんが微笑む。

「これはこれは……見習い連中、喜ぶだろうよ。連中に代わって礼を言うぜ」

どういたしまして、とレンディア。

「えー、差し入れって何ー」

シェーミィが、好奇心丸出しで紙袋を覗き込む。

「菓子の折り詰めだよ。そうか、甘いものか……なるほどな、食後の楽しみになるからな」

笑みを浮かべたまま、リッグさんが沁々と云う。

 

 

ヒルダの近況も分かったので、冒険者ギルドを後にする。

リッグさんにはヒルダと“碧水の翼”の関係は伝えなかったが、会話の流れで何となく察している感があった。もちろん、一切口には出さない。

夕食の時間まで時間はある。宿に戻り、今後の予定を話し合う事となった。

 

「ね、ヒルダの顔を見なくていいんだねー?」

「ん、止しておきましょうよ。他の見習い連中と、特別扱いされていると思われたくないでしょうよ」

だな。“碧水の翼”と関係があると見られると、やりづらくなるだろう。

「初級訓練が終了するのが、約一ヶ月か……それまでロングスウォード領で過ごすと云っていたが?」

「その事だけね、さっきも話したけど、取り合えずは、ピックマンの霊園の調査結果待ちよ。それを聞いたら、ヒルダの訓練終了を待たないで、暗黒都市に行きましょうか。訓練が終わる頃に、戻ってこればいいわよ」

レンディアがグランさんに応える。

「……また降ってきたな。早く宿に戻ろう」

俺は空を見上げた。止んでいた雪が、またちらほらと降り始めてきたのだ。

風が無いのでそれほど冷えないが、陽が完全に落ちれば冷え始めるだろう……。




少しずつ、執筆速度を回復中。


( ´-ω-)y‐┛~~
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