邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第196話 霊園帰り後の予定と休息

 

 

 

荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)──夕食までは、もう少しある。それまで、いつもの“指定席”で茶を飲みながらアルバートさんを待っていると、ラーディスさんがやって来たので席に誘った。

前と同じく、おろし立ての様にパリッとした灰色のシャツ。袖口には金のカフス。今は黒のベストを身に付け、その首回りから赤いスカーフが覗き見える──何とも粋な装いだ。

 

「地下湖の調査なあ……ふうん」

ラーディスさんは煙管に煙草を詰めながら、俺達の話を聞いている。

「そうなのよ。ギルドとしては、地下湖と祠の事を把握して、ロングスウォード伯と情報を共有しておこうと判断したのでしょうよ」

茶のおかわりを注ぎながら、レンディアがラーディスさんに云う。

ふうむ、とラーディスさんが煙管を吹かすと、煙がふわりと立ち昇って行く。

その煙を追う様に、ラーディスさんは宙を見つめる……その様子を見ていたレンディアが、にやりと笑う。

 

「興味無い風にしているけれど、頭の中で色々考えているでしょう?」

レンディアに問われ、にやりと笑い返すラーディスさん。

二人は血は繋がっていないはずだが、にやりと笑う顔が妙に似ているな……。

 

「無いわけでは無いが……ソウルリーパー(魂を刈る者)がいないのなら、どうもなあ……魔石が欲しかったものだが、な……」

ラーディスさんが、俺に煙管の煙を吹き付けてきた。煙たい!

煙管の煙にむせる俺にしか聞こえない囁き声で、ラーディスさんが告げる──

《済んだ事だが、少々迂闊だったなクレイドル君。魂食み(ソウルスレイヤー)だったか?

魔剣や呪物の側に混沌(悪魔)属性を含む魔石を置くという事は、待ての出来ない犬の前に、肉を置く行為と同じだぞ……まあ、喰わせたのは悪い事ではない。

もう知っているだろうが、魔剣や一部の呪物は成長し、必ず君の力になるぞ》

ラーディスさんは、ぷかりと煙管を吹かす。

 

「まあ、済んだ事は仕方ないわよ。クレイドルのうっかりよ」

あっはっは、と笑うレンディアとシェーミィに、苦笑するグランさん。

まあ、笑い事で済む様な事と言えばそうなるかな……やれやれだ。

 

“碧水の翼”の様子を見ながら、煙管を吹かすラーディス。

レンディは良いパーティー組んだな、と思いながら立ち昇る煙管の煙を見上げた──

 

 

「魔導卿が来てんなら、話が早えな」

食事が運ばれて来る前に、早くもジョッキ二杯目のアルバートさん。すでにジョッキの中は半分になっている。

「ふん……ピックマンの霊園地下の調査の事ですかね」

黒ワインを傾けながら、ラーディスさんが応える。

「おう、興味あんだろ?」

そう言いながらアルバートさんは、がぼりとジョッキ二杯目を空けた……一息で空にしたな。

「無い訳ではないんですがね。ソウルリーパーが居ないとなると……まあ、調査結果を待ちますよ」

黒ワインを干すラーディスさん。夕食を前にして、よく飲む二人だな。

 

 

「お待たせしましたー! まずは白身魚のバター焼きと、ムル貝のシチューお先でーす! パンとライス、サラダもすぐに来まーす!」

ラーシアさんが、パタパタと尾を振りながら夕食を配膳してくれる。バターの薫りが、早くも鼻腔をくすぐってきた──

「はいよ、パンとライスお待ちねー! 酢漬け野菜も置いとくよ!」

次いで、リーライがパンとライス、酢漬け野菜を運んで来た。今日の酢漬けは茄子だ。

ライスはグランさん、シェーミィに俺。レンディアにラーディスさんがパン。

アルバートさんは、パンとライスは無し。どうやら、最近腹回りが気になるそうで、夜はパンやライスは控えているらしい。炭水化物抜き、か……。

それより、エールを控えた方が良いと思うんだが……。

 

 

夕食も済み、今は酒の時間だ。

最も、ラーディスさんとアルバートさんは夕食前から飲んでいたが。

夕食は、充分に満足できる内容だった。バター焼きの白身魚は香草入りのソースがかけられ、その風味で何のくどさも無い、あっさりとした塩味で食べやすかった。

それと対比する様に、根菜がたっぷり入ったムル貝のシチューは、とろみがあるほど濃厚で、根菜はスープに半ば溶け込むほど煮込まれていて、根菜と貝の出汁の美味さを充分に堪能出来る、大満足な一品だった……。

口直しの、茄子の酢漬けの爽やかな味も良く、ラーディスさんとマーカスさん、そしてシェーミィは「酒の当てに何とも合う」と云い、茄子の酢漬けを追加で注文した。

 

 

「地下湖と祠の事は興味深いですが、まあ止めておきますよ……ソウルリーパーが、どこから霊園地下に入り込んで来たのかが気になるところですがね……」

黒ワインから炭酸黒ワイン(ダーンサンパル)に変えたラーディスさんが、ジョッキ片手のアルバートさんに云う。

「ううむ……お前さんが調査隊に加わってくれりゃあ、心強かったんだが……ま、しゃあないか」

何杯目か分からないエールを、がぶりと呷るアルバートさん。

 

「霊園地下の調査隊募集は、もう始まってるのー?」

果実酒片手に、茄子の酢漬けをパクついているシェーミィがアルバートさんに尋ねる。

「ああ。ギルドからの依頼として、明日から募集する。どれだけ集まるか分からねえが、依頼が依頼だから、ちっとばかり応募者を面接しなきゃな」

アルバートさんは、茄子の酢漬けを口に放り込むと、残ったエールを飲み干し席を立つ。

「三日ほど募集をかけて、それで面子が集まらなけりゃあ、ロングスウォード伯に頼んでみるさ」

「アルバートさん。調査には司祭と神官、そして精霊術士にも協力を頼んだ方が良いと思いますが」

ラーディスさんが、ぷかりと煙管を吹かしながら云った。

その言葉に、ふむ、と考え込むアルバートさん。

「司祭と神官に精霊術士、か……その協力要請ってのは、不死族(アンデッド)対策って事だけじゃねえよな?」

再び席に着き、ラーディスさんに向き合うアルバートさん。

「地下湖の祠が気になるんですよ。レンディとグラン、精霊と契約している者に神の信徒。この二人が特に何かを感じなかった……神でも精霊でも無い、“何か”が祀られていた可能性があると思うんですよ」

ラーディスさんが煙管に煙草を詰めながら云う。

 

おめえさんの言った事覚えておくぜ、とアルバートさんは酒代を多めに置き、宿から出て行った。

「さて、もう酒は充分だ。私は宿に戻るよ……ああ、そういえば碧水の翼は、ロングスウォード領に留まるのか?」

「霊園地下の調査報告を聞いた後に、暗黒都市に出向く予定なのよ」

グラス片手のレンディアが答え、頷くラーディスさん。

「ふむ。今の時期、暗黒都市はまだ大雪には早いだろうな?」

「ええ、本格的な雪はまだこれからですね」

グランさんが答える。グランさんはすでに酒は止めて、温かい香草茶に変えていた。

 

ラーディスさんは、また明日な。と言い残して自分の宿に戻って行った。

その際に、釣りは酒代に、と云って金貨を置いて行った……アルバートさんといい、大人の振る舞いだよな。見習わないといけないか?

 

「ロングスウォード領の雪もそろそろ、多くなるよねー。あ、ラーシア、果実酒お代わりとー、鶏皮のピリ辛揚げに、燻製チーズもお願ーい」

酒と追加の摘まみを頼むシェーミィ。

レンディアは、いつの間にかオウルリバーのボトルと氷を注文していて、手酌で飲んでいる。オウルリバーのロックだ。

二人はまだ飲む気だ……付き合うのは止めて、今日の所は早めに休む事にしよう。夜は寒くなりそうな気がするからな……。

 

「二人とも、深酒するなよ」

香草茶を飲み終えたグランさんが、二人に云う。

分かってるわよ、とグラスを傾けるレンディア。

シェーミィは果実酒片手に、鶏皮のピリ辛揚げをパクついている──この様子だと、飲みすぎるだろうな……一応、明日の予定を少し確認しておくか。

「レンディア、明日はどうする?」

「午前中は自由行動にしましょう。昼食後にでも、ヒルダの様子を見に行きましょうか」

カラリ、とグラスを鳴らすレンディア。

午前中は自由行動、か……レンディア達は明日の朝食には起きられるだろうか?

まあいい。午後に、ヒルダに会いに行く事は決まった。

その頃には、二人ともちゃんとしているだろう……しているよな?

 

「先に休むからな。飲みすぎるなよ?」

俺の言葉に、あいあーい、とシェーミィが軽い返事を返し、レンディアはカラリと、グラスを鳴らして答える。

「クレイドル。二人は好きにさせておこう。今夜は冷えると思うぞ。こういう晩は早寝するのが一番だ」

グランさんに促され、早々に部屋に戻る事にする。そんな俺達に、リーライが声をかけてきた。

「部屋の暖炉に、さっき薪をくべたから直に暖かくなるよ。あと、厚手の毛布を用意してあるから、よければ使ってねー」

おお、暖炉か。明け方まで暖かい様に、薪の量を上手く調整してくれているんだよな……待てよ。寝る前に、少し暖まるか。

「リーライ、後で香草茶を頼む」

暖炉で温まりながら、ちょっとやってみたい事があるんだよな。

「うん、分かった。香草茶だね。ついでに、何か茶菓子があったら一緒に持ってくよ」

リーライは快く、注文を受けてくれた。暖炉か……今から楽しみだな。

 

 

部屋に戻ると、暖炉のおかげで早くも暖まり始めていた。石造りの、ドワーフの宿の暖炉か……なかなかの風情だな。

「クレイドル、寝る前に、何かお楽しみをやろうとしているな?」

「大した事ないですよ。小瓶に分けたオウルリバーがあるんですけど、香草茶にそれをちょっと入れて飲めば、だいぶ暖まると思うんです」

小瓶を取り出して見せる。なるほどな、とグランが苦笑する。

「私も付き合わせてくれるんだろうな?」

「もちろんです。この飲み方、ラーディスさん推奨なんですよ」

「魔導卿のお奨めならば、確かだな」

グランさんが云うとほぼ同時に、ドアがノックされた。ノックに応えると、グランさんがドアを開く。

 

「お待たせー。香草茶と、お茶菓子代わりに干し果物とチーズ持ってきたよ」

やって来たのは、リーライだ。

干し果物にチーズか。悪くないな。礼を云い、心付けに銅貨数枚を渡す。

「いつもありがとねー!」

艶のある立派な黒髭を揺らし、ドワーフ特有の豪快な笑みを浮かべるリーライ。

そして、飲みすぎない様にねー、と言い残してドスドスと足音を立てて去って行った。

「さすがドワーフだな。酒の匂いはごまかせないか……」

オウルリバーの小瓶を見て、グランさんが呟いた。

「……そうですね。さて、寝る前にほんの少しばかり楽しみましょう」

明日に残さない様、少しばかりな……。

 

 

早朝の、魔力制御は出来なかった──

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