邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第197話 “武門街” ──大雪前の風物詩(お祭り騒ぎ)

 

 

 遅い朝食となってしまったな……昨夜の、寝る前のちょっと一杯は、一杯では済まなかった……。

オウルリバーの小瓶を空けた後、黒ワインのボトルを追加で頼み、二人で三本を空けた。

結果、寝落ちしたグランさんをベッドに押し込み、毛布でくるんだ後はよく覚えていない……幸いというか、俺もグランさんも二日酔いは免れたものの、体が怠く、頭はスッキリしない……いや、二日酔いか?

 

 俺達はノロノロと身支度を終えると、食堂に降りる事にした。

その前に自分とグランさんに“浄化”を使用する──

「……助かる。少しは楽になったか……」

頭を軽く振りながら、グランさんが云う。

“浄化”は清潔さを保つだけではなく、多少は心身をスッキリさせる助けにもなると実感した……やっぱり、二日酔いだな……。

 

 

 まだスッキリしない頭と、怠さの残る体を引きずりながら食堂に降りる。

思った通り、いつもの“碧水の翼”の指定席にはレンディアとシェーミィはいなかった。

その代わり、と言っては何だが、ラーディスさんが煙管を吹かしながら、座っていた。

「おはよう……と言うには、少し遅いか」

今日のラーディスさんは、ローブ姿。その金色に縁取られた漆黒のローブ姿が、周囲の雰囲気に 不自然(・・・)なほど溶け込んでいた──

 

「……レンディとシェーミィは相変わらずか」

空いた席を見ながら、苦笑するラーディスさん。多分、二人はとても朝食どころでは無いだろうな……。

「朝食を取れそうには見えないが、軽くでも腹に入れておいた方が良いぞ?」

ラーディスさんは、いつの間にかテーブル近くにいたラーシアさんに注文をしてくれた。

「濃い目の香草茶と野菜スープ。あと、酢漬け野菜を彼らに出してやってくれ」

ちらりと俺を見て、はーい! と明るく応えたラーシアさん。その元気な声が頭に響いた……。

 

 濃い目の香草茶を二口ほど飲むと……頭がすっきりとし、思わず瞬きをする──目が、完全に覚めた。

同じ茶を口にしたグランさんも目を見開き、ふう、と息を吐き出している。

「少しはマシになっただろう。濃いやつは二日酔いに良く効くんだ。気付け薬の様なものだな」

コン、と煙草盆に煙管の吸い殻を落とすラーディスさん……いつ、煙草盆を出したんだ?

「キャベツと玉葱のスープに、キュウリの酢漬けでーす!」

嬉しそうに尻尾を振りながら、ラーシアさんが野菜スープと酢漬け野菜を運んで来た。

 スープは食欲をそそる何とも良い匂いで、キャベツと玉葱がたっぷりと入っている──これなら、今の体調でも食べられそうだ。

まずは、キュウリの酢漬けから……確かシェーミィが、酢は酔い醒ましに良いとか云っていたな……シェーミィの様に、酢を飲む気は無いが。

 

 

 スープを飲み終えた頃には、怠さはだいぶ軽くなった。

少しでも腹に入れると、良くなるものだな。わがままというか贅沢をいえば、味噌汁なら、なお良かったな……そういえば、朝陽食堂で定食を頼んだら味噌汁が付いてきていたな……大将、元気だろうか──

 

 今は酢漬けを摘まみながら、新しく入れ換えてもらった香草茶を飲んでいる。

濃い目では無く、普通の濃さだ。さっきよりだいぶ、頭がスッキリしてきたな──

「今日の予定は決まっているのか?」

煙管に煙草を詰めながら、ラーディスさんが尋ねてきた。午後は決まっているんだけどな……。

「午前中は自由行動ですね。午後は昼食後に、ヒルダの様子を見に行く予定です」

今日の、俺達の予定を答えるグランさん。

「ヒルダ……? ああ、クレイドル君が叩きのめした……ええと、神聖騎士見習いか」

ラーディスさんは、火の気を見せも感じさせもせず、いつの間にか煙管に火をつけていた。

 

「ラーディスさんは、今日は何か予定はあるんですか?」

「アルバートさんの所に顔を出して……そうだな、その後、ロングスウォード領の大雪の前の風物詩(・・・)について、ロングスウォード卿と少し話をするつもりだ。冒険者ギルドにとっては、お祭り騒ぎのな」

大雪の前の風物詩で、お祭り騒ぎ?いったい何だろう……?

「風物詩……そうか、そんな時季ですね」

グランさんは、風物詩が何なのか分かっているみたいだが……妙に気になるな。何ぞ?

「ロングスウォード領の風物詩って、何ですか?」

何気無く、ラーディスさんとグランさんに尋ねる。そして、帰ってきた二人の答えは──

 

「「ああ、毎年恒例の“蟲退治”だ」」

 

 なるほどな。“蟲退治”、か……。

それがどんなものか知らないが、冬季のロングスウォード領には、二度と来ない……二度とな!

 

 

 

 冒険者ギルドに行くラーディスさんと別れ、グランさんと午前中の予定を話し合う。

「まずは、携帯食と備品の補充。武具の手入れはそれぞれでやるだろうし……後は何だ?」

「そうですね……特に補充するとすれば、個人の物ですかね」

オウルリバーをピックマンに進呈したから、買っておきたい。後は……まあ、商店街を見て回るか。

 

「ここ“武門街”に来て商店街巡りはしていなかったな。補充ついでに回ってみるか?」

グランさんにそう云われてみれば、武門街では露店と屋台を少し回ったくらいだな。

ああ、そういえば、レンディアと露店巡りをした時、精霊関係の道具諸々を売っている、奇妙な婆さんの店に立ち寄ったっけか……よし、グランさんと商店街巡りといくか。

「よし。行きましょう」

「うん、行くか。戻る頃にはレンディアもシェーミィも起きているだろう」

 

 商店街巡りをする──そういう事になった。

 

 

 まずは商店街通りに出向く。大小様々な店が通りに建ち並んでいるが、“武門街”の名の通り、やはり武具やそれに関連した雑貨店が目に付いた。

自分達が、単に武芸者か剣士なら少々浮わついた気分になっただろうが。

「武芸者、剣士で賑わっているが……ふむ。俺達が見る様な品は無いだろうな」

「ですね。そもそも俺達の装備は──」

 

 グランさんの装備。全身を覆う漆黒の防具は、暗黒神の加護を受けた、ほぼ金属製のプレートアーマーと騎士の象徴であるカイトシールド。

それらは加護によって、頑丈さと軽快さを両立させた暗黒騎士の標準装備。

そして、今使っている剣は、前にダンジョンで手に入れた剣。

薄く灰色に輝く刀身をした、衝撃属性と刺突強化の二属性持ちの名剣だ。

わざわざ鞘を黒塗りに注文したんだよな……。

 

 俺の鎧は、赤闇の凶殼(悪魔属性の蠍)の素材から造った特製品。そして、凶殼素材で強化された黒鷲の兜とラウンドシールドに、バトルアクスにハンドアクス。

いずれも、城塞都市の名工、ストルムハンド夫妻が手掛けた自慢の逸品だ……後はまあ、魔剣やら呪物。あまり人に言える様な代物では無いな……。

 

「──だな。俺達の装備は充分整っている。店先を冷やかすくらいでいいだろう」

「そうですね。雑貨屋で補充品を買うくらいですか」

グランさんと、ぶらぶらと武具店の店先を見ながら、冒険者御用達の雑貨店を目指す。

携帯食は、まず干し果物に乾燥スープを補充。あとビスケットか……ロングスウォード領には、何か独特な携帯食があるんだろうか?

後は、魔道コンロ用の魔石か。これは新品に替えておこう。コンロが充分に使えないと、茶もスープも飲めないし、何より温かい食事が出来ないからな……。

 

 

 補充品を揃えて宿に戻る頃には、すでに昼になっていた。

干し果物やビスケット等は他所と変わらない物だったが、豆と野菜の乾燥スープの他に、海草と干しエビの乾燥スープとやらがあった。

漁師が船上で食事をする際のお供としても、一般家庭でも、よく飲まれているそうだ。

試食させてもらったが、即席のスープながら海鮮の風味がしっかりと味わえ、何とも贅沢な気分になった。

 

 店の人が言うには、冒険者の携帯食として、もっと広まってほしいとの事。

俺もグランさんも気に入ったので、これを豆と野菜の乾燥スープと入れ換える事にした──

 

 

「取り合えず、携帯食と備品の補充は済んだ。他にあるならロングスウォード領から出発する前に揃えておこう」

“碧水の翼”の指定席に着いているレンディアとシェーミィに、グランさんが告げた……が、身だしなみはちゃんとしているものの、二人共に今しがた起きたかの様な顔付きで、野菜スープを啜っていた。

「……シャワーはちゃんと浴びたわよ」

レンディアは、よく分からない言い訳をしながら、スープを啜る。スープのおかげか、顔色は悪くはない。

シェーミィは、スープと酢漬け野菜をすでに平らげており、またも酢漬け野菜の酢をクピクピと飲んでいる……胸焼けしないのだろうか?

 

 

 軽く食事をした事で、レンディアとシェーミィの顔色は先程より、良くなっていた。

「補充品の確認は、改めて後からするわよ。午後はヒルダの事もあるから、冒険者ギルドに向かいましょうか」

頭をスッキリさせるためか、炭酸水を呷るレンディア。炭酸の刺激に、ふう、と息を吐いた。

昼にはなっているが、昼食には少し早い時間帯だ。昼食はギルドで時間を過ごしてからだな……。

 

「冒険者ギルドに行くんだったらー、ロングスウォード領の風物詩(お祭り騒ぎ)の話も出るかもねー」

俺の虫嫌いを知っているはずのシェーミィが、にっしし、とわざとらしく笑った──猫め!

 

 

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