邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第198話 風物詩(お祭り騒ぎ)と慈父の慈しみ

 

 

 冒険者ギルド。ギルドマスター室にて、アルバートと“碧水の翼”が、ロングスウォード領の風物詩(お祭り騒ぎ)についての話しをしている。

話し合いというより、風物詩という名の蟲退治の内容を、クレイドルが詳しく聞きたがったので、その説明をアルバートとともにしたのだが──

 

 

「……なるほどな。特に農家の人達が困るのか。人助けと思えば……だが、断る!」

「リーダー決定よ」

我等が“碧水の翼”のリーダー、レンディアが冷徹に告げてきた……むむむ。

「何が、むむむ、よー。年に一度の風物詩(お祭り騒ぎ)だよー? 参加する事に……何だっけー?」

「意義がある、だ。クレイドル。まあ、あれだ。虫嫌いの克服の一環と思ったらどうだ?」

半笑いのシェーミィに、真面目な面持ちのグランさん──

 

 シェーミィの半笑いには、軽くイラつくが、グランさんの親身な言葉も、正直ありがた迷惑何だよな……ううむ。

「リーダー、決定、よ」

レンディアの、冷徹なダメ押しが追加された……おのれ!

 

 軽くもめている“碧水の翼”を、冒険者ギルドマスターのアルバートは、黙って見ていた。

 (何だこのやり取りは……虫嫌いたぁ聞いていたが、ここまで嫌がるかね?)

クレイドルの、常軌を逸した虫嫌いを今だ知らないアルバートは、他人事の様に“碧水の翼”のもめ事を眺めていた──

 

「……だが、断る」

「リーダー決定よ」

 

 

 数度の不毛のやり取りの末、クレイドルが折れた、というより、レンディアの巧みな(?)挑発と懐柔に、クレイドルが乗る様な形になったのだ──半ば逆上気味に。

「……話はもう済んだな? なら、ちと遅くなったが昼飯にしようぜ……おいクレイドル、そんな目で睨むんじゃねえ。ヒルダに会いに行くのは、飯の後でいいだろ。飯が済んだ頃には、午後の訓練も終わってるだろうしな」

「そうね。朝はスープしか飲んでないから、空きっ腹よ」

アルバートの言葉にレンディアが応える。俺達は、まともに朝食済ませていないからな……腹を満たせば、少しは蟲退治の事を忘れられるだろうか……くたばれ、風物詩(お祭り騒ぎ)!!

 

 

 

 

「魔虫の核、ねえ……どれくらいの確率で入手出来る物なの?」

最低限の装飾がされた、武骨なテーブルを挟んで席に着いている、漆黒のローブ姿の男に、ワイングラスを揺らしながらロングスウォード伯は尋ねた。

「正直云うと……低い。最も、特殊個体が出現すれば、少しばかり確率は上がりますが」

ローブ姿の男──“魔導卿”ラーディス。

テーブルと同じく、武骨な椅子に深く腰掛けながらロングスウォード伯に答え、自分の前に置いてあるワイングラスに手を伸ばした。

 

ここは、ネイ・ロングスウォード伯の私室。必要な調度品しかない武骨な部屋。この武骨さは、ロングスウォード伯の人となりというより、辺境伯の地位を表している部屋なのかもしれない──

少々の装飾品も飾られてはいる。

暖炉の上には、木に止まるフクロウの彫刻。壁には、草原を駆ける馬の絵画。

フクロウの彫刻はグレイオウル領主から贈られた物で、馬の絵画は父から継いだ物だ。これらの装飾品が、武骨な私室にある種の彩りをもたらしていた──

 

 

「“雪甲虫(スノーボウル)”の特殊個体というと……指揮個体の事?」

ロングスウォード伯の言葉に、左様。と応えながら、喫煙の許可を取る様に、煙管をロングスウォード伯に見せるラーディス。テーブル上には、いつ出したのか煙草盆が置かれていた。

「ええ、構わないわよ」

ロングスウォード伯の許可を得たラーディスが、煙管に煙草葉を詰め、火の気を見せる事もせずに火をつける──

目を細め、煙管を深く吸い、静かに煙を吹き出すラーディス。

 

 (煙管の吸い方が、御父上に似てきたわね……)

ゆらりと漂う煙管の煙が、窓からの風にふわりと舞う。

それを目で追うロングスウォード伯は、ラーディスの父、ロウディス・グレイオウル伯の顔を思い浮かべ、ワイングラスに口をつけた──

 

 

 

 遅い昼食を済ませた後、ギルド内の喫茶室でアルバートさんとお茶の時間。

「午後は座学ね……これが終わったら、夕食よね?」

「おう。三、四十分の休憩後に夕食だ。ヒルダと話すなら休憩中がいいだろ」

初級訓練者達が座学を受けるのは、基本外。青空教室というやつだ。

雨や荒天時には、初級訓練者が寝泊まりする宿舎か、食堂内で行うのだ……レンディアとアルバートさんの会話に、城塞都市での事を思い出す──

 

 城塞都市では、座学で色々な事を学んだな……レンケインさんから学んだ知識と技術は、今でも役に立っている──

レンケインさんやジャンさん、ミルデアさん達は元気でやっているだろうか……。

 

「果実茶のお代わりお願いー! あと、チーズクラッカーもね!」

──シェーミィの声に、ふと我に帰る。

チーズクラッカーか。お茶菓子というより、酒の摘まみに合ってるんだけどな。もう少しのんびりして、訓練場に出向く事になるだろう。

さて、ヒルデガルダ嬢はどんな風に変わったのか。前よりも角が取れている風に見えたが……。

「おう、クリーム乗せのタルトも頼む」

アルバートさんの追加注文。最近、腹回り気にしているとか言ってなかったか……?

 

 

 茶の時間は終わり、アルバートさんが訓練場に向かった。先に行き、ヒルダとの面会をセッティングしてくれるそうだ。

そんな事をしなくても、そのまま会いに行けばいいと、レンディアが云ったのだが──

 

「自覚してねぇのか? “碧水の翼”っていやぁ、それなりに名の知れたパーティーだぞ? お前らが一人の冒険者見習いに、直に会いに来たってなりゃあ、ちょっとした騒ぎになりかねねぇぞ──」

アルバートさんが云うには、碧水の翼に呼び出されて話をした事が他の冒険者見習い達に知れたら、ヒルダが窮屈な思いをする事になるかもしれない──との事だ。

 

「言われてみれば、その通りなのよね。ヒルダには伸び伸びと、訓練に集中してほしいわよ」

レンディアの言葉もまた、最もな事だ。

ヒルダとの話し合いの場所は、ギルドマスターの部屋でという事になった──

 

 

 ギルドマスター室。ヒルダとの面会に同席するのは、レンディアと俺に、神聖騎士団副団長ガーランドさんだ。

ガーランドさんが、最近のヒルダの様子をアルバートさんに尋ねたら、直接会って話をしたらどうか? とアルバートさんに言われたので、ならギルドマスター室で──という流れだ。これは建前でもある。今は、ヒルダとアルバートさん待ちだ。

 

 受付嬢が用意してくれたお茶と茶菓子を前に、俺達は、アルバートさんとヒルダ待ちだ。

「甘いとお思いでしょうが……ヒルデガルド、ヒルダが他の見習い達と上手くやれているのか、まあ、気にはなりますのでね」

少しばかりの照れを見せながら、ガーランドさんが云い、茶を啜る。

優しいのだろうな、この人は。ヒルダに対してというよりは、騎士団の若手達に対して父や祖父の様な心境を持っているのかもしれない……。

 

「まあ、気になるわよね……私も、城塞都市で初級訓練を受け始めの頃、兄上がしょっちゅう様子を見に来るものだから、ギルドマスターにその度、追い払われていたわよ」

「……ほう。“魔導卿”殿にも、そういう側面がおありでしたか」

 だいぶ前の話よ、と懐かしそうに笑みを浮かべるレンディア。  

茶のお代わりを、ガーランドさんと俺に注ぐ。

 

 しばし三人で、互いの近況を兼ねた世間話をする。ここ最近の“碧水の翼”の行動の話になった時、ピックマンの霊園の事が話題になった。

霊園で出会った奇妙な屍鬼(グール)、レイノルズ・ピックマンの事や、霊園地下の地下湖と祠の事。そして、魂を刈る者(ソウルリーパー)についても──

「何と……穢れの死神(ソウルリーパー)を滅しましたか……ふうむ」

ガーランドさんは腕を組み、革張りのソファに深々と身を沈めた。

「ええ。兄上が云うには、小型だったから、私達“碧水の翼”で仕留められたそうよ」

レンディアが、砂糖まぶしの焼き菓子を優雅に摘まむ。

レンディアの言葉に、ふうむ、とガーランドさんがもう一度唸り声を上げた。

ガーランドさん、というより神聖騎士はソウルリーパーの事を、穢れの死神と呼ぶのか……。

 

 

 レンディアとガーランドさんが、ソウルリーパー戦の話をし始めた頃、ギルドマスター室のドアがノックされた。

それにガーランドさんが応えると、待たせたな、とばかりにアルバートさんが入って来た。その背後に、ヒルダ。

緊張しているのか、今だ幼さを残す整った顔立ちには、堅さが見てとれた。

そんなヒルダに、ガーランドさんが声を掛けた──「ヒルダ。元気でやっていますか?」

ガーランドさんの顔を見たヒルダから、明らかに緊張が解ける。

「よっしゃ、皆揃ったな。席に着いてくれ」

アルバートさんが、机の上のベルを鳴らす。茶の入れ替えを頼むのだろう。

 

 テーブルを挟んで、俺とレンディア。ガーランドさんとヒルダ。俺達四人を交互に見る事が出来る様に、アルバートさんは上座に座った。

「ガーランドさん、ヒルダには色々聞きたい事があるでしょう? そちらからどうぞ」

レンディアが、ガーランドさんに水を向ける。

ふむ、とガーランドさんが少し考え、口を開いた。

「ヒルダ、他の初級訓練の人達とは上手くやれていますか?」

 慈父──ガーランドさんの声音からはイメージしたのは正にそれだった。

その言葉を受けたヒルダからは、すっかり緊張が解けていた。

 

 今日の面会は、少々長くなっても構わないだろう……ティーカップに手を伸ばすと、今だ温かかった。

 

 

 

 

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