邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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少しばかり、間が空きましたな。


_〆(。。)


幕間 待雪草(スノードロップス)不死族(アンデッド)のおさらい

閃光で自爆したファルを引きずり、ジョシュの元に急ぎ向かう。

途中でジョシュが手を貸してくれて、何とか無事に、礼拝室に撤収(避難)出来たけど……。

「リーネ、さっきの閃光は何があったんだ……?」

ジョシュがファルを一瞥し、尋ねてきた。まあ、聞かれると思ったわ……さて、どう話そうかしら?

ファルからも、ジョシュとシェリナに説明してもらおうとしたのだけれど……妙に静かだと思ったら、ファルは眠っていた……えぇ?

「……ほんと、図太いな」

ジョシュがファルを見ながら、心底呆れた様に呟いた……私も同意見よ……。

 

 

すよすよと熟睡しているファルを部屋の隅に放って置き、休憩の準備をする事にした。

ジョシュが床にマットを敷き、平皿に干し果物と携帯食のビスケットを人数分並べ始め、シェリナは、生活魔法で小鍋に水を満たし始めている。

私は魔道コンロで、お湯を湧かす用意をしておこう──魔道コンロ、かなり便利なのよね。旅には必須と云われるだけはあるわ。

 

ジョシュが人数分のコップを揃え、シェリナが、水が充分に満ちた小鍋を魔道コンロに置く。

「お茶の用意が出来たら、ファルを起こして」

私は皆に告げて、魔道コンロに少し魔力を通して火をつける。

お湯が出来るまで少し時間はかかるでしょうから、その前にお茶っ葉を仕度しないとね──

 

 

目覚めたファルから、霊体の群れに対して何をしたのかを改めて聞いた。

ファルが云うには、神聖神殿支部で対不死族(アンデッド)の加護を受けたついでに、浄霊の聖水を小瓶で購入したそうだ。

その聖水が、どれだけの効力を持つか試してみたとの事。で、結果──

 

「いやあ、ビックリしたよ。あんな激しい閃光が出るなんてね……穏やかで暖かな光で追い払うかと思ってたんだけど。いや、ビックリした」

淹れたてのお茶を、美味しそうに啜るファル。

「少し外の様子を見たけれど、もう霧は晴れていたわ」

霊体の群れは消え去り、冷気も無くなっていた。霊廟内は、来た時と同じ様に厳かな雰囲気に戻り、再び静寂が訪れていた。

私の報告に、ファルは頷きながら云う。

「なるほどね……多分、撃退ではなく殲滅したのかもしれないよ? 何しろ、霊体連中はかなり強力な閃光を浴びたからね……改めて、外に出て調べてみようか。霊体の魔石が落っこちてるかもね」

干し果物を摘まみながら、ファルがのんきに云う。

外に出る、と聞いたシェリナが露骨に眉をしかめる……正直私も嫌だけど、対不死族(アンデッド)の経験は必要だからね。

 

 

「……異常、無しだ。静かなものだよ」

最初に礼拝室から出たジョシュが、少しして戻って来た──一緒に偵察に出たファルは、礼拝室付近に異常が無い事を確認すると、もう少し周囲を見て回ると云い、奥に向かったそうだ……。

 

「ファル一人で……大丈夫なのかな?」

杖を抱える様に座っているシェリナが、心配そうに云う。

「慎重に頼む、と釘を刺したから大丈夫だよ……多分」

すぐに外に出られる様に、出入り口付近に座っているジョシュが、カップに口を付ける──まあ、ファルの事だから大丈夫でしょう……。

 

リーネは、干し果物を摘まみながら、礼拝室の扉を見つめた──

 

 

「……あの小瓶、使い方間違えたなあ」

ファルの独り言が、朗らかに霊廟内に響いている。

地面に散らばっている小粒の魔石を、飾り付けがされた杖の先でヒョイと弾き上げ、手にした小袋の中に器用に放り込むファル。

あれ(小瓶)って叩き付けるんじゃなくて、振り撒いて使うんだろうね……ああ、そうか」

うん、と一人納得しながら続ける。

「撃退用じゃなく、対不死族(アンデッド)の防御結界を張るための物だったんだろうね。それか武器や体に振りかけて、簡易な加護を得るために使うのかな?……だったらさ、買うときに説明してくれりゃよかったのに。ちょっと不親切だね。それか、うっかりしてたんだろうな」

(実際は、購入の際に販売員からきちんと説明を受けていた)

最後の魔石を回収し終え、さて、と周囲を見回し、ハーフランナー(駆け足族)特有の感知能力で霊廟の様子を伺うファル。

 

見るでは無く──“観る”

聞くでは無く──“聴く”

 

ファルの耳は霊廟内の気配を感じ取るかの様に、先端が立ち、瞳は動く事無く、ただ正面を見詰めている。

視界を中央に置けば、前方左右の範囲を見る事ができ、何となく背後の気配も感じ取る事が出来るのだ──

天井付近の天窓から射し込む光で、霊廟内は仄かに明るいが、光が届かない場所の闇は濃い。

今はまだ何の気配も見せていないが、何が切っ掛けで霊体──漂う霧の塊(グレイブミスト)が再び湧いて来るか分からない……とはいえ。

 

「……グレイブミスト、さっきの閃光で殲滅したみたいだ。なるほどね、あれ(小瓶)の閃光ならグレイブミスト程度、一気に殲滅出来るんだな」

うむ、と一人頷き納得するファル。ほぼ無意識に、小袋に詰め込んだ魔石をジャラジャラと鳴らす。

「一階は、もう異常無しでいいかな。拠点になる礼拝室も見つけたし、二階あたりで実体のある不死族(アンデッド)を探して、リーネ達に経験を積ませようか」

 

よし、とファルはもう一度周囲を見回すと、口笛を吹きつつ、リーネ達が待つ拠点に足を向けた──

 

 

「……ね、ねえ。な、何か笛みたいな音が聞こえない……?」

それ(・・)に最初に気付いたのはシェリナだ。杖を強く抱き締めているのか、体が強ばっているのがはっきりと分かる……。

扉近くに座っているジョシュと顔を見合わせる──ん、確かに聞こえる……わね。ジョシュも頷いている。

(基本的に、ダンジョン内を徘徊している魔物等は、部屋には侵入してこない。しかし、一部例外あり──)

初級訓練時代、かつて学んだ事を思い出す。

(ご丁寧に扉を開けて来るわけでは無く、透過(すり抜け)という形で侵入して来る──)

……ここは霊廟。となれば、礼拝室に侵入して来るのは実体を持たない霊体ね……よし。

「……ジョシュ、扉から少し下がって。シェリナ、魔術の準備を」

私の手短な指示に、二人はすぐ動いた。

ジョシュは剣を抜き、盾を構え、シェリナは気を落ち着かせる様に深呼吸をしながら、杖を構えている──近付いてくる笛の音。明らかに、この拠点(礼拝室)に向かって来ている。臨戦態勢は整ったけど、まだ戻っていないファルが心配だわ……。

笛の音が止むと、予想外の出来事が起きた──扉が開かれようとしている……透過(すり抜け)じゃない……?

つまり、実体を持った不死族(アンデッド)が侵入して来る?!

 

そして、扉が開いた───

 

 

戻って来たファルは、礼拝室の外を見回って、異常が無かった事を告げた。

そして、私達の心配をよそに、外での出来事を朗らかに伝えてきた。

グレイブミスト(漂う霧の塊)連中、小瓶の閃光で殲滅出来たみたいでね。魔石を大量に落としていたんだ。それを拾うのに手間取ったんだよ」

ほら、これ──と小袋を開いて見せてくるファル。

その中を覗き込んで見ると、小粒の魔石がたっぷりと詰め込まれていた──

心配かけて悪かったよ、と明るく笑うファルに、私達はため息を吐く……無駄に怖がらされたシェリナは、涙目でファルを睨んでいるけど。

 

ハーフランナー(駆け足族)というのは、皆こうなのかしらね……ちなみに、口笛はほとんど無意識に吹いていたそうだ……ファル!

 

 

 

「前にも少し話したけど、ここ静寂の祠に出現する実体を持った不死族(アンデッド)について、もう一度おさらいしとこうか。現時点の君らで相手に出来るのは──」

 

──アシャー(蠢く遺塊)。遺灰の塊に障気が宿り、アンデッド化したもの。耐久力は低く、打撃に脆い。傷付けられると、一時的な麻痺毒を受ける事がある。

 

──ダストス(瘴気の土石)。瘴気を受けた墓場の土が土人形になって動き出したもの。石混じりの体は刃物が通りにくく、なかなか頑丈で力も強い。状態異常は無いが、打撃力は馬鹿には出来ない。

 

「──まあ、こんなとこかな……何か質問あるかい?」

温め直したお茶を啜りながら、ファルが云う。質問、ね……う~ん?

「ファル、ここ静寂の祠は五階層あると言っていたけど、今日は何階まで行く予定だ?」

ジョシュの質問。うん、それは気になっていたのよね。確か、ここに来る前はそれほど奥までは行かないと、ファルは言っていたけど。

「二階までにしとこうか。さっき言った、アシャー(蠢く遺塊)ダストス(瘴気の土石)が出現する可能性が高いんだ。今日のとこは、そいつらで実体のあるアンデッド戦の経験を積もうか」

ファルの言葉に、なるほど、とジョシュが頷く。

 

実体のあるアンデッドね……もしかしたら、霊体に怯えてしまったシェリナは実体のアンデッドなら、それほどでもないかもしれないわね……そんな事を考えていたら、ファルがシェリナに向かって云った。

「実体有りと無し、どちらかと言えば、有りの方が気持ち悪いかもね……まあ、何とかなるよ」

シェリナに笑いかけながら、ファルが明るく云う。

心底嫌そうな顔をするシェリナ……ファル!

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