邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

23 / 245
幕間 招待状無き客 深淵渡り

 

 

「うん?」

輝く金髪に赤い瞳の、白磁の肌をした美貌の少年が顔を上げる。

純白のテーブルクロスをかけた、金縁の漆黒のテーブルを前に茶を喫している。金の意匠が施された、漆黒のティーカップを、同じく漆黒の受け皿に置く。

「あるじ様」

魔族の執事、デルモアが呟く。美貌の少年の真正面、テーブルの向こう側──ぴしり、と空間に亀裂が入った──拡がった亀裂から、黒い人影が出現する。黒いのは、漆黒のローブを身に付けているからだ。フードから、金色の光が瞬く。

「招待状出してないんだけどなあ~」

あははは、と少女の様な声で笑う。

「神々の領域を、容易く行き来できるなんてね~さすが、深淵渡り。デルモア、お茶……じゃないね。黒ワイン出して上げて~あ、僕もワインにするよ」

「かしこまりました」

 

「何の用か、当てようか~? 姉上から、言伝てでも預かってきた~?」

ワイングラスを優美に揺らしながら、少年が笑う。妖艶な笑み。

「そう、大げさな用でもない。ただの嫌味の様なものだ」

グラスをくっ、と干す。黒ローブの男。

どうぞ、とデルモアがグラスにワインを注ぐ。

ローブの男が軽く、頭を下げる。

「“転生者”を、取り上げられたとの事でな。はっきり言って、言い掛かりみたいなものだな」

「姉上はねえ~腰が重いから。一歩遅ければ、彼の魂、消滅させられてたとこだったんだよ~」

「そう簡単に、深淵から現世(うつしよ)に影響を与える事が出来ない身なのにな」

 

「ああ、そうだ。君はこれからの予定は、何かあるかい?」

香草塩を軽く振った生ハムをつまみながら、少年が訊ねる。

「いや。しばらくはのんびりするつもりだが?」

薫製チーズを口に運びながら、ローブの男が答える。

「じゃ、さ。グランドヒルに行ってみなよ」

「城塞都市、か……」

フードの影から、金色の瞳が瞬く。

「んっふっふっふ……面白い出逢いが、あると思うよ~」

「邪神のいう、面白い事か……いいな。行ってみるさ」

かちん、とグラスを合わせる二人。

 

 

夜。深夜にはまだ時間はあるものの、道行く人もまばらな時間帯。酒の時間だ。酒場、食事処からは喧騒が聞こえる時間帯。

城塞都市の門。衛兵二人が、門の側に待機している。若手と古参の二人組。

門の周囲は篝火がいくつか焚かれ、中々の明るさで照らされている。

門から延びる街道沿いにも、同じように篝火がいくつか並べ立てられており、ある程度の先が見通せる様になっている。

どの都市、街もそうだが陽が暮れ、夜になれば基本、通行は許可されない。例外は、王族、貴族が公的な用で訪れた場合のみ。

そして、もう一つの例外は──

 

「うん……?」

若手の衛兵が、こちらに向かって来る黒い人影に気付いた。今、古参の衛兵は近くにいない。

他の衛兵に待機所に呼ばれている。

黒い。というより、漆黒のローブ姿の男……篝火の明かりが、妙に暗く感じる気がする。

黒いローブの男は、何のためらいもなく門に向かって来る。

「ち、ちょっといいか? 今、この時間は出入りは禁止だ。夜明けまで待ってくれないか?」

思わず、早口になる。

門から離れた所には、寝泊まりをするだけの、簡易の宿泊施設がある。無料。身分関係無く、泊まる事になる。これを嫌う身分の高い人等は時間を調整して、都市や街に向かう。

場所が空いてない場合は、当然、野営をする事になる。それでゴタゴタが起きる事もあるのだが、それを抑えるのも衛兵の仕事だ。

 

黒ローブの男が、懐に手を入れカードを出してきた。

銀で縁取られた黒いカードの中央には──

“☆ ラーディス・グレイオウル ☆”

名と姓の両端を銀の星印で囲まれ、同じく銀色で彫刻された名前……銀で縁取られた黒いカード。

 

「え、ええと……これは?」

「冒険者登録証だ」

見た事のないカード。今まで何度も冒険者登録証は見た事はあるが……これは? 偽造……?

「登録証を偽造したら、どういう罪になるか分かっているな?」

「う……」

心を、読まれた? いや、どうしたものか……?

「どしたあ? 揉め事かあ?」

のんびりとした声。古参の衛兵だ。

「あ、いえ……ええと、この、冒険者が」

しどろもどろになりながらも、安堵感とともに、古参の先輩に答える。

「んん?……おおっと、魔導卿かい。久し振りだな」

古参の先輩が、嬉しそうに言った。

「おお、マリオさん。まだ、引退は先送りですか」

「新米がよ、なかなか育たねえんだ。女房にも、引退急かされてんだがなあ」

わははは、と笑い会う二人を、ぽかんと眺めている若手。

 

「おい。このカード、ちゃんと覚えておけ。そうは見れねえぞ、このカードは上級冒険者のもんだ。この銀の部分はミスリル、カード部分は黒水晶で出来ている。俗な話になるがよ、金貨数百枚になるほどのもんだ」

「俗過ぎますよ、マリオさん」

再び、笑い会う二人。

「という訳だ。公用の王族、貴族以外のもう一つの例外ってやつだ……上級の特権の一つってやつだよ。場合によっては、王族以上のなあ」

マリオは、若手の肩を軽く叩いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。