「うん?」
輝く金髪に赤い瞳の、白磁の肌をした美貌の少年が顔を上げる。
純白のテーブルクロスをかけた、金縁の漆黒のテーブルを前に茶を喫している。金の意匠が施された、漆黒のティーカップを、同じく漆黒の受け皿に置く。
「あるじ様」
魔族の執事、デルモアが呟く。美貌の少年の真正面、テーブルの向こう側──ぴしり、と空間に亀裂が入った──拡がった亀裂から、黒い人影が出現する。黒いのは、漆黒のローブを身に付けているからだ。フードから、金色の光が瞬く。
「招待状出してないんだけどなあ~」
あははは、と少女の様な声で笑う。
「神々の領域を、容易く行き来できるなんてね~さすが、深淵渡り。デルモア、お茶……じゃないね。黒ワイン出して上げて~あ、僕もワインにするよ」
「かしこまりました」
「何の用か、当てようか~? 姉上から、言伝てでも預かってきた~?」
ワイングラスを優美に揺らしながら、少年が笑う。妖艶な笑み。
「そう、大げさな用でもない。ただの嫌味の様なものだ」
グラスをくっ、と干す。黒ローブの男。
どうぞ、とデルモアがグラスにワインを注ぐ。
ローブの男が軽く、頭を下げる。
「“転生者”を、取り上げられたとの事でな。はっきり言って、言い掛かりみたいなものだな」
「姉上はねえ~腰が重いから。一歩遅ければ、彼の魂、消滅させられてたとこだったんだよ~」
「そう簡単に、深淵から
「ああ、そうだ。君はこれからの予定は、何かあるかい?」
香草塩を軽く振った生ハムをつまみながら、少年が訊ねる。
「いや。しばらくはのんびりするつもりだが?」
薫製チーズを口に運びながら、ローブの男が答える。
「じゃ、さ。グランドヒルに行ってみなよ」
「城塞都市、か……」
フードの影から、金色の瞳が瞬く。
「んっふっふっふ……面白い出逢いが、あると思うよ~」
「邪神のいう、面白い事か……いいな。行ってみるさ」
かちん、とグラスを合わせる二人。
夜。深夜にはまだ時間はあるものの、道行く人もまばらな時間帯。酒の時間だ。酒場、食事処からは喧騒が聞こえる時間帯。
城塞都市の門。衛兵二人が、門の側に待機している。若手と古参の二人組。
門の周囲は篝火がいくつか焚かれ、中々の明るさで照らされている。
門から延びる街道沿いにも、同じように篝火がいくつか並べ立てられており、ある程度の先が見通せる様になっている。
どの都市、街もそうだが陽が暮れ、夜になれば基本、通行は許可されない。例外は、王族、貴族が公的な用で訪れた場合のみ。
そして、もう一つの例外は──
「うん……?」
若手の衛兵が、こちらに向かって来る黒い人影に気付いた。今、古参の衛兵は近くにいない。
他の衛兵に待機所に呼ばれている。
黒い。というより、漆黒のローブ姿の男……篝火の明かりが、妙に暗く感じる気がする。
黒いローブの男は、何のためらいもなく門に向かって来る。
「ち、ちょっといいか? 今、この時間は出入りは禁止だ。夜明けまで待ってくれないか?」
思わず、早口になる。
門から離れた所には、寝泊まりをするだけの、簡易の宿泊施設がある。無料。身分関係無く、泊まる事になる。これを嫌う身分の高い人等は時間を調整して、都市や街に向かう。
場所が空いてない場合は、当然、野営をする事になる。それでゴタゴタが起きる事もあるのだが、それを抑えるのも衛兵の仕事だ。
黒ローブの男が、懐に手を入れカードを出してきた。
銀で縁取られた黒いカードの中央には──
“☆ ラーディス・グレイオウル ☆”
名と姓の両端を銀の星印で囲まれ、同じく銀色で彫刻された名前……銀で縁取られた黒いカード。
「え、ええと……これは?」
「冒険者登録証だ」
見た事のないカード。今まで何度も冒険者登録証は見た事はあるが……これは? 偽造……?
「登録証を偽造したら、どういう罪になるか分かっているな?」
「う……」
心を、読まれた? いや、どうしたものか……?
「どしたあ? 揉め事かあ?」
のんびりとした声。古参の衛兵だ。
「あ、いえ……ええと、この、冒険者が」
しどろもどろになりながらも、安堵感とともに、古参の先輩に答える。
「んん?……おおっと、魔導卿かい。久し振りだな」
古参の先輩が、嬉しそうに言った。
「おお、マリオさん。まだ、引退は先送りですか」
「新米がよ、なかなか育たねえんだ。女房にも、引退急かされてんだがなあ」
わははは、と笑い会う二人を、ぽかんと眺めている若手。
「おい。このカード、ちゃんと覚えておけ。そうは見れねえぞ、このカードは上級冒険者のもんだ。この銀の部分はミスリル、カード部分は黒水晶で出来ている。俗な話になるがよ、金貨数百枚になるほどのもんだ」
「俗過ぎますよ、マリオさん」
再び、笑い会う二人。
「という訳だ。公用の王族、貴族以外のもう一つの例外ってやつだ……上級の特権の一つってやつだよ。場合によっては、王族以上のなあ」
マリオは、若手の肩を軽く叩いた。