冒険者三名と衛兵三名の六名編制のグループが、村を目指して巡回ルートを進んでいる。
向かう先の村は、武門街の北西に位置するノースヒルの村──
“
長兄ヴァルガス、次兄オルヴル、長女ミーシャの狼族三兄妹──歳はそれぞれ一つ違いの二十代前半。
三名ともに、灰色がかった白い毛並みをしている。
長兄、長女ともに、狼族らしい引き締まった俊敏さを感じさせる体付きだが、次兄は二人よりも頭一つほど背が高く、がっしりとした筋肉質の体付きで、腕も太く、胸板も分厚い。
装備も二人と違い、金属で補強された部分が目立つ厚手の革鎧と合金製の籠手を身に付けている。
次兄オルヴルが敵の攻撃を正面から受け止め、その間に兄妹二人が敵を攻め立てる──それが、
そして三人ともに、
近接、短距離戦に対応した、狼族の適性を充分に活かしたパーティーだ──
「魔石の回収はどうする?」
「後から回収班が巡回するって話だ。そうだよな?」
「ああ、
「らしいな。まとまった数でナンボってところだと聞いてるよ」
ヴァルガスが答え、なるほどな、と頷く衛兵達。
街道に散った雪甲虫の死骸を、
武門街から出発して、すでに一時間ほど過ぎている。
それまでに始末した雪甲虫の数は、三十を越えていたが、地元の衛兵達から見たら、この数は少ない。
「……村まであと二、三十分てところだが、少し休憩しよう。村に湧いて出るのはまだ先だ」
一ヶ所に集められた雪甲虫の死骸を見ながら、衛兵が云う。
「さっき、大した数じゃないって言ってたわね。本格的に、虫連中が湧いて来たならどれくらいの数になるの?」
長女ミーシャが周囲を警戒しながら、咥え煙草の衛兵に尋ねた。
「そうね……数十から百以上は湧くわね。聞いていると思うけど──」
無造作に髪を結い上げた、いかにもベテランといった衛兵がミーシャに応える。
「連中、群れをなすほど、周囲の気温を下げるのよ……最も」
煙草を吹かしながら、続ける。
「その対策は、各村で充分対策しているだろうけどね」
トントン、と煙草の灰を携帯灰皿に落としながら云う衛兵。
「気温を下げる、か……話には聞いているが、実際にはどういう風になるんだ?」
ヴァルガスが尋ねる。髪を結い上げた衛兵が、雪甲虫の死骸に目をやりながら応えた。
「冷気……つまり雪甲虫は冷たい風を身にまとっているのだけれど、数が多ければ多いほど吹雪に近い状況になるのよ」
煙草を吹かす衛兵。吹雪、か……と呟くヴァルガス
「ふうん……それで、対策っていうのは?」
「単純に、焚き火と篝火ね。これは雪甲虫対策というよりも、冷気にやられた人達を暖めるためのものね」
ミーシャの質問に、髪を結い上げた衛兵が応える。
次兄オルヴルとともに、残りの雪甲虫の死骸を片付け終えた衛兵が戻って来た。
ミーシャ達の会話が聞こえていたのか、その衛兵が云う。
「連中のまとう冷気は群れを成すほど強くなるから、冷えた身体を暖めつつ、前衛と待機組みが交代しながら雪甲虫に向かっていくんだよ」
そういう事ね、とミーシャ。
「それにしても、次兄のオルヴルか。あんたら二人とは大分体格が違うな。片付けが捗ったよ」
衛兵の言葉に、無言で頷く次兄オルヴル。
頭一つ分背が高く、身体も分厚いオルヴルを見上げる衛兵。
「あんたら
「ああ、帝都を中心にして獣神王国と行き来をしてるよ」
年かさの衛兵の質問に、ヴァルガスが応える。
通称、獣神王国──正式名称サンダルガ獣神王国。大陸の東側に位置する、獣人の国。
その隣に位置するは竜人の国、竜神皇国。両国ともに親密な関係であり、そしてミルゼリッツ帝国とも長く友好関係にある国だ。
「そういえば、私達より先にノースヒルの村に先行したパーティーがいるわよね?」
「ああ、“碧水の翼”だ。ノースヒルが
ミーシャに、年かさの衛兵が応えた。
碧水の翼の名を聞いた、
「うん? どした?」
雰囲気を察した年かさの衛兵が、ヴァルガスに尋ねた。
「碧水の翼は名の知れたパーティーで、実力も知っている。頼りになる連中さ……ただ、一人変なのがいるんだよ……」
ヴァルガスの言葉に、三名の衛兵が顔を見合わせた。
「ああ、変なのという言い方は誤解を招くか……何と言ったらいいかな……」
ヴァルガスが、どう説明したものかという風に言い淀んだ──
粉々になった雪甲虫の死骸が、数えきれないほどに散らばっている──元は何匹いたのか、もう分からない。
その中心には、荒い息を吐き、肩で息をしている濃い灰色のマントを羽織った赤闇色の戦士が立っている。
黒鷲を形取った兜のフェイスガードを下ろしているので、顔は見えない──
戦士は、ラウンドシールドと
「……あれだけの数を一人で……」
赤闇の戦士を遠巻きに見ている衛兵が、畏怖を込めた声で呟いた。
ノースヒル衛兵隊長ジェロームだ。その背後には、部下の衛兵が数名。
皆、異様な物を見る目で赤闇の戦士を見つめている──
「全く……虫嫌いもここまでくるとねえ」
“碧水の翼”のリーダー、レンディアが呆れた声で云う。
「危なげなかったとはいえ……ふむ。よくも一人でしらみ潰しにしたものだな」
グランが、呆れ混じりに云った。
「まあ、クレイドルならやるよねー」
シェーミィが、にっしし、と笑いながら云う。
息を整えた赤闇の戦士──クレイドルが
「……手伝ってくれても、よかったんじゃないか?」
「巻き込まれるのは嫌よ。私達も、あなたの邪魔にならない様に雪甲虫を始末していたわよ」
しれっと云うレンディア。
たった一人の激闘(?)を戦い抜いた仲間に対してのリーダーの言葉。
そのやり取りを見ていた衛兵達は、呆れた──ただ、ジェロームだけが苦笑を浮かべていた。
「さて、魔石の回収はどうする?」
散乱する雪甲虫の死骸を見回しながら、グランが云う。
「ふん……雪甲虫の魔石はたいした価値は無いから、放っておいてもいいのだけれど──」
散らばり、小さな輝きを見せる雪甲虫の魔石を眺めるレンディアに、ジェロームが云った。
「よければ、俺達が回収しようか?」
「いいのー?」
ジェロームの言葉に、猫族独特の愛嬌さでシェーミィが応える。
「構わんよ。あんたらが雪甲虫を殲滅してくれたんでね。また
ちらりと、クレイドルを見やりジェロームが云う。
「なら、お願いするわ。私達は少し休ませてもらうけど、いい?」
レンディアの言葉に、構わんよ、とジェローム。
「さて、軽く昼食を済ませましょうか」
羽織っているケープコートの襟元を緩めながら、レンディアが云う。
少しばかり遅い昼食。時刻は昼下がりをとうに過ぎていた。
人口約二千人のノースヒルの村。賑わいからは、村というより街といってもいいほどだ。
酒場と食堂を兼ねた店は多数あり、食べ歩きには何ら不足はしない。
「宿で済ませてもいいけどー、色んな店行ってみたいよねー」
キョロキョロと、周囲の店を見回すシェーミィにレンディアが云う。
「どこで食べるかは、シェーミィの鼻に任せるわよ」
レンディアの言葉に、あーい、と明るく応えたシェーミィが、飲食街に向かって行った。
シェーミィの後をのんびりと追いながら、今後の予定を話す。
「俺達の受け持ちは北側出入り口で、南側は、確か……
「そうね。私達と、大体同期くらいの中級パーティーよ」
グランさんとレンディアの会話。
帝都で碧水の翼が一旦活動休止になって皆と別れた後、ドワーフの冒険者リリンと少しの間行動した時に受けた依頼で、
その時、
「レンディア。帝都にいる時受けた依頼で、
俺の発言に、ふうん、と興味深げな声を上げるレンディア。
「……甲殻ムカデの討伐依頼、か……クレイドルからしたなら、中々にキツかっただろうな」
妙な同情さを感じさせる物言いのグランさん……何ぞ?
「良さそうなお店、あったよー!」
戻って来たシェーミィに、俺達の意識が向く。
「ふん。シェーミィの鼻なら間違いないでしょうね……さて、昼食といきましょうよ。シェーミィ、案内お願いよ」
レンディアの言葉に、あいあーい、と明るく応えるシェーミィ。
疾風の牙の事も少し気になるが……よし。まずは腹ごしらえといくか──
感想あれば、どぞ。
( ´-ω-)y‐┛~~