邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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だいぶ間が空きましたが。
待雪草(スノードロップス)編の再開です。


幕間 待雪草(スノードロップス)ダストス(瘴気の土石)

 

 

──アシャー(蠢く遺塊)。遺灰の塊に障気が宿り、アンデッド化したもの。耐久力は低く、打撃に脆い。傷付けられると、一時的な麻痺毒を受ける事がある。

 

──ダストス(瘴気の土石)。瘴気を受けた墓場の土が土人形になって動き出したもの。石混じりの体は刃物が通りにくく、なかなか頑丈で力も強い。状態異常は無いが、打撃力は馬鹿には出来ない。

 

ファルから聞いていた、二体の不死族(アンデッド)を探すため静寂の祠二階に降りて来た。

一階と雰囲気は何も変わらず。

幾つかある小部屋や、もう使われていない礼拝室が、一階と同じ様に並んでいる。

ちょっとした違いは、ほんの少しばかり薄暗く感じるくらいかな──

先を行くのは、ジョシュとファル。私とシェリナは、少し距離を取って二人の後を追っている。

 

 

「ねえ、ジョシュ。対複数との戦い方は習ったよね?」

飾られた杖を左右に振りながら、ファルが尋ねてきた。

杖を振る事に、何かしら意味があるのだろうなと思いながらジョシュが応える。

「うん、あるよ……教わったのは──」

初級訓練で受けた内容を思い出すジョシュ。

 

──第一に、囲まれない事。これは基本。

攻める時には、一対一に持ち込める様に立ち回る事が肝要。

そのためには、敵集団の“角”を狙い攻めるべし。

前衛(盾役)は、ここから先は通さないという覚悟を持って、敵を一手に引き受けるつもりで臨む事──

 

「──そう教わったよ。今のところは、それを実践出来る機会はないけど」

ジョシュの応えに、ふむ、と少しばかり考える素振りを見せるファル。

「今、君が言った事は間違いないよ。正しく学んでいた様だね。後は実践あるのみだけど……ただ」

何か言いたげなファル。その様子を伺うジョシュは、ファルが口を開くまで少し待ってようと思った。

 

「はっきり云っておこうか。もう一人、前衛が必要だね。リーネも前衛に立てるけども、やはり本職では無いからね……ああ、君の実力を疑う訳じゃないよ? ただ単にもう一人、攻撃役は必要かなあ」

ファルの言葉に頷くジョシュ。

どちらかと言えば、自分は防御を得手としていると常々思っていた。

初級訓練を受けた際、自分から希望して防御というよりも、“防衛”を優先に学んだ。

リーネ、シェリナを守る事を第一に考えての事──この考えは、ジョシュ本来の優しさの現れだった。

 

「まあ、今すぐどうこうって訳じゃないからね。追々考えようか。リーネ達とも相談しながらね」

ファルは、コツコツと床を叩きながら云った。

そうだな、とジョシュは頷く。そして、先ほどから疑問に思っていた事を、ファルに訪ねる。

「なあ、ファル。さっきから杖を振っていたけど何かの意味があるのか?」

ジョシュの言葉にファルが杖を見た。そして、云った言葉は──

 

「振っていた? ああ、ただのクセだよ。手持ちぶたさだとね、何となく振っちゃうんだ。気にしなくていいよ」

ぶおん、と大きく杖を振るファル。先端の杖飾りが、ばさりと鳴った──

「……そうなんだ」

先輩冒険者の、何かしら意味のある行動だと思っていたジョシュ。

杖を無意味に振り続けるファルを見ながら、ハーフランナー(駆け足族)というのは、皆こうなのかな……とジョシュは思った。

 

 

「リーネ、あの二人……何の話をしているのかな?」

シェリナが、先を行くジョシュとファルを見ながら云う。

「……うん。それも気になるけれど、ファルは何で杖を振ってるんだろう?」

とは云ったものの、私にはあれが意味のある行為には見えない……。

ハーフランナー(駆け足族)か……何するか、分かんないとこがあるのよね。

「とにかく、今のところは異常は無いみたいね。このまま二人の後を付いていきしょう」

うん、とシェリナが頷く。

さて、拠点にする礼拝室が見つかるまで何事も無いといいけどね……それに、拠点を見つけるにしても前にみたいな喧しい事をしなければいいのだけど……。

 

この事は、リーネの杞憂に終わる。

ジョシュがファルに、『二階に拠点を見つける時、頼むから静かにやってくれ』と懇願した結果、ファルは穏便に済ませてくれたからだ──もっとも、いざという時には力ずくで止める、というジョシュの思いを感じ取っての、ファルだったが……。

 

 

「ここまで異常無しだったね。良かったよ、ほんと」

ニコニコと笑うファルに、少し釈然としないけれど……。

それはともかく、荷物を下ろして身軽になった私達は、最低限の物を持って改めて、アシャー(蠢く遺塊)ダストス(瘴気の土石)、二体の不死族(アンデッド)の捜索を続ける事になった。

 

「なあ、ファル。アシャーとダストス以外のアンデッドは何が出現する?」

「そうだね……浅い階だから、鬼火くらいかな」

ジョシュの質問に、前方に目を凝らしながらファルが応える。

鬼火、か……大人の頭部くらいの火の玉だっけか。

脅威度としては大した事は無いけれど、数が多くなると厄介だと習ったな。

「沢山出現した場合、ちょっと厄介何だけど、そんな状況になるのは場所が限られているからね。普通は二、三体。多くても四、五体かなあ」

ファルの言葉に、頷くジョシュ。ファルが続けて云う。

「アシャーとダストス何だけど、単体で出現する事は少ないよ。四、五体ほどと考えてた方がいいかな」

飾りが付いた杖で、コツコツと床を叩くファル。

ジョシュはその行為を見ながら、(特に意味無い事って言ってたけど……)と思っていた矢先──

 

「止まって」

ファルが床を叩くのを止め、立ち止まる。そしてしゃがみこんで床に耳を付けた。

「……ファル、なにが──」

ジョシュの言葉を遮る様に、ファルが云った。

「……うん。ダストスが……四体かなあ。こっちに向かって来るね。リーネとシェリナを呼んで」

膝に付いた埃を払いながら立つファル。その目は前方を向いたままだ。

ジョシュが、後方にいるリーネとシェリナに急ぎ来る様、合図を出す──と同時に、ジョシュはほぼ無意識に、剣の鯉口を切っていた──

 

ダストスを迎え撃つべく、私達待雪草(スノードロップス)は陣形を整える。

ジョシュが先頭で私は中衛。いざとなれば、私はジョシュを補佐しつつ、前衛の働きをしないとね……。

ファルとシェリナは、後方からの支援。ファルが、シェリナにアドバイスをしているのが聞こえた──

 

「アシャーとダストスは、水属性が弱点の一つ何だ。水をぶつけるとね、固くなるんだよ」

ファルが一息付き、続ける。

「水で固くなるって事はね、ある意味脆くなるんだよ。水が沁みた地面は掘りやすくなるだろ?その要領で、そこから一気に崩れるんだ。だから君の水属性の魔術が役立つんだよ」

ファルの言葉に、強く頷くシェリナ。杖をグッと握り込んでいる。

ちょっと気弱なところがあるシェリナを励ませるなんてね……ほんのちょっと見直したかも。

 

「まあ、霊体には水属性はほとんど効かないらしいけど。霊体に対して、今のシェリナが出来る事は何も無いなあ……まあ、“魔導卿”は別か」

シェリナが複雑な表情を浮かべながら、あっはっはっはと陽気に笑うファルを睨んだ。

うん、前言撤回ね。ファルらしいわ……気になるのが、ちょくちょくシェリナとファルの口から出る、魔導卿の名前なのよね。

「……来たね。やっぱり四体。お目当ての連中だよ」

不意に、ファルが緊張感を含んだ声で云った。

その声に釣られるように、私達は改めて前方に目を凝らす。

その先に見えたのは──

 

灰色のずんぐりとした体型。ぽっかりと黒く空いた、目鼻立ち。

瘴気を受けた墓場の土人形が、ゆっくりと近付いて来る……ダストス(瘴気の土石)だ。

 

「シェリナ。魔術の準備お願い。ファルはシェリナの側にいて。ジョシュは前に。私はすぐ後ろにいるから」

手早く指示を出す──ジョシュは盾を構えながら二、三歩進み、剣を構えた。

私はいつでも補佐に回れる様、その背後斜めに位置取る。

ちらりと背後を見ると、杖を掲げて精神集中を始めているシェリナの姿と、腰回りのポーチを探っているファルが見えた……シェリナはともかく、ファルには少し不安を感じるけど、悪い事にはならないでしょう。多分。

 

「ジョシュ、先制しましょう。先頭の一体が間合いに入ったら攻撃して。私が補佐するわ。シェリナは術の用意が出来次第、補助に回って。ファルはシェリナと一緒に動いて」

皆が、了解とばかりに各々やるべき事をやるために動き出す。

ダストスとの戦闘が始まる──

 

 

にじり寄って来るダストスに、体ごとぶつかる様に盾を叩き付けた──どっしりとした重さのダストスだが、さらに力を込めて押し返す。

グラリとダストスの体が揺れ、後方に下がる……。

ダストスに対しては、打撃が有効とファルに教えてもらった。

剣での攻撃は、ダストスが脆くなってから。下手に斬り付けるとダストスの体に混じる石を叩いてしまい、剣が刃こぼれする事もあるそうだ──

ファルが云うには、そうならないためにシェリナの水属性の魔術が重要との事。

その用意が整うまで、盾撃(シールドバッシュ)を中心に戦う事になるな……よし。

 

体勢を立て直して迫って来るダストスに、迎撃の構えを取るジョシュ。

その顔に、“ここから先は通さない”という覚悟が浮き上がっていた。

 

 

バアァンッ──にじり寄って来たダストスめがけ、ジョシュが体当たりをする様に盾撃(シールドバッシュ)を食らわせた。

ダストスの体は重いのか、ジョシュの動きが一瞬止まった。けれどジョシュは更に押し込み、ダストスを下がらせた。

ジョシュはまだ剣を使わず、シェリナの魔術の用意が出来るまで盾撃(シールドバッシュ)でしのぐつもりだ……よし、私はジョシュに代わって、ダストスを叩く事にしよう。

 

リーネは棍を軽く握る。大きく息を吸い、細く吐きながら歩み出す。

棒術を習った祖父からの教えが、リーネの脳裏をよぎる──脱力からの力み。つまり棍を繰り出す際は力を抜き、直撃の際に力を込める。そうする事で、最速最高の一撃が望める、と。

攻守共に、そうするべし──ジョシュの盾撃に体勢を立て直したダストスが、ジョシュに腕を伸ばそうとしている。

その腕めがけ、リーネはほぼ無意識(教え通り)に棍を突き出した。

バゴン、とダストスの腕が弾け散る──その一撃が効いたのか、ダストスが呻き声を上げながら下がる。

そして、シェリナの詠唱が霊廟内に響いた──

 

水よ集いて この場にて一時(ひととき)のにわか雨となれ──四体のダストス(瘴気の土石)の頭上に、渦巻く水が現れたのが見えた瞬間──強めの雨が降った。

 

 

杖を掲げて、深呼吸を一つ、二つ──ゆっくりと魔力を制御しつつ、練り上げる……ファルの言っていた事が頭に浮かんできた。

『初級訓練の時に習っただろうけどさ、魔術はイメージが重要だってね。今から云う事はラーディスの受け売りなんだけどさ、彼が云うにはね──』

 

何のために、誰のために、どういう術を使うか。

その術をもって、何を成すか──

 

“魔導卿”から聞いた言葉だと、ファルは云っていたっけ……よし。何のために、誰のために、何を成すか──決まった。

シェリナは静かに息を吸い、練り上げた魔力を詠唱に乗せながら、息を吐いた。

 

水よ集いて この場にて 一時(ひととき)のにわか雨となれ──

 

四体のダストス(瘴気の土石)に、強めの雨が降り注いだ。

一体ずつに水属性の攻撃を与えるより、小範囲に雨を降らせてダストスの耐久力を削ぎ落とす。

ファルの助言を受けての事だ。

雨に降りしきられたダストス達は、口々に呻き声を上げ出した──その体が、直ぐに水浸しになっていく。

 

「今だね。一気に崩せるよ!」

ファルの声に、前衛を担当しているジョシュとリーネが素早く動いた。

「シェリナ、にわか雨はもう充分だよ。ダストスはずぶ濡れだ。ジョシュとリーネに任せれば良いよ」

ファルの声に、シェリナは杖を下ろして一息吐いた。大分に魔力を使ったのか、シェリナは杖に寄り掛かる様に立っている。

「お疲れ様だね。少し休むと良いよ。ダストス連中は、リーネとジョシュが片付けるだろうしね」

ファルの労る様な声に、頷くシェリナ。

目の前では、リーネとジョシュが水浸しになり大分脆くなったダストス連中を、叩き、斬りつけ、粉砕している。

 

ダストス(瘴気の土石)も、直に終わる──

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