邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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 ちと、おそくなりました。

(-。-)y-゜゜゜


第209話 風物詩(お祭り騒ぎ)開始──クレイドル フルスロットル!!!! 4th 

 

 

 ノースヒル村で風物詩(お祭り騒ぎ)に参加した、冒険者ルベク(中級Cランク)は語る──

 

 「最初の群れは、確か……二百は越えてたみたいだ。結構な数だと思ったんだが、衛兵が言うには第一波はこんなものだ、と言ったんだ。二百がこんなものなら、次はどうなんだって思ったよ。とにかく、今迫って来る雪甲虫(スノーボウル)を手早く始末しないと、第二波の迎撃に間に合わないから早く済ませよう……って事になったんだが──」

 

 

 ォォォオアァァァァァ……!!

唐突に背後から聞こえる雄叫びに、雪甲虫(スノーボウル)の迎撃態勢に入っていた衛兵や冒険者達が、思わず振り返る──

黒灰のマントをはためかせながら、赤闇色の何かが、凄まじい勢いで疾走して来るのが見えた。

 (魔物!?) 

背後からの敵の強襲。一見そう思えたが── 

“赤闇色の何か”を追うかの様に、“碧水の翼”がやって来るのが見えた──先頭を奔る、リーダーのレンディアが叫ぶ様に声を上げた。

 「それ(・・)を通して!!」

それ(・・)が何なのか。その場にいる皆が、理解した。

衛兵と冒険者達が、“赤闇色の何か”を避ける様に道を開ける──

 「オオオォォォオオァァッッッッ!!」

悲鳴じみた雄叫びを上げながら、黒灰まとう赤闇の塊が雪甲虫(スノーボウル)の群れに、バトルアクスを手に飛び込んだ。そして──

 

 

 「“碧水の翼”のクレイドルの事は、話には聞いていたんだけど、聞くのと間近で見るのとは違うんだよな……お姉さん、蜂蜜酒(ミード)炭酸割りと、あとチーズとベーコン盛りもな。ほら、あんたも好きなの飲みな。いいって、風物詩(お祭り騒ぎ)で懐具合いいんだからよ。ロングスウォード卿は風物詩には太っ腹なんだ。ああ、クレイドルの事な……出る幕ないってのは、ああいう時の事を云うんだろうな──」

 

 

 群れに飛び込んだ、黒灰まとう赤闇の塊──クレイドルは地面に片膝を付きながら、引っ提げてきたバトルアクスを器用に回転させ、素速く態勢を整えながら周囲の雪甲虫を薙ぎ払った。

 クレイドルを中心に、数匹の雪甲虫が残骸となって四方八方に舞い散った──

 「やるぞ!!」

誰が云ったか、号令一下。それに被さる様に、“碧水の翼”のリーダー、レンディアの声が響く。

 「あれ(・・)は放って置いて! 巻き込まれるわよ!!」

あれ(・・)──クレイドルの事だと、その場にいる全員が理解出来ていた。

クレイドルを避ける様に、衛兵と冒険者達が雪甲虫の群れを迎撃せんと突き進む。

 

 死ねっ! 死ねえぇぇっ!!──クレイドルの叫び声を背にしながら、衛兵と冒険者達が雪甲虫の群れに向かって行く。

 “碧水の翼”は慣れているもので、荒れ狂うクレイドルを横目に各々が雪甲虫を始末している。

それに習うかの様に、衛兵と冒険者達が即席の連携を取りながら雪甲虫の第一波を迎撃していき、二百を優に越える雪甲虫が瞬く間に数を減らしていった──

 

 「……よし、こんなとこか。後片付け(・・・・)は俺達に任せて、あんたら冒険者は体を暖めに行ってくれ」

古参(ベテラン)の衛兵が、周囲に散らばる雪甲虫の残骸を見渡しながら云った。

 雪甲虫の纏う冷気は、十匹程度ならばどうという事は無い。だが、それが数十の群れともなるとただの冷気では済まされない。まして百を越える数となると、低体温症に見舞われ生死に関わる事もあるのだ。

 そうならないために、冷えた体を暖めるための篝火と焚き火が用意されている──  

 「次に雪甲虫が来るまで、体を暖めてこい。明け方まで間断無く波が来るかもしれないからな」

衛兵の言葉に甘える様に、冒険者達は広場に戻る動きを見せる。

 「クレイ、戻るわよ」

地で蠢く雪甲虫を、踏み潰して回っているクレイドルにレンディアが声を掛ける。

 「広場で温かい茶を振る舞っているから、二波が来るまで小休止しててくれ」

 だん、だん、どん──と、雪甲虫を潰しているクレイドルを横目で見ながら、衛兵が告げた。

 「……あんたのとこの、クレイドル、だっけか。何時もあんな調子なのか?」

 「虫がね、嫌いなのよ」

答えになっていない様な答え方をするレンディア。

ひとしきり潰し回って落ち着いたクレイドルが、ふと顔を上げる。

 「何だって?」

 「広場に戻るわよ。いい加減、冷えてきたわよ」

レンディアの言葉に、周囲を見回すクレイドル。ふう、と一息付き、云った。

 「……だな。今さら寒く感じてきた……」

クレイドルはぶるりと身を震わせた──

 

 

 「俺もそれなりに仕留めたよ。五、六匹くらいか。他の連中もそれくらいじゃないかな。雪甲虫一匹一匹は大した事ないから。ただ、数が問題でね……二百を越える数の内、半分くらいはクレイドルが仕留めたんじゃないかな? それくらいの暴れっぷりだったからな。その時いた衛兵と冒険者の人数? そうだな、“碧水の翼”を入れて三十はいたかな。一波をしのいだ時点では、負傷者無しだったよ。ただ、第二波がヤバかったな。雪甲虫の数もそうだったけど……ああ、悪名高い滅甲虫(ドゥームボウル)だ──」

 

 

 

 広場に戻り、つかの間の休息。暖を取るための篝火と焚き火が何とも心地良く感じる──ぼんやりと、広場を照らす篝火らを眺めていると、声を掛けられた。

 「あの、お茶を、どうぞ……」

昼に行った食堂の可愛い店員さんが、おずおずと茶を差し出して来た。

 「うん、ありがとう」

厚めのカップを受け取る。両手のひらで包む事が出来る様な大きさで、じんわりと暖かさが伝わって来る。

一口啜ると、それほど熱くは無い。温めといってもいい。

 「あの、あまり熱くても、飲みにくいので温めが丁度良いらしいんです……」

頬を赤く染めながら説明してくれる店員さん。

なるほどな、体の中からゆっくりと温めるにはこれくらいが良いんだろうな。

 「風物詩(お祭り騒ぎ)の時は、いつも衛兵や冒険者達の手助けを?」

改めて周囲を見回すと、明らかに普通の人達が衛兵や冒険者に何らかの世話をしている。 

 「は、はい。体を張って、私達の村を守ってくれているので、私達に出来る事があれば、と……」

聞けば、ロングスウォード伯の命によるものでは無く、領民が自発的にやっている事だそうだ──

 

 「ご馳走さま」

まだ側に付いてくれている店員さんにカップを渡す。充分に暖が取れ、士気が満ちたのを感じる。さて、レンディア達と合流するか……。

 広場に配置されている冒険者用の武具棚にバトルアクスを掛け、魂食み(ソウルスレイヤー)とラウンドシールドを取る。

──“対悪魔”の効果を持つ魂食み(ソウルスレイヤー)を帯剣し、ラウンドシールド肩掛けにするクレイドル──この行動は、無意識のものだった。

 

 ふと振り返ると、店員さんが両手を組み、不安げに俺を見ていた。涙目──そんな顔で見られるとなあ……ふむ。 

 「……必ず、ここに戻って来ます」

ここまでは、良かった。自分の意思での言葉だったから、だが──「だから、待っていて下さい」

邪神の加護! 発、動!! あああぁぁ! 年頃の娘に、その台詞は駄目だ!!

 「……はい、待っています! だから、必ず……」

 縋り付くような目で俺を見る、店員さん──邪神(親父)だ! 邪神(親父)の仕業だ!!

 

 

 「まーた、女殺し」

 「あれはほとんど、無意識だろうな。そういう所なんだよなあ……」

 「クレイにあんな事言われたら大概の人はおかしくなるわよ……全く、やれやれよ」

“碧水の翼”が、クレイドルと店員のやり取りを呆れながら眺めている。

 「でも、フェイスガードを上げていないだけマシだよねー」

にっしし、とシェーミィが笑う。

クレイドルは、茶を飲むためにフェイスガードを少しばかり上げているだけだった。

フェイスガードを上げ素顔を晒していたなら、面倒な事になっていたかもしれないと云う事だ──だが……。

 

 レンディア達に合流するため動くクレイドルに、店員が云った──「あ、あの……ご武運を……」

食堂の店員が云う言葉では無かった。

それでも、云わずにはいられなかったのだろう……健気な言葉だった。

その想いを、無下に出来るクレイドルでは無い。

 「……ありがとう」

クレイドルは、ほぼ無意識にフェイスガードを上げ、素顔を晒して礼を云った──クレイドルの顔を間近に見た店員の価値観が、変わった。

 

あ~あ、とは誰の声だったか……。

 

 

 「第二波来るぞ! 数、現時点で約二百!! 急ぎ、迎え撃て!!」

急ぎ迎え撃て!と復唱しながら、衛兵が広場を駆けて行った。

一時の休息を取っていた衛兵、冒険者達が即座に臨戦態勢を取り、 広場から駆け駆け出して行く──

 「現時点で二百、ね……」

ふん、とレンディアが云う。雪甲虫がそれだけ群れを成せば、周囲の気温は、相当に下がるだろう──

 「レンディア、急ごう……現時点で二百と云うからには、更に増える可能性もあるだろうな」

グランの緊張を含んだ声に、“碧水の翼”が動く。

 

 

 衛兵隊長ジェロームは、斥候の報告を聞くと同時にある準備をした。

民の避難指示と、ロングスウォード伯への注進。

斥候からの報告、第二波の雪甲虫(スノーボウル)の数の多さから考えられる事は、滅甲虫(ドゥームボウル)の出現の可能性──“最悪を想定せよ”──若手の頃、帝都での訓練期間中、言われ続けた言葉だ。現時点での報告では約二百。更に増えると見ていい。

 冬の悪意は、吹雪と共に訪れる─ジェロームは、吹雪の到来を覚悟した。

 

 「南側の防衛を受け持っている“疾風の牙(ゲイル・ファング)”と他の冒険者達に声をかけてくれ。北側に滅甲虫出現の可能性有り、とな」

若手の衛兵に指示を出す。指示を復唱し、速やかに駆けて行く若手。

避難指示とロングスウォード伯への注進を、どのタイミングで出すか──ジェロームは、しばし考えた。

 

 

 

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