邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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 もうちょっと、執筆速度を上げないといけませんな。

 ( ´ー`)y-~~


第212話 風物詩(お祭り騒ぎ)の終わり①──決戦 

 

 

 

 キイイィィ〜イィィィイッッッツッィィッ────

 

 時刻はすでに深夜。異様な音が、冬の夜空に鳴り響いている──

雪甲虫(スノーボウル)が姿を消し、吹雪も止んだ……衛兵と冒険者達が、異様な音の発生元を警戒しつつ、迫る決戦にむけて慌ただしく準備を整えている……。

 

 「衛兵隊は冒険者達の援護と補助に回れ! 雪甲虫が湧き出したら、そっちを優先しろ!!」

滅甲虫(ドゥームボウル)が出現した際の話し合いで、あらかじめ決められていた事──滅甲虫討伐は冒険者達。衛兵はその補助。状況によっては、市民を避難させる必要があるため、衛兵は極力自由(フリー)である事が望ましいのだ──

 

 「ジェローム隊長、少しいい? あの(・・)嫌な音の事だけどね」 

魔術兵を引き連れたレンディアが戻って来ていた。 

 「ああ、どうした……?」

 「あの音、というよりあの声は滅甲虫(ドゥームボウル)雪甲虫(スノーボウル)を呼び集めている声よ」

レンディアの発言に、ジェロームと衛兵達に緊張が奔る──あれほど始末した雪甲虫が、さらに湧き出るのか……緊張する衛兵達を気にする事無く、レンディアが続ける。 

 「兄上からそう聞いているのよ。そして、雪甲虫を呼んでいるという事は、それだけ余裕が無いという証らしいわよ」 

レンディア達が話している最中も、不快な滅甲虫の鳴き声は続いている。

 キイイィィッ〜イィィィイッッッツッィィッン──

 「……あの声が止んだ時が、決戦の時よ」

 「なるほどな……」

鳴き声の方向を見るジェロームとレンディア。

 

 

 レンディアは魔術兵達に、ジェロームの指揮下に再度入る様に云い、“碧水の翼”に合流すべく去って行った。

ジェロームは指揮下に入った魔術兵達と共に、周囲の警戒に入る。 

 「今更だが……レンディアの兄上は、どういう人だ?」

ジェロームの何気ない言葉に、魔術兵達が顔を見合せる。

 「聞いていませんか」

少しばかり驚いた様に、魔術兵が云う。ジェドという名の魔術兵だ。ノースヒルに派遣されて来た、魔術兵達のリーダー。二十代半ばといった感じの、優しげな顔付きをした細面の青年だ──

身に付けているのは、左胸に灰色の片羽根の刺繍が施された黒灰色の魔術兵のローブ。ローブ下から帝国兵の鎧が覗き見えている──

 

 ジェロームは帝国兵の鎧を見て思う。

 (……魔術師である前に、兵士である事を忘れるな──だったか……ああと、レンディアの兄についてだな)

 「ああ、聞いてない。レンディアの口ぶりだと、同じ冒険者だと思ったが?」

 「はい。冒険者であり、宮廷魔術師。そして──」

そう前置きをして、ジェドが続ける。

 「当代無双の魔導士……ラーディス様です」

ジェドの声から、明らかな畏敬の響きが感じ取れた。

 「“魔導卿”……か! そうか、ロングスウォード領に来ているとは聞いていたな」

 

 “魔導卿”ラーディス──当代無双の魔導士であり、上級冒険者(・・・・・)滅甲虫(ドゥームボウル)に備えて、ロングスウォード領に来ているのだろうか? いや──

 

 「“上級冒険者は動かない”、だったな……」

 「はい。万一の備えとして、今はロングスウォード伯の元で待機していますが……」

ジェロームの言葉に、少しばかり苦味を含んだ様な物言いになるジェド。

 

 “上級冒険者は動かない”──この言葉の意味を正確に云うと、上級冒険者はよほどの緊急事態で無い限りは、動かせない。つまり指名依頼を出す事は出来ないという意味だ。

 どういう事かと云うと──上級がいるから何とかなるだろう──というある種の楽観的、上級任せの考えをさせないため、冒険者ギルドと上級冒険者間での取り決めの一つが、ジェロームの云った“上級冒険者は動かない”だ。

 それに、上級冒険者は金で動く可能性は低い。報酬は大概、金以外の“何か”を要求する事が多い。その事も、上級冒険者を動かすのが難しい理由にもなっている──

 

 余談ではあるが──上級冒険者に対して、“覇王公ミルゼリッツ”曰く、「奴等(上級)は法外の(ことわり)で動いている」と云ったそうだ(諸説有り)。それだけ、上級冒険者は異質の存在と云えた──

 

 「“魔導卿”が動く様な事が起きなきゃいいがな」

 「……同感です。そうなれば──」

ふと、二人の会話が止まる。歴戦の衛兵と精鋭の魔術兵、二人の直感が気付く──不快な滅甲虫の鳴き声が止んでいた……『あの声が止んだ時が、決戦の時よ』

ジェロームの脳裏に、レンディアの言葉が浮き上がった。

 「滅甲虫(ドゥームボウル)来るぞ! 手はず通り進めろ!!」

ジェロームの大音声の指示に、衛兵と冒険者達が統率の取れた動きを見せる──

その様子に、ジェドは少しばかり驚き、そして感心する。

 (衛兵達は当然として、冒険者等もジェローム隊長の指示に従っている……)

冒険者をも従えるジェロームの統率力は並では無い。

ロングスウォード伯の下には、これほどの人材がいるのかとジェドは思った──

 

 

 

 魔術兵と別れ、仲間と合流したレンディア。とうに臨戦態勢に入っている仲間達を横目に、前方で蠢く雪甲虫の群れを見つめる。

 「そろそろ来る、かな……」

 「そだねー。でも雪甲虫(スノーボウル)の数は少ないね。集まったのは、せいぜい百とちょっとかなー?」

 「ふん。集まらなかったのか、それとも数が残っていないのか……まあ、何でもいいわよ。皆、決着の準備は整っているわよね?」 

 「いつでも、大丈夫だよー」 

シェーミィは、にししと笑い、自慢の短弓の弦を指で弾く。

 「大いなる父君(暗黒神)の名と、“碧水の翼”の恥にならない様にするさ」

グランは胸に拳を当て、暗黒騎士独特の敬礼をする。

 

 気負いも、無駄な緊張も無い二人の様子に頷くレンディアだが──

 「…………」

先ほどから無言のクレイドルに目をやる。フェイスガード越しからは表情は見えない。

 静かに佇んでいるクレイドルは、胸元から“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を取り出し、触れていた……その様子に、レンディアが云う。

 「……前にも云ったけれど、それ(・・)を使うタイミングを見極めて頂戴よ?」

レンディアの言葉が聞こえているのかいないのか。クレイドルはただ頷くだけだった。

 

 “碧水の翼”の面々の会話を側で聞いていた冒険者や衛兵達もまた、迫る決戦にすでに備えは済んでいた。

後は、滅甲虫(ドゥームボウル)の出現を待つだけだ──

 

 

 「よう」

 “疾風の牙(ゲイル・ファング)”くの長兄、ヴァルガスがやって来た。

次兄オルブルと長女ミーシャの二人は、少し離れた所で他の冒険者達と話をしている──

 「ふん。ヴァルガス、今の状況どう思う?」

ちら、とヴァルガスの弟妹を見やり、ヴァルガスに問うレンディア。

 「……良くねえな。雪甲虫(スノーボウル)共がまごまごしてるのが妙に嫌な感じだ」

蠢く雪甲虫(スノーボウル)を見ながら云うヴァルガス。同感とばかりに頷くレンディア。

 「それはともかく、おたくの二枚目(・・・)はどうした?」  

今だ、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)に触れているクレイドルを見るヴァルガス──何となく、その様子に不穏さを感じたのだ……。

 「……ああ、クレイの事は気にしないでいいわよ。()相手になると、たまにあんな具合になるのよ」

 

 二人の会話が聞こえていたのか、いなかったのか。

クレイドルが呟く様に云った。

 「……滅甲虫(ドゥームボウル)は、もう近くに来ている……下からだッ!!」

クレイドルの急な言葉に、ヴァルガスはすぐさま地に伏せ、大地に耳を当てる──狼族の聴覚は、地中からの動きを即座に捉えた。

 「ジェローム隊長、滅甲虫来るぞッ!! 下からだ!!」

ヴァルガスの声を聞いたジェロームの判断と指示は早かった。

 「皆、散れぇっ!!」

大音声の指示に、衛兵と冒険者達が即、行動に移り、方々に散った──衛兵、冒険者達が来たる決戦に向けて待機していた場所に、あっという間に空間が出来た。

 

 そして──“冬の悪意”、滅甲虫(ドゥームボウル)が出現した。

 

 

 

 小山の様な、という表現が有る。ただ大きい、という意味で使われる例えの一つだ。

出現したそれ(・・)は、山というより小高い丘の様な、現実的な巨大さで衛兵や冒険者達の前に姿を現した──

 

 大地を抉り、貫き、砕き割りながら──滅甲虫(ドゥームボウル)が、その巨体を地上に浮き上がらせた。

大地を割って出現した滅甲虫の大きさは大雑把に見て、体高五メートル、幅三メートルほど。

その全長に至っては、優に十メートルは越えているだろう。

 ただ、その姿は雪甲虫(スノーボウル)とは似つかない姿をしていた。雪甲虫がその名の通り、甲虫の姿をしているのに対し、滅甲虫の姿形は、ただの虫と見るには少々無理のある姿だった── 

 穢れた灰色をした甲殻類の姿形であり、大小様々な棘に覆われた甲殻は見るからに分厚く、滅甲虫の大きさも相まって、堅牢な砦の様に見えた。 

 砦の様な体からは、無数の節足が両側から短く伸び、大地に食い込んでいる──

 そして、頭部。滅甲虫(ドゥームボウル)の頭部らしき部位には、虫独特の複眼が無数に散っている。複眼からは何の感情も伺えない。

その複眼が、誰か(・・)を探しているかの様に忙しなく蠢いていた──

 そして、無数の複眼がその相手(・・)を捉えた。

 

 

 クレイドルは、滅甲虫の姿形を見て思う。

 ──この姿。フナムシ、とも少し違う……何だったか。確か……ダイオウグソクムシか。それに似ている。等脚類で世界最大だっけか……? 

 何にしろ気持ち悪いが、こいつは“悪魔”属性。虫に対する嫌悪感よりも、悪魔に対する気持ちの方が強い。

 俺は風物詩(お祭り騒ぎ)に参加した時から、こいつ(・・・)に会う事を知っていたと、今にして分かった。こいつ(・・・)も、俺に会う事を知っていただろうな……俺は、ここにいるぞ──

 クレイドルの赤い瞳が、無数の複眼を見つめ返した。

 

 ──ギイイィィッ〜イィィィギイッッッツッィィッギァァァッッッ!! 

 ノースヒル村に、不快で異様な叫び声が轟いた。

 

 決戦が、始まる──  

              

 

 

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