もうちょっと、執筆速度を上げないといけませんな。
( ´ー`)y-~~
キイイィィ〜イィィィイッッッツッィィッ────
時刻はすでに深夜。異様な音が、冬の夜空に鳴り響いている──
「衛兵隊は冒険者達の援護と補助に回れ! 雪甲虫が湧き出したら、そっちを優先しろ!!」
「ジェローム隊長、少しいい?
魔術兵を引き連れたレンディアが戻って来ていた。
「ああ、どうした……?」
「あの音、というよりあの声は
レンディアの発言に、ジェロームと衛兵達に緊張が奔る──あれほど始末した雪甲虫が、さらに湧き出るのか……緊張する衛兵達を気にする事無く、レンディアが続ける。
「兄上からそう聞いているのよ。そして、雪甲虫を呼んでいるという事は、それだけ余裕が無いという証らしいわよ」
レンディア達が話している最中も、不快な滅甲虫の鳴き声は続いている。
キイイィィッ〜イィィィイッッッツッィィッン──
「……あの声が止んだ時が、決戦の時よ」
「なるほどな……」
鳴き声の方向を見るジェロームとレンディア。
レンディアは魔術兵達に、ジェロームの指揮下に再度入る様に云い、“碧水の翼”に合流すべく去って行った。
ジェロームは指揮下に入った魔術兵達と共に、周囲の警戒に入る。
「今更だが……レンディアの兄上は、どういう人だ?」
ジェロームの何気ない言葉に、魔術兵達が顔を見合せる。
「聞いていませんか」
少しばかり驚いた様に、魔術兵が云う。ジェドという名の魔術兵だ。ノースヒルに派遣されて来た、魔術兵達のリーダー。二十代半ばといった感じの、優しげな顔付きをした細面の青年だ──
身に付けているのは、左胸に灰色の片羽根の刺繍が施された黒灰色の魔術兵のローブ。ローブ下から帝国兵の鎧が覗き見えている──
ジェロームは帝国兵の鎧を見て思う。
(……魔術師である前に、兵士である事を忘れるな──だったか……ああと、レンディアの兄についてだな)
「ああ、聞いてない。レンディアの口ぶりだと、同じ冒険者だと思ったが?」
「はい。冒険者であり、宮廷魔術師。そして──」
そう前置きをして、ジェドが続ける。
「当代無双の魔導士……ラーディス様です」
ジェドの声から、明らかな畏敬の響きが感じ取れた。
「“魔導卿”……か! そうか、ロングスウォード領に来ているとは聞いていたな」
“魔導卿”ラーディス──当代無双の魔導士であり、
「“上級冒険者は動かない”、だったな……」
「はい。万一の備えとして、今はロングスウォード伯の元で待機していますが……」
ジェロームの言葉に、少しばかり苦味を含んだ様な物言いになるジェド。
“上級冒険者は動かない”──この言葉の意味を正確に云うと、上級冒険者はよほどの緊急事態で無い限りは、動かせない。つまり指名依頼を出す事は出来ないという意味だ。
どういう事かと云うと──上級がいるから何とかなるだろう──というある種の楽観的、上級任せの考えをさせないため、冒険者ギルドと上級冒険者間での取り決めの一つが、ジェロームの云った“上級冒険者は動かない”だ。
それに、上級冒険者は金で動く可能性は低い。報酬は大概、金以外の“何か”を要求する事が多い。その事も、上級冒険者を動かすのが難しい理由にもなっている──
余談ではあるが──上級冒険者に対して、“覇王公ミルゼリッツ”曰く、「
「“魔導卿”が動く様な事が起きなきゃいいがな」
「……同感です。そうなれば──」
ふと、二人の会話が止まる。歴戦の衛兵と精鋭の魔術兵、二人の直感が気付く──不快な滅甲虫の鳴き声が止んでいた……『あの声が止んだ時が、決戦の時よ』
ジェロームの脳裏に、レンディアの言葉が浮き上がった。
「
ジェロームの大音声の指示に、衛兵と冒険者達が統率の取れた動きを見せる──
その様子に、ジェドは少しばかり驚き、そして感心する。
(衛兵達は当然として、冒険者等もジェローム隊長の指示に従っている……)
冒険者をも従えるジェロームの統率力は並では無い。
ロングスウォード伯の下には、これほどの人材がいるのかとジェドは思った──
魔術兵と別れ、仲間と合流したレンディア。とうに臨戦態勢に入っている仲間達を横目に、前方で蠢く雪甲虫の群れを見つめる。
「そろそろ来る、かな……」
「そだねー。でも
「ふん。集まらなかったのか、それとも数が残っていないのか……まあ、何でもいいわよ。皆、決着の準備は整っているわよね?」
「いつでも、大丈夫だよー」
シェーミィは、にししと笑い、自慢の短弓の弦を指で弾く。
「
グランは胸に拳を当て、暗黒騎士独特の敬礼をする。
気負いも、無駄な緊張も無い二人の様子に頷くレンディアだが──
「…………」
先ほどから無言のクレイドルに目をやる。フェイスガード越しからは表情は見えない。
静かに佇んでいるクレイドルは、胸元から“
「……前にも云ったけれど、
レンディアの言葉が聞こえているのかいないのか。クレイドルはただ頷くだけだった。
“碧水の翼”の面々の会話を側で聞いていた冒険者や衛兵達もまた、迫る決戦にすでに備えは済んでいた。
後は、
「よう」
“
次兄オルブルと長女ミーシャの二人は、少し離れた所で他の冒険者達と話をしている──
「ふん。ヴァルガス、今の状況どう思う?」
ちら、とヴァルガスの弟妹を見やり、ヴァルガスに問うレンディア。
「……良くねえな。
蠢く
「それはともかく、おたくの
今だ、
「……ああ、クレイの事は気にしないでいいわよ。
二人の会話が聞こえていたのか、いなかったのか。
クレイドルが呟く様に云った。
「……
クレイドルの急な言葉に、ヴァルガスはすぐさま地に伏せ、大地に耳を当てる──狼族の聴覚は、地中からの動きを即座に捉えた。
「ジェローム隊長、滅甲虫来るぞッ!! 下からだ!!」
ヴァルガスの声を聞いたジェロームの判断と指示は早かった。
「皆、散れぇっ!!」
大音声の指示に、衛兵と冒険者達が即、行動に移り、方々に散った──衛兵、冒険者達が来たる決戦に向けて待機していた場所に、あっという間に空間が出来た。
そして──“冬の悪意”、
小山の様な、という表現が有る。ただ大きい、という意味で使われる例えの一つだ。
出現した
大地を抉り、貫き、砕き割りながら──
大地を割って出現した滅甲虫の大きさは大雑把に見て、体高五メートル、幅三メートルほど。
その全長に至っては、優に十メートルは越えているだろう。
ただ、その姿は
穢れた灰色をした甲殻類の姿形であり、大小様々な棘に覆われた甲殻は見るからに分厚く、滅甲虫の大きさも相まって、堅牢な砦の様に見えた。
砦の様な体からは、無数の節足が両側から短く伸び、大地に食い込んでいる──
そして、頭部。
その複眼が、
そして、無数の複眼がその
クレイドルは、滅甲虫の姿形を見て思う。
──この姿。フナムシ、とも少し違う……何だったか。確か……ダイオウグソクムシか。それに似ている。等脚類で世界最大だっけか……?
何にしろ気持ち悪いが、こいつは“悪魔”属性。虫に対する嫌悪感よりも、悪魔に対する気持ちの方が強い。
俺は
クレイドルの赤い瞳が、無数の複眼を見つめ返した。
──ギイイィィッ〜イィィィギイッッッツッィィッギァァァッッッ!!
ノースヒル村に、不快で異様な叫び声が轟いた。
決戦が、始まる──