邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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 遅くなりましたな。
 ( ´ー`)y-~~


第213話 風物詩(お祭り騒ぎ)の終わり②──風雷の使い手と邪神の子

 

 

 「雪甲虫(スノーボウル)に気を付けて! 滅甲虫(ドゥームボウル)に強化されているわよ!!」

レンディアの叱咤にも似た言葉に、冒険者達は改めて気を引き締めた──雪甲虫は大幅に数を減らし、百程度にまでなっていた。

 数百の厄介な群れを殲滅した冒険者達は、精々百程度の雪甲虫、恐れるに足らず──無意識にそう思っていたのだろう。そこに、レンディアの叱咤が響いた。

 その叱咤に、冒険者達は再度気を引き締め、迫る雪甲虫の群れと滅甲虫に対して心構えを新たにした──

 

 

 滅甲虫が散らかした瓦礫。土塊や石塊を踏み散らし、砕きながらクレイドルは標的(・・)に向かう。 

周囲の喧騒を意に介せず、ただ標的(・・)を目指し足速に歩き続ける……その瞳は、赤く輝いていた──

 集ってくる雪甲虫をラウンドシールドで無造作に殴り飛ばし、魂食み(ソウルスレイヤー)で斬り捨てながら、ただただ真っ直ぐに滅甲虫を目指し歩み続ける──

 

 

 「ジェローム隊長、魔術兵を二人連れて行くわよ」

 「分かった……気を付けろよ」  

言葉は多く必要無し───レンディアの言葉に頷くジェローム。共に短い付き合いだが、すでに意思の疎通が充分なものになっていた。

 「ロディ、リミア、一緒に来て。少し手を借りるわよ」

いきなり名を呼ばれた魔術兵二人。同期の魔術兵で、歳は二十歳前半。

 “魔導卿”の選抜試験に合格し、帝国魔術兵団に所属している魔導卿直属の魔術兵で、実戦の場数(・・)をそれなりに踏んでいる二人だ。

 二人は驚きの表情を浮かべた──自分達の名を知っていたのか──と。

 そして、その驚きの中には嬉しさもあった。

 

 

 「ああ、と……クレイドルは放っていて大丈夫なのか?」

ジェロームは、“碧水の翼”から離れ、群れ成す雪甲虫(スノーボウル)を横切りながら突き進んで行くクレイドルを、半ば呆れた様に見ながら云った。

ジェロームの言葉にレンディアが、雪甲虫を叩き潰しているクレイドルを見ながら応える。

 「……大丈夫よ。あれ(・・)で冷静なのよ」

多分ね──との小さな声を、ジェロームは聞かなかった事にした。

 遠目に見えるクレイドルは、向かって来た雪甲虫(スノーボウル)を頭突きで叩き落とし、その頭部を踏み潰していた。

 (あれ(・・)で冷静、か……冒険者のというより、戦士の戦いぶりだな……)

 雪甲虫をものともせず、突き進むクレイドルの先にいるものは──“冬の悪意”……滅甲虫(ドゥームボウル)だ。

 

 「さっさと雪甲虫を減らして、クレイドルと合流しないとねー」

シェーミィが無造作に矢を放ちながら云う。矢は雪甲虫を三匹まとめて貫く──突如、後方から飛来して来た矢に、冒険者達が一瞬戸惑うのが見えた。

 「だな……放っておくと、一人で滅甲虫に向かって行きかねない」

グランは今や愛刀となった、以前グレイオウル領のダンジョン、“武人の練武場”で手に入れた剣(衝撃属性と刺突強化の二属性持ち)の柄頭に触れながら云う。

 「ふん。少し急ぎましょうか。グランとシェーミィの云った様に、クレイ一人を滅甲虫に向かわせないわよ」

二人の言葉に、頷き応えるレンディア。そして、付き従う二人の魔術兵に云った。

 「ロディ、リミア。あなた達に頼みたい事なのだけれど。私の補助と、周囲の防御を頼みたいのよ。具体的に云うと──」

 

 レンディアの頼みは、単純な事だった──

滅甲虫(ドゥームボウル)に強化された雪甲虫(スノーボウル)の纏う冷気を吹き飛ばし、自分が合図を出すまで足止めをする事。

 「前にやった様に疾風で冷気を吹き飛ばして、出来るだけ足止め(・・・)すればいいのよ」

レンディアは更に続ける──

 「あなた達二人が雪甲虫を足止めしている間に、前から考えていた(・・・・・)術を試したいのよ。まあ、そう大げさな術ではないのだけれど」

ロディとリミアは、少し顔を見合わせレンディアに尋ねる。

 「足止めの事は任せて下さい。よければ、どういう術を使うのか教えていただけますか?」

ロディの質問に、レンディアはひらりと手を振り何という事もなく応える。

 「ああ、今云ったように、大げさな術ではないわよ。ちょっとした(・・・・・・)範囲魔術を使おうと思ってね──」

 

 まあ、今は急ぎましょうか、とレンディア。そして、グランとシェーミィに告げる。

 「聞いての通り、私は少し単独行動を取るわよ。それまで他の冒険者達と連携して、雪甲虫の相手をしていてちょうだい。こっちの用が済み次第、合流するわよ」

 「承知した」

 「あいあーい」

レンディアの指示に、グランとシェーミィが応える。

単独行動をとっているクレイドルに目をやると、すでに雪甲虫(スノーボウル)の群れを突破しつつあった──

 

 

 「……硬くなってやがるなコイツらはっ!!」

 “疾風の牙(ゲイル・ファング)”の長兄ヴァルガスが、叩き落とした雪甲虫の頭部をショートハルバード(短斧槍)で刺し潰す──

 「力も強くなっているっ……!」

次兄オルヴルは、小盾(バックラー)に食らいついている雪甲虫を引き千切る様にむしり取り、地面に叩き付けるとそのまま踏み潰した。

 「ああ〜、もうッ! うっとうしいッ!!」

長女ミーシャが苛立ちながら、雪甲虫をショートハルバードで薙ぎ払い、叩き落とす。

叩き落とされた雪甲虫を、ヴァルガスとオルヴルが始末する──

 「たかが百程度と甘く見ていたな……」

舌打ち混じりに、吐き捨てる様に云うヴァルガス。

今、現場は混沌としていた。

 

 滅甲虫に強化されている雪甲虫は想像以上にしぶとく、衛兵や冒険者達を苦戦させていた──

 「一対一で当たろうとするなッ! 複数でかかれッ!!」

苦戦を強いられている衛兵、冒険者達にジェロームの指示が飛ぶ。

 「魔術兵は連中の補助を頼む。冷気もヤバくなっている」

 了解、と魔術兵達。レンディアの様に雪甲虫が身に纏う冷気を突風で吹き飛ばすのでは無く、衛兵と冒険者達の身に“熱風”を纏わせる方法を選択した。

 

 乱戦状態の今、突風は使いにくい──レンディアの様に、指向性を保つ突風を使うのがやや困難だという事もある。

 そして、“熱風”の効果は戦う者達の士気を大いに上げる事になった。

 かじかむ身体を暖めると同時に、多少なりとも雪甲虫(スノーボウル)を怯ませる効果があったからだ──

 

 「いいな。この感じ」

ジェロームは、グッ、と拳を握った。

雪甲虫との戦闘で寒気に見舞われていた身体に、仄かな暖かさが宿る──魔術兵達の補助というより、身体強化に近い。

 雪甲虫との乱戦状態の今、攻撃魔術の使用は冒険者や衛兵達を巻き込む恐れがある。

 魔術兵達は、ジェローム隊長の指示に従い補助に徹する事にし、直接的な攻撃魔術はレンディア嬢に任せるべしと決めた──

 

 

 「ふん……やっぱり、一気に雪甲虫(スノーボウル)の数を減らす必要があるわね」

レンディアは、ロディとリミアを連れ、少し離れた場所から雪甲虫と冒険者達の戦闘を、やや後方から眺めている。

 ロディとミリアも兵士である。今レンディアとともにいる場所は、乱戦の死角になっている事が分かった──

 「ここからなら上手く狙えるわね……良し」

レンディアが剣を抜く──キィン、と微かに鍔が鳴った。

 微かに反りのある、仄かな光を宿す剣──その剣を見たロディとミリアが目を見張る。

 (神光剣(シャインブレード)……!? 話には聞いていたが、今日目にするとは思わなかった……!)

 魔導卿が何処からか入手した、光属性の極めて貴重な鉱石とも、魔石ともつかない素材を使って鍛えられたという魔剣ならぬ聖剣──曰く付きの剣でもある。

 ロディとミリアの驚きをよそに、レンディアか云う。

 「さて、始めるわよ……今から詠唱を始めるから、私の補助を頼むわ。雪甲虫(スノーボウル)が寄って来たならその足止めと、迎撃をお願いよ」

 レンディアの指示に頷く二人。レンディアは剣を掲げ、深呼吸を一つすると、詠唱を始めた──

 

 風よ風よ今集え 集いて猛き風となり 轟く雲を呼べ 雲は静かに集い雷雲を呼べ 風よ雲よ雷雲よ──

 

 レンディアの詠唱に、ロディとミリアは思わず聴き入った。静かに良く通る声は美しく、周囲に響き渡る。

 だが──その詠唱に込められた魔力は尋常ではない事が、精鋭魔術兵の二人に充分感じられた……。

 (範囲魔術を使うと云っていたが、どういう魔術を使おうとしている?)

 その疑問は直ぐに解消された。レンディアが掲げる剣に、音も無く雷光が落ちる──ロディとミリアが頭上を見上げると雷を纏う黒雲が広がっていた。

 (風属性の使い手とは聞いていたが……雷も使えたのか!)

 

 雷属性は風属性の上位と一般的に思われているが、実際はそう単純なものではない。

 魔術師からは、風属性に熟練しなければ雷属性は使いこなせるものではないと見なされているが──“魔導卿”は、風属性と雷属性は別属性(・・・)と見ている。

 

 

 レンディアの詠唱中、ロディとリミアは周囲を警戒しているが、ここに寄って来る雪甲虫は見当たらない。だが、二人が気を抜く事は無い。ここは戦場なのだ──

 詠唱も佳境に入り、その声は高らかに戦場に響き渡っている。警戒しながらも、レンディアの美しい声に耳を傾ける二人。

 肌で感じるほどに、レンディアの魔力は周囲に満ち溢れている──直に、魔術が解放される……ロディとミリアは、その時を思い心を引き締めた。

 

 風よ雲よ雷雲よ 疾くと集いて 今こそ──

 

 レンディアは一呼吸置き、雪甲虫(スノーボウル)の群れ目掛け、雷光を纏う神光剣(シャインブレード)を振り降ろし魔力を開放する──

 「雷よ連なれ! 雷撃連鎖(チェイン・ボルト)!!」

パシィィッンッッッ!! 白光が、戦場に輝いた──

 

 

 乱戦状態の今、ジェロームは動けなかった。指揮官として戦場を観なければならなかったからだ──

 部下と冒険者達が、群れ成す雪甲虫(スノーボウル)相手に一進一退の攻防を繰り広げるのを後方から指揮している状況だ。前線に出向き、陣頭指揮を取る事が出来ればどれだけ気が楽か……雪甲虫との攻防を、歯噛みしながら見ていた矢先──パシィィッンッッッ!!

 雪甲虫の群れの後方に白光が輝き、少し遅れて空気を切り裂く様な炸裂音が鳴った。

 「……雷!?」

 そう思った瞬間──指揮官としての直感が、ジェロームを動かした。

 「……総員、下がれぇッ! 魔術、来るぞッッ!!」

 ジェロームの大音声の指示に、衛兵と冒険者達が即座に下がる。

 その一連の流れは、それぞれの歴戦の判断に加えてジェロームの指揮能力の高さを示していた──

 

 群れる雪甲虫(スノーボウル)の後方に、雷光が奔る。

 雷撃連鎖(チェイン・ボルト)──レンディアが放った連なる雷は、群れの中を縦横無尽に行き交い、雪甲虫を次々と貫いて行く。一匹、二匹……十、二十──群れのほぼ半数を焦がし、雷光は唐突に消えた。

 後に残るは、雷撃に焼き焦がされた雪甲虫の死骸と、半死半生で蠢く生き残り……。

 ここが、攻め時──そう判断したジェロームが叫ぶ。

 「押せッ! 一気に潰せぇッ!!」

 大音声の号令一下、衛兵と冒険者達が一気に雪甲虫(スノーボウル)に強襲をかける。雪甲虫の殲滅は、もう時間の問題だった。

 後は──滅甲虫(ドゥームボウル)とクレイドルの時間だ……。

 

 

 「……よう」

クレイドルは群れ成す雪甲虫(スノーボウル)を蹴散らしながら進み、ついに滅甲虫(ドゥームボウル)の前に立った……滅甲虫までの距離、十メートル少しばかりの位置──

 穢れた灰色をした、堅牢な砦の様な体格の甲殻類。大地に食い込む無数の節足がざわざわと蠢いている。

 歪に丸みを帯びた頭部に、散らばる様に配置されている無数の感情の伺えない複眼──その複眼は、クレイドルをじっと見つめている……そして──

 

 ギイイィィッ〜アァァァッッ〜〜!!

滅甲虫(ドゥームボウル)の極めて耳障りな、甲高い金切り声が周囲に響いた──その絶叫に重なる様に、クレイドルが呟く。

 「……血と苦痛よ茨となれ……ッ」

 “流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”が、今この時を待っていたかの様にクレイドルの全身を包む──

 

 「ッオオォォォッアアッァァアッッ!!」

クレイドルの悲鳴にも似た雄叫びと、滅甲虫の金切り声が戦場に轟いた──

 

 

 

 






 
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