邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第214話 風物詩(お祭り騒ぎ)の終わり③──“碧水の翼”と滅甲虫(ドゥームボウル)

 

 

 ギイイィィッ〜アァァァッッ〜〜!!

 滅甲虫(ドゥームボウル)の極めて耳障りな、甲高い金切り声が周囲に響くと同時に、ただ一人で滅甲虫(ドゥームボウル)と向かい合う戦士の体から、突然血飛沫が散った。

 

 激しい血飛沫が突如散ると同時に、戦士が悲鳴の様な雄叫びを上げた──「ッオオォォォッアアッァァアッッ!!」

 雄叫びを上げたのは、“碧水の翼”の一員。クレイドルだ……。

 

 

 「……そうなると思っていたわ……やれやれよ」

雄叫びの上がった方を見ながら、レンディアがため息交じりに云う。

 「もうここはいいから、あなた達はジェローム隊長の指揮下に戻って」

 レンディアはロディとリミアに告げるが、二人は突如聞こえてきた異様な雄叫びに気を取られていた──人の声か!?、と……二人の気持ちを読んだ様にレンディアが続ける。

 「あの叫び声は気にしないで良いわよ。あれは──」

レンディアが言いかけた矢先、また叫び声。

  ──ッウオォァッッッアァァッ!!──

 「今の、は……?」

 「気にしないでいいわよ。私の仲間よ……さて、急がないとね」

 あの馬鹿は全く……レンディアの苦笑交じりの微かな呟きは、ロディとリミアには聞こえなかった。

 「仲間と合流するわ」

 云うと同時に、レンディアは疾風を纏う様に駆け出して行った──

 あっという間に離れていくレンディア。その背を見送りながら、ロディとリミアは「御武運を」と呟くしかなかった。

 

 

 “あの馬鹿(・・・・)”を見ていたのは、無論レンディアだけでは無かった。

 冒険者達には、雪甲虫(スノーボウル)の殲滅も間近となった戦場を改めて確認出来る余裕が見えていた。

 そこに見えていたのは──

 

 一人で滅甲虫(ドゥームボウル)の正面に立っているのは誰だ──!? 

 正気なの!? あんなデカブツに相手に──!!

 あいつは……“碧水の翼”のやつだ──! 

 他の仲間(面子)は!? 一人で行かせたのか──!?

 

 「そんな訳無いでしょうよ──やれやれよ」

 ゴチャゴチャ云う冒険者達(お仲間)の間を、あの馬鹿(・・・・)と合流するべく疾風の如く駆け抜けて行くレンディア。

 急な突風に吹き付けられ、思わず身を竦める冒険者達。

 そのすぐ横を、急ぎクレイドルに合流するため奔るレンディアを追う、“碧水の翼”の面子が通り過ぎる──

 「すまんが先を急ぐ。雪甲虫を頼む」

 「虫をお願ーい。お先にー」

 駆け去って行くレンディアを追う様に、漆黒の騎士と毛皮の鎧姿の猫族が駆けて行く──それを見送る冒険者達の目に、滅甲虫(ドゥームボウル)と向かい会う“碧水の翼”の一員、クレイドルの身体から血飛沫が散るのが、はっきりと見えた。そして──

 

 「ッオオォォォッアアッァァアッッ!!」

 「ギッッイィィィアァッアァァァ〜〜!!」

 クレイドルの悲鳴にも似た雄叫びと、滅甲虫の金切り声が戦場に轟いた。

 

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)を前に、“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”の痛みによる昂りが、集中力に変わっていくのを感じる──よし、やるか。

 向かい合う滅甲虫に一歩踏み出した瞬間──頭部、口元から勢いよく伸びて来た何か……ギィッイィン!

それをギリギリで視認して、ラウンドシールドで弾く。滅甲虫は微動だにせず、俺の様子を伺っている。

 こいつ……今のは小手調べ、様子見といったやつか?

また一歩踏み出す。 

 ジャッ! 空を裂く音が、今はっきり聞こえた──ラウンドシールドで弾く。

 もう一歩、踏み出す。 シュッ! 空を裂く音──ラウンドシールドで弾く。

 なるほどな……連射は出来ないらしい。なら、反撃のタイミングを計ってやる。よし……行くぞ。

 

 

 踏み出す、空を裂く音、弾く、踏み出す、弾く──弾く、弾く、弾く──目では無く、感覚で滅甲虫(ドゥームボウル)の攻撃を弾いている。

 その度に、クレイドルの身体から血飛沫が散り、雪積もる大地を赤く染めていく──

 一歩、二歩、三歩とクレイドルが踏み出す速度が速くなっていき、瞬く間にクレイドルと滅甲虫(ドゥームボウル)の距離が狭まっていく。

 やがて、滅甲虫(ドゥームボウル)の攻撃がクレイドルの接近に追い付かなくなる。そして──

 「笑え。蟲けら」

 クレイドルが、魂食み(ソウルスレイヤー)の間合いに踏み込んだ。

 シイィッッン! ジュッシャッッ! 

 剣撃と滅甲虫の動きが交差する──

 

 

 滅甲虫の攻撃の正体は頭部、正確には下顎からの伸縮する牙だった。口元を覆うような頭部からの攻撃は、視認出来にくくて当然だ。

 それより、コイツ(滅甲虫)はここまで人間を近付けた事があるだろうか……?

 まあ、それはともかく──滅甲虫の伸縮する牙を魂食み(ソウルスレイヤー)で切断したと思った瞬間……俺は滅甲虫の頭突き。正確には、体当たりに吹っ飛ばされていた。

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)に吹っ飛ばされながらクレイドルは──(こんな巨体でも、ほんの一瞬なら素速く動けるのか)と思った。

 

 

 滅甲虫に吹っ飛ばされたクレイドルは、血飛沫を撒き散らしながら大地を転がって行く。

 体長十メートルを越え、堅牢な砦に例えられるほどの巨躯を持つ滅甲虫。その重量にブチかまされたクレイドル(馬鹿)がどうなるか──

 

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)と向き合った直後から、何故か血飛沫(・・・・・・)を撒き散らすクレイドル。

 滅甲虫の攻撃を凌ぎつつ、少しずつ接近して行くクレイドルが、滅甲虫に突き飛ばされるのを衛兵と冒険者達は目撃した。

 無事では済まない──皆が、そう思った。

滅甲虫の巨体。云うなれば、砦をぶつけられた様なもの……無茶と無謀の結末を、皆が想像した──一部を除いて。

 

 “疾風の牙(ゲイル・ファング)”の面々──長兄ヴァルガス、次兄オルヴル、長女ミーシャ達は目にした。

 滅甲虫に突き飛ばされたクレイドルが、即座に跳ね起きるのを──血飛沫が散った。

 起きると同時に、剣を引っさげながら再び滅甲虫に向かって行くのを──血飛沫を撒き散らしながら。

 

 「行くぞ!!」

長兄ヴァルガスが叫ぶ。その叫びの意味する事を、兄妹は知っている。

 滅甲虫(ドゥームボウル)に、単身向かい合うとんでもない馬鹿(クレイドル)に付き合わなければ、と──だが。

 「気持ちは嬉しいわ。まずは、あの馬鹿(クレイドル)に私達が合流してから、頼むわよ」

 レンディアが、“疾風の牙”を横切って行った。その後を、漆黒の騎士と猫族が追って行く──

 レンディアの声に立ち止まり、駆け去って行く“碧水の翼”の面々の背を見送るヴァルガス達。

 「兄貴」

次兄オルヴルがヴァルガスを見る。長女ミーシャは、落ち着きなく視線を左右にしている──二人ともに、“碧水の翼”に合流したいのだ……。

 ふうっ、とヴァルガスが息を吐きながら云った。

 「……“碧水の翼”の動きを見てからだ。元々、滅甲虫(アレ)を相手取るのは、他の冒険者(連中)全員でとの取り決めだったが──」

 ヴァルガスが続ける。

 「今は“碧水の翼”に任せよう。雪甲虫(スノーボウル)共を片付けるのが優先だ」

 レンディアの雷撃に焦がされた雪甲虫は、今だ蠢いている。これから──虱潰しの時間だ……。

 「よぉッし……行くぞッ!!」

長兄ヴァルガスの咆哮と共に、疾風の牙(ゲイル・ファング)が雪甲虫の始末に回った──

 

 

 血飛沫が舞い散り、雪上を赤く染めていく──クレイドルが、疲労も見せずひたすらに魂食み(ソウルスレイヤー)を振るっているからだ。

 滅甲虫(ドゥームボウル)の顎下から伸びる牙は今や複数になり、前方だけでなく左右から、クレイドルを近付けさせまいと牙を放ち続けている──

 

 伸縮する牙──やはりな、複数あったか。

 前方左右から伸びてくる牙を半分は避け、半分は斬り払い、さらにその半分が体に当たる。

 その度に、血飛沫が散る──痛みは感じない……というより、気にならない。何故なら。

 流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)の苦痛に比べれば、何という事は無いからだ。

 神経に撃ち込んで来る様な“茨”の痛みに比べれば、滅甲虫(お前)の牙の痛みなぞ、くすぐたいっだけ──とはいえ、現状はほぼ膠着状態だ。ジリジリと滅甲虫(ドゥームボウル)に近付いているが、魂食み(ソウルスレイヤー)で一撃食らわせるには少し遠い……だが──

 

 「クレイ、この始末(・・)が着いたら説教よ」 

滅甲虫に向かって疾風(レンディア)が真横を通り過ぎていくと同時に、ビッビイッッン──と、矢の鳴る音が耳元を過ぎっていく。シェーミィの速射による射撃だ。

 矢を認識していなかった滅甲虫の頭部に、ニ矢が突き立つ──ギィッ!? アァッァァッッ!!

 滅甲虫が身を捩り、その巨体が揺れた。シェーミィの矢が良い所に当たったらしい。いい気味だ。

 「……ふうッ!!」

伸縮する牙をカイトシールドで叩き落とし、剣で斬り払いながら、グランさんが俺の前に立つ──

 「無茶にも程があるぞ……クレイドル」

カイトシールドを構え、どっしりと腰を落とすグランさん。

騎士の不動の構え。まさに──ここから先は通さない──との意志を示す構え。

 「……暗黒神(大いなる父君)よ……我に鉄壁の守りをお授け下さい。我は友等の盾となりて、忌まわしき悪魔に相対している所です。我に揺るがぬ盾の力をお授け下さい……」 

 切々とした祈りが周囲に響くと同時に、グランさんの雰囲気というか、気配が変わった──暗黒神(大いなる父君)の加護が、グランさんの身を包むのがはっきりと分かる。

 

 目の前には暗黒神の加護を受け、強固な盾となった暗黒騎士が出現していた──そして俺達の背後には、妙に昂揚している猫族(シェーミィ)がいた……。

 

 「ふうぅッ、しッししぃ〜!!」

昂揚の余り、妙な含み笑いをしているシェーミィ……少しばかり怖いんだが?

 チラリとシェーミィを振り返り見ると、すでにニ矢をつがえて射撃用意に入っている。その顔には、猫科特有の野性が浮かんでいる──

 滅甲虫(ドゥームボウル)に向かって行ったレンディアに目をやると、巨体の側面を駆けようとしていた──

 

 

 見慣れた姿(血塗れ)のクレイに一言釘を刺しながら、滅甲虫に向かう。虫は嫌いではないのだけれど……この大きさは、さすがに気持ち悪いわね。

 まあ、虫というより悪魔属性なのだけれど──狙いは、ざわめく無数の足。巨体でありながら、一瞬なら素速く動けるのを見た。

 それを可能にしているのが蠢く無数の足。あの蠢く足を出来るだけ断ち、動きを止める──レンディアは低く身を屈めながら、滅甲虫(ドゥームボウル)に向かって駆けた。

 

 神光剣(シャインブレード)を横構えの斜め下段に構え、その剣先が地に付く程に姿勢を低くしながら、レンディアは滅甲虫の側面に回り込む──神光剣が、輝いた。

 

 

 “冬の悪意”──滅甲虫(ドゥームボウル)と、“碧水の翼”の面々が向かい合った……。

 

 

 





 まあ、こんなとこですかな。

 ( ´ー`)y-~~
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