ギイイィィッ〜アァァァッッ〜〜!!
激しい血飛沫が突如散ると同時に、戦士が悲鳴の様な雄叫びを上げた──「ッオオォォォッアアッァァアッッ!!」
雄叫びを上げたのは、“碧水の翼”の一員。クレイドルだ……。
「……そうなると思っていたわ……やれやれよ」
雄叫びの上がった方を見ながら、レンディアがため息交じりに云う。
「もうここはいいから、あなた達はジェローム隊長の指揮下に戻って」
レンディアはロディとリミアに告げるが、二人は突如聞こえてきた異様な雄叫びに気を取られていた──人の声か!?、と……二人の気持ちを読んだ様にレンディアが続ける。
「あの叫び声は気にしないで良いわよ。あれは──」
レンディアが言いかけた矢先、また叫び声。
──ッウオォァッッッアァァッ!!──
「今の、は……?」
「気にしないでいいわよ。私の仲間よ……さて、急がないとね」
あの馬鹿は全く……レンディアの苦笑交じりの微かな呟きは、ロディとリミアには聞こえなかった。
「仲間と合流するわ」
云うと同時に、レンディアは疾風を纏う様に駆け出して行った──
あっという間に離れていくレンディア。その背を見送りながら、ロディとリミアは「御武運を」と呟くしかなかった。
“
冒険者達には、
そこに見えていたのは──
一人で
正気なの!? あんなデカブツに相手に──!!
あいつは……“碧水の翼”のやつだ──!
他の
「そんな訳無いでしょうよ──やれやれよ」
ゴチャゴチャ云う
急な突風に吹き付けられ、思わず身を竦める冒険者達。
そのすぐ横を、急ぎクレイドルに合流するため奔るレンディアを追う、“碧水の翼”の面子が通り過ぎる──
「すまんが先を急ぐ。雪甲虫を頼む」
「虫をお願ーい。お先にー」
駆け去って行くレンディアを追う様に、漆黒の騎士と毛皮の鎧姿の猫族が駆けて行く──それを見送る冒険者達の目に、
「ッオオォォォッアアッァァアッッ!!」
「ギッッイィィィアァッアァァァ〜〜!!」
クレイドルの悲鳴にも似た雄叫びと、滅甲虫の金切り声が戦場に轟いた。
向かい合う滅甲虫に一歩踏み出した瞬間──頭部、口元から勢いよく伸びて来た何か……ギィッイィン!
それをギリギリで視認して、ラウンドシールドで弾く。滅甲虫は微動だにせず、俺の様子を伺っている。
こいつ……今のは小手調べ、様子見といったやつか?
また一歩踏み出す。
ジャッ! 空を裂く音が、今はっきり聞こえた──ラウンドシールドで弾く。
もう一歩、踏み出す。 シュッ! 空を裂く音──ラウンドシールドで弾く。
なるほどな……連射は出来ないらしい。なら、反撃のタイミングを計ってやる。よし……行くぞ。
踏み出す、空を裂く音、弾く、踏み出す、弾く──弾く、弾く、弾く──目では無く、感覚で
その度に、クレイドルの身体から血飛沫が散り、雪積もる大地を赤く染めていく──
一歩、二歩、三歩とクレイドルが踏み出す速度が速くなっていき、瞬く間にクレイドルと
やがて、
「笑え。蟲けら」
クレイドルが、
シイィッッン! ジュッシャッッ!
剣撃と滅甲虫の動きが交差する──
滅甲虫の攻撃の正体は頭部、正確には下顎からの伸縮する牙だった。口元を覆うような頭部からの攻撃は、視認出来にくくて当然だ。
それより、
まあ、それはともかく──滅甲虫の伸縮する牙を
滅甲虫に吹っ飛ばされたクレイドルは、血飛沫を撒き散らしながら大地を転がって行く。
体長十メートルを越え、堅牢な砦に例えられるほどの巨躯を持つ滅甲虫。その重量にブチかまされた
滅甲虫の攻撃を凌ぎつつ、少しずつ接近して行くクレイドルが、滅甲虫に突き飛ばされるのを衛兵と冒険者達は目撃した。
無事では済まない──皆が、そう思った。
滅甲虫の巨体。云うなれば、砦をぶつけられた様なもの……無茶と無謀の結末を、皆が想像した──一部を除いて。
“
滅甲虫に突き飛ばされたクレイドルが、即座に跳ね起きるのを──血飛沫が散った。
起きると同時に、剣を引っさげながら再び滅甲虫に向かって行くのを──血飛沫を撒き散らしながら。
「行くぞ!!」
長兄ヴァルガスが叫ぶ。その叫びの意味する事を、兄妹は知っている。
「気持ちは嬉しいわ。まずは、あの
レンディアが、“疾風の牙”を横切って行った。その後を、漆黒の騎士と猫族が追って行く──
レンディアの声に立ち止まり、駆け去って行く“碧水の翼”の面々の背を見送るヴァルガス達。
「兄貴」
次兄オルヴルがヴァルガスを見る。長女ミーシャは、落ち着きなく視線を左右にしている──二人ともに、“碧水の翼”に合流したいのだ……。
ふうっ、とヴァルガスが息を吐きながら云った。
「……“碧水の翼”の動きを見てからだ。元々、
ヴァルガスが続ける。
「今は“碧水の翼”に任せよう。
レンディアの雷撃に焦がされた雪甲虫は、今だ蠢いている。これから──虱潰しの時間だ……。
「よぉッし……行くぞッ!!」
長兄ヴァルガスの咆哮と共に、
血飛沫が舞い散り、雪上を赤く染めていく──クレイドルが、疲労も見せずひたすらに
伸縮する牙──やはりな、複数あったか。
前方左右から伸びてくる牙を半分は避け、半分は斬り払い、さらにその半分が体に当たる。
その度に、血飛沫が散る──痛みは感じない……というより、気にならない。何故なら。
神経に撃ち込んで来る様な“茨”の痛みに比べれば、
「クレイ、この
滅甲虫に向かって
矢を認識していなかった滅甲虫の頭部に、ニ矢が突き立つ──ギィッ!? アァッァァッッ!!
滅甲虫が身を捩り、その巨体が揺れた。シェーミィの矢が良い所に当たったらしい。いい気味だ。
「……ふうッ!!」
伸縮する牙をカイトシールドで叩き落とし、剣で斬り払いながら、グランさんが俺の前に立つ──
「無茶にも程があるぞ……クレイドル」
カイトシールドを構え、どっしりと腰を落とすグランさん。
騎士の不動の構え。まさに──ここから先は通さない──との意志を示す構え。
「……
切々とした祈りが周囲に響くと同時に、グランさんの雰囲気というか、気配が変わった──
目の前には暗黒神の加護を受け、強固な盾となった暗黒騎士が出現していた──そして俺達の背後には、妙に昂揚している
「ふうぅッ、しッししぃ〜!!」
昂揚の余り、妙な含み笑いをしているシェーミィ……少しばかり怖いんだが?
チラリとシェーミィを振り返り見ると、すでにニ矢をつがえて射撃用意に入っている。その顔には、猫科特有の野性が浮かんでいる──
まあ、虫というより悪魔属性なのだけれど──狙いは、ざわめく無数の足。巨体でありながら、一瞬なら素速く動けるのを見た。
それを可能にしているのが蠢く無数の足。あの蠢く足を出来るだけ断ち、動きを止める──レンディアは低く身を屈めながら、
“冬の悪意”──
まあ、こんなとこですかな。
( ´ー`)y-~~