邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第215話 風物詩(お祭り騒ぎ)の終わり④──沈みゆく砦と冒険者達

  

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)が無数の複眼で、正面に立つ三人と、側面に回り込み始めたもう一人を見た……。

 己に立ちはだかる、四人の人間(・・)を見て、滅甲虫は思う──言葉では無く、思考で。

 

 愚か者共が。雪玉(スノーボウル)をどれだけすり潰そうが我が身には響かぬ。あれら(雪玉)は我が身に集う、ただの地蟲。

 我が(いず)る時に合わせて出現し、蠢くだけの地蟲……とは言え、だ。

 雪玉共がこうも虱潰しにされると、気分も悪くなろうというもの──虱潰しの代償は高く付くぞ……人間共がッッ!!

 

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)の気配の変化に、“碧水の翼”の面々は即、気付く──殺気。先程まくで堅牢な砦の如く構えていた巨体から、明確な殺気が濃い瘴気とともに流れて来た。

 ()の冒険者なら、尋常ではない殺気を含んだ、濃い瘴気に当てられたなら無事では済まない。

昏倒するか、狂気に陥ってもおかしくは無い、が──

 この殺気に向き合うは、“碧水の翼”。四名それぞれが曲者であり、並ならぬ器量を持っている。

その四名が、滅甲虫のただならぬ殺気を受けて思う事は──「上等だよ」

 

 オオォォッ、アァァッ!!──クレイドルが滅甲虫(ドゥームボウル)の殺気を受け、再度激昂する。

 《……大物を前に、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)が悦んでいるねえ。その蟲を始末すれば、さらに力を得られる(・・・・)ってね〜……》

 邪神(親父殿)の囁きに、更に激昂するクレイドル──血飛沫が散り、大地に血の香りを振りまく……。

 

 「……暗黒神(大いなる父君)よ。今再びの御助力を願います。今こそ決戦の時……友らと共に戦う力を──」

グランの再度の祈りに、暗黒神(大いなる父君)が応えた。

 《願いを聞き入れよう。父として、そして叔父(・・)としてな……我が子よ。やるべき事を、やれ》

 暗黒神(大いなる父君)の声が、はっきりと心に響いたと同時に、身体に活力が満ちるのを感じるグラン──感謝の思いを持つと共に、叔父──とは? と疑念が湧いたが、それを振り払う……暗黒神(大いなる父君)の考えに、疑を持たず、だ──

 

 クレイドルとグラン。神の子二人が滅甲虫(ドゥームボウル)……悪魔に臨む──

 

 

 ふん、中々に硬いわね……。

滅甲虫(ドゥームボウル)の側面に回り込みながら、その節足に斬撃を放っていたが──硬い。

 対悪魔属性を持つ神光剣(シャインブレード)でも、滅甲虫の単純な堅牢さに足一つ斬り落とすのに手間がかかるのだ。

 四、五本斬り落としたが、この程度では滅甲虫の動きを鈍らせるには至らない……ならばどうするか?  

 神光剣に斬撃強化の()を纏わせればいい──思い立ったレンディアは、直ぐに詠唱を始める。

 

 風よ集え集え 断つ風となり風となり 鋼に風鳴りの響きを与えよ──

 「光刃は風鳴りと共に! 神光の風刃(ハウリングシャイン)!!」

 シィィッッッンッッ──光刃が、風鳴りと共に輝いた。

 輝く風を纏う神光剣を振るうレンディア──滅甲虫(ドゥームボウル)の節足が、まとめて斬り散らされていく。 

 

 

 レンディア、グラン、クレイドルが、滅甲虫(ドゥームボウル)と相対している中。シェーミィは完全に気配を消していた。滅甲虫は、今や相対している三人に意識を集中している──気配を消し、獲物を狙う事に関して、猫族に並ぶ種族はそうはいない。

 その種族適性に加え、シェーミィは“影身の刃(シャドウエッジ)”を持っている──短時間、影に溶け込む効果──影身の刃の効果と猫族特有の隠密性を発揮し、シェーミィはその身を完全に隠した……。

 影の中で、猫は静かに笑う──

 

 

 「オオオォォォォッアァッッ!!」

 魂食み(ソウルスレイヤー)を構えるクレイドルの雄叫び。それに呼応するかの様に、隣り合うグランが騎士の盾(カイトシールド)をどっしりと構えた。

 剣と盾が、滅甲虫(ドゥームボウル)に対し、迎撃では無く攻めの構えを見せる──

 

 

 暗黒騎士が、滅甲虫の伸縮する牙を騎士の盾(カイトシールド)で弾きながら、ジリジリと前に出る。

 その弾かれた滅甲虫の牙を、血塗れの戦士が両断し続ける──グランとクレイドルが前後左右、交互に動きながら滅甲虫への間合いを縮め続けている。

 滅甲虫はその巨体ゆえ、グランとクレイドルの細かな連携に対応出来ていない……というよりも、焦りに駆られた様にグランとクレイドルに、矢継ぎ早の攻撃を繰り出している。

 焦りによる攻撃が雑になってきたのを、見逃す二人では無かった──グランとクレイドルは思う。今が攻め時、と。

 レンディア、シェーミィの動きから目を逸らさせ、真正面から俺達がお前(滅甲虫)の相手をしてやる、と──

 

 

 

 神光剣(シャインブレード)を振るいながら、レンディアは滅甲虫(ドゥームボウル)の側面を駆けて行く。

 斬り落とした節足が、地面に無数に散らばっているが、滅甲虫は今だ小揺るぎもしていない。

蠢く節足はまだまだある──

 (ふん。キリが無いわね……とはいえ、やる事は一つ)

レンディアが強い笑みを浮かべる。神光剣(シャインブレード)が、更に風鳴りを強くして輝いた──

 「……片っ端から、斬り落とすだけよ」

疾風と化したレンディアは、滅甲虫の側面を駆けた。蠢く節足が、次々と斬り散らされていく。

 

 雪甲虫(スノーボウル)の殲滅を果たした今、遠目から“碧水の翼”と滅甲虫(ドゥームボウル)の戦いを見ていた衛兵と冒険者達は、ある事に気付いた──滅甲虫が傾いていないか?──と。

 それはともかく、雪甲虫を殲滅したならば、急ぎ“碧水の翼”に合流しなければ……冒険者達が思っていた矢先、すぐさま駆け出して行くパーティーがいた。

 狼族三兄妹の、“疾風の牙(ゲイル・ファング)”の面々だ。

 ウオォォ〜ルゥゥウゥゥ〜〜──先頭を駆ける、長兄ヴァルガスの遠吠え(ハウリング)が戦場に響く──狼族の種族特性だ。

 個人差(種族差)によるが、遠吠えの範囲内にいる者の集中力を高め、視覚と聴覚を短時間強化する効果がある──遠吠えに影響を受けた他の冒険者達が、すぐさま疾風の牙(ゲイル・ファング)の後を追う。

 

 

 “碧水の翼”と“疾風の牙”。そして冒険者達が、冬の悪意の象徴、滅甲虫(ドゥームボウル)に向かう──今こそ、幕引きの時が来た。

 この風物詩(お祭り騒ぎ)という演目を終わらせる時……よし、とジェロームが頷き、声高に指示を出す。

 「衛兵隊、村の防備に戻れ! 雪甲虫(スノーボウル)が再度湧く可能性がある! 万一に備えろ!」

ジェロームの指示に、すぐさま衛兵達が任務に奔る。

 「魔術兵達は二手に分かれて、衛兵隊と冒険者連中の補佐に回れ!!」

ジェドが即座に魔術兵を二手に分け、ジェロームに声を掛ける──「了解!!」

 ジェドを見返り、ジェロームが頷く。短い付き合いの中で、意思の疎通が成り立っていた。

 互いに、成すべき事を分かっている者同士の繋がりだ──

衛兵隊、冒険者、魔術兵達が一丸となり、風物詩(お祭り騒ぎ)を終わらせるために、各々が動く。

 成すべく事を成す為に動き出した者達を見送り、ジェロームは空を見上げる──すでに深夜過ぎ。夜明けまで、それほど時間は無い。

 (さて、夜明け前に終わらせる事が出来るか……)

 夜明け前の空には、今だ星々が輝いている。

 

 ジェロームは何となく、冬の星座を探した──

 

 

 

 滅甲虫(ドゥームボウル)と向き合う神の子二人。その周囲には、血溜まりが広がっていた。

 クレイドルが撒き散らした己の血飛沫だ……その血溜まりの中に散らばっているのは、クレイドルが斬り飛ばした滅甲虫の牙。だが滅甲虫には、何らダメージが無い様に見える──

 だろうな、とクレイドルとグランは思う。

先程の焦りにも似た攻撃は、焦りでは無く怒りだったのだ。

 いい加減にくたばれ──との怒りが、あの矢継ぎ早の攻撃だったのだ……となれば、本格的な攻撃はこれからだろう。

 滅甲虫が、次に何を仕掛けてくるかは分からない──だが、レンディアとシェーミィを滅甲虫は全く意識していない(・・・・・・・・・)事に、クレイドルとグランは気付いていた。二人はそれを全く表情に出さず、ただ目の前の滅甲虫を見る。

 滅甲虫もまた、複眼でクレイドルとグランを見据えている──互いに次の一手をどうするか?、と。膠着状態の様に見えたが……不意に、滅甲虫の体が傾き始めた。

 それ(・・)と同時に、滅甲虫の複眼、クレイドルとグランを真正面から見据える眼以外が、ギョロリと左右に目まぐるしく動き始めた。己の身に何が起きているのか探る為に──その滅甲虫(ドゥームボウル)の動きを、肚の中で嘲笑うクレイドルとグラン。

 

 鈍い。図体はデカくても、やはり蟲。痛覚も無く、感覚も鈍い……。

 自分の足を斬られている事にすら気付いていなかったのか──呆れた思いで滅甲虫を見つめるクレイドルとグラン。不意に、遠吠えが聞こえた。

 ウオォォ〜ルゥゥウゥゥ〜〜……狼族の遠吠え(ハウリング)だ。“疾風の牙(ゲイル・ファング)”の長兄ヴァルガスの遠吠え──その遠吠えを聞いたクレイドルとグランが、ニヤリと笑う。

 冬の悪意、滅甲虫(ドゥームボウル)を始末するために仲間達(冒険者)がやって来る。風物詩(お祭り騒ぎ)を終わらせるために──

 

 

 全身を朱に染めた戦士が、悲鳴にも似た雄叫びを上げる。その雄叫びと同時に、更に血飛沫が散る──集う冒険者達(仲間)は血飛沫を撒き散らす戦士(クレイドル)を横目で見ながら、更に士気を上げた。

 冒険者達は、指示される事無く滅甲虫(ドゥームボウル)を囲む様に動き出す。各々が、やるべき事を分かっているのだ。

 キイッアァァッッアアァァァッ〜〜!!

滅甲虫の耳障りな金切り声と共に、冒険者達が攻勢に入った。

 

 

 傾く程に体勢を崩されたとはいえ、相手は滅甲虫(ドゥームボウル)。見た目は巨大な蟲に見えようとも、悪魔。この世界の敵と云っても過言では無い存在──とはいえ。

 この場に集う冒険者達は皆が中級のベテラン。対悪魔戦は初めてでは無い(最も、これほど巨大な存在は初めてだが)。

 悪魔種独特の威圧感をものともせず、冒険者達は滅甲虫を囲む──滅甲虫の巨体が、更に傾き沈んだのを今が好機(チャンス)と見た冒険者達が、一気呵成に攻勢に出たと同時に──

 

 堅牢な砦が、吠えた。

 

 

 

 

 

  

 






 あれば、感想どぞ。

 ( ´ー`)y-~~
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