邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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 ちょっとばかり、長くかかりましたな。

 ( ´ー`)y-~~


第216話 風物詩(お祭り騒ぎ)の夜明け

 

 

 ゴオォォオオッッオアアァァッッッ!!──滅甲虫(ドゥームボウル)が、叫んだ。

 大気を震わし、大地を揺らさんばかりの叫び。それが何を意味するか──冒険者達は即、理解した。

 

 決着の時だと。滅甲虫(ドゥームボウル)が、形振り(なりふり)構わずに人間共と決着を着ける時が来たとの雄叫びを上げたのだと。

 滅甲虫の雄叫びに呼応するかの様に、負けず劣らずの悲鳴にも似た雄叫びを上げる冒険者がいた──

 

 クレイドルだ。

 

 

 オオォォッ! オオッアァァァッッ!!

全身から血飛沫を舞い上げ、滅甲虫(ドゥームボウル)目掛けて凄まじい勢いで駆け寄って行くクレイドル。

 「クレイドルッ!!」──暗黒騎士が叫ぶ。

“碧水の翼”の一員、グランだ。その声に振り向く事無く、クレイドルは滅甲虫に飛び掛って行った。

 血塗れの戦士──クレイドルは滅甲虫の真正面から頭部に飛び乗り、そして駆け上がって行く。

 ダンダン、ダンと滅甲虫を乗り越えて行くが如く、滅甲虫の頭部を踏み越え、その背に飛び乗って行った──滅甲虫は、クレイドルを振り落とす様にその身を揺らすが、巨体ゆえにその動きは鈍かった。

 「囲めッ! 終わらせるぞッ!!」

滅甲虫の鈍さを見た“疾風の牙(ゲイル・ファング)”の長兄ヴァルガスが叫んだ。

 その声に応じる様に、冒険者達が滅甲虫(ドゥームボウル)を取り囲む──砦は、直に沈むだろう。

 

 

 対滅甲虫(ドゥームボウル)戦の喧騒をよそに、単独行動をしている者がレンディア以外にいる──シェーミィだ。

 “影身の刃(シャドウエッジ)”の、影に溶け込み気配を隠す効果を、要所要所で細かく発動しながら滅甲虫の狙撃場所(狙い所)を狙っていたのだ。

 「ん〜、やっぱり尻尾の先かなあ〜」

ノンビリと滅甲虫の尾の先端を見ながら、シェーミィはニ矢をつがえ、ギリと短弓を引き絞る。距離にして約十メートル程、短距離といってもいい。

 短距離からの精密性を持った強射──シェーミィの真骨頂だ。

 ほぼ限界まで引き絞った弓が、ギィッと鳴る……ニイッ、とシェーミィが獣の笑みを浮かべた。

 「こ〜こッッ!!」

 ビッッイィンッッ!! 弦が強く弾かれ、ニ矢が滅甲虫(ドゥームボウル)の尾の先端目掛け、奔って行く。 

 そして──

 

 

 異変は突如、訪れた。滅甲虫(ドゥームボウル)が動きをピタリと止めたのだ。

 その様子を見たグランは、(レンディアとシェーミィがやったな)と胸の内で笑みを浮かべる。そして──

 「負傷者を後方に下げるんだ!!」

 滅甲虫(ドゥームボウル)の真正面に立ち、その攻撃を一身に受けるべく盾役(タンク)となったグランが叫んだ。

 同時に、“疾風の牙(ゲイル・ファング)”の次兄オルヴルがグランの横にどっしりと立った。訝しげにオルヴルに顔を向けるグランに、オルヴルが云う。

 「……俺も、“疾風の牙”の盾だ。それに……」

ボソリ、と独り言の様に云うオルヴル。次いで──

 「“碧水の翼”にだけ良い顔させるなと、兄貴と妹に云われてるんでな……」 

 グランを見る事無く、滅甲虫を睨み付けながら無愛想に云うオルヴル。

 オルヴルの言葉に、滅甲虫を見据えながら、ニヤリと口角を上げて微笑むグラン。

 「ならばやる事は同じだな」

 「……ああ」

グランに応えたオルヴルが、スウッと息を吸う──

 グウオアァァッッ!! 

長兄ヴァルガスの、遠吠え(ハウリング)とは違った咆哮を放つ次兄オルヴル。

 激昂の叫び(レイジド・シャウト)──狼族特有の、身体強化と昂揚をもたらす効果のある咆哮だ。

 

 突然の咆哮に思わず身を竦ませてしまい、忌々しげにオルヴルを見やるグラン。オルヴルの身体が、一回り程大きくなっている様に見えた──「すまん」

 言葉少なく、オルヴルが詫びる。ふん、と鼻を鳴らすグラン。

 「いいさ。それより、俺達の仕事をしよう」

 「……だな」

 暗黒騎士と狼族の戦士が二人肩を並べ、腰を据えてこの決戦の場に集う冒険者達(仲間)の“盾”となるべく、滅甲虫(ドゥームボウル)の眼前に立ちはだかった──

 

 

 運ばれて来た冒険者を回収すべく衛兵達が慌ただしく動き出し、待機していた魔術兵等が急ぎ負傷者の治癒に当たる。

 冒険者達は、動きを止めた滅甲虫に対して今が好機と攻勢を仕掛けるのでは無く、グランの指示に従い負傷者を後方に下げる事を優先した。

 思った以上に滅甲虫は小回りが利き、己を包囲しようとする冒険者達を、伸縮する牙で迎撃してきた。

クレイドルが多く斬り落としたはずだが、今だ残る牙が冒険者達を寄せ付けなかったのだ──結果、冒険者達のほとんどが手傷を負った。

 軽症な者達は応急処置を受け、即座に滅甲虫(ドゥームボウル)の包囲に戻って行く。

 重傷、またはそれに近い者達は魔術兵等が腰を据えて治癒を施す。焦る冒険者達に対して魔術兵は、ただ一言告げる──

 「死ぬにはいい日じゃない」、と。

 そう云われたならば、大人しく治癒を受けるしかない。冒険者達は思った──魔術兵とは言え、帝都兵なのだな、と。

 「軽症者から優先! 治癒が済み次第、前線に送り出せ!!」

 魔術兵と衛兵達の発言。それを聞いた冒険者達は思った──楽をさせては貰えないな、と。

 

 「動ける奴は動け! “碧水の翼”の面々だけに、良い顔させる訳にはいかないぞ!!」

 先程まで治癒を受けていた、“疾風の牙(ゲイル・ファング)”の長兄ヴァルガスが叫ぶ。

 その妹ミーシャは治癒が済むと同時に、凄まじい勢いで駆け出して行った。その後に続くように、治癒を終えた冒険者達もまた駆け出して行く──

 「……さあて、風物詩(お祭り騒ぎ)を終わらせるかね」  

 士気衰える事無く、戦意に満ちる冒険者達を見やりながら、ヴァルガスが他人事の様に呟き笑みを浮かべる。 

 狼の牙が、猛々しく口の端から突き出ていた──

 

    

 滅甲虫(ドゥームボウル)の背に飛び乗ったクレイドルは、棘に覆われた滅甲虫の背を行き来しながら急所を探っていた。

 流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)による、絶え間ない痛みと流血は続いているが、それらは気にしなければどうという事も無い──クレイドルは、苦痛を無視するという精神力を我知らず会得していた──

 全身を()に染め、己が血を滅甲虫の背に滴らせながら、クレイドルは冷静に滅甲虫を観察していた。

 (だいたいの目安は付いているんだよな……)

 クレイドルは、城塞都市の冒険者ギルドで過ごした日々と、訓練での教えを思い起こす──冒険者に必要な座学を教えてくれた狐族の、通称“教師”レンケインの教えを──

 

 (「昆虫系の急所何だけどね。例外はほぼ無いんだよ。見た目は昆虫だけど、実際の属性は魔物や魔獣、場合によっては悪魔属性……といった場合があるんだけど、急所は同じと思ってもいいんだ──」)

 レンケインさんの教えを思い起こす。確か──

 (「頭部と背中の間、というより継ぎ目といった方がいいかな? そこにね、何と言うか神経が集中している場所があるんだ。それを“命脈”と呼んでいるんだよ。心臓と云ってもいいかな。そこが──」)

 昆虫系の心臓(・・)に当たる場所……その継ぎ目、心臓の場所がはっきりと分かった。ここだ──

 

 クレイドルは魂食み(ソウルスレイヤー)を逆手に構え、柄頭を掌でしっかり押さえると、剣先を滅甲虫の“命脈”に一気に押し込む。

 「あばよ、滅甲虫(ドゥームボウル)

 ガツン、との確かな手応え。さらに押し込むと、滅甲虫の頭部と背中の間──“命脈”──を貫いた感触が静かに伝わって来た。

 「……仕留めたぞ」

 クレイドルは笑みを浮かべた。その瞳が深紅に瞬いたのを誰も気付かない。

 

 

 「……あれ、クレイドルか?」

 冒険者の誰かが呟いた。全身を()に染めて異様な戦いぶりを見せていた戦士──“碧水の翼”のクレイドルが、今だその身から血を滴らせながら滅甲虫(ドゥームボウル)の頭部付近に立っていた。

 そして、剣を逆手に構えると同時に、滅甲虫の頭部目掛け突き立てた──と、同時に滅甲虫の身体から力が抜けていくのが目に見えて分かった。

 先程の、ただ動きを止めたというのとは違い、その巨体から力が消えゆくのが誰の目から見ても明らかだった……しばしの静寂。

 滅甲虫(ドゥームボウル)を包囲していた冒険者達。その補助に回っていた、魔術兵達と衛兵達の動きが止まっていた──

 「魔術兵! 生命探知と魔力探知!!」

 衛兵隊長ジェロームの指示が大音声となって戦場に轟く。その目は滅甲虫を見据えていた──そして……。

 

 「……生命反応、魔力反応ともに無し……! 生命、魔力ともに反応、無し!!」

 その声に重なる様に、他の魔術兵達が口々に応える。

 ──滅甲虫(ドゥームボウル)の生命、魔力、反応無し!!

 ──滅甲虫(ドゥームボウル)、活動停止! 死亡確認!!

 

 魔術兵達の声が戦場に響き渡る。その声を受けた冒険者、衛兵達に静かな静かなどよめきが広がる──そして、誰が云うとも無く呟いた。

 勝った、と……。

 

 

 歓喜に湧く衛兵と冒険者達。風物詩(お祭り騒ぎ)の終わりを実感する様に、静かな佇まいを見せる魔術兵達。それぞれの思いは一つ。成すべき事を成した、と──そして、風物詩が今終わったのだと……。

 

 「滅甲虫(ドゥームボウル)を仕留めたと、村と御領主に伝令を出せ! 馬を使え!!」

 ジェロームが衛兵に指示を出す。衛兵が指示を復唱し、速やかに駆け出して行った。

 その背を見送り、ジェロームは改めて戦場に目を向けた。死骸と化した滅甲虫が雪積もる大地に横たわっている──風物詩の終わりを実感するには、充分な証拠だ。

 

 

 滅甲虫の死骸に妙な感傷深さを感じながら、ジェロームは呟いた。

 「……終わった」

 空を見上げると、すでに夜明けになっていた。微かに残る星が、瞬いている──その星々も、直ぐに消えゆくだろう。

 「終わった……」

 ジェロームはもう一度呟いた。

 

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