邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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 久しぶりの待雪草(スノードロップス)編。
 これからは幕間話ではなく、半ば独立した話として書いていきたいと思います。

 ( ´ー`)y-~~




待雪草(スノードロップス)──静寂の祠からの帰還 そして新たなメンバーについて

 

 

 静寂の祠から戻って来たのは、昼を過ぎた頃。夕方には少し早い時間に、帰還出来た。

静寂の祠から帰還して来た私達は、かなり疲れていた。体力的にというより精神的に……。

 初めての不死族(アンデッド)戦で、心身共に疲労していたのだけれど、私達は常宿になっている“オーガの拳亭”に戻ると、少し早めの夕食をとる事になった。

 というのも──妙に元気いっぱいのファルが、休む前に食事を済ませた方がいいよ、と勧めてきたので私達は一旦荷物を置き、湯浴みをして汗を流してから、食堂に向かったのだが──ファルはすでにテーブルに着き、お酒を飲んでいた。

 

 

 「何やかやあったけれど……まあ、初の対不死族(アンデッド)は上手くやれたと思うよ。うん」

 ファルがにこやかに笑いながら、オウルリバー炭酸割りを呷っている。

 私達が来る前に、ファルが注文していたのだろう。テーブル上にはお酒のつまみ程度に、いくつか料理が出ている。私達も席に着き、思い思いに注文した。

 

 「ファル、風呂場に来なかったけど、いつの間に汗を流したんだ?」

 「ああ、“浄化”だよ。僕は長風呂でね。入るとどうしても長くなるんだよ。だから、汗や汚れをさっと落とす時は“浄化”で済ますんだ」

ジョシュの疑問に朗らかに答え、再びオウルリバー炭酸割りを頼むファル。 

ファルが、“浄化”を使えるなんて意外だと少し思ったけれど、ファルはベテランの中級冒険者だから、当たり前なのかしらね?

 「言い忘れてたけど、僕は“浄化”と“生活魔法”は一通り使えるからね?」

オウルリバー炭酸割りを口にしながらファルが云う。シェリナが、感心した様に声を上げた。

 

 

 今日は色々疲れたから、体力回復のためにしっかりと食べたい気分ね──私がリーネとジョシュに云うと、二人共に賛成してくれた。普段は、お肉はそれほど食べたいとは思わないけれど、肉料理を中心に注文した。

 「うん、そうしなよ。特にシェリナは大分魔力を使ったからね、魔力の回復には栄養を取る事が一番だから」

 ファルがにこやかに笑い、オウルリバー炭酸割りのお代わりを注文した。

 

 「中級冒険者ともなるとね。ちょっとばかり器用になるものなのよ〜。大概の事をこなせる様になるものよ。はい、ご注文の品お待たせ〜。たっぷり、お食べなさいね」

 “オーガの拳亭”の女将(・・)ミランダさんが、大盆に乗せた注文の品を持って来てくれた。

 テーブルに並べられる料理は、シェリナお望みの肉料理がメインとなった──

 豚肉多めの野菜煮込みに、皮付き鶏肉の塩焼き。刻み生姜が添えられた豚の角煮と、鶏の手羽先揚げ──特に食欲を掻き立てたのは、脂がじゅうじゅうと音を立てている焼き立てのポークソテーだ……。

 

 「ポークソテーから先に食べるのをオススメよ。焼けた脂が鳴ってる内にね」

 ミランダさんのお勧めならば、そうするのが最良よね。

早速、何のソースも掛かっていないポークソテーにナイフを通すと──柔らかい。最初に思ったのはそれだった。

 「おお……」

最初に口にしたジョシュが、感動した様な声を上げた。

うん……美味しい。何のソースも掛かっていないのに、肉に充分味が付いている。焼く前に、何か調味料でも振ったのかな? 

 少しの焦げ目が付いた脂身の部分も食べてみる──ジュワリとした脂身の口触りと一緒に、甘さを感じた。脂身って、甘いのね……美味しい。

 シェリナは夢中になって、ポークソテーにナイフを入れている。気持ちは分かるわ。

 私もミランダさんのお勧め通り、ポークソテーを片付けてから、他の料理を味わう事にするかな。

 ジョシュは、ゆっくりと噛みしめる様にポークソテーを味わっている。シェリナと対照的でちょっと面白いわ……。

 

 

 「静寂の祠で、ジョシュと少し話したんだけどさ」

ファルが、オウルリバー炭酸割り片手に云う。

 私達がポークソテーを平らげ、他の料理を味わっているタイミングでのファルの言葉。ジョシュを見ると、鶏の手羽先揚げ片手に頷いている。何の話をしたのだろうか……?

 「攻撃担当(アタッカー)がいた方がいいて、話をしたんだよ」

豚の角煮に箸を伸ばすファル。箸……そういう物があるのは知っていたけど、見るのは初めてかも。木の棒二本で食事なんて、器用じゃなければ難しいでしょうね……いや、そんな事よりファルの言葉だけど──

 「もう一人、仲間を入れようという事だよ」

豚の角煮に続いて鶏の塩焼きに箸を伸ばし、旺盛な食欲を見せるファル。

 「え。でもジョシュは充分に戦えていると思うけど……?」

取り皿に分けた、豚肉の野菜煮込みを前にしたシェリナが尋ねる。

 「ジョシュにも言ったけど、ジョシュの戦闘力を軽く見てるつもりは無いよ? ただ──」

オウルリバー炭酸割りのお代わりを注文するファル。

 「ただね。ジョシュは盾役(タンク)なんだよ。騎士云う所の……ええと、何と云ってたかな……ああ、“盾持たぬ者達の盾となれ”の精神がジョシュにはあるんだよ。それはつまり──ありがとう」

オウルリバー炭酸割りのグラスを受け取るファル。

 「つまり、ジョシュは盾役として本領を発揮する戦士(・・)なんだよ。騎士に近いと云っても良いかな。うん」

 騎士に近い、と云われたジョシュの体がぴくりと動いた。

 「改めて云うよ。待雪草(スノードロップス)にはね、もう一人、仲間が必要だ。攻撃役(アタッカー)がね」

オウルリバーのグラスをチビリとやりながら、ファルが云った。

 

 攻撃役(アタッカー)──防御は最低限。最優先は攻撃。攻撃役がその立場を最も発揮するのは、背後を一切気にせず戦える事──

 初級訓練でそう習ったわね……その攻撃役を仲間にか……う〜ん? 

 

 「そうは云っても、ファル。心当たりはあるの?」

私の疑問に、ファルが答えた。

 「うん、あるよ。まずは帝都に着いてからだね。どのみち、僕らは帝都に行くだろ? あそこなら顔見知りはいくらでもいるから。基本、単独(ソロ)で活動している知り合いに声をかけてみるつもりだよ」

 グラス片手に、鶏の手羽先揚げに手を伸ばしながらファルが云う。

単独(ソロ)で活動している冒険者、か……そういう人は腕利きか、曲のある人だときいているのだけど──

 「一応、君らとはそう歳が離れてない冒険者に声をかけるつもりだよ。それと、そう変わった……うん」

 ファルがグラス片手に、少し首を傾げた──その仕草が、妙に気になるのだけれど……ファル?

 

 という事で、私達待雪草(スノードロップス)一行に、新たなメンバーを迎える事が、ほぼ決まった。

 でも、それは帝都に着いてからの事。今すぐに、ここ城塞都市(グランドヒル)を離れるという訳では無いしね……。

 新たな仲間を加える話を終え、私達は改めて食事を再開する事にした。

 お酒も、少し楽しもうかな。ここに並ぶ料理は、食事としても、お酒の当てにもなる感じだしね──

 

 食事も一区切り付いて、私達は改めてお酒を注文した。残った料理をつまみながら話をする。

 静寂の祠での反省点の事で、ファル曰く──

 「さっきも言ったけどさ、初の対不死族(アンデッド)はまあまあ上手くやれたね。実体(・・)ありの不死族での戦いは、ああいう感じ何だけど……君らが相手にしたダストス(瘴気の土石)に、今回は出会わなかったアシャー(蠢く遺塊)。あの連中は大した状態異常を持っていない、下級の不死族だからね。もっと危険な……あ、オウルリバー炭酸割りお代わりね」

 結構飲んでいる様だけど、大丈夫かな? それほど酔っている様には見えないけど……?

 

 料理も少なくなってきたので、追加の料理を頼む事にする。お肉はもう充分に堪能したので、何かお酒に合うものをミランダさんに頼もうかな──

 

 

 「ファル、大分ご機嫌ね」

追加の料理とお酒を運んで来たミランダさんが云う。ミランダさんの云う様に、ファルはいつも以上に妙に明るく、声が高い。酔っているのかな……?

 「帝都はね。とにかく広いんだ。観光だけでも、何日もかかるよ。観光名所一つとっても、全部回るには一日程度じゃ時間は足りないから……まあ、僕の場合は落とし物(・・・・)を拾うだけで、時間が掛かったりする事もあるけどね」

 落とし物を拾う、というファルの言葉に周囲のテーブルから笑い声が上がった。

 この場所にいる人達皆、ハーフランナー(駆け足族)の特徴を知っているのね……私達も思わず笑ってしまったわ。

 

 

 私は少し飲み過ぎてしまい、ちょっと息抜きのためカウンターに移った。

 そこにミランダさんが、「私の奢りよ」と果実水を運んで来てくれた。ミランダさんが、少しお話しましょうかと言ってきて、私の横に座った。 

 

 「ハーフランナーはね。中々頼りになる連中よ」

長煙管をプカリと吹かすミランダさん。煙管を間近に見たのは初めてかも……それにしても、長いわね。

 「まあ、ちょっとばかりイラついたり、ハラハラする事もあるでしょうけどね……“静寂の祠”で何かあった?」

ミランダさんが微笑みながら尋ねてきたので、静寂の祠でのファルの事を包み隠さず(・・・・・)話した。

 

 ──ファルが“浄霊の聖水の小瓶”を間違った使い方をして、自爆して目をやられた事。

 ──“静寂の祠”内で口笛を吹いて、無駄に私達を警戒させた(シェリナを怯えさせた)事。

 ──礼拝室の扉を蹴り破り、騒ぎを起こしてグレイブミスト(漂う霧の塊)の群れを呼び込んだ事。

 

 

 ミランダさんは、私の話を聞いて大笑いした。

 「ファルらしいわねえ。ふっふふふっ……随分、気を揉んだでしょ?」

くすくす笑いながら、私の果実水のお代わりと自分のお酒を、店員さんに注文するミランダさん。

 「教えておくわ。ハーフランナー(駆け足族)という種族はね、仲間(・・)を守るために中々の無茶をする連中なのよ──」

 ミランダさんは、煙草盆を長煙管で引き寄せて灰を落とす。

コン、という小気味良い音が鳴った。

 「その無茶で……ま、いいわ。リーネちゃん。とにかく、ファルを頼りにしなさいな。あなた達の先輩で、ベテラン冒険者なんだからね」

 ほんの少し、ミランダさんが何かを懐かしく思う様な顔を見せた。

 

 ミランダさんは、中級Bランクの冒険者だったと聞いた事がある。現役時代に、ハーフランナー(駆け足族)と何か特別な思い出があったのかな……?

 “オーガの拳亭”に、ジョシュとシェリナと周囲の冒険者達の笑い声が響いている。

 「翡翠の指輪がさ、いつの間にか僕の指にはまっていて、その指輪が話し掛けてきたんだよ──」

 また、笑い声。ファルは一体何の話をしているのだろう?

 

 

 

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