久々の日常回です。
( ´ー`)y-~~
目が、覚めた──と同時に、喉の渇きを痛いほどに感じた。サイドテーブルに目を向けると、水がたっぷり入った水差し二つ。
グランさんが用意してくれたのだろう。グラスにたっぷりと水をいれ、ゆっくり飲む──渇きに張り付いた喉に水がじわりと広がり、やがて全身に沁み込んでいくのを感じた、と同時に……きゅう、と腹が鳴った。
「……腹が、減った」
部屋を見回す。少しばかり薄暗いが、カーテンの隙間から光が射し込んでいる。
カーテンを開き、外を見ると明るい。朝というより昼くらいの雰囲気だ──覚えているのは、明け方に宿舎に着いて割り当てられた部屋に入った事。
それ以外は……とにかく眠くて、ベッドに沈み込んだ事だ。という事は、俺は一日半以上は寝ていたらしいな……うん。どうりで腹も減るわけだ。
部屋には俺一人。グランさんは出掛けているのだろう。レンディア達と一緒だろうな。
さて、宿舎の食堂はまだやっているといいけどな。ランチタイムには少し遅いだろうか?
駄目なら村に出て食堂か酒場でも見つける事にしよう……その前に一風呂浴びたいとこだが、“浄化”で済ませるか。
宿舎の食堂にやって来た。中々に広い。昼時となれば、大人数の衛兵や関係者達がやってくるのだろうな。
だが、今は少々閑散としていて、食事が出来る様な雰囲気には見えないな……昼下がりのお茶の時間といった感じだ──食事が出来るかどうか、聞いてみよう。
昼下がりの、衛兵や職員達の休憩時間の中、食堂内で静かな騒ぎが起きた。
ふらりとやって来た、
男が口にしている食事は、昼食の余り物といった感じの物だったが、イヤな顔一つせず淡々と口にしている……。
食堂内の者達は、その男が何者なのか全く分からないが、おそらく冒険者だろう、と皆が感じていた。
その男も冒険者の一人だろうと、食堂内の皆が思った。だが──あの顔立ちは異様だ。
美形、美貌では説明出来ない程の容姿。居住まいも整ったもので、その凛々しさえ感じさせる雰囲気が、容姿をさらに際立たせていた──その男に、食堂内にいる者達は近付く事も、声を掛ける事も出来ずにいた。
ちなみにクレイドルは、自分が顔を晒している事に気付いていない。いつものフルフェイスのつもりでいた。
昼食の余り物では、大した食事が出ない事は承知していたんだが……ううむ……。
片面焼きのトーストに、目玉焼きを乗せた物(そう頼んだ)。
野菜スープ(煮詰まったので味が濃い)。
酢漬け野菜(漬けたばかりで味が薄い)。
正直云って──物足りな過ぎる。こんな物しか出せないけど、と言って用意してくれた事には感謝しか無い。しか無いんだが……正直、村に出て食事所を探した方が良かったかもなあ。ここの食事で空腹は抑えられるだろうけど、足りな過ぎる。満足感は得られそうも無い……まあ、残さず食べるけどな……はあ。
周囲からは、昼食のあまり物を淡々と口にしていると見られていたクレイドルだが、内心は不平たっぷりだった──
クレイドルが不満な昼食を取っている最中、食堂にシェーミィが飛び込んで来た。
「あー! やっと起きたねー!!」
いきなりの猫族の乱入に、食堂内の衛兵や職員達が驚く。
シェーミィはスタスタとクレイドルに歩み寄り、その食事を覗き見ると大声で云った。
「何で、こんなケチなご飯食べてるの!? いくら何でもケチ過ぎるよー!!」
シェーミィの叫びにも似た抗議(?)の声が食堂内に響き渡った。
おい、止めろ。止めないか。ふと、食器受け渡しのカウンターに目を向けると、物凄く申し訳なさそうな顔の料理人がこちらを見ていた。
ホントに、スイマセン……うちの
喚くシェーミィを尻目に
「早くみんなと合流しよー。明日には武門街に戻るから、その前に片付けなくちゃいけない事が沢山あるんだってー」
せかせかとしたシェーミィの言葉に呆れながらも、俺は気を取り直す。
「……よし。行こうか」
片付けなければいけない事が、どういう事かは分からない。何しろ一日半を寝て過ごしていたからな。
だが、喫緊に対処しなければいけない様な事では無いだろう。さて、レンディア達に合流しよう──
「先に出てるよー!」
早くも食堂を飛び出したシェーミィの声に、俺はただ笑うしかなかった。
例年通りの
この活気は、
シェーミィを追った先は、酒場ではなく食堂だった。うん? ここは確か……前に来た、鶏料理を中心としたメニューが自慢の店だったな。鶏の燻製サラダと鶏野菜煮込みが美味かった覚えがある。
先に入ったシェーミィに続いて食堂に足を踏み入れた、のだが──
「クレイドルさん!!」
店員さんが、立ち竦む様に俺を見た。
俺は確か、この店員さんに云ってしまったっけ──「必ず、ここに戻って来ます」と。さらに「だから、待っていて下さい」と……感極まった店員さんが、駆け寄って来る。
そして──「クレイドル……さん!!」
店員さんは俺にしがみ付き、グスグスと泣き始めた。
えぇ……何だこれ……周囲の目は、気にしない事とする。
レンディアの計らいで、落ち着いた店員さんをテーブルに着かせて話をする事になった。
店の許可は取っているそうだ……許可って何だよ。
要するに店員さんの中で、俺が無数の
盛りすぎだろう、とも言えないんだよなあ……雪甲虫相手というか蟲相手となると、
蟲嫌いは俺の業の様なものだから──蟲め!!
ようやく落ち着いた店員さんに、レンディアが云う。
「心配かけたのは悪かったわよ。あまり気にしなくて良いわ。クレイドルは
何故かレンディアが、俺の代わりに店員さんを慰めている。
「この
いつの間にか会話に参加していた食堂の女将さんが云う。
「隊長さんに、クレイドルは休養中で今は面会出来ない、って門前払いされてね、かなり心配してたんだよ……」
隊長、ジェロームさんの事か。いきなり若い娘が駆け込んで来て、ほぼ昏睡中の俺に会いたい何て言われたら、そりゃあ追い返すしかないわな……ジェロームさんにも迷惑かけたかな……?
「あの堅物。一目くらい、会わせてやってもよかったのにねえ」
店員さんを慰める様に、女将さんが云う。ジェロームさん、堅物扱いされてますよ。
というか、会わす訳ないだろ。
やっと立ち直った店員さんが、女将さんと共に店に戻った。その際に軽食を頼む。多少は食べたから、軽くだ──酒にはまだ早い時間だ。
頼んだ軽食は、すぐに出せる物から選んだ。蒸し鶏サラダに鶏皮炙り焼き、といったところだ。ついでに、果実水炭酸割りも頼もう。
「はいっ! 直ぐにお出しします!!」
驚くほどに愛想良く店員さんが応え、厨房に駆けて行った──
レンディア達はとうに昼食を済ませて茶を飲んでいたそうだが、俺が軽食を頼むのを見て自分達も注文をしだした。
確か、シェーミィが色々片付けないといけない事があると云っていたが……?
軽食をつまみながら、この後の事を話す。討伐した
「アレはひとまず、“碧水の翼”預かりという事になったわよ」
何故かというと、滅甲虫を始末したのは俺だったからだという。いや、それでも──
「ふん。言いたい事は分かるわよ。まあ、いいでしょ。
レンディアが云う。なるほどな……まあ、それは武門街に戻ってから冒険者ギルドでやり取りする事になるんだろう。
「そういえば、シェーミィが片付ける事があると云ってたが何の用件何だ?」
片付け事か……
「大した事じゃないわよ。回収した
いつの間に頼んだのか、レンディアは果実酒炭酸割りを飲んでいる。まだ昼過ぎ何だが……俺も飲もうかな。
いつの間にか酒の席になっていた。この店は、昼は食堂、夜は居酒屋になる店だという。
今はまだ陽は高いんだが、女将さんが構わないというので酒の席になった──ちなみに、店員さんは俺達のテーブルに付きっきりになっている……女将さんの配慮らしい。
「今さら何だが、今回の
グランさんが、黒ワインを口に運びながら云う。
そういえば、今回の討伐戦の具体的な報酬というのは提示されてなかったな……こういう場合はどうなるのだろうか?
「その事ね。
レンディアが、オウルリバー炭酸割りのお代わりを頼む。
「討伐戦の報酬は、結構な額になる事は間違いわよ。特に今回は滅甲虫の魔石、つまり兄上が云うところの“魔虫の核”を
店員さんが運んで来たオウルリバー炭酸割りを受け取るレンディア。
「果実酒炭酸割り、お代わりお願ーい。あとねー、鶏皮の辛子和えと手羽先揚げもね!」
「私も黒ワインを。それと、蒸し鶏サラダと鶏煮込みを」
シェーミィとグランさんが注文する。
皆、ガッツリ飲んで食べるつもりだな?