邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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修行、訓練パートはそろそろ、折り返し地点です。
ジャッジャッ(ふるいにかける音)


幕間 集う冒険者達④ 魔導卿ラーディス

ゴッ─ギルド内に響く音。濃い灰色の杖がギルドの床を叩く。

金の縁取りがされた、漆黒のローブを身にまとった男が、ギルドに足を踏み入れて来た。

 

ギルド内の温度が、下がったような──もちろん、気のせいではあるのだろうが──

「魔導卿……」

喧騒静まる沈黙の中で、誰が言うともなく呟いた。職員達も、身動き一つしない──ギルド内の異様な空気を察したのか、奥の喫茶室からのそりと、喫茶室亭主のマーカスが姿を現す。

「おう。いったい何が……おお? ラーディスかよ。久しぶりだなあ。来いよ、一杯飲ませてやるよ」

ローブ姿の男が、フードを取り払う。

精悍さと気品さが合わさった、整った目鼻立ち。ローブと同じく、漆黒の豊かな髪を、丁寧に後ろに撫で付けている。

「マーカスさん、久しぶりですね」

よく通る声がギルド内に響く。同時に、何かに安堵したかのような、ほっとした雰囲気が流れ始めた。

 

「ダルガンがよ、やっとお前と連絡ついたって喜んでたぜ」

「新人、見てくれって事でしたが、魔術師志望なんですか?」

茶を美味しそうに啜る、ラーディス。

「いや、特にそういうわけじゃない。色々、学べる時に学びさせてえって事よ」

「ふ~ん……これ、新茶ですか。薫りが良い。うん、美味い」

「おう。昨日、仕入れたばかりでなあ……うちの連中も茶の入れ方、上手くなってるぞ」

しばし、二人で茶を啜る。

 

訓練所。ジャンベールとクレイドルが打ち合っている。なかなかの体捌きで、ジャンベールの攻撃を、上手く盾で捌いてるが……少しの間を置いての、ジャンベールの体当たりを受け、クレイドルの体が揺らぐ。ジャンベールが、体を入れ換えながら足払いをして、クレイドルを倒そうとしたが……踏ん張るクレイドル。

「ほう」

見学しているラーディスが呟く。

クレイドルは、片足飛びでジャンベールから距離を取った。仕切り直しだ。

「ジャンベール、代わろうか」

訓練用の短槍と盾のミルデアが、クレイドルの前に立つ。

「ふ~、ふっ……お願いします」

深呼吸一つ。クレイドルが盾と剣を構え直し、ミルデアに向き合う。

 

鷲の頭部を模した兜を被っている新人。

クレイドルといったか。中々の体幹をしている。

足払いを受けて踏ん張り、仕切り直しに持ち込んだ。普通なら、倒れてもおかしくなかった。

ふ~ん。訓練をつけている冒険者……疾風ジャンに、猛血ミルデアか。贅沢な新人だな。

 

ミルデアが背を向け……ああ、ダメだ。新人。

尻尾は来ないぞ。ほらな、背を向けた一瞬。短槍と盾の持ち手を入れ替え、お前の左側面から、短槍の薙ぎ払いが……直撃。

横倒しに倒れる新人、クレイドル……。

「そこまで」

思わず、言っていた。ふ~ん……なかなかに、面白そうな新人だな。なるほどな。ダルガンさんが面白がる理由が分かった気がする。

 

「魔導、卿……」

ジャンさんが、息を飲みながらいう……ミルデアさんは、身動き一つせずに立っている。

金縁の漆黒のローブ。濃い灰色の杖。

気品と精悍さを備えた、整った目鼻立ちの貴族風の男性……うん? 一瞬だが、その目が金色に瞬いた気がする。

ローブの男性が手を伸ばして来たので思わず、握る。ぐうっ、力強く引き起こされた。

引き起こされ、目が合う──漆黒の瞳が一瞬、金色に光った。

「初めまして、だな……私は、ラーディスだ」

にいっ、と形のいい唇がつり上がった。

 

邪神の言葉が唐突に思い浮かんだ──なんと言っていたか──“神々に杖を向けられるほどの魔導士。公平にして混沌。自由にして秩序”──

 

「魔術の基本は魔力制御だ。それが基本にして全てだ。君が、魔術師を望んでいない事は分かるが、クレイドル君。言っておく、望もうと何だろうが……魔力があるにこした事は、無い」

力。ラーディスさんの声には力がある。

「私が今、教えられる事は魔力制御に生活魔法に浄化……ああ、それと体術も少々ってとこか」

体術……う、頭が……。

「……レンケイン君、彼はどうした?」

「え~と、マダムミランダに体術訓練を受けた時、ちょっと痛い目に合わされて……」

体術と聞いて、思わず頭を抱えた俺に代わってレンケインさんが、説明する。

「馬鹿力で痛い目に合わされたか。柔心流の名が泣くな。クレイドル君、心配するな。アレよりは、マシに教える事が出来るからな」

「期待します……」

 

ラーディスさんの講義は午前中に決まった。

レンケインさんの授業との時間は半々となったのは、レンケインさん曰く、教えられる事は一通り教えたので、あとはおさらい程度にしようと言われ、それに賛同した。

ちなみに、レンケインさんもラーディスさんの講義を受ける事にしたそうだ。

「魔導卿から教えを受けられるなんて、そうは無いからね!」

興奮したレンケインさんの姿は、日頃からは想像つかないものだった……。

 

「まあ、今日の所は……そうだな、魔力制御のコツを少し、教えておこうか。手を出せ」

すっ、と手を出してくるラーディスさん。

釣られて手を出すと、ふわりと握られた。

「う、おおっ」

何かが……体の中に流れ込んで来た……何だ?

「ふ~ん。今まで魔力を感じた事が無かったんだな……クレイドル君。今感じているもの、それが魔力だ」

何だこれ。不快ではないんだけど……何か、ふわふわした気持ちになる……おおっ……。

「クレイドル君。この感覚を掴むイメージをしろ。ぐっ、と掴んでみろ」

ぐっ、と掴むイメージ……掴むというより、手の中で何とか包む……という、感じ、だ。

目眩を感じ、膝が落ちそうになる……。

「よし。いいぞ」

すっ、と手を離された。

「ふ~ん……今、目眩を感じたな? それは魔力枯渇の症状だ。ほんの少し魔力を流されて、こうなるという事は、ほとんど魔力が無いという事だ……ある意味、魔力の器が小さいから、拡げやすいって事だな」

ラーディスさんの言葉を継ぐように、レンケインさんがいう。

「つまり、魔力制御の訓練の際、魔力の許容量が少ない時は、魔力枯渇が起きやすいけれど、その分魔力の増加が、早まるって事だよ……そうですよね? ラーディスさん」

「その通り。今感じた、その感触は覚えておくんだ。クレイドル君。いずれ、私の手助けなくても、自分で魔力制御出来るようにしてやるさ」

微笑む、ラーディスさん。やる事が増えたな。

「体術訓練は、午後にするか」

ああ……体術……訓練もかあ……。

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