邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第220話 武門街──ヒルダの近況とダーンシルヴァス神王国へ向かう前に

 

 

 武門街、冒険者ギルド内は今だ風物詩(お祭り騒ぎ)の報酬の話で盛り上がっていた──今俺達“碧水の翼”は、ヒルダと共にギルド内の喫茶室にいる。

 神聖騎士団副団長ガーランドさんに、お付きの騎士ガルスさんと他の見習い騎士の姿は無い。

 前に云っていた通り、俺達より一足先にダーンシルヴァス神王国に向かったとの事。ダーンシルヴァスでしばし過ごした後、海路で帝都に戻り神聖王国に戻るそうだ──

 

 「ふん。何か、久し振りという感じね。ヒルダ?」

ヒルダを正面にして座っているレンディアが云った。テーブル左右に、俺とグランさん。シェーミィはヒルダの横に座っている。

 「はい、お久し振りですね。皆さん」

声は少しばかり緊張で硬いが、物怖じしている風には見えない……以前より雰囲気変わっているな。

 顔付きも、何か険が取れて穏やかというより、落ち着いた顔になっている。

 体つきもだいぶ引き締まった様にみえるな……騎士の訓練と冒険者としての訓練とはまた違うのだろうな。

 「冒険者見習いとしての日々はどうなの?」

 ティーカップに手を付けながら、レンディアがヒルダに尋ねる。

 レンディアがカップに手を付けたので、俺達も手を伸ばした。

 

 

 ヒルダの冒険者ギルドでの近況報告を聞くと、中々に充実しているらしい。

 他の冒険者見習い達との、戦闘訓練と座学。そして野外実習。同期の見習い達と日々過ごしている訳か。

 懐かしいな。城塞都市グランドヒルで過ごした日々を思い出す……最も俺に同期は居なかったが。

 二ヶ月の訓練期間内で、一人も志望者が来なかったんだよな。不自然な程に……。

 

 「ふん。順調な様で何よりだわよ」

レンディアが笑みを浮かべ、皆のカップにお代わりを注ぐ。

 「他の見習いさん達と同年代ってのはやりやすいよねー。すいませーん、焼き菓子とお茶のお代わりお願ーい」

追加の注文をするシェーミィ。

 「良い同期に恵まれた様だな? ヒルダ」

グランさんが、少し温めの茶に口を付けながら云う。

 皆がヒルダの事を相応に認めている。うん、良い事だ。

 ふと、ヒルダと目が合う。金髪碧眼の貴族生まれといった容姿だが、以前にあった柔な感じは無くなり、活力に満ちた表情をしている……ふい、と目を逸らされた。何ぞ?

 

 「さて。ヒルダ」

貴族然とした、優雅な手付きで焼き菓子を摘みながら、レンディアがヒルダに尋ねる。

 「聞く限り、気心しれた同期達もいるみたいね。私達は、もう少しここ武門街で過ごしてダーンシルヴァスに向かうのだけれど──」

 レンディアがカップに口を付け、続ける。

 「前にも云った様に、私達“碧水の翼”に加わるのも、気心しれた同期達とパーティーを組むのも、貴方次第よ」

 レンディアの言葉に頷くヒルダ。その表情は堅い。何かを考えている様が伺えた──俺も、グランさんもシェーミィも何も言わない。ヒルダから、それなりの葛藤が見えたからだ。さて、ヒルダ。どう応える?

 「……確かに、ここで知り合った同期達と別れる、という事になったなら、正直つらく感じると思います……けれど」

 ふう、と一息吐き、ヒルダははっきりと云った。

 「“碧水の翼”に加わりたいと思っています」

 

 ヒルダの言葉を聞いた瞬間、シェーミィが笑い声を上げた。

 「でしょー? レンディアもくどいよー」

にっしし、と笑うシェーミィに対し、すまし顔でカップに口を付けるレンディア。

 口の端が微かに上がっているのが一瞬見えた──

 

 俺達は喫茶室から、常宿となっている“荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”に移動する事にした。

 食事と、少しの酒のためだ……少々で済むかな?

 

 

 

 “荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”の食堂。俺達は、いつもの“専用席”に着く。と同時に──

 「クレイドルさん」

声を掛けられ、振り返るとラーシアさんだった……思わず椅子から腰を浮かして身構える。

 前に、タックルをくらい椅子ごと倒された事があったからだ──だが……ラーシアさんは涙ぐんだ表情で、静かに云った。

 「……おかえりなさい」と。

 感情の昂りを抑える様な静かな声。そういう態度で来られるとなあ……どう反応すれば良いのか? と思った矢先──

 「クレイドルさん!!」 

 昂りを抑えられず声を張り上げ、こちらに踏み出そうとしたラーシアさんをレンディアが静かに宥める。

 「ラーシア、声が大きいわよ。クレイが驚いているじゃない」    

 「……はい」

 落ち着いたラーシアさんを見るグランさんとシェーミィは、微笑みを浮かべる。

 ヒルダは、何が起きているのかよく分からず視線を左右にしていた……何かすまんね。うん。

 

 

 改めて、食事と酒の注文をする事にした。

風物詩(お祭り騒ぎ)のおかげで懐は充分に温かい。少々贅沢しても良いでしょうとレンディアが云った。確かに──

 まだ日は高いが、ゆっくりと楽しむ事にしよう。先ずは食事だ。

 「ヒルダ、今日は好きなだけ頼むといいわよ。たまの贅沢というやつよ。見習い生活中には口に出来なかった食事を楽しむと良いわ」

レンディアの言葉に、ヒルダがぎこちなく頷く。

 「ラーシアー、注文お願ーい!」

 「はい! 何なりと!」

シェーミィの声に、俺の直ぐ傍に控えていたラーシアさんが即座に応える。今日は長くなりそうだな……。

 

 

 「ヒルダ、同期の連中とは上手くやれている様で何よりだわよ」

 オウルリバー炭酸割りを片手に、レンディアは機嫌良さそうに云う。

 食事を終えて、今は酒の時間になっているのだが、俺としてはもう少し食事を楽しみたいんだよな──

 「ラーシアさん。ええと、この海鮮焼きそばというのは?」

 質問しながらも、それがどんな料理かは目処はついているんだが── 

 「炒めた麺に、イカと小エビと貝の剥き身を具にしたものですよ。味付けは塩と鶏ガラのスープです。今日のオススメですよ?」

 自慢気にお勧めしてくるラーシアさん。尻尾がパタパタと揺れている。

 うん、思った通りのやつだ……この世界に、俺の知る犬印ソースとかは無いのだろうか? まあ、いい。塩焼きそばも美味いからな。よし。

 「じゃ、海鮮焼きそばお願いします」

 「何か美味しそー! 私にもお願ーい!」

俺の注文に、シェーミィも乗った。美味いぞ?

 レンディアとグランさんは適当に酒のツマミを頼み、追加の酒も注文する。

 焼きそばを食べてから、本格的に飲むとするか……。

 

 

 「……今日の予定は──」

グランさんが言いかけ、こめかみを揉む。

“荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”特有の、テーブル代わりの空の酒樽を挟んで座っている俺達は、少々二日酔い気味になっていた……やっぱり少々では済まなかったな。

 部屋に備え付けの時計を見ると、昼前になっている。

 明け放したカーテンから、冬の陽射しが爽やかに射し込んでいる。外は快晴ぽいな……ふう。

 「食堂に、行きましょうか」  

 「……だな」

グランさんが、コップの水を一息で飲み干す。二日酔いには、水が一番だからな……俺も充分に飲んだ。

 気休め程度に、“浄化”もやっておこうか──

 

 

 俺とグランさんで食堂に降りる。昼前という事もあり、中々の盛況だが、“碧水の翼”のいつもの席はあいている。

レンディアとシェーミィの姿は無い……二人共、相当に飲んでいたからな。

 「さっきの“浄化”で、少しはマシになったかな……助かる」

グランさんが俺に礼を云う。さて、食事はどうするかな? 多少マシになったとはいえ、二日酔いの身体に優しい物を腹に入れたいんだが……食堂の盛況振りを見るに、細かい注文は気が引けるな。まあ適当に、軽めの物を頼むか。スープ系? そんな事をぼんやりと考えていると、声を掛けられた。

 「おはよう、ってのは遅いかなー!?」

この大声は、“荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”の店員。ドワーフ娘のリーライ。ここの女将イーライさんの娘。

 二日酔いの頭にいやに響く声だ……グランさんが顔をしかめて目をつむる──

 「何かお勧めのスープとかあるか?」

 「二日酔いにお勧めのね……じゃ、貝出汁のスープかな。具はネギだけが良いだろうね」

 「じゃあ、それを二人前。あと炭酸水も」

 「私は温かいお茶を」

 俺達の注文に明るく応え、厨房に戻って行くリーライ。

 「……ドワーフの声は、二日酔いに優しくないな……」

 グランさんの意見に、俺は頷く。

 

 

 俺達がスープを飲み終えた頃に、女性陣二人がやって来た。身支度はちゃんとしているものの、酷い顔をしている。

 「……あなた達、早いわね」

席に着いたレンディアが、掠れ声で囁く様に云った。うん、早くはないな。もう昼になっている。

シェーミィは席に着くなり、無言で突っ伏した。

 「まだ、酒は抜けてないみたいだな……」

 「やっと、おきれたのよー。頭いたーい」

俺の言葉に、突っ伏したままのシェーミィが云う。この二人にも、“浄化”をやっておくか?

 

 「今日の予定何だけどね──」

俺達と同じスープを飲み終えたレンディアが、予定を告げる。

貝出汁のスープは二日酔いの身に沁み込み、頭をスッキリさせるらしい。顔色は大分良くなっていた。

 シェーミィはスープの後に酢漬け野菜を頼み、いつもの様に野菜を平らげると、残った酢をくぴくぴと飲み干していた……。

 「昨日、酔ったヒルダをちゃんと送り届けたんだろうな?」

二日酔いから復帰したグランさんが、レンディアに尋ねる。

 昨日の酒の席で、ヒルダは飲みに飲んだ。単に酒好きなのか、飲む配分(ペース)をよく分かっていないのか。

 とにかく飲んだ。止めようかと思った時点で、ダウンしたのだ……そのヒルダを、冒険者ギルドに送ったのがレンディアとシェーミィだった。グランさんはその時の事を云っているのだ。

 「もちろんよ。ちょっと遅かったので、心配していた同期(仲間)連中が出迎えに来ていたわよ」

 レンディアが云う。ヒルダは同期達から、頼りにされているみたいだな……同期達との別れの時はどうなる事か?

 

 「さて、今後の事だけど──」

レンディアが、ダーンシルヴァスに向かう前の予定を、俺達に伝えた。

 ピックマンに会いに行く。冒険者ギルドで、霊園地下の調査報告を聞く。そして、ロングスウォード伯に会う──

 「こんな所かしらね。ロングスウォード伯に挨拶が済んだなら、用意出来次第、出発しましょうか」

 「なるべく早い方が良いかもな。今の時期、ダーンシルヴァス付近は吹雪になる可能性もある」

 グランさんの提案に、俺達は同意した。ここ武門街では色々あったな……忌々しい風物詩(お祭り騒ぎ)も、終われば良い経験になった。もう、御免だが。

 

 あの滅甲虫(ドゥームボウル)の事は、あまり思い出したく無い……蟲め!!

 

 




 
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