邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第20話 魔力制御と体術訓練 魔導卿の異常性

 

目眩と疲労感……疲れた……椅子に座り込む。

深呼吸を一つ、二つ……ふう、と息を吐く。

「まあまあ、慣れてきたかね」

ラーディスさんが、煙管(きせる)に葉を詰めながらいう。ピン、と指を弾き、指先に火を灯し、煙管に火を着ける。

ふぅ~と、煙を吐くラーディスさん。香のような匂いが漂って来た。不快な香りではない。

煙管とは渋いな。木造りの朱色の煙管。吸い口と先端は、銀細工が施されている。ううむ……渋い。

「自力で魔力制御出来るには、もう少しだね」

レンケインさんがいう。ラーディスさんが煙管の吸殻を煙草盆に落とす……煙草盆。どこから出した? 時代劇で何度か見かけた、煙草盆。ラーディスさんは長椅子に腰掛け、のんびりと煙管をくゆらせている。

「そろそろ、昼か。体術訓練は飯のあとだな」

煙草盆に吸殻を落とすラーディスさん。

体術訓練、か……。

 

昼食。薄味の鶏と野菜の雑炊。付け合わせは、濃い味の鶏のそぼろと大根の煮物。そして野菜の酢漬け。

「マーカスさん、相変わらずいい飯を作りますね……美味い」

ラーディスさんが雑炊を啜りながら言う。

「ふふん。栄養を考えながら、献立を考えるのは楽じゃねえんだぜ」

鶏そぼろと大根の煮物……いや、これ美味い。

レンケインさん、ジャンさん、ミルデアさんが勢揃いしている中の食事。この面子って……なかなかに凄いのでは?

「ふむ。大根の味がいいな。鶏そぼろとの絡み具合が絶妙だ」

ミルデアさんが、瞬きをしながら言う。

「これは米ですね。米が合う」

「ああ、米だな。雑炊というのが何よりだ」

レンケインさん、ジャンさんも目を細めて、食事を楽しんでいる。 雑炊の薄味と煮物の濃い味のバランスがいい。

「おう。クレイドル、煮物のお代わりは、どうだ?」

「いただきます」

差し出した器に盛られる、今だ湯気立つそぼろと大根。

よし、午後の訓練を乗り切る気力を、補充する事にするぞ。体術訓練……か。

 

ざうっ、と足場が鳴り、訓練所の地面が散る。

どすん、と背中から落とされた──好きにかかって来たらいいと言われ、距離を取りつつタイミングを計り、ローキックを放ったが──ラーディスさんは前に進みながら、すれ違い様に俺の顎に手を添え、そのまま俺を地面に落とした。

いや、分からん。顎に手を添えられた瞬間は分かる。だがその後の、ふわりとした感覚──合気か! 合気なのか!?

「何をされたのか分からんだろうな。それが当たり前だ。まあ体で覚えるしかないが……とはいっても、分からないだろうな。まあ、好きにかかって来い」

すうっと息を吸って吐き、おりゃっ、と前蹴りをラーディスさんに叩き込む──蹴り足を、足首を捕まれ引かれた─まただ。喉元をふわりと抑えられ、そのまま地面に落とされた。

受け身を取ったが──腕を取られていた。

腕ひじき逆十字。シンプルな関節技。手首を捕まれ、腕を両足の間に挟まれている。

肘が完全に極められていた──みし、り。肘が鳴る。

「クレイドル君。骨折とか、脱臼の経験あるかね?」

「無い、です……」

「そうかね」

びじり、とも、ばじりとも……嫌な音が鳴る。折られた。間違いない、折られた。

ぐっ、ぐぐうっ!……うっぐっ……!

歯を食い縛る。悲鳴を上げたら心が折れる。

それは……何かの敗北を示してしまう……。

「折られた痛みを知ったなら、二度と折られないように、気を付ける事になるだろうな」

じっとりとした脂汗が顔に浮かぶのを感じる。痛い……いや痛い。単純に痛い……。

「その痛みを忘れるなよ。いい経験したなあ」

ラーディスさんがささやくように言う。レンケインさんが、足早に寄って来る。

「今、治癒をするからね……綺麗に折られているから治りは早いよ。でも、骨折の治癒はちょっと痛いんだよねえ」

折られた左腕に手をかざすレンケインさん。

温かい光が優しく、腕を包む……痛い。いや、痛い。何だこれ、折られた時より……痛い。

「いたたたたっ! いっ……たい!」

「まあねえ。骨折治癒は痛いんだよねえ」

レンケインさんが穏やかにいう。

「そんなものだ。回復には痛みが伴うのは基本だ」

ラーディスさんが、他人事のように言う。

いや……折った張本人が、ねえ……?

それから何度か挑んだ。突きや蹴りを捌かれ、体を入れ換えられ、投げられた。あとは変なツボだか点穴?を突かれた。

「ここを、こう圧さえられると、だな」

鳩尾付近を親指で、ぐっ、と圧され──

「十秒少し、息ができなくなる。そして声も出せなくなる」

鳩尾、喉に妙な圧迫感。うわ、なんだこれ──

「そして、この状態で、こう……」

襟首を掴まれ、一瞬で尻餅を着かされた。

「首を絞められる、とだな」

後ろから腕を回された──目の前が──

 

「目が覚めたかい。何秒もしないで、あっという間に絞め落とされたんだよ」

嬉しそうに言う、レンケインさん。何ぞ!?

「さっきの点穴だがな。息も出来ず、声も出せない。“無応”というやつだ。絞め技が効果的になる」

魔力訓練よりも、体術訓練の方がキツイ……。

「今日は、こんなとこでいいだろう」

ラーディスさんは長椅子に座り、またもどこからともなく、煙草盆を出して煙管を吸い始めた。

時間は夕暮れ前。夕食まで、まだ時間はある。

「まあまあ、筋はいいな。やる気もあるし、根性も悪くない。体術をある程度使えると、便利だからな」

ふぅ~と、美味そうに煙を吐く。

「魔力制御の方は、今のやり方を少し続けようか」

「お茶の用意をするよ。クレイドル君、シャワーでも浴びてくるといい」

レンケインさんの言葉に甘える事にした。

こん、とラーディスさんが煙草盆に吸殻を落とす。煙草盆、どこから出している?

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