屍鬼火を呆気なく蹴散らした。様子見のつもりで、バトルアクスで薙いだところ……バシャリと手応え。水を弾いた様な感触。それで、終わりだった。
バラバラと、複数の魔石がきらめきながら、地面に落ちた──ええ……拍子抜けというか何というか……背後のジャンさん達を振り返る。
「まあ、何事もなく済んでよかったな」
「ふむ。両手持ち武器で、距離が離れていたからな。厄介な攻撃を受けずに済んだか」
「そうですねえ。一瞬で勝負が着いてよかったですね。長引いたら厄介だった」
三人が、妙に不穏な会話をしている。何ぞ?
うわっ……くっさ! 何だこの臭い!? 屍鬼火のいた場所から臭うのは……腐敗臭、墓場の臭い?
「あの、厄介とは?」
「ああ。屍鬼火は、触れた相手に様々な状態異常を引き起こす、厄介なアンデッドなんだ」
「普通なら、ただの鬼火と一緒に出現するのだけど、今回は珍しく単体でやって来た。鬼火は大した事はないんだけど、屍鬼火と鬼火は、ほとんど見分けが付かないので、厄介なんだよ」
「まあ、上手くやったな。少年」
はっはっはっ、と笑う先輩達。解せぬ。
「浄化しておきましょう。魔石も回収して……おお? これは……宝石の原石ですね。屍鬼火らしい回収品ですねえ」
「ふむ。宝石も出たか。当たりだな」
魔石多数に宝石の原石。それって……どういう事に、なるんだろうか?
「魔石はともかく、宝石の原石は、中々な値段がつく可能性があるんだよ」
なるほどな。冒険者からしたら、中々の収入源になるのか。覚えておこう。
「ふむ。少し偵察しておこうか。皆、待機していてくれ」
「その前に、安全な礼拝室を探そう。クレイドル、一緒に来てくれ。ミルデア、レンケイン、周囲の警戒を頼む」
頷く、ミルデアさんとレンケインさん。
礼拝室で小休止となった。軽くビスケットと干し果物だけで済ませる。
うん。この程度でいいな。軽食が済むと、ミルデアさんが斥候に出掛けた。
レンケインさんは、回収した魔石と宝石の原石を改めて浄化した。
「浄化はねえ、便利だよ。何しろ“風呂要らず”っていわれるくらいだからねえ」
「浄化を使える奴がパーティ内にいると居ないとでは、だいぶ変わる。常時、身の回りを清潔にしていれば、それだけで体調不良が改善されるからな」
ううむ、確かに。前にレンケインさんにも言われたな。生活魔法、浄化の利便性について。
ラーディスさんから受けている、魔力制御がある程度出来るようになったら、改めてそれらの教えを受けるという話をしたな……。
いきなり礼拝室の扉が開かれた。ミルデアさんだ。
ビクッ、と体がすくむ。場所が場所だけに、そういうのは、止めていただきたい……。
「武装スケルトンだ。数、十体。指揮官クラスはいない。盾兵だ。隊列が整っている。前後、五体ずつだ」
「隊列か……兵士クラス、だな」
「ふうん……補助は任せて下さい。後衛の動きを阻みます」
「武装は、胴鎧に盾と剣だ。具足も、着けている」
レンケインさんとミルデアさんがいう。
「よし、殲滅だな。クレイドル、やろうか」
「武装スケルトンかあ。鎧に盾、具足装備ならば、なかなかに手強いだろうねえ」
「前衛、俺とクレイドル。中衛ミルデア、後衛は、レンケイン……補助を頼むぞ」
「任せて下さい」
むふう、と唸るレンケインさん。 おおう、頼もしいな。よし……スケルトンか。俺のスケルトンキラー(鋼造りのショートソード)が、唸るだろう。
「手強いと言っただろうが! 盾捌きに気をつけろ!」
バトルアクスの薙ぎ払いを、盾で受け流されて、体が泳いだ。
おおう!? がっしりとした手応え─と同時にぐうっ─と受け流された。
地を蹴り、前のめりに逃げる。膝立ちになり、バトルアクスを横構えにして、武装スケルトンを見る。
すでに、数体の武装スケルトンがバラバラになって地に、散らばっている。しかし──。
カタカタと体を揺らし、盾を構えながら剣をくるりと回す、武装スケルトン。
こいつ、普通じゃないな……。
「クレイドル君。その武装スケルトン、手練れだ」
「他の連中は私達が引き受ける。その武装スケルトンは少年が……始末しろ」
バトルアクスを構え、盾持ちスケルトンを見るが、隙がない様に見える……バトルアクスを大きく振りかぶる。両手武器の構えとしては、よくはない……さて、盾持ちスケルトンは、どう反応するか──腰を落とし、身構える武装スケルトンが、じりじりと近付いてくる……よし……。
ずうっと、息を吸う。そして……おりゃっ。
両手武器の投擲。普通なら、やらない。
そもそも、主武器の投擲など考えない。それを躊躇わず、やった。アンデッドさえ驚くだろう。
飛んで来たバトルアクスを避ける事も、防ぐ事もなく、まともに直撃した。バトルアクスの直撃をくらった武装スケルトンは、そのまま崩れ落ちた……。
スケルトンキラーの鯉口をきったが……バトルアクスの直撃を受けた武装スケルトンは、崩れ落ちた。
周囲の武装スケルトンは皆、骸と化していた。
ふうっ、と息を吐く。武装スケルトン、強し。
スケルトンキラーの出番はなかったか……。
「こんなとこか? 今日の所は」
「そう……だな。対アンデッドは、充分だと思うが」
「予想以上に稼げましたから、ここら辺が潮時だと、思いますねえ」
三人がいうなら、ここらが退き時だろうな。うん、いい経験させて貰った……。
「帰りましょう。いい経験させて貰いました」
ふむ。とジャンさん達が頷く。
「よし、戻るか。丁度、夕暮れ近くだ」
「鶏源亭に行こう。鶏煮込みそばが、美味いんだ」
「本当に好きですねえ、鶏源亭」
あっはっは、と笑うジャンさん達。頼もしいなあ……鶏そば、美味いからな。ネギ多めがいいんだ。