コツリ、とギルド内に杖をついて入って来た
書類仕事中のダルガンデスが顔を上げる。しばし、朱いローブの女と見つめ合う。
ギルド内の空気が、張りつめる──最初に口を開いたのは、朱いローブの女だった。
「ラーディス様が、来ていますよね?」
「おう。来てるぜ……朱き風のメイギス。面ぁ見せるのは、久しぶりだなあ」
朱いローブの女が、フードを取り払う。
深紅の豊かな髪。眉、長い睫毛、唇も、深紅。銀色の瞳が、妖しく瞬いている。美しさと、異相が両立した面立ち──切れ長の眼で、ダルガンデスを見つめる。
「おめえさんが、来るたぁ聞いてねえがなあ」
「私は、魔導士です」
ふふん、とダルガンデスが、笑う。
「んで、何の用だい?」
「ラーディス様が、ここに来ている。それだけで充分では?」
会話に、なっていない。
「ラーディスはよ、新人を鍛えてる最中だ。訓練所に行ってみな」
朱いローブの女の銀色の瞳が、ぎらと光る。
魔力制御。循環のイメージは何となく出来た。
行雲流水の如く……雲は行き川は流れるか。体内をゆっくりと静かに……巡る何か。なるほどな、これが魔力……うん……目眩と共に、意識が──
「あ。眼が覚めたかい」
レンケインさんが、顔を覗き込んでいた。
「魔力枯渇だな。少しづつ、魔力制御が長く続くようになってきてるな。ふむ……魔力の容量も確実に増えている──たわけ」
ラーディスさんが濃い灰色の杖を、ドンッと地面に打ち付ける。ビシリ、と何かが砕ける音がした。
妙な気配。上半身を起こし、ぼんやりと周囲を見回す。
深紅、いや朱いローブ姿の女性が立っていた。ちらりとローブの裏地が見えた。純白。妙な恐ろしさを感じた。何だろうな……。
朱いローブ。目鼻立ちの整った女性。深紅の豊かな髪、眉、長い睫毛に唇。美人ではあるが、異相……といった方がいい容貌。年齢は──二十歳くらいか?
美しさよりも、異相が目立つ女性。すらりとした、長身でバランスのいい体型。
黒灰色の杖を携えている……ちょっと、怖い感じだな。油断できないタイプだ……。
さっきの、ラーディスさんのやり取りは何だったんだろうか? 衝撃音のような音は……?
「メイギス、魔都からの帰りか?」
朱いローブ姿の女性は、ラーディスさんの質問に答える事なく──真っ直ぐに、俺の所に向かって来た。眼が……ヤバい。これはヤバい人だ。
「弟子、なの? ラーディス様の新しい弟子、なの?」
興奮気味の無表情。真っ直ぐな目付き。瞬く事の無い目──無表情。キマった目。ヤバい……!
「弟子じゃない。もう弟子は取らないと言っているだろうが。彼には魔力制御を教えているだけだ。落ち着け」
ラーディスさんの言葉に、朱いローブの女性が深呼吸をする。
「そう、ですか。そうですよね……ふふっ」
先ほどの興奮が一気に消え、ぽつり、と囁き笑う。何か嬉しそうだが……いや、怖いな。怖いぞ。
「ああ、こいつは私の弟子でメイギスという。ちなみに、さっきの衝撃音は、こいつが私を試すつもりで仕掛けてきたやつだ。気にするな」
師匠である、ラーディスさんに何を仕掛けたのかは、聞かなかった。怖いから。
「初めまして、メイギスです」
にこりと、手を差し出してくるメイギスさん。
ふわりとした感触……微笑みが、怖い。
先のダンジョン探索。静寂の祠での経験はいい経験になった。というか、実入りは中々のものだった。入手した土属性の魔石の半分は、レンケインさんの取り分となり、火属性の魔石はラーディスさんが買い取ってくれた。
宝石の原石は、メルデオさんの所に持ち込んだ所、相当な騒ぎになったそうだ。
「あの原石、想像以上の収入になったぞ。珍しいブラックルビーの原石だそうだ」
ジャンさんが言い、ミルデアさんが頷く。
あの原石、赤黒くて不気味だったが……そんなに珍しい物だったのか。
分け前の話を聞いて、驚いた。いや、小金持ちっていうレベルじゃなかった。少なくとも、持ち歩くような金額じゃなかったので、冒険者ギルドに口座を作る事になった。
まだ、正式な冒険者登録を済ませていないので、口座を作れるのだろうかと気になったが、大丈夫との事だった。
「将来設計の為に口座は必須です! 商人ギルドとは違い、利子は付きませんが鍛冶屋、雑貨店等での買い物時、口座からの払いをする事で、何かしらの特典が付きます! 店によって違いますが! 将来の為に、口座は必須です!!」
お、おう……ジェミアさんが、勢いよく早口で捲し立ててきた。
「冒険者登録は、関係ありません!口座を作って下さい!それで事足りますから!」
むふう、と詰め寄るように迫ってくるジェミアさん。おおう……それで、いいのか……。
ダルガンさんが頷くのが見えた。ジェミアさんの、将来設計の下りが強く響いたのが印象的だったな……何だったんだよ、あれ。
昼食後は、体術訓練だ。体術訓練……か。