邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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作品タイトル。ちょっと変えるかもしれません。
くそ長タイトルにはしないつもりですが。
Ψ(`∀´)Ψケケケ


第32話 港町ハルベルトリバー 海水浴と蠱虫の洞窟

 

 

まだ、陽が上がる前の早朝。仄かな薄暗さ。

宿の裏庭であぐらをかいて座る。周囲を見回すと、裏庭は結構広い。色とりどりの、多数の鉢植えと花壇。ベンチにテーブル。ふーん。花を眺めながら、お茶が楽しめるようになっているのか。

離れた場所に、いくつもの物干し台が並んでいる。そして、水場。そこには生活感がある──さて、陽が上がるまで、魔力制御の訓練といこう。今日の予定は、午前中は観光。昼食後に蠱虫の洞窟に出向く事になっている。

メイナーラさんと揉めないといいが──よし、集中──

 

行雲流水─自然を意識しろ。今まで君が体験した自然だ。そよ風。降りしきる雨─何でもいい。

水面照月─息を長く吸い、細く長く吐く─内側で魔力を意識しつつ、外側に放出──よし、巡って来たな──そのまま意識して維持しろ──

 

明るさを感じて、目を開ける。陽が眩しく庭を照らし始めていた。

朝陽に照らされながら、もう一度目を閉じ、魔力制御の締めにする──内側で練った魔力を、ゆっくりと放出──息を長く吸い、細く長く吐く──ふう~ふっ!

 

おおっと、軽い目眩。魔力枯渇ギリギリまで魔力制御が出来た証だ 。まあ、こんなとこだろう。

よし、朝食まで時間はあるな……大河を見に行こうか?

 

立ち上がり、背伸びをする。心地のいい倦怠感というべきか。魔力制御後の独特な感覚。

ラーディスさん曰く、その感覚を得たなら、魔力制御が上手くいった証だと言っていたっけか。腹が……減った。

 

宿が活気に溢れる時間まで、まだある。

大河を見て部屋に戻るか。その頃にはジャンさん達も起きているだろう。

 

朝陽に照らされる、ハルベルトリバー。陽光に照らされ輝く大河は、壮大かつ荘厳。

これだ。魔力制御に必要な経験は。目に、心に焼き付けろ、出来るだけ──深呼吸、二つ。大きく息を吸い、大きく吐く──よし。

陽が登り、周囲を照らす。戻るか……腹が減った。魔力制御の副作用みたいなものだろうか?

午後の蠱虫の洞窟攻略のために、鋭気を養おうか。

 

「クレイドル、だいぶ早いな」

タオルを肩掛けにしたジャンさんと、出会わせた。顔を洗ったばかりなのか、さっぱりとした表情だ。

「はい。魔力制御をしていたんです」

「なるほどな。それにはいい時間帯だったか」

うん、と頷くジャンさん。

「俺もだいぶ、怠っているなあ……魔力制御」

「もったいないですよ。風属性持ちなのに」

「だ、な……よし、久しぶりにやるかな」

 

宿に戻り、朝食をとる。炙った魚の干物に海藻と貝のスープ。パンに厚切りのチーズ。

文句のない朝食。当然のように酢漬け野菜。酢漬け野菜は海藻入り。港町らしいな。

「午前中の観光は、雑貨屋巡りでもいいな。マーカスさんから、干し魚を大量に買って来てくれと頼まれているしな」

「観光か。今の時期なら、まだ海水浴は出来るかな?」

ミルデアさんがいう。海水浴かあ。大河は海水浴に向いているのか?

「遊泳区域があるんだ。そこなら泳げるよ。浅瀬でね、石なんかほとんど無い砂地だから、安全に泳げるね」

レンケインさんがいう。ううむ……正直、泳ぎたい。

「ふむ。私も久し振りに泳ぐか」

ミルデアさんがいう。マジか。ムチムチボディを晒すのか……。

 

 

水着なら雑貨屋、という事で雑貨屋へ。レンケインさんがいうには、ハルベルトリバーは時季によって、海水浴客が多く訪れる、ちょっとした観光地になるそうだ。

今の時季はシーズンから少々外れているので、観光客は少ないらしい。

水着を選ぶ。こういうのは、シンプルな物でいいのだ。濃い灰色の七分丈の下着に、藍色の半袖の上着。そして木の皮で編まれたサンダル。

危うく、着せかえが始まりそうだったが……。

ミルデアさんは、紅色、というよりワインレッドの水着。ええ……胸元際どいハイレグか……。

これは動きやすいからいい、との事だが、風紀面は大丈夫なのだろうか?

 

遊泳区域に到着。なるほど砂浜だ。浅瀬とはいえ、腰から下ほどの深さはあるらしい。

横たわれるような、寝椅子がいくつも並んでいる。暑い時期には、パラソルも立つのだろうな。

更衣室に、シャワールームもあるのか……。

時季外れとはいえ、ちらほらと人はいる。観光客なのか、地元の人なのか判断は出来ない。

ジャンさんとレンケインさんは、寝椅子に横たわる。日光浴に興じるようだ。

「ふむ、それほど冷たくないな」

ミルデアさんが、ぱちゃりと、海水で肌を濡らす。すでにハイレグ姿。俺は寝椅子に上着を掛けて、準備運動をする。

バシャリ、とミルデアさんが海に飛び込む。

豪快だな、おい。あっという間に海中に沈み込んでいった。

「リザードマンは、泳ぎより潜水が上手いからな」

顔にタオルを被せた、ジャンさんがいう。

「午後まで、疲れを残さないで下さいよ。蠱虫の洞窟がありますからね」

読書をしながら、のんびりとレンケインさんがいう。

「分かりました。気を付けます」

おお、海水浴。前世でもそうそう行かなかったからなあ。よし、一泳ぎといくかあ。

 

 

「見られてますね」

「まあなあ、見られているな」

レンケインとジャンが、寝椅子からミルデアとクレイドルを見ている。

際どい水着姿のミルデア。微かに鱗がかった青白い肌。水に濡れて艶かしささえ浮かんでいる。

そのミルデアを、チラチラと見る海水浴客。

際どい水着に浮かび上がる、肉感的な体。仕方ないだろうな。だが、それよりも……。

上半身を海面から出し、濡れた金髪を撫で上げるクレイドル。引き締まった体付きの、濡れた白磁の肌が艶かしい……というより、もはや妖艶さをも醸し出している。

男女問わず魅了するクレイドルの容貌。チラ見どころではなく、凝視している男女もいる。

ジャン達は、クレイドルの容貌には慣れているが、そうでは無い連中には目の毒だろう……。

「クレイドル、ミルデア、もういいだろう。午後の行動に、差し支えるぞ」

 

「あのお……どこの宿に、泊まっているんですか?」

絡まれた。シャワーを浴び、更衣室から出た矢先に絡まれた。女性三人組。二十代くらいか?

若さ溢れる、OLさんて感じだな。モソモソモジモジしている……教えていいものか?

「ごめんなさい……実は、お忍びでこの町に来ているんです。だから、お姉さん達に教える事は出来ないんです……本当に、ごめんなさい」

何じゃこれは! 無いこと無いこと、発動しやがって!! 邪神か、邪神の加護か!

助かるといえば、助かるが……ううむ。

「え、そんな……あの、やんごとなきお方、なのですか?」

違う、違うぞ! お姉さん達! だが……こくり、と頷いていた。邪神の加護ぉ!

「そう……いう訳です。お声を掛けて頂いた事は……嬉しいのですが。少しばかり、訳ありでして……若、宿に戻りましょう」

明らかに、笑いを堪えているレンケインさんが援護に来てくれた。

すがり付かんばかりのお姉さん達を尻目に、レンケインさんが俺の肩を掴み、ジャンさん達の元に戻る。

 

案の定、部屋に戻るやいなや、皆に爆笑された。

まあ、いい。うん。笑え、笑えよ。というか、無いこと無いことの発動は、どうしようもないからなあ! 邪神め! 邪神が!!

 

さて、昼食。パンと厚切りのチーズ。魚のあら汁の具は、厚みある魚の身と、白葱にワカメ。充分に出汁の取れた塩味……いいなあ、港町の味。

そして、海藻入りの酢漬け野菜。美味い。

午後に向けての鋭気を充分に養えるほどの内容だ……食休み後、蠱虫の洞窟に出向く事が決まった。少し仮眠を取る事にするか……。

 

 

 

「昨日は……さざ波の洞穴……今日は、蠱虫の洞窟ですって!? 危険ですわ! クレイドル様に、何かあれば……私は、私は……!」

俺の腕を取り、嘆くメイナーラさん。やはり、揉めた。ふふっ、と笑うレンケインさん。どうやら、俺を必要以上に心配する、メイナーラさんの姿がツボらしい。

「大丈夫です。実戦経験もしていますし、ちゃんと訓練をこなしていますから。そいつ、見かけ以上にタフですよ」

さざ波の洞穴に出向く時と、同じ台詞をいうジャンさん。

「で、でも! 万一の事があれば……痛っ!」

ミルデアさんが、無言でメイナーラさんの腕を叩き落とす。

「では、行ってきます。夕方までには戻ってきますから」

レンケインさんがいう。メイナーラさんの拘束から逃れた俺は、静かに宿を出た。

「クレイドル様! どうか、ご無事で! クレイドル様!」

涙ながらの、メイナーラさんの悲痛な声。

ぶっ……ふふっ。レンケインさんの笑い声。聞こえていますからね?

 

 

蠱虫の洞窟。港町から出て、約一時間と少しの場所。距離としては、さざ波の洞穴と変わらないが、港町を出ると草原が広がっている。

草原を移動すると山沿いに出る。その山沿いに移動すると、ぽっかりと広がった洞窟が見えた。その入り口周囲には、頑丈な柵が張り巡らせている。簡易的ではあるが、中々に頑丈そうな門で閉じられていた。

洞窟から這い出て来る、魔物、魔獣の類いを少しでも抑えるための門構えなのだろう。

「よし、入るかね」

ジャンさんがいう。ここに来るまでに、蠱虫の洞窟の事は聞いていた。名の通り、虫系の魔獣が出現する洞窟だ。宝箱は望めず。良質の昆虫素材が、見込めるというが……ジャンさん達に言っていないが、俺、虫苦手なんだよな……特に、バッタがなあ……。






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