夕暮れの 鴉鳴く空 月を待つ──クレイドル
いや、一句詠んでる場合じゃない。目の前の廃村をボンヤリ眺めていると、カタカタと何かが鳴る音か聞こえてきた。廃墟とはいえ、全ての家屋が朽ち果てている訳ではないだろうから、廃村を少し調査しようか……いや、その前に前世の記憶を整理しておくか……。
前世の名前は、
建設会社勤め。入社五年は営業だったのだが、とある事情により、事務に回された。俺が強面だというのだ。取引先は俺が来ると、自社は何か粗相でもしたのだろうか。だとか、あまりウチらをナメてもらったら困りますわ。という威圧をしに来たのではと思われていたのだそうだ。
まあ、自分の面相は充分、自覚している。高校の時のあだ名は、対策本部部長だったしな。
家族は四人。両親に妹。あと亀一匹。まあ、普通の一般家庭だ……俺が死んだあとは……まあいい。考えても仕方ない事だ……切り替えてこう。
さて、あらためて周囲を見回すとホントにただの廃村だ。何十年もの間放置されてたら、こうもなるかっていうくらいに荒れ果てている。朽ち果てた家屋、あちこちに生い茂る雑草、中央広場らしき場所の真ん中に、半ば崩れた噴水。当然、水なぞ涸れている。
肩掛けの大きめのバッグを掛けている事にいまさら気付いた。噴水近くの石造りのベンチに腰掛け、バッグの中を確認する。
ええと……小さな革袋が最初に目についた。その中を覗くと、硬貨が入っている。金貨十枚、銀貨十枚、銅貨十枚……確か、銅貨十枚で銀貨一枚で、銀貨十枚で、金貨一枚か。結構な大金持たせてくれたな。あとは、瓶詰めの液体が三本。ラベルを読むと、二本は治癒ポーション。もう一本は万能ポーション? なんかこれ、あまり表に出さない方がいいかもな。それと紙袋二つ。中身は干し肉と干し果物。携帯食ってやつか。
吸い口のある革袋。中身は水だな。バッグの奥にあるのは……おお、これ剣か。シンプルな作りの黒い鞘。頑丈な木枠と革で作られたやつだ。
ゆっくりと鞘から刃を抜く。刃渡り、約六十弱で柄は十五センチくらいか……全長、七十五センチ強ってとこか。ショートソードってやつかな?
今の自分の服装も確認する。どうということもない、普段着って感じだ。七分袖の少し厚めの上着に長ズボン。上下、濃い藍色。黒革のベルト。脛と爪先と踵部分が、金属製の黒革のブーツ。
この世界の普段着なんだろうか。ベルトには帯剣出来るように、金属製の枠が付いている。
「なるほど、こう……通す、のか」
あつらえたかの様にピッタリと剣が納まった。
空を見上げると、すでに日は暮れて、もう夜になろうとしていた。
今からこの場所を離れても、暗くなった道を歩くしかない。それは流石に嫌だ……しょうがない。まだマシな家屋を見つけて、夜を明かすしかないか……。