邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第33話 蠱虫の洞窟 対悪魔戦 鋏む 刺す 炙る

 

 

昆虫食を推薦する連中。何かに対しての逆張りとしか思えない。タンパク質が取りにくい時代ならともかく……そうでない、時代においては虫食う必要、無いだろうが! 気持ち悪いんだよ!!

 

まあ、いい……ともかく、洞窟に侵入する。意外と、湿気のようなものは感じない。何処からともなく、陽が射し込んでいるのでなかなか明るい。

土混じりの岩肌に触れてみる。ゴツゴツした感じと、しっとりとした感触。あと、苔があちこちに散見される。なるほど、虫が闊歩しているような環境だ。

「クレイドル君、岩肌に少し気を付けるんだ。ヘビ穴がある場合がある。ここはヘビ達の餌に、不自由しないからね」

レンケインさんの説明。なるほどな。

「ヘビは美味いからな。最初に頭を落として血を飲む。だが、人族はあまり真似しないほうがいいな。あとは皮を剥いで、生のまま食べる。人族は、火を通した方がいいだろう」

ミルデアさんの、唐突に始まったヘビ食講座。

リザードマン、ヘビ食うんだな……。

「虫、食べます?」

何となくの質問。蟹も生で食べるくらいだからな。

「虫なんか食べないぞ。リザードマンを、何だと思っているんだ」

ええ……何か怒られた。

 

しばらく進むと、景色が変わってきた。

岩肌と苔は変わらないが、腰上ほどの草むらが見え始めてきた。

ここで少し、休憩。ミルデアさんが斥候に出掛けて行った。担いでいた、バトルアクスを置く。

今日は盾を置いてきた。あとの武器は、スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)と投擲用の手斧。

「ここに出現する魔物、魔獣なんだけど、基本的に昆虫系だけどね、それを獲物とする魔獣も出現する可能性もあるんだ」

レンケインさんが、魔道コンロで湯を沸かしながら説明してくれる。生活魔法で水を出すんだよな、レンケインさん。

「昆虫系は毒、麻痺だとかの特殊効果持ちが少なからずいるのが、厄介なんだよな」

広げた布の上に、紅茶入りのカップを準備するジャンさん。

「毒性は強くないんだけどね。万一の備えはしているけど、油断しないでね」

レンケインさんがカップに湯を注ぐ。紅茶の柔らかい香りが立ち上る。

丁度、ミルデアさんが戻ってきた。温めの紅茶を、レンケインさんが渡す。

「妙な雰囲気だな。生き物の気配をほとんど感じない。虫の鳴き声もない」

紅茶を啜りながら、ミルデアさんがいう。微かな緊張感が感じられる……。

「レンケイン、生命探知……いや、魔力探知頼む」

「分かりました。範囲、十メートル内で試します」

紅茶を飲み干し、ジャンさんがいう。レンケインさんは、ゆっくりとカップをかたむける。

「少年、大物がいるかもしれないぞ。不自然な静けさは要警戒だからな」

ゴキリ、とミルデアさんが首を鳴らす。

 

 

静かな緊張感を孕みながら、慎重に進む。

先頭、ミルデアさん。その背後には、魔力探知をしながらのレンケインさん。

二人から少し距離を取り、ジャンさんと俺が進む。

基本、虫系の魔物は魔力を持たないが、ある特定の種類の魔物には、魔力持ちがいるという……最も、それは虫系に属さない魔物だというが……。

 

ミルデアさんが立ち止まり、レンケインさんが戻ってきた。

「ダークレッドスコーピオン、一匹。どうします?」

レンケインさんの顔に、今まで見た事の無い、凄みのある笑みが浮かんでいた。

「ふん……珍しいな、ここで悪魔系か。面白いな……」

ジャンさんの顔にも笑み。目が笑っていない。

殺気だな、間違いない。この気配……。

「殺そう。放っておいたら、同属を呼ぶぞ。ハルベルトリバーが、厄介な事になる」

戻ってきたミルデアさんが、いい放つ。

「同感です。始末しましょう……クレイドル君、君は──」

レンケインさんの声に、被せるように言う。仲間外れは嫌だからな。

「俺も行きますよ」

干し果物を口に含む。控え目な甘味が気持ちを落ち着かせる。うん、美味い。

「……いいだろう。だが一つ、条件がある……俺達のうち、誰かが逃げろと言ったら、逃げろ。いいな?」

殺気を隠さず、ジャンさんがいう。俺に向けてのものでは無い……ダークレッドスコーピオンとやらに向けてのものだろうな……。

「分かりました。誓います」

「誓うときたか。何に誓う?」

いい加減な事は聞かないぞ。という気迫が見えた……何に誓う、か……うん。

「今までの訓練に誓います。ジャンさん、レンケインさん、ミルデアさん。そして、マーカスさんとラーディスさんの訓練に誓います」

三人共に、俺の身を案じてくれている。はっきりと、分かる。

ですがね。俺は死にませんよ。一度、死んでいますから。もう、死なない──そういうものですよ、ジャンさん。

「いい顔してるぞ、少年! はっはははっ! そんな顔の奴はしぶといからなあ!」

バシバシ、と肩を叩いてくるミルデアさん。

「君を死なせたら、ジェミアとリネエラに殺されるよ……まあ、僕らに誓った以上は死ねないねえ、君は。ふっ、ふっふふっ!」

「おい。クレイドル、随分に重い誓いだぜ、それは……仕方ねえなあ。仲間外れには出来ねえし、まあいいや。とっとと始末するか、悪魔をよ」

おっと、異世界知識──ダークレッドスコーピオン。通称、赤闇の兇殻。悪魔属性。姿形は、赤黒い大蠍。

知性を持ち、火属性の低級魔術を行使する。堅牢な甲殻は魔力耐性有り。魔力の源は尻尾──か。バトルアクス持ってきて、良かった。甲殻系の堅さは、あのヤシガニで経験しているからな。

 

「クレイドル。相手は、バトルアクスや打撃武器と相性が悪い。思いきり叩きつけろ。甲殻を砕くつもりでやれ」

「分かりました……蠍は、食べられますかね」

「エビとか蟹に、味は近いらしいけど……悪魔系だからね。止めておこうよ」

「大河亭で、エビと蟹料理を出して貰うか」

はっはっはっ、と笑い合う。いい意味で、緊張感が解れた。

「結構、食い意地張ってるよな。クレイドル」

ジャンさんが、呆れた様に笑った。

 

 

デカイな。前のヤシガニよりデカイ。

体高、尻尾含んで百五十以上はありそうだ。横幅は鋏を含め……百二十あるか。一番気になったのは、甲殻だな。ダークレッド、赤闇とはよく言ったものだ……というか、こいつ……俺を複眼で睨み付けているな─〈んふふっ悪魔はねぇ僕らの天敵だからねぇ目を付けられたねふふふっ〉─微かに聴こえた邪神の声。何だ今の、激励か?

「少し距離を取れ、出方を見る──」

ジャンさんの声と同時に、いきなり突っ掛かって来た蠍。俺に、一直線に。速っ!! でもな──単純なんだよ。いくら速くてもな!!

左の鋏が、横薙ぎに向かって来た。鋏目掛け、肩担ぎにしていた、バトルアクスを振り下ろす。

がつん。確かな手応え。上手く関節に食い込み、そのまま鋏を切断した。

ギギッ、ギィッ! 呻き声とともに、後退する赤闇の兇殻。

ジャアッ、風が鳴った。ジャンさんの風属性の魔術。疾風の刃が甲殻を刻むが、浅い。続けてレンケインさんの石塊が、多数撃ち込まれるが、少し、怯んだかどうか……そうか、魔力耐性持ちだったか。

「ちっ、やはり堅いですね……沈めてみますから、十秒下さい。沈めても、何秒持つか分かりませんが」

「頼む。クレイドル、そのまま右だ。俺は左。ミルデアは正面だ。尻尾に気を付けろ。火属性の発動は、体色の変化で分かる!」

ミルデアさんが、のしのしと、蠍の正面に向かう。

蠍が挟み込む動きを見せるも、ミルデアさんが、ガンッと鋏を叩いて防ぎ、続けて頭部を殴り付ける。二度、三度……尻尾の尾針が、ミルデアさんを刺そうとするが、盾で受け流し、打ち払う。さすがだな。

ギィィッ! 蠍の体が赤く染まる──「下がれっ!!」

ジャンさんの声と同時に、俺達は蠍から距離を取る。

バシュウッ、と蠍の体から高温の蒸気が沸き立つ。

熱っ! 直撃は避けたが、熱いっ!!

なるほどな。魔力を行使する時の、タイミングは理解出来た……「沈めます! 数秒、持つかどうかです!」

レンケインさんが、叫ぶ。赤黒の蠍が、ズズン、と地に沈む……よし、尻尾を始末する……!

「尻尾を落とします!!」

「正面は、任せろ少年! オオォオァァ!!」

ミルデアさんの猛血発動。そして、地面に沈み込む体を、力付くで這い出ようとする蠍。

その体に雷が一閃、直撃する。ジャンさんか……?

「ダメだ。限界以上の魔力を使った……あとは頼むぜ」

へたばったジャンさんが、力なく言う。

雷を食らいながらも、しぶとく這い出ようとする蠍の脚を、泥が捕らえた。泥は直ぐに固まり始め、石と化した。

「“石鎖”です……クレイドル君、持って五秒です、よ……」

荒い息の下、レンケインさんが言った。

無茶するよなあ──全く。猛血状態のミルデアさんが、蠍の右腕に槍を突き立て、地面に打ち込む。次いで、剣の抜き撃ちで蠍の顔面を切り裂いた。怯む蠍。後退しようにも、脚は拘束され、右腕も大地に捕らわれている──「やれ、少年!」

ミルデアさんに頷き返し、蠍に向かって走る。

 

タイミングを図り、バトルアクスを尻尾目掛け、投げつける──弾かれた。やはりな、知性があるんだよな。さっきの素早い動き、結構な反射行動を見せると思ったよ──背に駈け上がり、バトルアクスを弾いた尻尾を、抜き撃ちで切り落とす。

これで、魔力の行使は出来ないな。

スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を逆手に持ち……ここら辺りか。頭部と胴体の間の箇所に、思いきり、突き入れる。ブツリとした確かな、手応え。あのヤシガニに止めを差した時と、同じ感触……死ねっ!!

ほとんど同時に、ミルデアさんが蠍の頭部に、剣を突き入れた──ヤシガニの時と同じだな──クレイドルの瞳が、ほんの一瞬、赤く瞬いた。

 

 

赤闇の兇殻に向かって、駈けて行くクレイドル君……投げた。バトルアクスを。両手武器の投擲なんて、普通はしない。前にも、同じ事があったな……尻尾に弾かれたバトルアクスを気にする事なく、そのまま兇殻の背に駈け上がり──尻尾を斬り飛ばした。でかしたね、クレイドル君。

もう、そいつは魔術の行使は、出来ないよ。

ただの大蠍だねえ。おお、いい箇所を突いたね……あとは、ミルデアが止めを──うん? クレイドル君の瞳……。

 

 

 

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