邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第34話 蟲虫の洞窟 悪魔素材の面倒さ 魔導卿に丸投げ

 

 

くたびれた。本当に疲れた。赤闇の兇殻を撃破後、レンケインさんが、素材の回収をしようと言った。一番動ける俺が、レンケインさんの指示の下、赤闇の兇殻から使える部位を剥ぎ取る。

「切り飛ばした、尾針は慎重に扱うように、一応、毒腺は残っているからね……甲殻は、背中の部分を剥ぎ取ろうか……関節に沿って、広く切るんだ……君が、断ち斬った鋏も回収しよう……ああ、魔石の回収もしないとね……」

ゼイゼイ、と息も絶え絶えのレンケインさん。 猛血後のミルデアさんは、例のごとく、ボンヤリと宙を見つめている。

ジャンさんは、何か心配になるほどの鈍い動きで、魔道コンロに火をつけようとしていたので、俺が引き受けた。取り付けられた拳大の魔石に魔力を流すだけだというが……。

初めてやってみたが、上手くいった。おお……妙に嬉しい。

「魔力操作、なかなか様になってるな。食事の用意をしよう。魔力回復には食事だ……」

ノロノロと地面に布を広げ、干し魚。干し果物を準備するジャンさん。

「紅茶ではなく、スープに、しましょう」

カップを並べ、乾燥スープを用意するレンケインさん。乾燥スープは、野菜とワカメ。港町の携帯食らしいな。

「干し魚は炙るか。味が、だいぶ変わるぞ」

ジャンさんが言う。少しは、魔力回復したらしい。

「お湯が沸きそうです。温めが、いいでしょうね」

レンケインさんも同様だ。乾燥スープに湯を注いでいく。ジャンさんが、干し魚を火で炙り始めた。

ミルデアさんは、まだボンヤリとしている。

もう少し、かかるだろうな……。

 

 

「悪魔素材は扱いづらいからね。瘴気を含んでいるから、まずそれを抜かないと、まともに加工出来ないんだよ」

レンケインさんが、赤闇の兇殻から剥ぎ取った甲殻を手に取りながら言う。

「魔導卿に瘴気抜きを頼もうか。回収した魔石を譲れば、引き受けてくれるだろう」

ジャンさんが、蠍から回収した魔石をかざしながら言う。

「悪魔の属性は、何だっけか?」

温めのスープを啜りながら、ミルデアさんがいう。

「基本的には混沌属性だねえ。魔導卿も、混沌属性持ちだから、悪魔素材を上手く取り扱ってくれると思うよ」

何気なく、レンケインさんが言ったが……。

「ええと、混沌属性……ラーディスさん、人間ですよね」

「多分ね。魔導卿は、常識の埒外(じょうしきのらちがい)の存在だからねえ。僕らでは計れないよ」

ええ……多分、て。

 

 

体力、魔力を回復したのち、少し早いが港町に戻る事にした。赤闇の兇殻を始末した事で、充分に実入りが見込めるとの事。悪魔素材はかなり珍しく、中々の値で売れるらしい。

その前に、瘴気を浄化すればさらに高値で捌けるとの事……回収素材は、鋏。尾針。甲殻と魔石だ。他の昆虫系が出現しないうちに、帰還すると決まった。以外と早く宿に戻れるな。

 

 

夕方前の、草原の独特な雰囲気。風が静かに吹き付けて来る……微かな潮の匂い。港町特有のものだ。もう少しすれば、夕陽が大河を照らすだろう……。

 

 

大河亭に到着……やはり、いたか。

「クレイドル様! お怪我は有りませんか!?」

宿の玄関で待機していたメイラーナさんが、駆け寄って来た。涙声……人の目というのがあるだろうに……。

ぺたぺた、と体に触れてくるメイラーナさん。

「いや、大丈夫です。何の怪我も有りません。ジャンさん達と一緒でしたから大丈夫ですよ」

「どれほど……どれほど、私が心配していたか! クレイドル様!」

すがり付く様な、メイラーナさん。ダメだ。言葉では説得出来ないな、これ……。

「メイラーナさん。そんなに心配させてしまって本当に、申し訳ありません……でも、僕は冒険者の道を選んだのです……冒険者は、死と名誉と隣り合わせだといいます……だから僕は……」

またか! また発動しやがった! 無いこと無いことの発動!!

「クレイドル、様……うぅっうっ……何とも、因果なお仕事、ですね……うぅっ」

ハラハラ、と落涙するメイラーナさん。邪神め! 邪神がっ!!

未亡人、泣かせた報いは、高くつくんじゃあないかなあ! 邪神!!

 

ふふっ……ぶふっ。メイラーナさんの悲嘆が、レンケインさんの笑いのツボに、見事にはまってしまった。

 

メイラーナさんを振り切り、部屋に戻った。回収した素材と魔石を床に並べる。

赤闇の兇殻の鋏と甲殻。混沌属性の魔石。

「城塞都市に戻ってからだな、回収品を魔導卿に見て貰うのは」

ジャンさんがいう。混沌属性は扱いにくい、とはレンケインさんの言葉。

正直、余り近くに置いておきたい代物じゃないそうだ。

「ふむ。城塞都市に戻って、魔導卿に頼もう。こういう物は、専門家に任せればいいんだ」

ミルデアさんが、いう。ラーディスさんに丸投げ……。

 

 

メイラーナさんが、夕食の希望を聞きに来た。

ミルデアさんが食い気味に、海老と蟹を望んだ。

ちらちらと、俺の様子を伺うメイラーナさんに頷き、海老と蟹料理を頼んだ。ついでにマリネも頼む。あと、酒も。

「分かりました! 料理人達に、腕によりをかけさせます! お酒の方も、楽しみにしていて下さいまし!!」

おおう……だいぶに嬉しそうだな。料理人さん達、頑張って下さい……。

 

 

昨日と同じマリネ。赤身と白身の大輪の花。新鮮な魚はやはり、美味い。うむ。塩と香辛料を振った、小海老の素揚げ。ほぐした蟹と、ジャガイモと白菜のクラムチャウダー風のスープ。蟹の出汁が、ほどよく充分に効いている。そして、大振りの海老の炭火焼き。

贅沢な逸品。いい歯応え。じわりと、海老の味が口に広がっていく……微かな炭の薫りが、海老の味を引き立てる。美味いな、本当に美味い。

「クレイドル様、どうぞ」

メイラーナさんが、炭酸割りの果実酒を勧めてくる。果実酒の香りが、炭酸に乗って来た。

いい香りだ。一口啜る……甘さは控えめ、炭酸とともに、香りが口の中に広がる。

「港町は、いいですね。新鮮な魚介類がいつでも食べられる」

切り分けられた、海老の炭火焼きを口に運ぶ。

炭火の焼き物は、本当に素晴らしいな……。

 

「明日、城塞都市に戻るか」

ジャンさんが、冷えたエールを口に運びながら言った。

「うん。少年も充分に経験を、積めただろうしな。潮時だ、な」

マリネを口に運びながら、ミルデアさん。

「小海老の素揚げ、いいものですね。塩と香辛料のバランスがいい……戻りましょうか、拠点に。素揚げと酒の相性は何ともいいですねえ」

レンケインさんは、小海老の素揚げを摘まんでいる。

「え……そ、そんな。クレイドル様は、どうなのです? この宿に、飽きたのですか!? もう少しだけ、御逗留する訳には……!?」

こうなるか……でもなあ、メイラーナさん。

「飽きた訳じゃないですよ。逗留時期はあらかじめ、決めていたんですよ……お世話になりました」

はっきりという。自分の言葉でな……だ、が。

隣り合わせに座るメイラーナさんの手に、何故か手を重ねる、俺……うおぉい! こんな形で出るか! 邪神の加護! 邪神め!!

「ああ……クレイドル様。必ず、また必ず、戻って来て下さいましね!」

ぎゅっ、と手を握り返された……邪神が!!

 

早朝。朝食後、城塞都市に戻る準備を済ませて、馬車を待つ。

宿から出る時に、メイラーナさんと少々揉めたが、何とか出発する事ができた。というか、未亡人殺しとか言ったの誰だ!?

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