邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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修行、訓練パートの一区切り。




第35話 城塞都市 魔導卿の最終指導

 

冒険者ギルド内は、何も変わっていない。まあ当然か。何日も経っていないからな……。

「クレイドル君! 何をしていたんですか!」

ギルドに足を踏み入れて早々に、受付嬢のリネエラさんが、肩を怒らせ言い放ってきた。ええ……何で怒られるんだよ。

「港町ハルベルトリバーに、行ってたんですよ。聞いてたでしょう?」

「違いますよ! その事じゃあ、ありません!!」

なら何だよ……いや、心当たりある、か?

「宿主の未亡人を、口説いたらしいですね!? いやらしい! 私がいるというのに、未亡人なんて!」

未亡人を口説いた。だとか、私がいるというのに。というのは……納得いかないが……ああ、先行してギルドに戻っていた、ジャンさん達からの報告を曲解して聞いたんだな……入手した一部の素材を、スティールハンドに持ち込む役を引き受けて、宝石類をメルデオ商会に持ち込んだ。

メルデオさんからお茶をご馳走になりつつ、港町での出来事を話したんだ。

しまったな。ジャンさんからは、用が済んだら早く戻れ、と言われていたのを忘れていた……。

もしかして、こういう事になるのを予想して、早く戻るように言ったのか?

カウンター奥から、ジェミアさんが涙目で睨んでいるし、サイミアさんは能面みたいな顔付きで見つめてくる──未亡人口説いた、年増殺し、年上好き──先輩冒険者達が、ぼそぼそと囁いている。

いかん。これは訂正しないと……邪神の加護は発動しない!!

「違うんです。誤解なんですよ。俺は年増好きじゃありませんし、未亡人、口説いてなんかいません」

先輩達は、あからさまに疑惑の目付きで見てくる……何ぞ!?

「何が違うか、言ってみろ」

二階から降りてきた、ダルガンさんが言う。

ニヤリ、と笑みを浮かべている。分かってて、言っているな……。

「町から出る時、お世話になりました。と言ったら手を握られただけですよ」

半分のウソくらい、いいだろう……。

「本当かあ? おい」

「本当、です」

「まあ、いい。分かった……訓練場に戻りな」

先輩達とリネエラさん達の視線は、無視だ。

俺は、何も悪くない。何の、負い目も無い!!

 

 

「そんな事が……やっぱりな。散々だったな」

ジャンさんが苦笑混じりに言った。

「曲解されましたねえ。だから、早く戻るように言ったんですよ」

茶を啜りながら、レンケインさん。

「うむ。私達が話したのは、大河亭の女将に招かれ、世話になったという事。その女将が、少年に色目を使っていたというくらいだ」

色目て……それが原因で、リネエラさん達が曲解、妄想したのでは……?

レンケインさんが、お茶を入れてくれた。

茶を啜り、皿に盛られた、砂糖まぶしの薄焼きを摘まむ。歯触り良く、美味い。

「ハルベルトリバーは、どうだった?」

朱ローブのメイギスさんを従えた、金縁の漆黒のローブ、ラーディスさんだ。

 

 

ははははっ、と明るく笑うラーディスさん。

「いや、すまないな。くくくっ……仕方無いぞ、クレイドル君。その容貌では、なあ」

美味そうに、茶を啜るラーディスさん。

「で、悪魔素材の瘴気抜きをすればいいんだな? 構わんよ。まずは、素材を見せてくれ」

ジャンさんが地面に布を広げ、赤闇の兇殻から回収した甲殻と鋏、尾針を並べる。

「ふうん。赤黒の鋏の素材か……蠱虫の洞窟からか? だとしたら珍しいな。ダルガンさんに報告した方がいい。悪魔系の討伐は、ランクアップの対象になるからな」

興味深そうに、並べられた悪魔素材を見ながら、ラーディスさんが言う。

「よし、始めるか。メイギス、手伝え。俺がいいと言うまで、浄化し続けろ」

「分かりました」

にこり、と微笑むメイギスさん。

 

 

昼食前。メニューは野菜と鶏肉の雑炊。ジャガイモと豚肉の煮物に、チーズ。酢漬けの野菜。

メニューを伝えに来たマーカスさんに、頼まれていた大量の干し魚を渡す、ジャンさん。

喜んだマーカスさんは、夕食に干し魚を使った料理を出すといった。ううむ、楽しみだ。

「済んだぞ。瘴気は消したとはいえ、混沌属性は残るからな……それと、腕輪と剣の鑑定はメイギスが済ませた」

「腕輪は、単純に水耐性。青鞘の長剣は、水属性の剣でした」

微笑みながら、メイギスさんが言う。ラーディスさんが、ミルデアさんを見る。

「うん。リザードマンは基本的に魔術とは縁遠いが、水属性とは相性がいいからな。良ければ、ミルデアが使うのがいいと思うが?」

「む、私がか……ちょっと、見せてくれ」

メイギスさんが、ミルデアさんに剣を渡す。

青い鞘から、ゆっくりと抜き、刃を確認するミルデアさん。刃渡りは大体、八十センチ、柄を合わせると百センチはある様に見えた。身幅は七センチ強、て感じか? 幅広で切っ先長め。刀身は、透き通った青色。綺麗な剣だな……。

ううむ、と唸るミルデアさん。まじまじと、剣を眺めている。どうやら気に入った様に見える。

 

「少し魔力を込めて、振ってみるといい」

ラーディスさんの言葉に頷き、打ち込み用の木偶人形に向けて、剣を構えるミルデアさん。

すうっ、と上段に構え……そのまま、袈裟斬りに振り下ろす──水しぶきと同時に木偶人形が斜めに斬り落とされた。

「おおう……これはいいな。業物だ」

まじまじと、青の剣を眺めるミルデアさん。顔には、微笑みが浮かんでいる。

「ミルデア、良かったら使えよ」

「いいですねえ。ミルデアなら、巧く使いこなせると思いますよ」

ジャンさんとレンケインさんが、言った。

「ふむ。使わせてもらうか。これは、いい物だ」

機嫌良く、ミルデアさんが笑った。

 

 

さて、赤闇の兇殻の素材をどうするか、という事になった。

「さっきも言ったように、瘴気は完全に消したが、混沌属性は残っている。特性としては……魔力耐性と、ある程度の状態異常耐性だな。甲殻と鋏は、防具に加工出来るだろうな。尾針は治癒院にでも持ち込めば、いい治癒薬を作ってもらえる。それか、良い値で売れるだろう」

ゴンゴン、と甲殻を叩くラーディスさん。頑丈で軽量な胸当てや、籠手が造れるとの事だ。防具かあ……。

「魔導卿。お礼と言っては何ですが、混沌属性の魔石です。納めて下さい」

レンケインさんが、魔石をラーディスさんに差し出す。

「む……いいな、貰っておこう。混沌属性の魔石は、入手が面倒だからな」

魔石を陽にかざし、嬉しそうに笑った。

 

 

夕食。干し魚たっぷりの炊き込みご飯。他の具は細かく刻んだ、椎茸、青ネギ、ニンジン。

汁物は、鶏肉のつみれに白菜の具。酢漬け野菜に、香辛料を擦り込んで炙った、干し魚。

おお……炊き込みご飯か。この世界で食べられるとは。よし、いただきます。

 

「いきなりだが、私はあさってには帝都に戻る。そこで相談だが、明日一日とあさっての午前中、私にクレイドル君の指導時間をくれないか。魔力制御の最終指導を行いたい。生活魔法と浄化はある程度、出来ていると見た。だが魔力制御はもう少し、教えておきたい」

食事を終えたラーディスさんがいう。炊き込みご飯の大盛り二杯に、鶏肉のつみれ汁二杯……ずいぶん、食うなあ……魔導士というのは。

「まあ、それはクレイドル次第ですが?」

「僕は、構いませんよ。同じく、クレイドル君次第です」

ジャンさんとレンケインさんが答える。

「折角の機会だ。習っておくべきだな」

ミルデアさんが、青の剣を眺めながら言った。

 

魔力制御の最終指導か……よし、受けよう。

魔導士から直々に教えを受ける事など、そうはないだろうからな……。

「よろしく、お願いします」

ラーディスさんに頭を下げる。

 

「よし、いいだろう……取り合えずの、一区切りといくかね」

ラーディスさんが、嬉しそうに笑った。

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