邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第36話 城塞都市 スパルタ指導 灰と隣り合わせの訓練

 

 

ラーディスさんの最終指導。受けた事を後悔する程のものだった……最初の課題、魔力をぶつけるからそれを押し返せ、という事だったのだが──「ああぁぁっ!! 熱いっっ!!」「熱くないっ! 押し返せっ!!」

 

 

いや、熱いだろう。と、訓練場にいる冒険者達は思った。クレイドルの正面。炎の壁が展開している。

赤き壁を、必死に自分の魔力で、押し返そうとしているが……非情にも、ジリジリと壁は進んで行く。

「もっと押し返せ! 壁を魔力で包囲するイメージを持て!! 気合いと根性、出せ!!」

いや、無茶だろう。と、冒険者達は思う。

「先人曰く、『気合いと根性など簡単なもの、気合いと根性を出せばいいだけ』との事だ!格言だろう!」

「おおぉぉお!!」

「即死しなければ、治癒出来るからな! 壁を包め!!」

「ああぁぁあっ!! 熱いっっ!!」

「熱くないっ!!」

いや、無茶苦茶だ。と、冒険者達は思った。

 

 

午前中の訓練が終了した……炎の壁を、何とか気合いと根性で押し包んだ、と思った瞬間に──気を失った。意識の回復後、昼食まで休憩となったので、シャワーを浴びに行く事にした。

俺が昏倒していた間、ラーディスさんはジェミアさん、リネエラさんに責められたそうだ。

──人でなし 加虐趣味 性倒錯者 魔術至上主義の異常者 黒ローブ野郎──等。

ラーディスさんは二人の抗議に対し、煙管の煙を吹き掛け、撃退したそうだ。黒ローブ野郎って……午後も、あるんだよな……。

 

 

シャワー後の休憩。そして昼食の時間。

パンとチーズに酢漬け野菜。一口大に切り整えられた干し魚とジャガイモ、白菜の煮物。ベーコンと青菜の野菜炒め。

うん、美味かった。午後に備えるに、充分な食事だったな。ラーディスさんとメイギスさんは、オーガの拳亭に行ったそうだ。拳亭か……う~ん。

「散々だったねえ。何とも、無茶な訓練だよ」

「ふむ。魔術師の訓練というのは、何とも過激なものなのだな」

レンケインさんとミルデアさんが、茶を啜りながら言う。

「いや、あれは異常だろう……だが、クレイドル。無茶なだけの効果はあると思うぞ」

ジャンさんが、焼き菓子を摘まむ。

確かに、昏倒から目覚めた後は、妙に心地良い倦怠感を感じた。魔力制御が上手くいった時の感触。

「キツかったですが……はっきりと、魔力の成長を実感できた、訓練でしたよ……」

午後の訓練に覚悟を決める。即死しなければ大丈夫との、ラーディスさんの言葉を信じよう…さあ、少し仮眠するか……。

 

 

 

「美味かった。さすが、オーガ亭」

紙のナプキンで口を拭うラーディス。

ほどよく焦げ目の付いた、照焼きのチキンステーキ。玉葱、キャベツ、ニンジンの野菜スープ。

パンと、厚めに切ったチーズ。きゅうりの酢漬け。

ラーディスは、チキンステーキを二枚。野菜スープを二杯。酢漬けを全部。同行しているメイギスもまた、同じように、食事を平らげている。

「皮のパリパリ具合と柔らかい部分が、何とも絶妙でした……」

メイギスは目を細めながら、炭酸水を口に含んだ。

「酢漬けも、良かった。砂糖少し入れたか」

黒ワインを呷るラーディス。

「あら、さすがね~酢漬けは、お店の顔だから、一番大事にしなければいけないのよ~」

「ふむ。なるほどな。実家の料理人も似たような事を、言っていたな」

「そういえば、今はクレイドル君を鍛えているんだってねえ~」

「ああ、今日と明日までな。そろそろ戻れと、帝都から言われていてな……なかなかに面白い奴だよ。クレイドル君は。そういえばお前、彼を無駄に痛い目に合わせたんだってな?」

「う……あれは~その……」

ミランダが、ラーディスから目を反らした。

 

 

午後の訓練。午前のものとは、少々変わったものだった。空の魔石に、魔力を込める訓練だという。

「魔力制御の一環だよ。君は属性持ちではないから、ただ単純な魔力を、空の魔石に込めるだけだ……まずは自分の魔力を認識。そして魔力を注ぐ……やってみろ」

すうっ、と息を吸い、魔石を手に取る──自分の魔力か──魔力を掴み認識、魔石に……うわ、キツいな、これ──耐えるよりも──

「息を、吸って、吐くようにすればいいのよ。気負ったら、ダメ。染み込ませるようにするの」

メイギスさんの声。息を吸って吐く、なるほどな、確かに気負い過ぎていた。

考えれば、自然な事だ。ラーディスさんも言っていたな──魔力は自由で公平。うん、そう考えれば、どうという事は──無い。

 

 

結果。魔力枯渇で昏倒。空の魔石に、充分な魔力を充填出来たと、実感した瞬間に……倒れた。

目を覚ますと、訓練場の長テーブルの上だった。

「目が覚めたか。まあまあ、やれたな。気付いただろうが、単純に魔力を放出するならば、それほど難しくない。一定の場所に集中して、魔力を行使するのは難易度が上がる……うむ。魔力制御の基本は、もう充分だな」

ラーディスさんが、魔石を掲げながら言う。

「ほら、君が持っていろ。君の魔力の結晶だ」

ニヤリ、と笑い魔石を渡して来るラーディスさん。慎んでそれを受け取る。

「まあ、今日の所はこんなものかな。明日の半日が最後だ」

微笑む、ラーディスさん。メイギスさんの笑みも、見えた。

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