東門から出て、小一時間。草原の中に直線の広い道。旅人や馬車が行き来している証のように、舗装された幅広い街道が、真っ直ぐ延びている。
その先には、山脈が南東に向かって、大きくそびえているのが見える。
「クレイドル。あの山の麓には、エルフの里がある……ええと、何だっけか?」
「エルフ領マルヴェールト峡谷ですね。その近くには、マルヴェナの村があります。ワインの名産地と同時に、湖畔から取れる魚介類の料理は絶品ですよ」
ジャンさんとレンケインさんの会話。マルヴェナの村か、覚えておこう。エルフの里かあ。
「ワインはあまり好きではない私でも、あそこのワインは美味いと思うぞ。塩をまぶした素揚げの小魚との相性は、抜群だ」
うむ、と頷くミルデアさん……いや、青葉の庭の話を聞きたいんですが……。
街道から逸れてしばし行くと、青葉の庭に到着。入り口というか、ぽっかりと大きく広がる穴……下りの階段が見える出入り口。周囲に、他の冒険者の姿は見えない。
「ここは、人気無いんだよ。実入りは、昆虫系の素材が中心でね。半端な稼ぎの割りに、危険度を考えるといまいち何だよねえ」
「うむ。昆虫系、魔獣系ともに、何らかの状態異常持ちが多いからな。それなりの対策をしてないとリスクが高めなのだよ」
レンケインさんとミルデアさんは、何の躊躇いもせず、すたすたと入って行く。
「直ぐに、魔物と鉢合わせする事は無いだろうからな、大丈夫だ」
ジャンさんに、肩を叩かれた。
青葉の庭。一見の価値あり──とは言っていたが、いやこれは──青葉の庭に入った先には、明るく照らされた、草原が広がっている。草原の端々には草むら。木々の茂み。何でダンジョンに、こんな自然があるのだろうか……。
「まあ、気にするな。こういうものだと、思うしかない」
周囲の気配を探りながら、ジャンさんがいう。
自然に、ミルデアさんとジャンさんが、前衛に立つ。その後ろに俺。レンケインさんは背後で、生物の気配を探っている……生命探知、だっけか。
「お、兎だ」
言い終わる前に、ミルデアさんが短刀を投擲した。兎の首に見事命中。即死──
「素早いな。おい」
ヒュウ、と口笛を吹くジャンさん。
「血抜きをしましょう。クレイドル君、捌き方を教えるよ」
お、おおう……本当に、手早いな。
「ここに切れ目を、入れて─少しづつ剥がしていくんだ。そして一気に、広げるように剥がす」
ビッビビッ─嫌に小気味いい音。手際よく兎の皮を綺麗に剥がし、血塗れの肉塊に浄化をかけるレンケインさん。
おお……血が浄化され、綺麗なピンク色になる、兎肉。浄化、便利だな。
「レンケイン、私が肉を捌こう。可食部は少ないが、骨からいい出汁が取れる。後で兎肉のシチューといこうか」
ミルデアさんが肉を受け取り、内臓を引きずり出すと、手早く解体する。首を落とし、足を切り分けた。
レンケインさんが、生活魔法の土属性で穴を深目に掘り、そこに内臓を放り込んで、あっという間に埋めた。
「クレイドル君。可食しない部位は、深く埋めるんだ。獣や魔物が、掘り起こすと面倒な事になりかねないからね」
「食料の現地調達は、常に考えておいた方がいいぞ、少年」
「調味料は、塩くらいは用意していればいい。塩は大事だからね。あと干し果物もね」
なるほどな。塩、干し果物、大事。
「ピックホッパーの群れを確認した。数は約二十ほど。ボスは居ないようだ。各自、散らばって蠢いている」
いつの間にか、斥候に出向いていたジャンさんが戻って来ていた。
ピックホッパー……異世界知識発動──昆虫系。最大全長八十センチ以上のイナゴ。雑食。全身に短い棘を纏う。
獲物に飛び掛かり、食い付く。顎の力は侮れない。棘付きの外皮は堅牢。素材は外皮と魔石。魔石の属性は、土、風──
バッタか……よりにも寄って、苦手なバッタ。
「ボスが居なければ、各個撃破で数を減らして、殲滅すればいいな」
「僕の石礫を斉射後に、各個撃破という流れで行きましょうか?」
「二十と少しか。レンケインの先制で、乱戦に持ち込むのがいいだろうな……少年、顔色よくないぞ?」
ジャンさん達が色々と作戦を立てているが、正直頭に入らない──バッタ死ね。イナゴ死ね。飛蝗は気化しろ──
「今更ながら言いますが、俺は虫が苦手です」
これは、言っておかねばな……虫は、殺さないと、な……ふふふっ。
「今言う事かよ……まあ、いい……虫嫌いを克服する機会だと思え、クレイドル」
ジャンさんが言う。もちろんだ……やってやる……できらぁっ!!
「ふむ。ジャンが中心。私と少年が、左と右でレンケインは、少し後方。それでいいか?」
「む。ミルデアの陣でいいだろう。クレイドル、ミルデア、固まれ。レンケイン、補助頼むぞ」
「了解しました。間合いに入り次第、石礫を放ちます」
「よし、聞いたな。少しづつ、近付くぞ」
好き勝手に蠢く、イナゴ連中が見えた──おぞましい。殺そう──一匹残らず殺す、べし!!