邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第42話 青葉の庭 花園と蝶そして蟷螂

 

レンケインさんの石礫が、蠢く薔薇姫を撃ち叩き、ジャンさんの旋刃が薔薇姫を切り裂く──ミルデアさんが短槍を投げつけ、一体を貫いた。

それに遅れ、手斧を投げる──命中。

ミルデアさんが、手斧が突きたった薔薇姫を、抜き打ちで斬った。新調の青の剣だ。

水飛沫が舞い、薔薇姫の頭部がずり落ちる。

残った二体。一体を、俺が盾で殴り付け、袈裟斬りに斬り払う。

ほぼ同時に、ミルデアさんが、短槍で貫かれた薔薇姫に止めを刺した……短期決戦。十秒少しで決着。

短期戦だからといって、薔薇姫が弱いという訳では無く、もたつくと他の魔物や魔獣を呼び出すのだそうだ……異世界知識で教えてくれなかったな! 邪神め!!

 

「花弁は、なるべく縁に触れず、丁寧に引っ張るんだ。傷付けずに引き抜けば、なかなかの値で売れるよ」

レンケインさんは、花弁を指で摘まみ、引き抜く。道具を使うと傷みやすくなるそうだ。

ジャンさんとミルデアさんは、根を回収している。

「根の先端を、傷付けなければいいんだ」

ミルデアさんは、豪快に、根元を千切るようにむしっている。それでいいらしい。

 

 

素材の回収後、休憩となった。魔道コンロで湯の準備をする。広げた布の上に皿を並べ、干し果物とビスケット。スープではなく、お茶にする。

レンケインさんとジャンさんは、回収した素材の選別をしている。ミルデアさんは斥候に行った。

 

「花園近くまで行ってみたが、蝶がいた。かなり大きかったぞ。うん」

目を細めながら、温めの茶を啜るミルデアさん。

「蝶というと……幻痺の黒羽(げんひのくろは)か。なかなか厄介なのが出たな。俺は補助に回らないといけないか?」

ジャンさんが、補助に回る? どういう事だ?

おう、異世界知識発動──幻痺の黒羽。シャドウフライ。外敵に対して幻惑、麻痺性の鱗粉を撒き散らす。効果は、一時的なもの。単体ならば危険度は高くないが、他の魔物と出現した場合には、幻惑と麻痺の効果は危険なものとなる。素材は、羽根と触角──なるほどな。撒き散らす鱗粉対策に風属性で散らす、か……。

「鱗粉は確かに厄介ではあるが、ジャンの風属性で押し返せるからな。ジャン、頼めるか?」

「任せろ。俺とレンケインは補助、ミルデアとクレイドルが、黒羽を仕留めろ……意見は?」

「意見、というより、質問なんですが」

「うん? 構わんぞ。何だ?」

ミルデアさんが花園と言ったが、蝶以外に……。

「蝶以外の、魔物が出現する可能性は?」

「あるには、ある。だが、幻痺の黒羽は花園の主といってもいい存在だからな。外敵は……ああ、そういえば……ミルデア、黒羽以外には何の気配も無かったんだな?」

「ああ、そうだ。外敵が来るとすれば……蟷螂だ、な。そいつの出現も、視野に入れておこう。黒羽を始末すると、現れる可能性が高くなる」

花園は、ここの魔物、魔獣からは狩り場として見られているらしい。狩り場を、独占している主が居なくなれば……。

「いいとこ、気付いたな。よし、速やかに黒羽を始末。その後は、状況次第で行動を決めるか」

前衛、俺とミルデアさん。ジャンさんとレンケインさんは、補助に回る事になった。

「釘を刺すつもりは無いが、少年。暴走はするなよ」

と、ミルデアさん。蝶は大丈夫です。どっちかというと、蝶は好きですよ。と言うと引かれた。何ぞ?!

 

少し行くと、花園が見えてきた。庭園、とも言える。人の手が入っているはずも無いにも関わらず、妙に整っている。これが青葉の庭の由縁か。

花園の中央、ばさりばさりと羽ばたく大物が見えた──幻痺の黒羽。でっかいな……羽根を広げたなら、横幅百五十は越えている。全長は八十センチほど、か……滞空しながら、花の蜜を吸っている花園の主。こちらには、全く気付いていない。

主の余裕なのか……? 小声で、ジャンさんが囁くようにいう。

「先制だ。俺が風を起こしたら、かかれ。鱗粉を逆流させて、こちらには来ないようにする。口は閉じておけよ、クレイドル。鱗粉吸い込んだら、面倒な事になる」

頷き、鷲の兜のフェイスガードを引き下ろす。すうっと、ミルデアさんが息を整える。

「向こうが気付く前に手斧を投げろ。当たろうが外れようが、関係無い。どうあれ、先制が大事だからな」

なるほどな。先制大事……よし……死ねっ!!

スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)の柄に手をかけ、走る──「あ、おいっ!」「またかっ! 少年っ!」「鱗粉、吸わないように気をつけろっ! クレイドル君!」

呼び掛ける声。うん。分かりました。それより、目の前の虫けらを、殺さないと──死ねっ!!

手斧を投げ付ける。ふわりと、避けられた。

予想通り──スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を抜き撃ちで、斬りつける。

ざりっ、とした手応え。片羽根を切り裂く感触だった。

バランスを崩した蝶が地に落ちる。もがく蝶の頭部を、踏む──ぐじり、と気味の悪い感触。

本当に……虫は……気持ち悪い、ものな。

 

その後。叱られた──分かってはいるんだけどなあ……虫め、虫が!!

 

 

幻痺の黒羽の、素材を回収。片羽根と触角二つに、魔石。羽根と触角は、魔術の触媒になるそうだ。魔石の属性は、風。

 

「新しい主がやって来るまで、そう時間は無い。蟷螂が来るか、でなければ……」

「甲虫の可能性もありますね……どっちにしろ、強敵ですよ」

ジャンさんとレンケインさんが、俺を横目で見ながら言う──むむむ……。

 

 

ここで帰還する。という、選択肢。そして、新たにやって来る花園の主を、待ち受けて討伐する。という選択肢──ミルデアさんが、斥候から戻って来て、言った。

「蟷螂だ。花園の主が消えたのが、分かったんだろう。間もなく、来るぞ」

ジャンさんが少し考え、言った。

「よし……仕留めよう……クレイドル、今までのようにはいかないぞ。蟷螂は、ここの生態系のトップクラスだ。抑えて連携を取れ。いいな」

「分かりました……やります。ただ、少し後ろに下がってもいいですか? 冷静に状況を観たいんです……」

虫を見た瞬間、カッとならない方法は一つ、距離を取って、状況を観る事だろうから……。

「いいだろう。ひとまず、俺とミルデアが前に出る。レンケイン、クレイドルを抑えろ。戦闘が始まったら補助を。状況を観て、クレイドルを放せ……いいな、クレイドル。冷静になれ」

「分かりました。クレイドル君、僕の側から離れるな……いいかい、離れたら駄目だからね。蟷螂討伐は、死人が出てもおかしくないほど、難度が高いからね」

がっしりと、マントの裾を掴まれる。むむむ、仕方ない──何時でも、手斧を引き抜けるようにしておく。

蟷螂かあ……ここの世界でも、純粋な肉食なんだろうな──

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