邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第43話 青葉の庭 鋼の四つ鎌

「おい、見ろよ、四つ鎌の特殊個体だ。珍しいもんだな」

「普通の蟷螂じゃないな……うん。大物だ」

ジャンさんとミルデアさんが、話し合う。

花園に向かって来る、全身赤銅色の大蟷螂。

うわ……大きいな。体高、優に百二十は越えているだろうし、四枚の鎌を広げれば、横幅百八十はあるか? 全長は四メートル以上はある……。

牙顎をガチガチと鳴らし、四つの鎌を振り上げて、周囲を威嚇している。

「クレイドル君、一人じゃあ無理だよ、あれは。いいね?」

今だ、マントの裾を掴んでいるレンケインさん。分かっていますよ……あれは、さすがに──おおっと、異世界知識発動──死の四つ腕。鋼の四つ鎌。デスサイス。四つの鎌のみならず、顎の力も尋常ではない。飛びかかり獲物を抑え、顎で捕らえて、鎌で斬り断つ。

複眼で周囲を見渡し、隙は見せない。素材は、ほぼ全部位──なるほどな、一財産できるほど、か……危険度に釣り合うかは、別の問題なのだろうな──

「見ての通り特殊個体だ。レンケイン、補助頼む。クレイドル、お前は遊撃に回れ。冷静にな」

「頼むぞ少年。あれは、普通の蟷螂じゃない。直接、鎌は受けるなよ。盾ごと斬り落とされるからな」

分かりました──と上の空で答え、四つ鎌をじっと観る……うん? あの腕、何か妙だな……。

「来るぞ。レンケイン頼む。ミルデア、正面から行くぞ」

レイピアを抜くジャンさん。ピィンッ、と刃が鳴る。

「私が右に回る。ジャン、左側頼む」

ミルデアさんが静かに移動する。それに合わせながら、ジャンさんが動く。蟷螂の視線が、左右にキョロキョロと動く──ああ、分かった。四つ腕の動き。左右別にだが、四つ腕を別々に動かす事が出来ないのだ──なら、その動きは直線的だろう。フェイントやらは出来ないのだ……この蟷螂は……。

そろそろ、裾を離してくれまいか? レンケインさん?

 

ギギィイッンッ──鋼と鋼が、交差する音。刹那の火花。ジャンさんの風属性と、四つ鎌が噛み合う音。

やっぱりな、左側の二つ腕が同時に、ジャンさんの風属性の攻撃を弾く。同じ動きしか出来ない。やはりな──ミルデアさんの、短槍がいつの間にか、四つ鎌の横腹に突き立っている。

ダメージは見えない──虫だから痛みは感じていないのだろうが、その動きにぎこちなさが見える。充分な隙が出来るだろう。

ジャッ、と青の剣を抜くミルデアさん。水滴る青の剣。それを蟷螂の足目掛け、振るう。

「ふふん……足、貰ったぞ」

ビシィッンッ──蟷螂の左足が二本切断され、その身が少し沈む──と同時に、大量の石礫が蟷螂に降り注いだ。レンケインさんの魔術。

「クレイドル君、分かっているね……行けっ!」

猟犬が如く、解き放たれる俺。蟷螂の背後に回るべく、大きく迂回する──落ち着け、俺。

蟷螂が、片目でぐるりと、こちらを見た──何の感情も伺えない嫌な目付き──

「よそ見は、いけねえな。蟷螂さんよ」

ジャンさんが、剣を掲げると同時に──パシィイン──蟷螂の背に、落雷一撃。

蟷螂の体が、一瞬、青い光に包まれた。

ギギッギィィィ! 蟷螂が鳴く。その背に飛び乗り、目指すは──その首。

逆手に持ったスケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を、ジャンさんの雷撃に怯む、四つ鎌の頭部に押し込みながら、横薙ぎに力を込める……ガツリ、とした堅い手応え。ここから、思いきり横に、斬る──そのまま首を、跳ね斬った。

勝った……ドンッ、蟷螂の体が跳ね上がり、俺の体が宙に投げ出された。

昆虫特有の生命力。首を落とされたにも関わらず、ジダバタともがく四つ鎌。意識も何も、無いだろうに──蟷螂の背から転がり落ち、武器を構える俺。

「クレイドル、下がれ。放って置けば、直に動きは止まる」

レイピアを鞘に納めながら、ジャンさんがいう。

やがて、蟷螂の動きが止まり横倒しになる。その身は、もう動かない──

「素材を回収しましょうか……特殊個体ですからね、一財産になるでしょう」

気だるげに、レンケインさんがいう。

「少し、休ませてくれ……ミルデア、クレイドルと一緒に、素材回収を頼む」

ジャンさんが、地べたに座り込みながら、言った。二人とも、魔力を相当に使ったのだろう。

明らかに、疲労が見てとれた……御苦労様、です。

「うむ、任せろ。少年、こいつの素材は無駄に出来る部位は、ほとんど無いからな。特殊個体は特に、だ」

ミルデアさんが、嬉しそうにいう。素材回収のいい勉強になりそうだ……。

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