「おい、見ろよ、四つ鎌の特殊個体だ。珍しいもんだな」
「普通の蟷螂じゃないな……うん。大物だ」
ジャンさんとミルデアさんが、話し合う。
花園に向かって来る、全身赤銅色の大蟷螂。
うわ……大きいな。体高、優に百二十は越えているだろうし、四枚の鎌を広げれば、横幅百八十はあるか? 全長は四メートル以上はある……。
牙顎をガチガチと鳴らし、四つの鎌を振り上げて、周囲を威嚇している。
「クレイドル君、一人じゃあ無理だよ、あれは。いいね?」
今だ、マントの裾を掴んでいるレンケインさん。分かっていますよ……あれは、さすがに──おおっと、異世界知識発動──死の四つ腕。鋼の四つ鎌。デスサイス。四つの鎌のみならず、顎の力も尋常ではない。飛びかかり獲物を抑え、顎で捕らえて、鎌で斬り断つ。
複眼で周囲を見渡し、隙は見せない。素材は、ほぼ全部位──なるほどな、一財産できるほど、か……危険度に釣り合うかは、別の問題なのだろうな──
「見ての通り特殊個体だ。レンケイン、補助頼む。クレイドル、お前は遊撃に回れ。冷静にな」
「頼むぞ少年。あれは、普通の蟷螂じゃない。直接、鎌は受けるなよ。盾ごと斬り落とされるからな」
分かりました──と上の空で答え、四つ鎌をじっと観る……うん? あの腕、何か妙だな……。
「来るぞ。レンケイン頼む。ミルデア、正面から行くぞ」
レイピアを抜くジャンさん。ピィンッ、と刃が鳴る。
「私が右に回る。ジャン、左側頼む」
ミルデアさんが静かに移動する。それに合わせながら、ジャンさんが動く。蟷螂の視線が、左右にキョロキョロと動く──ああ、分かった。四つ腕の動き。左右別にだが、四つ腕を別々に動かす事が出来ないのだ──なら、その動きは直線的だろう。フェイントやらは出来ないのだ……この蟷螂は……。
そろそろ、裾を離してくれまいか? レンケインさん?
ギギィイッンッ──鋼と鋼が、交差する音。刹那の火花。ジャンさんの風属性と、四つ鎌が噛み合う音。
やっぱりな、左側の二つ腕が同時に、ジャンさんの風属性の攻撃を弾く。同じ動きしか出来ない。やはりな──ミルデアさんの、短槍がいつの間にか、四つ鎌の横腹に突き立っている。
ダメージは見えない──虫だから痛みは感じていないのだろうが、その動きにぎこちなさが見える。充分な隙が出来るだろう。
ジャッ、と青の剣を抜くミルデアさん。水滴る青の剣。それを蟷螂の足目掛け、振るう。
「ふふん……足、貰ったぞ」
ビシィッンッ──蟷螂の左足が二本切断され、その身が少し沈む──と同時に、大量の石礫が蟷螂に降り注いだ。レンケインさんの魔術。
「クレイドル君、分かっているね……行けっ!」
猟犬が如く、解き放たれる俺。蟷螂の背後に回るべく、大きく迂回する──落ち着け、俺。
蟷螂が、片目でぐるりと、こちらを見た──何の感情も伺えない嫌な目付き──
「よそ見は、いけねえな。蟷螂さんよ」
ジャンさんが、剣を掲げると同時に──パシィイン──蟷螂の背に、落雷一撃。
蟷螂の体が、一瞬、青い光に包まれた。
ギギッギィィィ! 蟷螂が鳴く。その背に飛び乗り、目指すは──その首。
逆手に持ったスケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を、ジャンさんの雷撃に怯む、四つ鎌の頭部に押し込みながら、横薙ぎに力を込める……ガツリ、とした堅い手応え。ここから、思いきり横に、斬る──そのまま首を、跳ね斬った。
勝った……ドンッ、蟷螂の体が跳ね上がり、俺の体が宙に投げ出された。
昆虫特有の生命力。首を落とされたにも関わらず、ジダバタともがく四つ鎌。意識も何も、無いだろうに──蟷螂の背から転がり落ち、武器を構える俺。
「クレイドル、下がれ。放って置けば、直に動きは止まる」
レイピアを鞘に納めながら、ジャンさんがいう。
やがて、蟷螂の動きが止まり横倒しになる。その身は、もう動かない──
「素材を回収しましょうか……特殊個体ですからね、一財産になるでしょう」
気だるげに、レンケインさんがいう。
「少し、休ませてくれ……ミルデア、クレイドルと一緒に、素材回収を頼む」
ジャンさんが、地べたに座り込みながら、言った。二人とも、魔力を相当に使ったのだろう。
明らかに、疲労が見てとれた……御苦労様、です。
「うむ、任せろ。少年、こいつの素材は無駄に出来る部位は、ほとんど無いからな。特殊個体は特に、だ」
ミルデアさんが、嬉しそうにいう。素材回収のいい勉強になりそうだ……。