花園の攻略時点で、撤収と決まった。
花園の主、二体をその日一日で倒した事は中々に珍しい事らしい……ギルドへの報告は、ジャンさん達が請け負うとの事。特殊個体撃破は、貢献度上昇に大きく関わるとの事……なるほど。
青葉の庭から出た頃には、夕刻近くになっていた。今から城塞都市に戻るのは、しんどいという事で、青葉の庭の出入り口近くで夜営をして、明け方に城塞都市に帰還と決まった。
さっそく、夜営の準備をする。夜露を凌ぎながらの寝袋の使い方。テントの使い方等。
知識と実践は、別なのだな……まだまだ、学ぶ事は多い……雨は来ないというので、焚き火を中心に、明け方まで眠る事が出来ると、いう事だ。言葉に、甘えておこう……何か、あれば……スゥ。
明け方。爽やかな鳥のさえずりが、心地いい。
一番最後に目覚めたのは、俺だった。魔道コンロで沸かされたお湯が、クツクツ鳴っている。
ジャンさんが、敷いた布の上に並べた皿の上に干し果物とビスケット、そして炙った干し魚を置いている。
「スープは、ミルデアが戻ってからだ」
ミルデアさんは、周囲の見廻りに行っているそうだ。俺はバッグから、携帯用の小さな洗面器を取り出し、生活魔法で顔を洗うための水を満たす。うむ、便利だ。
ミルデアさんが戻って来た。何も、異常無しとの事。 レンケインさんがカップにスープを注いでくれる。いつもの乾燥豆と野菜のスープ。
食事中の会話は、とりとめのないものから、回収した素材の取り扱い、等──
やがて日が完全に明けた頃。食器を片付け、城塞都市に帰還する事になった。
素材の取り扱いは、土属性の魔石はレンケインさんが、幻痺の黒羽と鋼の四つ鎌の素材は全て売却という事に決まった。
蟷螂の素材は、いい武具の材料になるらしいが、ジャンさん達は特に武具を新調するつもりは無いそうだ。
これだけの素材なら、相当な実入りになるらしい。まあ、ジャンさん達に任せよう。金はいくらあってもいいのだ。
「城塞都市に戻るか。今から出れば、昼前には着くだろう」
あくび混じりに、ジャンさんがいう。よし……戻ろう。拠点に──
「ふうん……花園の主、黒羽と四つ腕仕留めたか。四つ腕は特殊個体か……前の、赤闇の蠍を仕留めた件といい、なかなかに貢献してくれてるな、しっかり覚えておくぜ」
ジャンベールを前に、ダルガンデスがいう。
「面子がいいんですよ。レンケインにミルデア……そして、クレイドル」
「相当に、無茶するらしいな。クレイドルは」
茶をゆったりと啜りながら、ダルガンデスがいう。
「あれは……何というか、冷静な無茶。て感じですかね。あと異常な虫嫌いです」
「ううん?……冷静な無茶は、分からねえでもねえが、虫嫌いってのは?」
「ああ……それはですね」
さて、暇だ。ジャンさんのいう通り、昼前に城塞都市に到着した。
ギルドに戻り荷物を置いた後、回収した素材をギルドに納めた。その時の買取り値は、手数料を引いても相当な値だった。
四人で分配しても、かなりの金額。その場で、ギルド口座に入金してもらう事になった。
その際、興奮したジェミアさんが掴みかからんばかりの勢いで迫って来たのが、怖かった。
リネエラさんが、丁寧にジェミアさんを引き剥がさなかったら、逃げていたかもしれない。
「将来設計は、大事ですから! 大事ですよ!!」
むふう、と鼻息荒く、再び迫って来たジェミアさんは、リネエラさんに引きずられて行った。
入金手続きは、サイミアさんに頼んだ。
「はい。手続きは終了です。入金証明書と、手帳をお返ししますね」
サイミアさんから、証明書とカード代わりになる手帳を受け取る。
手帳は本人の魔力を流さない限り、使用出来ない。暗証番号の代わりらしい。微量の魔力でもいいそうだ。帝国領内なら、何処でも使えるとの事。
「結構、貯まっていますねえ……ゆくゆくは、ここ城塞都市で住居を構える事をお勧めしますよ?」
うふふ、と笑うサイミアさん……目が、笑っていない。妙に、鼻息荒くないか?
昼食は……ギルドで食べよう。
「想像よりも相当に稼げたな。黒羽と四つ鎌の素材は、やはり高級品か」
ミルデアさんが、濃い目のタレがかかった茸と青菜炒めを口に運びながらいう。
いや、これ美味いな……うん、飯に合う。
「いい茸が手に入ってな。茸尽くしにしたんだよ。うん、我ながら良く出来たもんだ……」
マーカスさんがいう。茸と青菜の歯応えがバランスよく口に響く。そして、汁物は──
「むう……このトロミ、いいな。うむ、出汁が効いていて、美味い……」
ミルデアさんが、目を細めながらスープを啜る。出汁の効いた、トロミのあるスープの具材もまた、いい──豚肉、ニンジン、白菜、茸。
「米でよかったな。うん……美味い。さすがマーカス」
ダルガンさんのお墨付き。当然だな……うん。
茸と青菜炒め。野菜たっぷりのあんかけ豚汁に米。そして、いつもの酢漬け野菜は白菜だ。
ジャンさんとレンケインさんは、ただ無言であんかけ豚汁を楽しんでいる。
よし、ここは……「マーカスさん、米と汁のお代わりお願いします」
おう、とマーカスさんがお代わりをよそってくれた……これをだな……皿に盛られた米を、あんかけ豚汁に投入する。
スプーンで、米をゆっくりとかき混ぜる。この世界で、こういう行為がどう思われるのかは、分からないが……中華丼というやつだ。最も、少々具は足りないけどな。特に、ウズラの卵。
「いただきます」
中華丼(仮)をスプーンですくい、口に運ぶ。
おおう……悪くない、悪くないぞ。うん、中華丼だ、中華丼──「おい、クレイドル……何だ、それは」
マーカスさんの声。う、やはり良くない行為だった、か……?
「飯と菜を混ぜるかあ。なるほど、なかなか悪くねえ…どんぶり飯の上に菜を乗せる事も悪くねえか? 食器洗う手間も少なくなるし……」
ふむふむ、と一人合点をしながら、マーカスさんは、俺と同じ様にスープに米を投入し、啜り始めた。
「なるほどな……雑炊とはまた、違う感じだな……応用が、効きそうだな。この食い方は」
具材次第で、どんぶり飯を……量を、食うならば……腹持ちが……。
料理人モードになってしまったマーカスさんが、ぶつぶつと呟き始めた。
最早、自分がどうこうも、出来ない──
「ご馳走さまでした」
礼を言い、立ち上がる──今日の午後は、どうするか──さてと……ジャンさん達は、自由行動として、思い思いに去って行った。
夜に集まり、酒でも飲もうと決まっているが、さて夜までどうするか……ああ、そういえば、煙管だ。
ラーディスさんが言っていたな。魔力制御に役立つ、と。
ううむ。正直、煙管に興味あるんだよなあ……前世では、煙草には何の興味も無かったが、煙管かあ……よし、試してみるか。
となれば、メルデオさんとこか……大概のものは手に入るみたいだからな。