邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第48話 竜骨の騎士 戦場の華

 

 

 砦内にいる武装スケルトンの小隊。約四十……か。ふうん……二十の衛兵隊では、無理だろう。

 衛兵の実力を舐めるわけでは無いが、数が多い。集団戦闘の訓練だというが、ちょっと相手が悪い。

 マーカスさんの見立てでは、竜骨スケルトン二体が小隊を率いているとの事。ちらりと、砦内の覗いて見たが、竜骨スケルトンを確認した……。

 完全武装のスケルトン。上下のフルプレートに両手剣──生前は、名のある騎士だったかも知れないな……それが二体。それぞれ、二十の小隊を率いているようだ。

 手強いだろうな、これは……斥候はこれくらいでいいだろう。よし、マーカスさんの下に戻るか……。

 

 

 

「武装スケルトン小隊、四十。竜骨の騎士の指揮下……こりゃあ、キツいなあ」

 ミルデアさんの報告を、衛兵隊の指揮官とともに聞く。石壁の砦の出入り口は、北と南。

 前後両面から、自分達と衛兵隊小隊を、二手に分けての戦いに持ち込む──それが出来るかどうか……出来たとしても、こちらは五名──

 ジャンさんに、クレイドルさん。ミルデアさんに俺。そして、マーカスさん。

「言っておくがよ、俺達は衛兵の実力を舐めているわけじゃねえ。だがな、対魔物に対してはどうなのかって、事だよ」

 マーカスさんの言葉に、衛兵隊長が唸る。

 

 

「一気に殲滅ではなく、攻めと引きを交互に繰り返し、数を減らすのがいいと思いますが」

とは、レンケインさんの言葉。

「基本、武装スケルトンは退かない。特に竜骨に率いられた武装スケルトンは、軍規の下に行動しているからな……先に言った様に、前後に戦力を振り分け、数を減らしながら戦うのが、定法だと思うが?」

ミルデアさんの言う通り、少しずつ敵戦力を削るのが良いだろうけど……。

「ちょっといいですか? 指揮官を先に倒したなら、部隊はどうなります?」

 沈黙……難しい顔で、俺を見るマーカスさん。

 何ぞ? 俺、何か変な事、言っちゃいました?

「指揮官を先に、倒すだ? 正直、考えた事ねえが……」

ふむ、と考え込むマーカスさん。衛兵隊長が、俺に訊ねてくる。

「ええと……クレイドル、君だったな。何故そんな事を、考えた?」

 三十、少しの歳に見える壮年だ。がっしりと引き締まった体格。身に付けている鎧は、他の衛兵とは違う。

「……指揮官が倒されたら、その指揮下にいる連中はどうなるのかって事ですよ」

 単純な疑問何だよな。指揮官不在のアンデッド部隊がどうなるかって事は……士気が下がるか、もしくは逆上するか……考え込む、マーカスさんと衛兵隊長さん。

 数が問題何だよな。それを覆すとなると、士気の低下しか無いんだが……アンデッド相手に士気の低下を望めるかって事が、肝心なんだがなあ……うん、言い出した以上、俺が言わないといけないか……うん。

「一騎討ちを挑みますよ。指揮官に」

 

 

 正気か。と皆、思った。竜骨の騎士に一騎討ちを挑む……聞いた事など、ない。

「ふはははっ! おめえ、正気か! いいぜ、挑んでみな! 駄目なら駄目で、やりようあるからなあ!!」

 心底、おかしく笑うマーカス。呆れた様に、クレイドルを見るジャンベール達。だが、その顔には笑みが浮かんでいる……。

「無茶に過ぎる。竜骨の騎士と一騎討ちだなんて……聞いた事ないぞ」

 衛兵隊長がいう。クレイドルに、メルデオ商会を教えた何時かの獣人が、いつの間にか近くにいて、クレイドルに捲し立てる。

「竜骨の騎士に、一騎討ちを挑むなんて! 正気ですか! 駄目ですよ!!」

 クレイドルの両肩を鷲掴みにして、ガクガクと揺する。

「大、丈夫、です──危険、だと判断、したら逃げ、ますから──」

 涙目でクレイドルを揺する女性衛兵を、ミルデアが丁寧に引き剥がす。

「まあ、やらせてみましょう。クレイドル君、まずいと思ったら逃げるんだよ」

「うむ。我々は騎士ではないからな。騎士の名誉など、どうでもいい」

 レンケインとミルデアの言葉。

「それで……どうやって、喧嘩売る気だ?」

 ジャンベールが、クレイドルに聞いた……。

 

 

 うん……喧嘩を売るなら、少々格好つけようか。 武装スケルトン二十体に、近付く……スケルトン達は、即座に身構えた。一糸乱れない動きで、盾を構え剣を引き抜き、こちらの様子を伺っている……凄いな。アンデッドとなっても、その身に兵士としての心構えを残しているのか……ならば、期待出来る──息を吸い、口上を述べる。

 

「指揮官は、どちらにおられるか! 是非とも、お顔を拝見したい!!」

ざわり、と武装スケルトン達がざわめく。それも、少しの間。スケルトン達が、ざっ、と二つに別れ、中央に道が出来た。その間から、両手剣を肩担ぎにした、一回り大きな武装スケルトンがやって来た。全身鎧。あちこち錆び付いているが、頑丈さが見てとれる鎧。

肩担ぎの両手剣──バスタードソード。百二十センチは越えた剣──業物、だろうな……。

「騎士殿と、お見受けする! 下賎なる身なれど、是非とも一騎討ちを、挑みたい!!」

クルル、と全身鎧のスケルトンが唸る──

「覇王公の面前では無い事が、残念ではあるが! 戦場の華である一騎討ちは、必ずや覇王公の耳に聞こえるでしょう!! 勝敗、生死、何ぞや! ただ、剣を持って互いを証しだてん! いかに!!」

クレイドルの高らかな声が、砦内に響き渡った──〈あははははっ!無茶な事するなあ!さすが僕の息子だよ!んっふふふっ!〉

(うるさっ!何ぞ?!)

 

 

 冒険者稼業は、ある意味極端な仕事だと聞いている。

一攫千金を狙い、無茶とも無謀とも言える依頼、もしくは身の丈に合わぬダンジョン等に挑み──死ぬ。あっさりと。

 そうでなければ、華々しさとは無縁の依頼。採集、採掘、配達。地味で報酬額も低い依頼を、こつこつと手堅く、真面目に稼ぐ冒険者。

 一攫千金の成功者を尻目に、地味に冒険者ギルドに貢献する者──そして、ここに無茶をする冒険者が、いる。黒鷲の兜を身に付けている若者。

 正確には、まだ冒険者見習いだという。その見習いが、武装スケルトンを率いる竜骨の騎士に一騎討ちを挑むという……無茶にも程がある。

 一緒に来ている、四人の先輩冒険者は止めようともしない……四人ともにベテラン。一人は、元冒険者の副ギルドマスター、“精妙剣”マーカス。あとの三人も、それぞれ通り名持ちだという。

黒鷲の兜の青年、クレイドル君がすたすたと、何の物怖じせず、武装スケルトンの小隊に近付き──口上を述べた。

「指揮官は、どちらにおられるか! 是非とも、お姿を拝見したい!!」

 まるで芝居だ……いや、戦乱時代ならばこういう口上は、あったのだろうか……いや、そもそも連中に言葉が通じる、のか?

 杞憂だった。クレイドル君の口上に、小隊が割れ、その中央から他の武装スケルトンとは、明らかに違うスケルトンが、後方から出向いてきた。

 一回り以上は大きく、全身鎧に両手剣──髑髏の両眼が、鈍く銀色に光っている。

「覇王公の面前では無い事が、残念ではあるが! 戦場の華である一騎討ちは、必ずや覇王公の耳に聞こえるでしょう!! 勝敗、生死、何ぞや! ただ、剣を持って互いを証しだてん! いかに!!」

 更なる口上に、全身鎧のスケルトンが剣を胸前に掲げ、軽く頭を下げると、剣を肩に担ぐ様に構えた──言葉、というより意思が伝わったのだろうか……「参る!!」

 クレイドル君が叫び、剣を抜いた。

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