邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第49話 死線の華 肚据えて越えるべし

 

 

「覇王公の面前では無い事が、残念ではあるが! 戦場の華である一騎討ちは、必ずや覇王公の耳に聞こえるでしょう!! 勝敗、生死、何ぞや! ただ、剣を持って互いを証しだてん! いかに!!」

 

クレイドルが、高らかに一騎討ちの口上を挙げる。大分芝居がった口上だが……それが、効いた。竜骨の騎士が動いたのだ……クレイドルの言葉ではなく、意思が伝わったのだろうな。

竜骨の騎士が、バスタードソードを肩構えにしてクレイドルに向き合った。

「参る!」クレイドルが剣を抜き、竜骨の騎士に向かって行く──全く、クレイドルの野郎。この“精妙剣”マーカスを、楽しませやがるなあ。

 

くくく、とマーカスが心底楽しそうに笑った。

 

示し会わせたかの様に、竜骨の騎士とクレイドルが向き合った──瞬間。

肩構えの剣を、袈裟斬りに撃ち込む騎士。斬撃を盾で受け流し、すれ違うように背後に回り込むクレイドル──騎士の後ろ蹴り。クレイドルの動きを想定しているかの様な蹴り。

クレイドルもまた、盾で蹴りを受ける。ふわりと、その体が浮く。即座に騎士が斬撃を放つ。

ギンッ、クレイドルの剣が、騎士の剣を宙で弾く──再び、向き合う騎士と冒険者。

竜骨の騎士が剣を上段に構える。クレイドルは腰を深く落とし、剣を下段に構えた──

 

 

「案外、早い決着になるだろうなあ」

ごりごり、と顎を掻くマーカス。うむ、と頷くミルデア。

「動きますよ。ほら……」

レンケインが、騎士と後輩を指指す。

「上段に対する、下段……どっちも五分五分、乾坤一擲の勝負ですかね」

ジャンベールが、他人事の様にいう。その顔には、のんびりとした笑みが浮かんでいる。

 

 

衛兵隊長エリック。今年で三十三。衛兵隊長ともなれば、小隊三十名を率いる立場。場合によっては騎士団に、もの申せる立場でもある。

城塞都市四つの門。その北門の警備を預かっている立場。

 

エリックは思う──三十名の内二十を連れ、集団戦闘訓練のために、石壁の砦に来たはよかったが……この体たらくだ。

読みが甘かったとしか言えない。さて、どうしたものかと思っていた矢先、冒険者達が来た。

そして、この状況だ──何も言えない。冒険者達の好きにさせる他はない。

もし駄目な場合は──クレイドル君と、竜骨の騎士の一度の撃ち合い。肝が、冷えた──肩構えからの斬撃を盾で上手く受け流し、クレイドル君が背後に回り込む、と同時に騎士の後ろ蹴り。

体が浮くほどの威力。続いての斬撃を、クレイドル君が、宙で弾いた──背後で、この無茶ともいえる竜骨の騎士との一騎討ちを観戦している部下達が、どよめく……いつの間にか、自分も手に汗を握っていた。隣に立つ、狼族の獣人の部下は、まるで祈るかの様に、胸の前で両手を組んでいる……涙目だ。

何時もの威勢無く、獣耳がペタリと垂れている。知り合い、なのか?

 

 

強い。あの斬撃、何度も受け流せない。腕がまだ少し、痺れている。そして、あの後ろ蹴り。

分かっていたと言わんばかりの、蹴り……長期戦は、圧倒的に不利だ。相手はアンデッド。体力、士気ともに、下がる事はないだろうな……となれば、うん。短期決戦しかない、な──竜骨の騎士が剣を上段に構える……俺と同じ考えのようだ。そうでなければ、面倒だと感じたか? ならば──

盾を前に出しながら、腰を深く落とす……右の剣を、背後に隠す様に下段構えにする──乾坤一擲の勝負……ぶるり、と体が震えた。武者震いてやつ、か……ああ、駄目だ。何か、愉しくなってきた──ふっふふっ、ふっ──

この時、クレイドルの瞳が赤く瞬いたのを、誰も見てない──竜骨の騎士以外は──

 

上段に構えた竜骨の騎士は、不動。盾を前に構えたクレイドルはジリジリ、と近付いていく。

互いの間合い──竜骨の騎士の方がリーチは有利。だが……更に身を低くしながら、近付くクレイドル──クレイドルが前構えにした盾が、竜骨の騎士目掛けて飛んだ……。

 

「おっ」マーカスが、声を上げる。次いでジャンベールが「ここで、そうするか……」と呟く。

 

 

竜骨の騎士に迫る、眼前の盾。その盾を、騎士が両断する。盾の持ち主と同時に両断する勢いで──両手剣が、半ばまで地面に食い込むほどの斬撃──両断した盾が、がらりと地に落ちた。

盾を囮にして、背後に回り込んだであろう剣士──竜骨の騎士の判断。蹴り、もしくは、地に食い込んだ剣を引き抜き際に、薙ぎ払う──どれも、間に合わなかった──竜骨の騎士は、振り返る間も無く、その頭部をはね飛ばされていた──

 

首を斬り飛ばされても直、立っていられるだろうか?

頭部を無くした竜骨の騎士は、まだ立っているが……ガシャリ、と糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。ガラン、と鎧とバスタードソードが転がる──静寂……。

 

身を翻し、マーカスさんの所に戻る。

竜骨の騎士の指揮下にあった、武装スケルトンがどう動くか。予想もつかないからな……。

 

こっちに駆けて来るクレイドル。指揮下にある連中がどう動くか、分からねえから──なあ!?

 

マーカスの目に異様な景色が飛び込んできた。マーカスだけでは無い。この場にいる、衛兵、冒険者達の目に……クレイドルが仕止めた、竜骨の騎士の指揮下にあった武装スケルトン全員が──崩れ落ちた。二十体全てが。

 

「よお、隊長さん……エリックといったな。残りは二十。俺らを合わせて、二十五。いい訓練相手になるんじゃねえか? 早くどうするか、決めた方がいいぜ」

マーカスの言葉に、少し考え、エリックが答える。

「残りの二十、我々が仕掛ける。マーカスさん、あなた達には、遊撃を頼みたい……どうです?」

「よし、構わねえよ。ただ、ここの地下は俺達が探索させて貰うから、な」

「ええ構いません。では、始めますか……全隊、半円陣! 正面から、撃ち込む! 肚括れ! 遊撃隊も、いるからな!!」

エリックの号令の下、二十の衛兵が即座に陣を構えた。早い──あっという間の動き。

 

なかなかやるな、隊長さん。衛兵連中は号令と同時に動き出し、陣を構えた。

衛兵隊の前に、残った二十の武装スケルトンが居並ぶ。盾を構え、剣を抜き、どっしりと腰を落とした構え。横広がりの横陣の構え。

その背後にいるのは、竜骨の騎士……まあ、ここから先は出たとこ勝負になるんだろうが──

 

「よし、俺達の役割は遊撃。せいぜい、相手を撹乱しようじゃねえか!」

マーカスの指示の下、ジャンベール達が頷き、マーカスを前面に一固まりになる。

遊撃隊。狙える箇所を突き、相手を撹乱し、隙あらば敵の中心を突く──隊の補佐であり、場合によっては、大将首を取る事もあり得る──だがその名誉は、冒険者には必要無い。

「かかれ! 相手はたかが、二十!! 押し込めえぇっ!!」

エリックの指揮と同時に、衛兵達が一糸乱れぬ動きで進む。

それを見た武装スケルトンが、竜骨の騎士の指揮の下、迎撃の構えを取る。

 

マーカス達が、静かに武装スケルトン小隊の背後に回り込み始めた──

 

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