衛兵隊長エリックの指揮の下。衛兵二十名が、盾構えのまま、勢いよく武装スケルトンに突き進んで行く──盾と盾が激しくぶつかり合い、轟音を響かせた──拮抗状態に見える。互いに押し合いながら、一進一退という状況──
エリックが、ちらりと、武装スケルトン小隊の後方に目をやる。マーカス率いる四名が、静かに武装スケルトンの斜め後方に、気配を抑える様に待機している。エリックの指示を、待っている訳では無い。
強襲の機会を伺っているのだ──「押せっ、押し込めえ!!」
エリックが、叫ぶ。ギリリリ、と衛兵達が武装スケルトン隊を、押し込もうと踏ん張る──くそっ……やはり、アンデッド相手に持久戦はキツいな──さて、この拮抗状態をどうする、か……。
衛兵隊と、武装スケルトン隊が拮抗した戦いを見せるなか、マーカス達は戦況を冷静に見ていた。
「ふうむ……やはり手強いな。さすが、というべきか……」
マーカスが、ごりごりと顎を掻きながらいう。
「竜骨の騎士も、こちらには気付いていませんが……今、強襲を仕掛けるのは、早いと思います」
レンケインが冷静にいう。ふうむ、とミルデアが鼻を鳴らす。
「手助けするタイミングが、難しいな。衛兵隊の面子を、潰す事はしたくないからな」
「だな……かといって、恩を着せる様な真似は、したくないが……おい、クレイドル──」
マーカスが振り返る。クレイドルは、横倒しになった打ち込み用の木偶人形に腰掛け、煙管を吹かしていた。
鷲のフェイスガードを、ほんの少し引き上げ、煙管を咥えている。
微かに覗く、艶かしい薄紅色の唇。ぷかり、と煙が宙に溶けていき、人を落ち着かせる様な香りが漂う──「クレイドル、何か考えがあるか?」
ジャンベールの声に、ふう……と再び煙を吐きながら、クレイドルが言う。
「……俺達が動くタイミングは、衛兵隊が押された時でしょうね」
クレイドルが、ぱっぱっ、と煙管を吸う。
「恩を売る、という事では無いですけど、スケルトン側が衛兵隊を充分押し込めたと思えば、決着を急ぐと思いますが……」
「成る程、な……いいな。兵を誘い込み、後方から突く、か……」
兵士上がりのジャンベールが、髭を丁寧に整えながらいう。顔には、強い笑みが浮かんでいた。
「ふむ……見切りを、どうつけるかな……」
ミルデアも、にんまり、と楽しそうに笑う。
「僕は、何時でも補助が出来るよう準備しておきますよ」
レンケインが、バッグを漁りながらいう。
「全く……てめえら、何で笑ってんだよ。まあエリックには、ぎりぎりまで堪えてもらうかあ」
マーカスの顔には、獰猛な笑みが浮かんでいた。
「少し下がるぞっ!! 体勢崩すなよっ! 踏ん張れっ!!」
エリックの号令下。衛兵隊が、踏ん張る──ゴンッゴゴンッ──衝撃が、ここまで響いてくる。
武装スケルトンは疲れも見せず、ただひたすらに盾で押してくる。圧力は、未だに衰えない──このまま押し込まれる前に、どうするか──その時、脳裏から消えていた連中の事が頭に浮かぶ、と同時に──五名の冒険者達が、武装スケルトン隊の背後から静かに近付いていくのが見えた──先頭にマーカス。その左右に冒険者達。
武装スケルトン隊の、後方の横合いからマーカス達が強襲をかける。武装スケルトンの陣が、揺らいだ──それを見逃す、衛兵隊ではない。
「今だ、押し込めえ! かかれ! 押せえっ!」
エリックの号令の下、衛兵隊が一気に押し込み始める。
ぐぐうぃっ、とした押し返す感触──というより、直感にも似た感覚。
押し返せる──今、このタイミングで……勝機だ。
自ら前衛に躍り出て、目に入った武装スケルトンの横面を盾で殴りつけ、剣で斬りつける。
「勝機だ! 何の遠慮も無い! 押して押して、押しまくれ!! 今代の兵の強さを、古代の兵に証明せよ!! 我らの実力、昔に劣らずとな!!」
衛兵隊長エリックが、高らかに叫びながら前衛で盾を掲げ、剣で武装スケルトン達を指し示す。
自ら前衛に立ち、武装スケルトンを相手取る衛兵隊長の姿に、奮い起たない衛兵は、いない──一気に押し込み始める衛兵達。たちまち、乱戦になる──狼族の衛兵が、乱戦の合間を掻い潜りながら、目的の相手を探す──いた。縦長の逆三角形のカイトシールド持ち。切っ先長めのロングソード。武装スケルトンよりも、一回りは大きい体格……間違いない竜骨の騎士だ──やるべき事はただ、一つ──狼族特有の、牙を剥き出しの狂暴な面付き……「ガアァァッ!!」狼族の特性──“
衛兵としては、余程の事が無い限りは発動しないが、今がその時──竜骨の騎士目掛けて、飛び蹴りを放つ。丁度、カイトシールドで防がせるように──案の定、その立派な盾で蹴りを防いだ、瞬間──盾を足場に、大きく跳躍する……竜骨の騎士の、頭上を捕った──「ガアァァッ!」
騎士の両肩に立ち、手に構えたロングソードを、竜骨の騎士の頭骨に突き立てた……。
「おう、あの姉ちゃん凄いな……あれが、“
ゴシャリ、と武装スケルトンの頭部を砕きながら、マーカスさんがいう。
幅広のレイピアを振るい、風と共にスケルトン連中を蹴散らすジャンさん。
「なかなかに、手強い。さすがに精兵だ」
スケルトンを、棒術で跳ね退けるレンケインさん。仰け反るスケルトンを、短槍の一突きで突き倒すミルデアさん……うん? 何かおかしいな。
俺が竜骨の騎士を、一騎討ちで倒した時は指揮下にある武装スケルトン連中は、即座に全滅したのに……何ぞ? 何か、条件が……?
「何だ? 指揮官、討たれただろうが。何でまだ──ふんっ!」
バゴッ、とバトルハンマーでスケルトンを砕くマーカスさん。
レンケインさんが、衛兵隊を巻き込まないように、石礫を散弾のように放つ。
ゴツゴツ、と武装スケルトンを怯ませる。大分に抑えているな……ダメージ度外視の行為だ。
怯んだ武装スケルトンを、ジャンさんとミルデアさんが、切り裂き、突き倒す。
武装スケルトン隊と衛兵隊のせめぎ合いも、決着が着きそうだ……俺の出る幕ないなあ。
にしても、竜骨の騎士が倒れたのに、今だ戦っている武装スケルトン連中……俺は現在、休憩中だ。先の一騎討ちの疲労が足に来ていたので、前に出る事を止められた。
今の俺に出来る事は、戦況を眺める事と煙管を吸う事だけだ……深風を、煙管に詰め、火をつける──指揮官が倒れたのに、何故、武装スケルトンはまだ戦っているのか?……自分の場合、一騎討ちで倒した瞬間、糸が切れた様に、皆崩れ落ちた……ああ、分かった。恐らく間違いない。その条件は──“一騎討ちで大将を討ち取る事”
すうっ、と煙管を吸い、ゆったりと煙を吐く。
「押せっ、押し込めえ!! 殲滅するぞっ!!」
エリックの号令一下。応!! と答え、衛兵達が一気に押し込み始め、次々と打ち倒していく……武装スケルトンの殲滅は、もう時間の問題だった。
戦後処理。レンケインさんが、怪我の深い衛兵を優先に、治癒を施している。
軽度の怪我は、傷口の浄化と軽治癒だけに留め、包帯と傷薬で済ませる。
軽治癒と浄化は俺が手伝った。何故か、いつの間にか軽い怪我は、癒す事が出来る様になっていた……何ぞ?
回収品はスケルトンの魔石と、竜骨の騎士の部位。スケルトン連中の武具はどうするか、という事だったが……。
「回収しても、二束三文だ。数打ちの生産品だからな。大量に持ち込んだら、いい顔されねえからなあ」
マーカスさんがいう。続けて、レンケインさんがいった。
「竜骨の騎士の装備。武具はね、帝国の紋章が刻まれている。それを回収して、持ち込むとあまりいい顔されないんだよねえ……」
確かにな。剣や鎧には帝国の紋章。王冠を戴いた、立派な角をした黒山羊の頭部が刻まれている。これは持ち込めないだろうな……。
「さて、エリックさんよ、あんたらこれからどうするんだ?」
「そうですね……皆の体力回復のため、一泊して撤収します」
マーカスさんとエリックさんの会話。
この後の探索は……地下一階、二階だったっけか。
「レンケインさん、地下一、二階はどうなっているんですか?」
「うん、確か……一階は食堂と物資倉庫。そして宿舎。砦に在中する、兵達の生活圏なんだよ。でも、地上にいた武装スケルトン達は殲滅出来たからね……ただ一番、気を付けるのは──」
レンケインさんの言葉を次ぐように、ジャンさんがいう。
「二階奥の司令官室。石壁の砦の、最高指揮官が待ち受けているだろうな……いうなれば、上級の竜骨の騎士だ」
「最高指揮官を仕留めて、ここの踏破は完了という事に、なるな」
ニイッ、とミルデアさんが牙を剥き出しに、笑う。踏破前提か……。
「おう。一休みして、地下二階に出向くか」
マーカスさんがいうと、レンケインさんが、さっと地面に布を広げる。
「食事にしましょう。湯を沸かします。クレイドル君、皿をお願いします」
「分かりました。干し果物と干し肉……乾燥豆と野菜のスープで、いいですかね?」
マーカスさんとジャンさんが座り込む。
ミルデアさんは、周囲の斥候に出向いていった……さて、最高指揮官の竜骨の騎士の実力はどんなものだろうか──まあ、休息大事だ。
煙管に葉を詰め、火をつける。すう、と一吸い……ぷかり、と宙に煙を吐く。
地下二階に、待ち受ける最高指揮官の騎士、か……。