「やはり、地下に行きますか……」
「おう。折角だから──司令官の顔を、拝んでくるさ」
エリックさんとマーカスさんの会話。時刻は、日暮れ近くになっていた。
陽が落ちれば、アンデッドの時間──
「クレイドル君、ちょっと聞きたい事がある。いいかな?」
「……え、構いませんが、何か?」
「うん。君が、竜骨の騎士を倒した瞬間に、他の武装スケルトン連中は、即座に全滅した。だが、私の部下が竜骨の騎士を倒した時は、そうならなかった……何故か、分かるか?」
エリックさんが、尋ねてきた。まあ、ほぼ間違いないだろうから答えよう。
「多分、ですが……一騎討ちで、打ち倒したからだと思います」
一瞬の間を置いて、エリックさんが、大きく息を吐いた。
「ああ……戦乱の世では、一騎討ちは騎士の華とも云われていたっけ、か──」
妙に遠い目をしながら、エリックさんがため息混じりにいう。
「このクレイドルはよ、冷静に無茶をする野郎何だよ。竜骨の騎士に喧嘩売るなんて事、普通はしねえよ」
ワハハ、と豪快に笑うマーカスさん。
広場の端に、スケルトン達の遺骸と遺品が、一まとめになって片付けられている。ある種の敬意らしい。帝国に仕える者に、今も昔もないのだろう。
レンケインさん曰く、こういう場所を浄霊しても、あまり意味がないそうだ。
「さて出向くか。一階は、がら空きだろう。地上に出ていた連中は片付けたからな。本命は地下二階……上級騎士の指揮官、はっきりいって、並みじゃないからな」
「単純に剣技だけではなく、それなりの魔術を身に付けている可能性もあるからね」
マーカスさんと、レンケインさんがいう。
「難敵、だろうなあ……場合によっては猛血も使う必要が、あるかな」
ミルデアさんが、牙を見せて笑う。
「よし、行きますか。ミルデア、斥候頼む」
ジャンさんの指示に、うむ、と頷いたミルデアさんが、静かな足取りで歩み始める。
干し果物を一口含み、皆の後を追う──「クレイドル君!!」叫び声にも似た声が、響く。
何ぞ!? 振り向いた瞬間、両肩を捕まれた。この
狼族の衛兵さんだ……涙目!?
「クレイドル君、何故、わざわざ危険な事に身を投じるのですか!!」
ガクガク、と揺らしてくる衛兵さん。名も知らぬ人に何故、ここまで絡まれるのか──「もう少し、自分の体を大事にして下さい!!」
「大丈、夫です。分かっ、ていますから」
拘束された両肩を、いつの間にか戻った来ていたミルデアさんが、丁寧に引き剥がす。
「クレイドルは大丈夫だ。衛兵に心配されるようなタマでは、ない。心配無用」
ばっさりという、ミルデアさん。
むむむ、と唸る衛兵さん。名前を知らない人に、心配されてもなあ……。
「さっさと行くぞ、少年」
ミルデアさんに背を軽く叩かれた。衛兵さんに軽く頭を下げ、ミルデアさんの後を追う。
何か言いたげの衛兵さんは、見ない事にした。
獣耳が、へにゃりと垂れているのも、見ない事にした──何で、罪悪感を感じないといけないのか。
石壁の砦、地下一階。最初に目に入ったのは広い食堂。十人単位で、交互に食事を取る事が出来る程の広さ。
そして物資倉庫。今は空だが、かつては食糧や酒で満ちていたのだろう。
「やはり、何も無いな。皆、空っぽだ」
「司令官室の上級騎士以外の場所は、こんなものだろうな」
ミルデアさんとジャンさんが、周囲を警戒しながら、いう。兵士達の宿舎も空っぽ。地下一階には、見るべき所はない、という事。
となれば、残るは地下二階の、司令官室の上級騎士。
地下二階。広く、真っ直ぐに延びる廊下。奥に見えるは、大きく頑丈な扉。
マーカスさんが、ゴンゴン、とノックする──
ギキ、っと扉が開く……誰が開くともなく、開く扉。広めの事務室。内装は実にシンプル。その中央に見えるのは、重壮な机。机の向こう側に腰掛けるは、上級騎士の指揮官──敵意は、感じない。ただ、威厳と共に、強い意志が圧力となってこちらに、向かって来ていた……。
「司令官殿と、お見受けします。」
マーカスさんの言葉に、司令官が立ち上がる。
全身鎧、フルプレートメイルというやつだ……鎧中央に、帝国の紋章──王冠を戴いた黒山羊。
体格は、竜骨の騎士よりも一回り以上はある。
司令官は、壁に飾っている縦長のカイトシールドを取り、同じく飾られているロングソードを帯剣する。自然な振るまい。
まるで、他人が居ないかのような立ち振舞い。
司令官は、こちらに向かって来る──そのまま、俺達の横を通り過ぎて行く。
思わず、皆で顔を見合わせた──先を行く司令官が、こちらに顔を向け、くい、と頭部を傾ける。着いて来いといっているようだ……「マーカスさん」ジャンさんの声。おう、とマーカスさんが答える。
歩いて行く司令官の後を、俺達が追う。
地上に出た。先ほどまで、武装スケルトンとの戦闘が行われていた場所。その雰囲気は、もう無くなっている──
広場中央に、上級の竜骨の騎士。司令官──
それに向き合うは、マーカスさんを先頭に、俺達五名……五対一、てのは心情的には、なあ……どうなんだろうな……これは、甘い感情か?
司令官の態度は、実に堂々したものだ……まるで、『私は、構わん』と言わんばかりだ。
自然体な立ち方で、広場に佇んでいる。いつでも来い、と言わんばかりな姿。
「おう、クレイドル、ちょっとショートソード見せてくれ」
マーカスさんがいう。うん? 何ぞ? まあ、いいけど……。
「はい、どうぞ」
腰から引き抜き、鞘ごと渡す。マーカスさんが、剣を引き抜く──シィン、と音が鳴る。
「む……かなりの業物だな。いい重さだ──バランスも、いいな」
ヒュピイィン──マーカスさんが、スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を、無造作に振った。きれいな、風鳴り音。
「ちょっと、借りるぞクレイドル。司令官相手なら、やはり剣だ」
「マーカスさん、一騎討ちを挑むつもりですか?」
レンケインさんが、いう。ジャンさんとミルデアさんは、互いに顔を見合わせた……。
「そのつもりだ──俺も、多少は派手な立ち回りをしたくなった……クレイドルみたいにな」
ニヤリ、と笑いかけてくるマーカスさん。
「御武運を」
マーカスさんの笑みに、返した──おうよ、とマーカスさんが答える。