邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

58 / 245
第51話 石壁の砦 最高指揮官の騎士

 

「やはり、地下に行きますか……」

「おう。折角だから──司令官の顔を、拝んでくるさ」

エリックさんとマーカスさんの会話。時刻は、日暮れ近くになっていた。

陽が落ちれば、アンデッドの時間──

「クレイドル君、ちょっと聞きたい事がある。いいかな?」

「……え、構いませんが、何か?」

「うん。君が、竜骨の騎士を倒した瞬間に、他の武装スケルトン連中は、即座に全滅した。だが、私の部下が竜骨の騎士を倒した時は、そうならなかった……何故か、分かるか?」

エリックさんが、尋ねてきた。まあ、ほぼ間違いないだろうから答えよう。

「多分、ですが……一騎討ちで、打ち倒したからだと思います」

一瞬の間を置いて、エリックさんが、大きく息を吐いた。

「ああ……戦乱の世では、一騎討ちは騎士の華とも云われていたっけ、か──」

妙に遠い目をしながら、エリックさんがため息混じりにいう。

「このクレイドルはよ、冷静に無茶をする野郎何だよ。竜骨の騎士に喧嘩売るなんて事、普通はしねえよ」

ワハハ、と豪快に笑うマーカスさん。

 

広場の端に、スケルトン達の遺骸と遺品が、一まとめになって片付けられている。ある種の敬意らしい。帝国に仕える者に、今も昔もないのだろう。

レンケインさん曰く、こういう場所を浄霊しても、あまり意味がないそうだ。

 

「さて出向くか。一階は、がら空きだろう。地上に出ていた連中は片付けたからな。本命は地下二階……上級騎士の指揮官、はっきりいって、並みじゃないからな」

「単純に剣技だけではなく、それなりの魔術を身に付けている可能性もあるからね」

マーカスさんと、レンケインさんがいう。

「難敵、だろうなあ……場合によっては猛血も使う必要が、あるかな」

ミルデアさんが、牙を見せて笑う。

「よし、行きますか。ミルデア、斥候頼む」

ジャンさんの指示に、うむ、と頷いたミルデアさんが、静かな足取りで歩み始める。

干し果物を一口含み、皆の後を追う──「クレイドル君!!」叫び声にも似た声が、響く。

何ぞ!? 振り向いた瞬間、両肩を捕まれた。この既視感(デジャブ)、何ぞ!?

狼族の衛兵さんだ……涙目!?

「クレイドル君、何故、わざわざ危険な事に身を投じるのですか!!」

ガクガク、と揺らしてくる衛兵さん。名も知らぬ人に何故、ここまで絡まれるのか──「もう少し、自分の体を大事にして下さい!!」

「大丈、夫です。分かっ、ていますから」

拘束された両肩を、いつの間にか戻った来ていたミルデアさんが、丁寧に引き剥がす。

「クレイドルは大丈夫だ。衛兵に心配されるようなタマでは、ない。心配無用」

ばっさりという、ミルデアさん。

むむむ、と唸る衛兵さん。名前を知らない人に、心配されてもなあ……。

「さっさと行くぞ、少年」

ミルデアさんに背を軽く叩かれた。衛兵さんに軽く頭を下げ、ミルデアさんの後を追う。

何か言いたげの衛兵さんは、見ない事にした。

獣耳が、へにゃりと垂れているのも、見ない事にした──何で、罪悪感を感じないといけないのか。

 

 

石壁の砦、地下一階。最初に目に入ったのは広い食堂。十人単位で、交互に食事を取る事が出来る程の広さ。

そして物資倉庫。今は空だが、かつては食糧や酒で満ちていたのだろう。

「やはり、何も無いな。皆、空っぽだ」

「司令官室の上級騎士以外の場所は、こんなものだろうな」

ミルデアさんとジャンさんが、周囲を警戒しながら、いう。兵士達の宿舎も空っぽ。地下一階には、見るべき所はない、という事。

となれば、残るは地下二階の、司令官室の上級騎士。

 

地下二階。広く、真っ直ぐに延びる廊下。奥に見えるは、大きく頑丈な扉。

マーカスさんが、ゴンゴン、とノックする──

ギキ、っと扉が開く……誰が開くともなく、開く扉。広めの事務室。内装は実にシンプル。その中央に見えるのは、重壮な机。机の向こう側に腰掛けるは、上級騎士の指揮官──敵意は、感じない。ただ、威厳と共に、強い意志が圧力となってこちらに、向かって来ていた……。

「司令官殿と、お見受けします。」

マーカスさんの言葉に、司令官が立ち上がる。

全身鎧、フルプレートメイルというやつだ……鎧中央に、帝国の紋章──王冠を戴いた黒山羊。

体格は、竜骨の騎士よりも一回り以上はある。

 

司令官は、壁に飾っている縦長のカイトシールドを取り、同じく飾られているロングソードを帯剣する。自然な振るまい。

まるで、他人が居ないかのような立ち振舞い。

司令官は、こちらに向かって来る──そのまま、俺達の横を通り過ぎて行く。

思わず、皆で顔を見合わせた──先を行く司令官が、こちらに顔を向け、くい、と頭部を傾ける。着いて来いといっているようだ……「マーカスさん」ジャンさんの声。おう、とマーカスさんが答える。

歩いて行く司令官の後を、俺達が追う。

 

 

地上に出た。先ほどまで、武装スケルトンとの戦闘が行われていた場所。その雰囲気は、もう無くなっている──

広場中央に、上級の竜骨の騎士。司令官──

それに向き合うは、マーカスさんを先頭に、俺達五名……五対一、てのは心情的には、なあ……どうなんだろうな……これは、甘い感情か?

司令官の態度は、実に堂々したものだ……まるで、『私は、構わん』と言わんばかりだ。

自然体な立ち方で、広場に佇んでいる。いつでも来い、と言わんばかりな姿。

 

「おう、クレイドル、ちょっとショートソード見せてくれ」

マーカスさんがいう。うん? 何ぞ? まあ、いいけど……。

「はい、どうぞ」

腰から引き抜き、鞘ごと渡す。マーカスさんが、剣を引き抜く──シィン、と音が鳴る。

「む……かなりの業物だな。いい重さだ──バランスも、いいな」

ヒュピイィン──マーカスさんが、スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を、無造作に振った。きれいな、風鳴り音。

「ちょっと、借りるぞクレイドル。司令官相手なら、やはり剣だ」

「マーカスさん、一騎討ちを挑むつもりですか?」

レンケインさんが、いう。ジャンさんとミルデアさんは、互いに顔を見合わせた……。

「そのつもりだ──俺も、多少は派手な立ち回りをしたくなった……クレイドルみたいにな」

ニヤリ、と笑いかけてくるマーカスさん。

「御武運を」

マーカスさんの笑みに、返した──おうよ、とマーカスさんが答える。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。