「名も知らぬ司令官殿。我が名は、マーカス。お見知りおきを……」
スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を引き抜き、晴眼に構える。マーカス。
相対する司令官は剣を抜き、盾と剣を胸元に構え、一礼する──騎士の返礼。アンデッドとなっても、騎士の流儀は忘れていないらしい。
覇王公の薫陶、今だ残れり──
「“精妙剣”……参る」
浅く腰を落とし、じり、と進むマーカス。
盾を、やや低く構え、剣を水平に横構えにする司令官。迎撃の構え、か……。じりり、と両名が、互いに回り込む様な動きを始める。
司令官、上級騎士の瞳が鈍い銀色に光る──
ボウッ、司令官が動いた。大きく踏み込み、盾構えのまま、マーカスに体当たりを仕掛ける司令官。
トンッ、と後ろに軽く跳躍し、司令官の
司令官の攻撃は、止まない。袈裟斬りからの横薙ぎ、突き、踏み込んでの盾撃、突き、左右の薙ぎ払い──対するマーカス。司令官の攻撃を、避け、受け流し、払い退け、弾く──無尽蔵の体力のアンデッドの攻撃を、どこまで防げるのだろうか。
再びの盾撃──「ふっ」マーカスの吐息とともに、横薙ぎに振られる剣──カツン──と乾いた音。
司令官の盾、カイトシールドが上下に切断される──司令官の判断は早かった。両断された盾を放り投げ、ロングソードを脇構えにして、マーカスに向かって突き進む。
司令官の、脇構えからの切り上げの斬撃──その斬撃を、晴眼の構えから迎え撃つマーカスの太刀捌き──下段の斬撃を、掬い上げる様に受け流し、ロングソードを宙に跳ね上げ──そのまま、返す刀で、司令官の頭部を斬り飛ばす──目にも止まらぬ、一閃。
ドシャリ、と司令官の体が崩れ落ち、ガラリと、剣と鎧が地面に転げ落ちる。
「久し振りに、しんどい思いしたなあ……」
顔に汗を滲ませながら、マーカスさんがいう。
表情は明るい。その顔には、達成感が浮かんでいた。
どよめきに似た、歓声が上がる。いつの間にか、衛兵達が見学していた。
「おう。クレイドル、剣を返すぜ……に、しても中々の逸品だな。大事にしな」
額の汗を拭うマーカスさん。晴々とした、笑顔だ。剣を受け取り際、ついでに浄化をかけた。
少し驚くマーカスさん。意表をついてしまったか……。
「いや……見事でした。さすが“精妙剣”」
衛兵隊長のエリックさんだ。
「気の抜けない相手だったぜ。上級騎士の司令官てのは……」
ふう、と息を吐くマーカスさん。
「もうそろそろ、夜になりますが、これからどうするんです?」
エリックさんに、マーカスさんが答える。
「まあ、そうだな。俺達もここで夜を明かすさ。ジャン、それでいいか?」
頷くジャンさん。レンケインさんが、いう。
「司令官室に、戻ってみませんか?」
「うん……? ああ、もしかしたら“箱”が出現しているかもしれないと?」
「ええ、そうです。司令官の討伐が条件で、何らかの“特典”が、有るかも知れません。確認しても、いいと思います」
ふうむ、とミルデアさんが頷く。
確か、ダンジョンでは、条件を満たす事で、“箱”……つまり、宝箱が出現する可能性があるという。
石壁の砦で宝箱が出現する可能性は、司令官の撃破が条件……なのかは、分からない。まあ、確認する価値はあるだろうな。
「よし、出向くか。“箱”が出現してるなら、回収しないとなあ」
マーカスさんが、のっしのしと地下の階段へ向かって行く。その背に、衛兵隊長のエリックさんが、お気を付けて、と声をかけた。
マーカスさんは振り返らず、ひらり、と手を振って答えた。
地下二階の、広い廊下の先。司令官室に到着した。半開きの扉を、慎重に短槍の穂先で、ゆっくりと押し開けるミルデアさん。
一分……ほどだろうか。安全を確認したミルデアさんが、先に部屋に入る。
「異常、無し。大丈夫だ」
ミルデアさんの、間延びした声が聞こえた。
俺達の緊張感が、和らいだ。よし、とマーカスさんが部屋に入って行く。
司令官室。改めて見回すと、中々に広い。
本棚。グラスが並べられた棚。重厚な机の後ろの壁には、中央大陸の地図が貼られている。
二百年は前の地図だ……地図だけでは無く、ここにある物全てが、年代物だろうな……。
司令官に相応しい、威厳ある内装。質実剛健を絵に描いた様な部屋……。
「む……“箱”が出てますね。一応、調べてみますよ」
レンケインさんが、宝箱を調べ始める。ボス部屋、ダンジョンの最奥の部屋。
そこに出現する宝箱には、罠の類いは仕掛けられては無いというのが、基本だそうだ──
「ん~大丈夫ですね。罠は無し。開きますよ」
ガシャリ、と“箱”を開く、レンケインさん。
“箱”は、少し大きめの小物入れ程度。両手で持つ事ができる大きさ。
「ええと……指貫のグローブに、少し重い皮袋……か。以上、ですね」
濃紺の指貫のグローブ。甲のところは、金属板で補強されている。レンケインさんが皮袋を広げると、金貨と銀貨が詰まっていた。
「ほう。何かのための軍資金かな……指貫のグローブか。見たところ、中々よさそうだな」
マーカスさんがいう。グローブを見た、ジャンさんが言った。
「それ、魔力を感じますね。鑑定に出したほうがいいでしょう」
鑑定。なるほどな。魔力を感じる武具や装飾品は、鑑定に出さないまま、身に付けるのはあまり良くないと聞いたな……。
「よし、戻るか。もう夜になってるだろうからな」
「夕食にしましょう。腹が減りました」
マーカスさんに、ミルデアさんがいう。
慌ただしい一日だったな。とにかく、いい経験が出来た……というか、今更ながら、竜骨の騎士に喧嘩売った事を思い出すと、ゾッとする。
何か、妙なテンションになってたんだろうな……我ながら、無茶に過ぎたか。そりゃあ、無駄に心配かけるわなあ……。
獣人の衛兵さんの、名前聞いとくかな──