邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第52話 精妙剣 一閃の太刀

 

 

「名も知らぬ司令官殿。我が名は、マーカス。お見知りおきを……」

スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を引き抜き、晴眼に構える。マーカス。

相対する司令官は剣を抜き、盾と剣を胸元に構え、一礼する──騎士の返礼。アンデッドとなっても、騎士の流儀は忘れていないらしい。

覇王公の薫陶、今だ残れり──

 

「“精妙剣”……参る」

浅く腰を落とし、じり、と進むマーカス。

盾を、やや低く構え、剣を水平に横構えにする司令官。迎撃の構え、か……。じりり、と両名が、互いに回り込む様な動きを始める。

司令官、上級騎士の瞳が鈍い銀色に光る──

ボウッ、司令官が動いた。大きく踏み込み、盾構えのまま、マーカスに体当たりを仕掛ける司令官。

トンッ、と後ろに軽く跳躍し、司令官の盾撃(シールドバッシュ)を回避する、マーカス。

司令官の攻撃は、止まない。袈裟斬りからの横薙ぎ、突き、踏み込んでの盾撃、突き、左右の薙ぎ払い──対するマーカス。司令官の攻撃を、避け、受け流し、払い退け、弾く──無尽蔵の体力のアンデッドの攻撃を、どこまで防げるのだろうか。

再びの盾撃──「ふっ」マーカスの吐息とともに、横薙ぎに振られる剣──カツン──と乾いた音。

司令官の盾、カイトシールドが上下に切断される──司令官の判断は早かった。両断された盾を放り投げ、ロングソードを脇構えにして、マーカスに向かって突き進む。

司令官の、脇構えからの切り上げの斬撃──その斬撃を、晴眼の構えから迎え撃つマーカスの太刀捌き──下段の斬撃を、掬い上げる様に受け流し、ロングソードを宙に跳ね上げ──そのまま、返す刀で、司令官の頭部を斬り飛ばす──目にも止まらぬ、一閃。

 

 

ドシャリ、と司令官の体が崩れ落ち、ガラリと、剣と鎧が地面に転げ落ちる。

「久し振りに、しんどい思いしたなあ……」

顔に汗を滲ませながら、マーカスさんがいう。

表情は明るい。その顔には、達成感が浮かんでいた。

 

どよめきに似た、歓声が上がる。いつの間にか、衛兵達が見学していた。

 

「おう。クレイドル、剣を返すぜ……に、しても中々の逸品だな。大事にしな」

額の汗を拭うマーカスさん。晴々とした、笑顔だ。剣を受け取り際、ついでに浄化をかけた。

少し驚くマーカスさん。意表をついてしまったか……。

「いや……見事でした。さすが“精妙剣”」

衛兵隊長のエリックさんだ。

「気の抜けない相手だったぜ。上級騎士の司令官てのは……」

ふう、と息を吐くマーカスさん。

「もうそろそろ、夜になりますが、これからどうするんです?」

エリックさんに、マーカスさんが答える。

「まあ、そうだな。俺達もここで夜を明かすさ。ジャン、それでいいか?」

頷くジャンさん。レンケインさんが、いう。

「司令官室に、戻ってみませんか?」

「うん……? ああ、もしかしたら“箱”が出現しているかもしれないと?」

「ええ、そうです。司令官の討伐が条件で、何らかの“特典”が、有るかも知れません。確認しても、いいと思います」

ふうむ、とミルデアさんが頷く。

確か、ダンジョンでは、条件を満たす事で、“箱”……つまり、宝箱が出現する可能性があるという。

石壁の砦で宝箱が出現する可能性は、司令官の撃破が条件……なのかは、分からない。まあ、確認する価値はあるだろうな。

「よし、出向くか。“箱”が出現してるなら、回収しないとなあ」

マーカスさんが、のっしのしと地下の階段へ向かって行く。その背に、衛兵隊長のエリックさんが、お気を付けて、と声をかけた。

マーカスさんは振り返らず、ひらり、と手を振って答えた。

 

 

地下二階の、広い廊下の先。司令官室に到着した。半開きの扉を、慎重に短槍の穂先で、ゆっくりと押し開けるミルデアさん。

一分……ほどだろうか。安全を確認したミルデアさんが、先に部屋に入る。

「異常、無し。大丈夫だ」

ミルデアさんの、間延びした声が聞こえた。

俺達の緊張感が、和らいだ。よし、とマーカスさんが部屋に入って行く。

 

 

司令官室。改めて見回すと、中々に広い。

本棚。グラスが並べられた棚。重厚な机の後ろの壁には、中央大陸の地図が貼られている。

二百年は前の地図だ……地図だけでは無く、ここにある物全てが、年代物だろうな……。

司令官に相応しい、威厳ある内装。質実剛健を絵に描いた様な部屋……。

 

 

「む……“箱”が出てますね。一応、調べてみますよ」

レンケインさんが、宝箱を調べ始める。ボス部屋、ダンジョンの最奥の部屋。

そこに出現する宝箱には、罠の類いは仕掛けられては無いというのが、基本だそうだ──

「ん~大丈夫ですね。罠は無し。開きますよ」

ガシャリ、と“箱”を開く、レンケインさん。

 

“箱”は、少し大きめの小物入れ程度。両手で持つ事ができる大きさ。

「ええと……指貫のグローブに、少し重い皮袋……か。以上、ですね」

濃紺の指貫のグローブ。甲のところは、金属板で補強されている。レンケインさんが皮袋を広げると、金貨と銀貨が詰まっていた。

「ほう。何かのための軍資金かな……指貫のグローブか。見たところ、中々よさそうだな」

マーカスさんがいう。グローブを見た、ジャンさんが言った。

「それ、魔力を感じますね。鑑定に出したほうがいいでしょう」

鑑定。なるほどな。魔力を感じる武具や装飾品は、鑑定に出さないまま、身に付けるのはあまり良くないと聞いたな……。

「よし、戻るか。もう夜になってるだろうからな」

「夕食にしましょう。腹が減りました」

マーカスさんに、ミルデアさんがいう。

慌ただしい一日だったな。とにかく、いい経験が出来た……というか、今更ながら、竜骨の騎士に喧嘩売った事を思い出すと、ゾッとする。

何か、妙なテンションになってたんだろうな……我ながら、無茶に過ぎたか。そりゃあ、無駄に心配かけるわなあ……。

 

獣人の衛兵さんの、名前聞いとくかな──

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