邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第53話 帰還 赤闇の胸鎧と籠手 仕上がり間近

 

 

早朝、石壁の砦。朝陽に照らされながら、クレイドルが魔力制御を行っていた──衛兵達は、砦の外で野営をしている。

砦内は広い。廃墟然とした、半壊した兵達の宿舎。馬無き馬房。荒れた鍛冶場。枯れた井戸。

中央広場は、ほぼ訓練場になっている。この広さなら、衛兵達も野営が出来るほどに広い。

衛兵隊長のエリックは、また野営の準備をし直すのは面倒だ。という事で、そのまま外で野営をする事にした──獣人の衛兵が、砦内で野営をするべきです! と頑なに主張したが、当然、却下された。

 

 

「おう、魔力制御は終ったか」

魔力制御を一通り終え、一息ついているクレイドルに、マーカスが声をかけた。

「はい。取り合えず、済みました」

軽い倦怠感を身に纏ったクレイドルが、マーカスに答えた。

白磁の肌が、うっすらと紅に染まり、汗が滲んでいる──その姿を見た瞬間。ぞくり、と身が震えた。

マーカスは目を逸らし、「朝飯の準備をするぞ」とぶっきらぼうに言った。

(とんでもねえな……受付嬢どもが、イカれるのも、無理ねえやな……)

こいつの容姿は、普通じゃない。まあ、直視しなけりゃ、いい事だ──簡単じゃねえが、な。

「起きろ、起きろ!! 朝飯にするぞ!」

バンバン、と手を叩き、ジャンベール達を起こすマーカス。

もぞもぞと、寝袋から身を起こすジャンベール達。

「マーカスさん、湯を沸かします」

「おう、頼むぜ」

クレイドルが、魔道コンロを準備する。マーカスは地面に布を広げ、食器を並べ始めた。

 

 

朝食は、乾燥豆と野菜のスープに、炙った干し肉。そして、干し果物。いつものメニューといってもいい。

朝食後、城塞都市に戻る事になった。昼前には着くだろうとの事だ。

様子を見に来た、衛兵隊長のエリックさん。暫く石壁の砦周辺を見廻り、折を見て城塞都市に戻るという──ついでに、獣人衛兵の名を聞く。

彼女の名は、ルジェナ。副隊長との事だ……そのルジェナさんが、エリックさんの側にいる……ええと、何ぞ?

「クレイドル君! 約束して下さい! 妙な無茶はしないと!!」

獣耳が、ピンッと立っている……ええ、そんな事、言われてもなあ……。

「約束、出来ませんよ……俺は、冒険者何ですから」

「約束、して下さい!」

牙を剥き出しにして迫って来る、ルジェナさん……これ、あれだ。「はい」と選択肢を選ばなければ、ループする奴だ…………?

「ルジェナさん……心配しないで下さい。俺は大丈夫です。必ず、また、城塞都市に戻って来ますから……大丈夫です」

そっ、とルジェナさんの手をとる……邪神の加護か! おおぃっ!! 無い事、無い事しやがってえぇぇっ!

マーカスさん達の視線が痛い。エリックさんが何とも言えない顔付きで、俺を見ている……違うんです、これは……何て言い訳は、通じないなこれは……ああ、ルジェナさんが、潤んだ瞳で俺を見つめている……何だ、この状況。邪神め! 邪神が!!

 

「少年、罪作りは大概にした方がいいな。まあ、意識はしていないだろうが、な」

「それが、余計に質悪い事もあるぞ。クレイドル君」

くそ。ミルデアさんとレンケインさんに、軽く説教された。邪神め!!

 

 

エリックさん達より先に、砦から出発する事になった。今回は中々の収穫だと、マーカスさんがいう。

一つ。一騎討ち含む、竜骨の騎士との戦い。

一つ。貴重な素材の、竜骨を回収出来た事。

 

あとは、俺に経験を積ませる事が出来た事だと言う──感謝だな。

女殺しに、磨きがかかったと言われた事は、聞かなかった事にした──邪神め!

 

エリックさんに別れを告げ、石壁の砦から出発する。当たり前のように、付いてこようとしたルジェナさんが、エリックさんに連れ戻された。

「決して、無茶は! 無茶は、無茶はしないで下さいね! クレイドル君!!」

エリックさんに引きずられながら、ルジェナさんが涙声で叫んでいた……ふっふふっ、レンケインさんの忍び笑い。聞こえてますからね!

 

 

何やかやあり、無事、城塞都市に戻って来た。

徒歩で移動中、馬車とすれ違い、マーカスさんが御者と交渉し、城塞都市まで乗せてもらう事になり、以外と早く到着した。

都市に到着すると、マーカスさんは、昼飯の準備をすると言って、ギルド内に戻って行った。

残された俺達は、さてどうするか。という事になった。ミルデアさんは、宿に荷物を置き、一風呂浴びてくるとの事。

ジャンさんとレンケインさんは、メルデオ商会で物資の補給ついでに、入手した指貫のグローブの鑑定を頼んでくる。という……ならば俺は……。

「昼食まで、休憩してます」

特に疲れてはいないが、休める時に休む事にした。物資の補給と鑑定は、二人に任せよう。

「分かった。レンケイン、竜骨をスティールハンドに持ち込め。頼まれていたらしいからな」

レンケインさんが頷く。後で、金貨と銀貨が詰まった袋の分配も、やるだろう──眠たくなってきたな……「お二人とも、あとは任せます」

一言、断りを入れ、宿舎に向かう……。

 

 

ミルデアさんに起こされた。そろそろ、昼食の時間らしい。

胸元が開いた、茶色の半袖のシャツに同色の長ズボン。胸元から覗く首飾りが揺れている。

「どれくらい、寝てましたかね?」

「一、二時間程度だろうな。ジャン達も、戻って来ている。顔を洗ってこい」

ミルデアさんに、頬を撫でられた──

 

 

昼食は、中々に豪華だった。ポークステーキにポテトサラダ。丸パンに厚切りチーズ。鶏皮と白菜のスープ。いつもの酢漬け野菜。

塩ダレのかかったポークステーキが、美味い。

端々がよく焦げ、いい焼き加減だ。

付け合わせの、塩茹での青菜がいい味わいをしている。うん……これは、美味い。

 

 

昼食後、竜骨の買い取り額と、袋に詰められた硬貨の配分を済ませた。

その額。それぞれ、金二百枚に銀五枚──大金だ……マーカスさんは、いらないと言ったがジャンさんとレンケインさんが、そういう訳にはいかないと、分け前を押し付けた。

竜骨は、武具のみならず、魔道具の材料になるという。

「ああ、クレイドル君。ストルムハンドさんが、顔を見せてくれと言っていたよ。鎧の事だろうねえ」

と、レンケインさん。赤闇の鎧が仕上がったのかな……「分かりました。すぐにでも向かいます……ああと、あの指貫のグローブは何か分かりましたか?」

「うん。ジャンがいうには、メルデオ商会で、鑑定した結果。あのグローブは“指先の手甲”といって、指先が器用に動く物らしいよ……鍵空けやら、罠の解除の助けになるだろうね」

ただね。とレンケインさん。

「ああいう道具に頼ると、罠の解除の経験を積む事が出来ないんだよ。駄目だね、道具頼りは」

ふんす、とレンケインさんが胸を張る。

「僕は君に、解除ツールの使い方を充分に伝えたよ……だから、道具頼りはよくない」

うわ。レンケインさんが教師モードになった。

こうなったら、話が長くなるなあ──

 

 

解除ツールの講義を一通り、復習した。いや、復習させられた。

夕刻近くになって、ようやく解放された。

解除ツールかあ……スティールハンドに向かうか……。

 

「おう。来たか! 最終調整をするぞ!!」

「ほらほら! こっち来な!!」

ストルムハンド夫妻が、逞しい髭を揺らしながら、迫って来る。思わず、腰が引ける──胴、肩、腕、腰回り──ほぼ、全身を図られた。

よおし、よしと、夫妻が頷き合う。

「明日、だな。仕上がりは!」

「そうさね。調整も済んだし、立派に仕上げてやるよ!!」

あっはっはっは、と笑うストルムハンド夫妻。

髭が、豪快に揺れている。

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