邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第54話 冒険者証更新 そして宴会

 

「クレイドル、冒険者証持って、俺の部屋に来い。再登録するからな」

朝食を終えた直後、ダルガンさんに言われた。

口元をナプキンで拭い、丁寧に畳むダルガンさん。この人、中々に所作が丁寧だよな。

「今までの、おめえの冒険者証てのは、仮扱いだったが、もう訓練期間は終ったものと見なす」

茶を啜るダルガンさん。仮の期間が終ったという事は……。

「ま。話の続きは部屋で、だな」

茶を飲み干し、立ち上がるダルガンさん。

「ふむ。少年が正式に、冒険者になるという事かな」

「だろうねえ……まあ、今までの働きからしたなら、Eランク……以上から始まってもおかしくないね」

初級冒険者のランクはFから始まるが、初級訓練を終えると、一つ上のEランクから始まるという事だ──正式の冒険者証を貰える、という事なのか。今まで、色んな経験させて貰ったなあ……。

 

 

ギルドマスター室に来るのは、いつぐらいだろうか。正面に座るのは、ギルドマスター、ダルガンデス。

飾り気の無い、質実剛健の部屋。いかにも、ダルガンさんらしい……。

 

「さて、クレイドル。おめえのランクだがな、Cランクから始まる事になった」

ええと? 確か、初級訓練を終えたなら、Eランクからの始まりからじゃなかったけ?

「言いてえ事は分かる。二つ飛びでCランクってのは、そうそう例はねえ。だがよ」

茶を啜りながら、ダルガンさんがいう。

「おめえの実力は、ジャン達の話を聞いて知っている。だから、この待遇だ。言っとくがよ、他の連中からは何の苦情も無かったんだぜ?」

意外、というか何というか……。

「冒険者証、寄越せ。正式に冒険者になれるからな」

ダルガンさんに、仮の冒険者証を渡す。

「いうまでもねえだろうが、はっきり自覚を持ちなよ……いいな、クレイドル」

威圧が届いて来た──「分かって、います」

ダルガンさんから目を逸らさず、はっきりと答える。

「ふふん、いい面構えだな。まあ、一ヶ月の訓練期間を、二ヶ月に延長てのは、そうは聞かねえからな。その分も含んでの事だぜ」

入れたての茶を啜るダルガンさん。というか、いつの間にか同席している、サイミアさん。

「クレイドル君。改めて、冒険者証の再登録を行いますね」

ニコリ、と笑うサイミアさん。簡素な手続きを手早く進める……結果、正式な冒険者証が出来上がった。

ただの木製のカードとは違う、頑丈な木枠の鉄製のカード。クレイドルの名と共に、片羽根の印が二つ、付いている──これは、どういう意味だろうか?

「その羽根の印は、初級訓練を受けたって証明だ。おめえは二ヶ月の訓練を受けたから、羽根二つって事だ」

 

改めて、冒険者証を見る──刻印された名前の 左右に、羽根の印。名前の下に、初級・Cの刻印が刻まれている──おお……感慨深いな。

 

「今日は祝いの席を設けるからな。夜は開けとけ……それと、祝いの品も出るからな」

ソファから、のそりと立ち上がり背伸びをするダルガンさん。

「祝いの品ですか」

「まあ、楽しみにしてな。今日は宴会になるぜ」

ニヤリ、と笑うダルガンさん。

 

 

宿舎に戻ろうとしたら、マーカスさんに呼び止められ、喫茶室に行く事にした。

「まあ、俺の奢りだ。一杯やりな。干し果物のケーキも食え」

いい薫りだ……これ紅茶だな。砂糖は入れない。濃いめの味。のど越しに薫りが、上がって来る──美味いな。

干し果物のケーキはどうか。ケーキ自体は甘さ控えだが、干し果物が普通より甘い──微かに、ウィスキーの味がする──「ああ、これ。干し果物、ウィスキーに漬け込んだやつですか」

 

「おう、分かるか。ウィスキー漬けの干し果物は、甘味が強くなるんだよ。あとは薫り付けのためだ。だからその分、ケーキ自体の甘さは控え目にしてんだ」

嬉しそうに説明するマーカスさん。

 

なるほどな。ただの甘さ控えめのスウィーツなんぞとは、訳が違うという事だ。

甘さ控えめ食うくらいなら、食うな!

 

 

茶とケーキをご馳走になり、冒険者ギルドから出た……時刻は昼前。さて、どうするか、だが……ああ、スティールハンドに寄ってみるか。

胸鎧と籠手が、仕上がっているだろうな。

 

「よく来たなあ! もう、完成してるぜえ!!」

「さあ、来な! ほらほら!!」

相変わらずの圧。あっはっはっ、と笑い合うドワーフ夫妻。髭が、揺れている。

 

赤闇の胸鎧と籠手を、身に付ける。若干の余裕がある胸鎧。肩回り、脇、喉元をガードする造り。籠手はしっかりと、腕に張り付いているようだ……いいな、これは。うん、いいぞ。

「おう、姿見で見てみな!!」

ストルムハンドさんが、姿見を立てる。

おおう……赤闇というだけあって、赤と黒が混じりあった様な色合いをしている。

籠手も同じく……まあ、少々禍々しさも感じるけどな……。

だが、体にしっかりと馴染む気がする。何だろうな、この感覚は……邪神と深淵の女王の、縁なのかこれは?

「おおっ、いいねえ! 男振りが上がったよお!!」

「鎧のおかげだなあ!!」

わっはっはっ、と笑うドワーフ夫妻。何とも豪快な事だ。

 

 

ギルドに戻ると、昼食の準備が始まっていた。夜の宴会に備え、軽めにするという。

卵と青菜の雑炊。鶏肉と白菜炒め。当然、酢漬け野菜。それだけでも、充分なメニュー。鶏出汁の雑炊、美味い。

昼食を終え、のんびりとした茶の時間。

「クレイドル、冒険者証の更新したんだってな。ちょっと見せてくれないか?」

ジャンさんに、更新したてのカードを渡す。

「おお、二枚羽根……初めて見たな、こんなのは」

「初級訓練、二ヶ月の証明でしょうね」

「ある意味、箔が付くぞこれは」

ジャンさん達が、口々に言う。それほどのものなのか、二枚羽根の冒険者証は……。

 

夕方まで、時間はある……さて、と……ああ、そうだ。

「ジャンさん、ミルデアさん、少し稽古つけてくれませんか?」

「ほう? 私は、まあ構わんが」

「そういえば、近い内にグレイオウル領に行くんだよな……よし、餞別代わりに鍛えてやるよ」

「余り、無理はしないようにね、クレイドル君。宴会が待ってるからね」

ジャンさん達が、快く引き受けてくれた。よし、今までの集大成だ……。

 

ベンチに横たわるクレイドルを、横目で見るジャンベール達。

「油断ならない実力を付けているな。手加減が難しかったぞ。うん」

左腕を擦りながら、ミルデアがいう。

「突きの軌道読んで、捌きやがった。そうは出来ないぞ、あんな事は」

ジャンベールは手首を捻ったのか、しきりに揉んでいる。

「あの調子だと、対人戦も大丈夫でしょうね。二人とも、痛む場所を見せて下さい。治癒しますから」

すう、と寝息を立てているクレイドル。

呑気なものだと、ジャンベール達は思った。

 

 

夕暮れ間近、夕食は無し。宴会があるからだ。

マーカスさんがいうには、オーガの拳亭の離れの宴会場でやるという。貸し切りだそうだ。

シャワーを浴び、普段着に着替え待機する。ついでに、一服しておこうか……。

 

「おう、今日は招待客もいるからな。メルデオに、ストルムハンド夫妻。それぞれ、祝いの品を持ってくるぜ」

ダルガンさんがいう。大分、大袈裟じゃないかと思ったが……。

「何しろ、二枚羽の冒険者なんて、聞いた事ねえしな。並みの扱いはされねえよ」

マーカスさんの言葉。祝いの品というのが、気になる……何だろうか?

 

 

オーガの拳亭の離れ。貸し切りの宴会場。この場にいるのは、冒険者ギルドにいる人達。職員、冒険者問わず、皆が来ている様だ──総勢、三十人はいる。

宴会場は広い。いくつもあるテーブルに、適当に座る。

ジャンさん達にマーカスさん。気心しれた人達と一席付くのはいいが……リネエラさん、ジェミアさんに、サイミアさんまでもが、しれっと、同席している……何ぞ?

 

前置きなく、宴会が始まった。くだくだと、挨拶が始まる事は無かった。いつの間にか、飲めや、食えやの宴会。

続々と運ばれてくる料理──肉に野菜に、様々な料理だ。

ミランダさんが、厨房に忙しく指示を出しているのだろうか──酒も食事も、続々と運ばれて来る。ストルムハンド夫妻は、ガブガブとエールやら何やらを、飲み下している。

俺は、いつもの果実酒の炭酸割り。炭酸が、喉に抜けて行く──鶏の唐揚げとジャガイモの揚げ物には、塩と香辛料が程よく振られている。

それぞれ、美味い──たっぷりの肉と野菜の煮込みが、大鍋でくつくつと煮られている。

大鍋の中身、白菜と青菜が見えた。肉の種類は分からない。

鶏肉とも豚肉ともつかない、肉の塊──酒も食事も、続々と運ばれて来る。

皆は、思い思いに酒を楽しんでいた。大鍋からは、美味い匂いが漂ってくる──手元の椀に肉の塊と野菜を盛り、肉の塊にかぶりつく──美味い──熱いが、美味い──次いで、野菜を口に含む。当然、これも美味い──果実酒の炭酸割りで体を冷やすように、酒を呷る。うん、美味い……。

 

外に出て、ベンチに腰掛ける。煙草盆を出し、深風を煙管に詰め、火をつける……。

ふうっ、と煙を吐く。煙が、宙に溶け流れて行った……一時の、食休みだ。

 

うわはははっ、と豪快な笑い声が聞こえる。ストルムハンド夫妻の声だ──先輩冒険者達の声が聞こえてくる……「色目、使おうとしてんじゃねぇぞ! 田舎ブスがよぉっ!!」「ああっ!? 尻軽色狂いが、汚そうとしてんじゃねぇっ! 芋女がよぉ!!」

 

女性陣の取っ組み合いの気配は、無視する事にした。特に、俺の名が出た事には──

ふうっ、と煙管を吐く。落ち着くな……よし、宴会場に戻るか。飲み足りないし、食べ足りないからな……。

よし、今日は飲もうか……折角の宴だからな。

「ウィスキー、下さい。炭酸割りで」

 

 

赤ら顔のメルデオさんが、近付いてきた。結構酔っている感じだ。

「クレイドル君。君には結構、稼がせて貰ったんだよ……君が持ち込んで、くれたものはね、あれだ、他の商人連中に、自慢出来る程のものなんだよ!!」

おおう、なかなかに出来上がっているな。メルデオさん。

「グレイオウル領に、行くんだってね。紹介状を用意しているから、それを持って、カリエラ商会に行くといいよ。僕の兄妹分だからねえ」

酔いどれ状態ではあるが、言った事は確かだろう、という事はわかった……べろべろになっているが。

「グレイオウル領に出立する時には、僕の所に顔を見せてくれよ。紹介状渡すからね」

「はい、必ず行きます」

「おう。クレイドル、祝いの品を披露するから、来な」

ダルガンさんが言い、いつの間にか配置された、中央テーブルに向かう。何ぞ?

 

 

中央テーブルには、盾と布に包まれた物が置かれている。

盾は直径、約五十センチはあるだろうか。訓練用の盾と同じくらいの大きさ。手に取ると、いいバランスの重さ。妙に、手に馴染む。

中央から、上下左右に鋲が打たれている。縁は黒光りの金属製──ラウンドシールドってやつかな?

そして、もう一つの祝いの品。ダルガンさんが布をめくると、黒塗りの木箱が一つ。

開けてみな、というダルガンさんの声に、木箱を開ける……おお、これ、解除ツールか。

「盾は、スティールハンドから。解除ツールはジャン達の祝い品だ。あと、ギルドからの祝いは、新調した鎧と籠手だ」

そういえば、赤闇の装備一式の料金は、ギルド持ちと言っていたな……有難い事だ。感謝しかない……。

「よし、飲むぞ。酒も料理もまだまだくるからな」

バンバン、と肩を叩かれる。今日は、遅くなりそうだ……よし。たっぷり食べて、飲むか。

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