ギルドマスター、リンベル。ロングソードを両腰に下げている──訓練用だよな?
「あんた、得物は?」
「訓練用の武器を貸してもらおうと──それ、真剣ですか?」
「ダメかい? 何なら、訓練用にしようか?」
ニヤリと笑い、腰の剣を叩くリンベルさん。
なる程な、もう試しは始まっているのか──ならば……。
「構いませんよ。訓練用の武器を選ばせて下さい」
「……クレイドル君、こちらへ」
バルドルさんに、倉庫に案内される。
様々な武器があるが……バトルアクスは無いな。さて? 盾とショートソードか……いっその事──バスタードソードか、あれ。百三十センチ程の長さ。手に取ってみる。うん、二、三キロってとこか。二、三回振ってみる。まあ、こんなとこか……バトルアクスとは多少、手応えが違うが、まあ物は試しだ。
「クレイドル君、いつもの得物は、バスタードソードなのですか?」
「いいえ。いつもは盾とショートソード、バトルアクスです」
ウォームアップついでに、振る。横に払い。袈裟斬りに振り下ろす。下から突き上げる……うん、いい感じだな。よし、まあいいだろう。
「お待たせしました。行きましょうか」
慣れぬ武器を選択した、クレイドル君。ギルドマスターが真剣を持ち出したというのに、顔色一つ変えなかった。
紹介状にあった、“冷静に無茶”をするというのが、これか? ギルドマスターの最初の試し、真剣を使用する発言を、さらりと流した──面白いな、彼は。
ギルドマスターが気に入りそうな人材だ。さて、どういう試合になるか……。
リンベルに向き合うクレイドル。見物の冒険者達のざわめきが、訓練場に満ちている。
心地よい喧騒が、二人を包む──バルドルが、ギルドマスターと新入りの試合のルールを伝える──時間は三分。
倒れるか降参で決着。多少の傷は自分が治癒する──ギルドマスターは真剣。新入りのクレイドルは、訓練用のバスタードソード。
不公平と思うかも知れないが、両名とも承知の上の事。だから、この試し合いは対等の勝負だ──バルドルの声に、見物客の冒険者達がざわめく。
「では、始めますか……始め!!」
すっ、と下がるバルドル。三分ですからね……と独り言のように言った。
改めて、リンベルさんの姿を見る──鋼で補強された紅の革鎧。肩、脇、首はしっかりと守られている。鉄鋲で補強された、肘まである革の籠手。
多分、現役時代の装備だな……良く手入れされているんだろうな……両剣も。
リンベルさんが、二剣を抜き構える。左手は前に付き出すように構え、右手は、一直線に天に構える。正面、頭上の構え……どんな攻撃か来るか分からない……まあ、いいか。分からない事は考える必要は、無い──
クレイドルは、バスタードソードを肩に担ぐ様に構える──肩構えの型。同時に、身を低くする──片膝が地面に付くほどに、前のめりになる。
リンベルとの距離は、五メートル程。互いに動かない。リンベルは構えたまま、じりじりと間合いを詰め始める──クレイドルは動かない。
見物の冒険者達は、声一つ上げない。リンベルとクレイドルの間に満ちる緊張感に、息を飲んでいる──ぐうっ、とさらに前屈みになるクレイドル。
クレイドルの取った前傾姿勢。リンベル、バルドルともに見覚えがあった──二十年も前、“戦場剣”と名の通った上級の冒険者が、魔物の集団暴走に対して、ただ一人で向かっていき、殲滅した時の事が思い起こされていた──リンベルとバルドルは思う。まさか、な……。
リンベルは眉をしかめる。極端に、身を低くするこの構えは、自分の構えとは、相性が悪い。幸い、クレイドルは全く動かない。
構えを変える隙があるか、どうか──半歩、引く……じりっ、とクレイドルが半歩詰めて来た。
ちっ、と胸の内で舌打ちをするリンベル。だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
ふうっ、と息を吐きリンベルが構えを変えた。
剣を交差して、中段よりやや下に構える──さあどうだね? まだその構えを続けるかい?
二剣の構え──マーカスさんから聞いたな。二剣の交差の構えは、全方位に対してのものだと。
肩構えの型は崩さない──ぐうっ、と地面すれすれの前傾姿勢をとる。
すうっ、とリンベルさんが構えそのままに、間を詰めて来た──地を這う様に、駆け出す。
リンベルさんが、二剣で挟み込む様に、剣を振り降ろして来る──二剣が交差する瞬間を狙い、少し下がり、バスタードソードを跳ね上げる──ギィッイン、鋼が擦れ合う音。リンベルさんが、ふわり、と後方に跳んだ。
攻撃を受けると同時に飛び上がり、バスタードソードの衝撃を逃がす──訓練用の武器とはいえ、重量は真剣と同じ。まともに受ければ、剣が折れてもおかしくない。現役時の剣ならば、逆に、叩き斬れるけどね──しかし、器用な真似するもんだ。肩構えから、剣を跳ね上げるなんてね、足腰しっかり鍛え上げてなきゃ、出来ない動きだよ──さて、次はあんたの番だよ──
再び、肩構えに戻る──さて、どうしたものか。下段の剣を、あんな形で防がれるとは思わなかった。避けるか、受け流される。いずれかと思った。マーカスさん曰く──二剣の防御手段は基本、二つ。捌く、受け流す、重い攻撃、真っ向から受けるのはマズイからな。とはいえ例外はあるがなあ──マーカスさん、例外がいましたよ。
動かない二人。ギルドマスターの顔には笑みが浮かんでいる。フェイスガードを下げているクレイドル君の表情は、見えない──まさか、三分過ぎるのを待っているのか……いや、違うな。
クレイドル君は、じりじりと間合いを詰め始めている。ギルドマスターは交差の構えのまま、微動だにしない。
クレイドルが、肩構えのまま大きく跳躍した。リンベル目掛け、バスタードソードを振り下ろす。
リンベルが、交差構えを解くと同時に、左足を後方に引き、半身になりながら、双剣でバスタードソードの横腹を挟み込み、捻る様に回す──クレイドルの手から、バスタードソードが
──いや凄えもん見た。 あんな事出来るんだな。 まだ現役でやれるよ。 さすが、“熱砂の双剣”──
冒険者達の称賛の声……だが、リンベルとバルドルの顔には、驚きが浮かんでいる。
(巻き払い上げを知っていた……!?)
クレイドルの手から、勢いよくバスタードソードが離れていったのは当然だ。剣を挟まれた瞬間に、自分から放り投げたのだ──リンベルが呆気に取られた隙に、クレイドルがマントの紐を緩めたのを、リンベルとバルドルは気付かなかった。
ガラン、バスタードソードが落ちる音に、リンベルが我に帰った瞬間、視界が防がれた。クレイドルがマントを放り投げたのだ。
一瞬の隙さえ見せなければ、そんな手は食わなかっただろう──反射的に、後ろに跳び下がる。
どん、と軽くない衝撃が腹を打った。マントがハラリと、地面に落ちた。
やられた。巻き払い上げを知っていたのかい。
どこかで見たんだね……
「三分、経過。それまで」
手元の懐中時計を見ながら、バルドルが告げる。静かだか、よく通る声が訓練場に響く。