邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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デート回です。たまには、こんなのも。

Ψ(`∀´)Ψ


第60話 観光と新たな縁

 

起きたのは、もう昼前。昨日は飲み過ぎたな……早朝の魔力制御忘れた。

今日の予定は……ああ、そうか。ルーリエちゃんに観光頼んでいたっけ。昼食後に頼もうか。

シャワーを浴びて……面倒だな。「浄化」

本当便利だな。身体も服も、清潔を保てるからな。まあ、服と肌着を着替えるくらいはしておくか……顔くらいは洗いたいし、お湯を頼もう。早速、ベルを鳴らす。

 

ルーリエちゃんは、即座にやって来た。街の案内は昼食後にお願いすると言い、お湯を頼んだ。

「分かりました!」と、脱兎の如く、部屋から出ていった……。

 

灰月亭、中々の賑わい。カウンターに座る。昼食は魚のムニエルと貝と野菜のスープ、丸パン。そういえば、バターあるんだな。塩と香辛料の味付け、添え物はキャベツのサラダ。そして酢漬け野菜。うん、美味い。いい昼食だ。

カウンター越しに、ラルフさんに尋ねる。

「ルーリエちゃんに、街の観光を頼んでいたんですが、宿は大丈夫ですか?」

サービスのお茶を啜る。香草茶、いい香りだ。

「うん? 構わないよ。昼過ぎは暇になるし、君は信用できるから。この街での紹介状、三通も持って来る冒険者なんて、居ないからね」

おう、さすが宿の亭主。耳が早い。

「ギルドマスター、“熱砂の双剣”と、試合とはいえ引き分けに持ち込むなんてねえ。そんな冒険者、今まで聞いた事ないよ」

ははは、と明るく笑うラルフさん。

「まあ、街の案内はルーリエに任せるといいよ。戻ったら、僕の奥さんも紹介しておこう」

ラルフさんの奥さんが、厨房を取り仕切っているそうだ。夜限定のシチューが、絶品でねえ、と軽くのろけられた。

 

夕方前には戻って来ます、と告げ、ルーリエちゃんと宿から出る。

「まずは、湖です。何といってもオウルレイクを観ないと始まりません!!」

ドレスでおめかししたルーリエちゃんが、手を引いてくる。徒歩で行ける距離なのか?

「商店通り抜けたら、直ぐですよ。途中の露店も面白いんですよ!」

まるで心を読んだかのような、ルーリエちゃんの発言……まあ、いいか。お任せしよう。

 

商店通り。最初に来た時は目に入らなかったが、なるほど。幅広い通路のあちこちに、様々な露店が出ている──いい喧騒だ。

「手を離したら、ダメですよ! 迷子になりますよ!」

おおう。すっかり保護者だ。くい、と手を引かれた。ずんずん、と脇目も振らず商店通りを抜けて行くルーリエちゃん。さすが宿の看板娘──ん、あれは……「ルーリエちゃん、ちょっと待って!」

目に付いたのは、雑貨と食器を扱っている露店だ──木製の食器の中に見えた物は……。

「親父さん、これ下さい」

スカーフを巻いた、初老の黒髪の店主。うん、とばかりに、俺を見て、少し驚いた顔をする。

「ええと、それかい? まあ、そうだな銅貨六枚だな。ただの木の棒二本に高いと思うだろうが、見ての通り装飾が施されているし『強靭』の魔力付与がされているそうだ」

木製の二本の棒に、蔦が絡む装飾が成されている──箸、だ。

「買います。釣りは要りません」

銀貨一枚を渡す。おいおい、木の棒だぜ? という親父さんに、構いませんよ、と言って露店から離れる……おお、箸。箸だ。食生活が捗る!

何故、箸に装飾を施し『強靭』の魔力付与をしたのかは分からないが、これはマイ箸になるだろう! ルーリエちゃんに観光を頼んだのは、このためだったのだ。これが縁というものだろう。

箸を頭上に掲げる俺を、ルーリエちゃんが正気に戻し、再び手を引いて商店通りを抜ける──

 

 

目の前には大きな湖。陽光に照らされた水面が、輝いている──おお、広く壮大だな……ここからの恵みは、何にも換えがたいものだろうな。

「湖と土地には、精霊様の加護が授けられていて、湖と土地を汚す人達への罰は、すごく重いんだって」

ルーリエちゃん曰く、観光客だろうが王族や貴族、地元民だろうが、極刑に処されるそうだ……。

湖畔に、釣り針やらゴミを捨てた漁師が、その日の内に斬首されたこともあったらしい……そういえば、湖畔、湖面を衛兵が見廻っている……通りで騎乗した衛兵をちょくちょく見掛ける訳だ。

湖面の大型ボートにも、衛兵達が乗っているなあ……。

「ああ、そうだ。果樹園ついでに、醸造所にも行きたいんだけど?」

「果樹園? うん、いいよ。醸造所はそのあとでいい?」

果樹園の直売所にも興味あるし、何より醸造所だ。オウルリバーは買わねば。

湖は充分、堪能できた……早速、果樹園だ。

 

おお、広い。果物の香りが、漂ってくる──蜜蜂が、忙しなく行ったり来たりしている。

長閑だなあ……そういえば、直売所があるんだったな。ルーリエちゃんに聞いてみるか。

「うん、あるよ。果物も売っているし、果物を使ったお菓子も食べられるよ!」

なるほどな。地産消費という訳か。うん、面白そうだ。

「よし、ご馳走するよ。お菓子食べに行こうか」

「え。いいの!?」

「いいんだよ。案内のお礼だよ。お勧めがあったら教えて欲しいな」

「うん、 お母さんも作れないお菓子があるんだよ! それを食べようよ!!」

おおう……凄い勢いだ。目がキラキラ輝いている。お菓子は、女子供に強いな……。

 

果樹園、直売所の直ぐ側に店があった。時間が合ったのか、客は少ない。

二人掛けのテーブルに着く。んふふー、と笑うルーリエちゃん。いい笑顔だな……。

「好きなもの頼んでいいよ。俺も同じ物にするから」

うん、分かったといい、店員を呼ぶルーリエちゃん。

 

アップルパイらしき物に、林檎の砂糖漬けが乗ったビスケット。果肉が混ぜられたクリームが挟み込まれたケーキ──これで、銀一枚に銅六枚。

二人分でこれか。安い気がする。追加に、冷たい紅茶を頼んだ。

ニコニコと、機嫌良く微笑んでいるルーリエちゃん。唇の端に、クリーム。

それを指ですくい取る──ルーリエちゃんが、アワアワと、真っ赤になった……何ぞ?

 

醸造所に案内してもらい、オウルリバーを購入する。五年物を一本。初心者は、まず五年物で慣れた方がいいと、店長に言われた。

店長はドワーフだ。撫で付けられた茶色の髪と同色の、銀色の太い紐で纏められた、立派な三つ編みの顎髭。

髪飾りをしていないから、男性だろう──

 

見るべき場所は、だいたい済んだ。ルーリエちゃんに、夕方前に戻ると約束していたから、宿に戻ろうといった。むーむむ、と愚図ったが戻る事に了解してくれた、だが──「ルーリエちゃん、また今度、機会があったらデートしようか」

発動しやがった! 邪神が! 邪神め!!

目を見開き、たちまちの内に、真っ赤に染まるルーリエちゃん──おおぉぉいっ! 邪神!!

 

いつものカウンター席に座る。

「ルーリエが、かなりはしゃいでいたけど、何かあったのかい?」

「……果樹園でお菓子をご馳走したくらいですが……」

言える訳ないな。邪神の加護が発動して、無いこと無いことほざいた事なんて──くそっ。

「まあ、ルーリエはお菓子好きだからね。嬉しかったんだろうね」

「……追加料金で、夕食お願いします。何があります?」

「タイミングいいね。僕の奥さん自慢のシチューがあるよ。青菜と白菜に貝のシチューに、丸パン。厚切りチーズに、玉葱の酢漬けだね」

「美味しそうですね。お願いします」

「ああ、僕の奥さんが会いたがっていたからね。あとで紹介するよ」

 

店の奢りだよ。と言われ、香草酒とやらを勧められた。果実酒に、香草の茶葉を漬け混んだものだそうだ……まずは匂いを──うん、香草茶の香りと、微かな果実酒の香り。一口、飲む──おう、これ、いいな。うん、美味しい。果実と香草の風味が、旨く混ざっている。

「美味しいです」

「嬉しいね。ある意味隠れメニュー何だよ」

メニューに無いのは、量が少ない事。大瓶一つしかなく、仕込むのに少々時間がかかる事から知る人ぞ知る酒らしい。

「あら、珍しい。あんたが香草酒勧めるなんて」

厨房から出てきたのは、体格のいい、肝っ玉母さんと表現していい女性だった。くりっ、とした瞳は、ルーリエちゃんにそっくりだ。美人顔といってもいい顔立ち。紫がかった黒髪を、ショートカットにしている。歳はラルフさんと同年代っぽいな。

褐色の肌は、どことなくリンベルさんに雰囲気が似ている……西国出身何だろうか。

 

「へ~。リンベルが、言っていた通りだね。気をしっかり持たないと、見惚れてしまうね。私はナジェナ、リンベルと同郷でね。西国出だよ」

あっはっはっ、と豪快に笑う。

「妻はねえ、リンベルさんの紹介だったんだよ。その頃には宿を始めていたんだけど、厨房担当が居なくてねえ。リンベルさんから、料理上手の女性を紹介してもらったんだ。その人が、ナジェナ何だよ」

 

それから、のろけ同然の話を聞かされた。夫婦の危機的な話やら、宿の経営方針での話し合いだの──結局、のろけ話に終わったのだが……うん。香草酒は、美味い。

 

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