邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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ほのぼの、日常回という事です。




幕間 グランドヒルの新人達①

 

初級訓練。一週間も、そろそろ過ぎようとしている。私達は、ジャンベールさん、レンケインさん、ミルデアさんの、三人組に訓練を受けていた。三人ともに、中級Bランクとの事……かなりのベテランだそうだ。

三人からは、冒険者としての基本知識を習っている──午前は、座学。午後は、体力作りと戦闘訓練。本格的な知識と技術を学ぶ事は重要なのだと、レンケインさんから言われている。

「甘いな。遅い、脆い、単純過ぎる──それで盾役が勤まるか。図体だけでは勤まらないぞ……立て!」

リザードマンのミルデアさんが、倒れているジョシュの首に、短槍を突き付けている。

ジョシュが立ち上がり、足腰を踏ん張り、盾を構える。

「ふん。根性だけはあるみたいだな」

ガンッ、とミルデアさんの短槍の振り下ろしをジョシュが、踏ん張って耐える──

 

「治癒士だろうが魔術師だろうが、体力は重要だ。走れ走れ」

ジャンベールさんが、訓練場で私達をひたすらに走り込ませる。

私は、祖父から体術と棒術の手解きを受けていたから、それなりに体力には自信はあったけれど……それでも、ツラい。ましてや、シェリナは……。

よろよろ、とシェリナは走り続けている──

「いい根性だな。体力、気力あっての魔力というからな」

ジャンベールさんが、楽しそうにいう。

 

へとへとになった私達に、ジャンベールさんが、シャワーを浴びるように言った。

「美味い夕飯が待っているぞ」

夕食──マーカスさんが作る食事は、本当に美味しい。村では到底、味わえぬ料理。

何しろ、三食に肉が付くのだ。鶏肉や豚肉が必ず食事に付く。柔らかい丸パンと、厚切りのチーズなんてものは初めてだったかもしれない。

「たっぷり食って、体を作れ。美味い飯は士気を上げる。やる気が出る……だから俺は美味い飯をお前らに作ってやる。それが俺の仕事だ」

 

シャワーを浴びたあと、一休憩。その後、夕食の時間だ。

訓練場の食堂で、三人で日々の訓練の話をしている内に、マーカスさんが顔を出した。

「おう。もう飯の準備は済んでいるからな、直ぐに運ばせるぞ」

 

夕食は、豚肉と青菜の塩炒め。鶏皮のスープ。丸パンと厚切りチーズに、白菜の酢漬け。

充分過ぎるほどの食事。体作りをしろとの、マーカスさんの言葉は、骨身に染みた──だから、食べる。冒険者として生きるために食べる──ジョシュが、スープのお代わりをマーカスさんに頼んだ。シェリナは、パンとチーズを頼む。

「食べろ、食べろ。腹一杯食って、体を作れ」

負けじと、私はパンとスープのお代わりを頼んだ。

 

朝から、ギルド内が騒がしい。何だろうか? 喫茶室まで騒ぎが届いてきた。

「何か、あったんですか?」

「おお、ジョシュ。お前らと同期の、力自慢がいただろう? その連中が、三日戻って来てないんだよ」

先輩冒険者が教えてくれた。

「三日ですか……何か、依頼を受けていたんですかね?」

「いや。ただ、ダンジョンに潜ったらしいんだ。最後の足取りが、それなんだよ」

ダンジョン──初級なのに、か……。

「静寂の祠に出向いたらしい……不死者対策もろくに出来てないだろうにな」

馬鹿だよ。全く──首を振りながら、先輩は去って行った。

茶代を置き、温くなった茶を飲み干してリーネ達の元に戻る。

 

「聞いたか? ほら、俺達の同期の四人組……救助、というより遺体の収容が優先事項らしいけど、な……」

「う~ん。だからといって、ねえ?」

ジョシュとシェリナが言う──うん。これは、自分達に関わりの無いこと。

「私達には、関係無い事よ。助力を求められない限りは、放って置きましょう」

ため息混じりに言うリーネ。頷く、ジョシュとシェリナ。

 

無謀と思い上がりの代償は、命──ジャンベールさん達から言われた言葉。

 

「今日一日は、休日にするからね。城塞都市を観光でもしたらいいよ」

レンケインさんが、訓練場の食堂に来た。

「座学はともかく、体力作りと戦闘訓練はなかなかにハードだからね。リラックスする事も、必要だよ」

三日連続の初級訓練後、四日めは休日と決められていたんだっけ。

「あの、レンケインさん……私達の同期の、四人組は、生存の可能性ってあります?」

シェリナが、おずおずと尋ねる──レンケインさんは、うん、と一つ頷くと、きっぱりと言った。

「まあ、十に一くらいかな。ましてや、初級。ろくに訓練受けてない、ただの力自慢じゃあね」

水入れから、コップに水を注ぎながら、レンケインさんが、答えた。

「捜索対象になるのは、大体、三日くらいが目安かなあ。とは言ってもね、名の通った冒険者パーティーだったら、四、五日。長くて一週間は、ダンジョンの探索をする場合も珍しく無いねえ」

レンケインさんが、鞄から紙袋を出し、ビリ、と裂いた。炒り豆?

「さ、どうぞ。砂糖の炒り豆美味しいよ」

砂糖まぶしの、炒り豆。初めて見たかも……。

ジョシュ、シェリナも、まじまじと炒り豆を見つめる。砂糖って、高級品じゃあ……?

「うん? あのね、高い品じゃないよ。炒り豆も焼き菓子も、喫茶室で銅貨数枚で注文できるし、街の露店でも普通に買えるよ。さ、食べて」

炒り豆を、口に含み噛む──ぽり、とした感触とともに、甘さが舌に広がる──

「美味しい……」

ジョシュが感無量といった感じで呟き、シェリナは呆然としている。

私も、もう一口食べる──ああ、美味しい。

こういうのが、簡単に買える。やはり、都会は違う。村にいたら、少し大げさだけれども、終生味わえなかったかもしれない──

これもそうだけど、日々の食事にも恵まれているという事を、改めて沁々と感じた。衣食住に、訓練。本当に、私達は恵まれているんだな……。

「さっき言ったように、今日一日は休日だからね。好きに過ごすといい。昼には戻るんだよ。マーカスさんの料理、食べ損なうのは嫌だろ?」

レンケインさんが笑いながら、炒り豆を口に運ぶ。

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