冒険者ギルド……荒くれやらなにやらがたむろして、新入りに絡んでくるというのが定番だろうが、俺の強面っぷりを見ても絡んでくる、荒くれ野郎はいるだろうか……ようし、覚悟を決めて入場……そして沈黙。外まで聞こえてきた喧騒が、ピタリと止んだ。
何か、こう、常連ひしめくこじんまりとした居酒屋に、足を踏み入れてしまった感が強い……アウェイ感に気圧され、ゆっくりと後ろに下がり、外に出る…………。
「ちょっ、ちょっと! 待ってっ!」
掲示板らしきものの側に立っていた、受付嬢に捕まった。露出控えめ、暖色系のきっちりとした制服を着ている。というか、力強っ! 両肩をがっちりホールドされたまま、再びギルド内に連れ戻された。今気付いたが、この嬢、獣人だ。
「用が、あるのよね? 登録? 登録よね!?」
怖い。ギラついた眼が怖い。狼系か? というか牙を見せるのは止めていただきたい……。
「大丈夫! 直ぐ済むから! 優しくするから!」
ええ……俺、何されるの……囓られる!?
「落ち着きなさい。彼は怯えていますよ」
ギラついた眼。剥き出しの牙。俺を囓らんとする狼族の受付嬢の背後から、穏やかな声が聞こえてきた。
「ジェミア、とりあえずその手を離しなさい」
穏やかな声の持ち主は長身の女性……ゴツい。そして彼女もまた、獣人……獅子族?
凛々しい顔立ちの女性が、俺を穏やかな顔で見下ろしている。
「登録ですよね。さあ、こちらへどうぞ」
狼族の受付嬢の手をビシバシとはたき落とすと、俺の腕を捕み、奥に連れ込もうとする。
なんだこれ!? アグレッシブ過ぎないか獣人女性!? 穏やかな声と顔が、余計怖さを引きたたせている!
「何、騒いでやがる!? ジェミア! リネエラ! そいつから離れろ!!」
階段の踊り場から、これまた大柄な壮年の男性が怒鳴った。はち切れんばかりのシャツから浮き上がるは、引き締まった豪快な筋肉。
「「ええ~」」
獣人二人が、同時に声を上げた。壮年男性が、しっしっとばかりに手を振る。
「すまねえな。普段は……あの二人、あんなんじゃあねぇんだが……んで、ここには何の用で来た?」
「まあ、冒険者登録をしに来たんですが……」
ギルドマスターの部屋で話を聞く事になった。質実剛健といった感じの部屋だ。
調度品は最低限の物しか置いてないらしい。頑丈一点張りの長テーブルを挟んでの会話。少し硬めのソファーが気持ちを落ち着かせる。テーブルの上にはティーポットとティーカップ二つ。
すすと茶を啜る。微かな苦味が気持ちを穏やかにする。ふう、と一息付く。
先ほどの獣人女性達の、いやにアグレッシブな行為を忘れさせてくれた。
「ふむ。まあ、それは構わねえよ。来る者拒まず。去る者追わずがギルドだからなあ。最近は新規の登録者が居なくてな……それで、あの受付嬢どもは、その……興奮、したんだろうなあ」
分厚い手のひらに包まれたカップが、全く見えない。スゲエ……いや、今はそんな事気にしている場合じゃない。
「自己紹介まだだったな。この城塞都市でギルドを任されてる、ダルガンデスだ。ダルガンでいい」
ギルドマスター、ダルガンさんが差し出してきた手を握る。おお、頼もしさを感じる握手だ。
「ほう。俺のなりを見て、握手にびびらねえとはな。大概は、びびるか、強く握り込んでくるがな」
ダルガンさんは、もう一度軽く握り、離してくれた。
「強く握ってきたら、どうするんです?」
シンプルに気になり、思わず聞いてしまった。
「そりゃあ、あれよ。挑んできたって事だからなあ。相手せんと失礼だわな」
ニヤリと笑うダルガンさん。豪傑肌な人だな。
「まあ、名前だけで充分だ。正直、身の上話ってのは、あまり根掘り葉掘り聞くもんじゃないしな……とはいえ、話せる事があるのなら多少は聞いておきたいんだが……まあ、無理は言わねえけどな」
ダルガンさんの目が、スッと細くなる。うお、威圧感がじわりと、漂ってきた……これは、話せる事は話すべきだろうな……とはいえ、邪神に転生させてもらったんすよ、ぶへへ。とか言える訳ないしなあ……何をどう話したものか……腹を決めて話した結果……。
我ながら驚いた。あること無いことのレベルじゃない。ほぼ、無いこと無いことの連続じゃないか。事実は廃村で一泊して、スケルトン倒した事だけじゃないか……邪神か、邪神の加護か。
ダルガンさんが唯一信じなかった事は、スケルトンを倒したの下りだった。
「いや、あの廃村は清められているから、アンデットなんか出ねえと聞いてるがなあ……」
武勇伝フカすなよ。と言わんばかりの目で見てくるダルガンさん……邪神だ! 邪神の仕業だ!