邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第61話 新たなパーティー “碧水の翼”

 

 

早朝に目が覚めた。窓を見ると、まだ薄暗い。

よし、魔力制御にいい時間だ。

窓を開くと、秋風が入り込んで来た……心地いいな。ベッドに胡座をかき、深呼吸二度──意識すると、直ぐに魔力が体内をゆっくりと巡っていく──いい感じだ。

 

陽が、窓から差し込んで来た。時間にして、一時間と少しか? ラーディスさん曰く──集中力は一、二時間が精々、それ以上は無駄。上手く魔力制御が出来るならば、それくらいの時間で充分──よし、充分だ。ベッドから降り、背伸びをする。微かな立ちくらみ。魔力制御が上手くいった証しだろう──お湯を頼んで、それから朝食にしよう。早速、ベルを鳴らす。

 

湯で顔を洗い、口をすすぐ。さて、今日の予定はどうするか──階下から、微かにざわめきが聞こえる。今日の朝食は何だろうか?

煙草盆を取り出し、一服する。葉煙草を詰め、生活魔法で火をつける──すう、と一吸い。ふう、と煙を吐く。煙が風に舞い、散っていく──

 

人気の少なくなった頃合い。いつものカウンター席に座る。

「ええと、今日の朝食は何です?」

「うん。鶏皮と青菜の胡麻油炒めと、丸パンにチーズ。あと酢漬け野菜だね」

「それで、お願いします」

いいメニューだな。うん、いいな。胡麻油、あるんだな。料理の幅が広がるぞ──

 

朝食を終えた後は、暇になる身……さて、どうするか。ギルドで依頼を受ける気分では、ないしな……カリエラ商会とブレイズハンドを冷やかしにでも行くかな……。

着替えて、街に出るとしよう。

昨日のルーリエちゃんの案内は、大まかな観光案内だった。

ぶらぶらと、街歩きでもするか……それとも、露店巡りでもしてみようか──

 

 

冷える秋風に、フードを下げる。けして顔を晒したくない訳じゃない。

何となく、中央噴水広場に足が向き、案内板を眺める。

 

東側が宿通りで、西側が商店通り、と……北側が住宅街で、食材を扱う店もあるのか──「ちょっと、あなた」──露店巡りも悪くないな、屋台がいくつかあったんだよな──「ねえ」──商会では見かけないような、品もある……うおっ!!

 

フードが勢いよく、後ろに引っ張られた。何ぞ!? 慌てて振り返ると、緑色のケープコートを羽織った女性が仁王立ちをしていた……知らない顔だ。俺と身長は、そう変わらない。

流線形の、藍色の鎧と籠手を身に付けている。革とも、魔物の素材とも分からないが、実用性と華美を両立させている様に見えた。

鎧の前面には、翼を広げた梟の装飾。籠手には、絡まる蔦の装飾……なかなかに凝ったものに見える──少女の面影をまだ残した、銀髪の美人さん。少しつり目気味、濃い青色の瞳。鼻と唇は、端正に整っている。

 

うん? 今気付いたが、耳の上部が尖っている……「エルフ?」「ちょっと違うわね」被せ気味に言ってきた美人さん。

「ハーフエルフなのよ。ああ、私はレンディアよ、ここの……まあ、いいわ。あなた、クレイドルね。一昨日のギルドマスターとの試合、見てたのよ」

あの試合観てたのか。もうやりたくないな。あんなのは……相当手加減していたろうな。

「あれね。手加減はしたけれど、手は抜かなかったと言ってたわよ」

くりくり、と髪をいじりながら言う銀髪の美人さん、いやレンディアさん。

「それで……何の用です?」

「ふむ。私達は、三人パーティなのだけど、もう一人前衛が欲しいと、思ってるのよ」

「それで……」「そうよ。今のパーティは前衛二人に後衛一人なのよ。私ともう一人は術者でもあるの、あと一人は斥候担当なのよ」

またしても被せ気味に、そして心を読む様に言ってきた。

「術者以外に、純粋な戦士が欲しいのよ。そうすれば、戦術の幅が広がるのよ」

なるほどな、スカウトか……パーティでの行動は充分、経験しているつもりだが──

「他の仲間にも紹介するから、そこで加入するかどうか、決めたらいいわよ」

何で、こうも心を読むような事を言うのか。

「昼に、引き合わせてくれませんか」

「ん……じゃあ、昼食ついでに顔を合わせるわよ……淡水の庭亭でもいいけど、商店通りの端に、“湖畔の庵亭”という店があるのよ。そこにしましょう。炭火焼きが絶品なのよ」

おおう、炭火焼きか。いいな、今から楽しみになってきた……。

「他の面子に、話してくるわ。昼近くになったら、ギルドに来るといいわよ」

さっ、と身を翻して広場から去って行った。

 

風の様な人だな……一人残された俺。さて、どうするか。昼食の約束をしたからな、屋台での買い食いは無しになった。

まあ、いい。何か、露店でいい掘り出し物が有るかもしれないな……マイ箸のように。

 

商店通りに並ぶ、多数の露店。賑わい良く、活気に満ちている。賑わいの中を、衛兵達が通りを行き来している。治安の良さが伺えた。

おおう。肉と野菜の串焼きの店がある……美味そうだ──いや、駄目だな。昼の炭火焼きが待っている。

うろついていると、箸を買った露店が目に入った。

何となく近付き、改めて雑多に置いている品物を見る。ほんと、雑貨て感じだな、まるで駄菓子屋みたいだな──好きな雰囲気だ。

「お。アンタ、箸を買っていった人だね」

スカーフ巻きの初老の人。長い間売れ残っていた箸を買った、俺の事を覚えていてくれた。

少し話をする。世間話から、商売の事。仕入れのルートや気苦労等──グレイオウル領での商売は、月に二週間らしい。明日には、すぐ近くのギルラド領に移動するそうだ。

「ギルラド領に行くなら、四季の庭園を見学するのを、お勧めするよ。あそこを観ないのは、損だね」

四季の庭園。覇王公、晩年の別荘だったという。覇王公の代から、現在まで続く庭園だそうだ。庭園を任されるのは、国から給金が出るほどの役職らしい。

なるほどな、ギルラド領の四季の庭園か。覚えておこう──「そういえば、煙草葉ありますか?」

「煙草かい? ああ、あるよ。ちょっと珍しくてね、西国の煙草なんだけど」

がさごそと足下の箱を探り、袋を取り出す親爺さん。

「私は煙草はやらないけどね、吸う時は濃い味だけど煙を吐く時には、爽やかな味わいと、香りになるらしいね。“西砂(さいさ)”というんだけど」

ほう、深風とは違った味わいか。買い、だな。

「二袋あるけど、まとめ買いするなら……銅八枚でいいよ」

「買います」

即決。いいと思ったのは、即買いに限る。釣りは取っておいて下さいと、銀一枚で払う。

「おう、相変わらす払いっぷりいいな」

少し話をした後、店から離れる。

「兄さん、縁が合ったらまた会おうや。帝国領内を廻ってるからな」

ではまた、と手を振って別れた。いずれ、また……。

昼近くには、ちょっと時間はあるが……冒険者ギルドでお茶でも飲みながら、時間潰すか。

 

ギルドの喫茶室。煙管を吸うので、端のテーブル席に着く。煙管の香りが、茶の香りの邪魔になると思ったからだ──それが杞憂だと言われるのは、後の事だった──煙草盆を置き、“西砂”を煙管に詰め、生活魔法で火をつける……すっ、と一吸い。

おお……確かに、濃厚な香りが口内に広がる。

ふうっ、と吐く……爽やかな香りが、口内に広がっていく。

美味いな。深風とは全く違う味わい……うん、いいな。深風もこの西砂も、個性ある味わい。

「あの、ご注文、き、決まりました、か?」

若い女性の店員さんが、何かもじもじしながら、用を聞きに来た……ええと、冷たい香草茶と塩の焼き菓子かな。

「香草茶を冷やしで。あと塩の焼き菓子お願いします」

「ひ、ひゃい! 少々、お待ち、ください!」

顔を真っ赤に染めた店員さんが、厨房に駆け込んで行った……何ぞ!?

 

喫茶室の亭主、ロザンナ。油断ならない鋭い顔付き、引き締まった立ち姿の女性。四十代前半といった所だろうか。紫混じりの黒髪は、西国生まれを示している。

ロザンナは、端の席に着き、煙管を吹かしている男──クレイドルを見る。

 

リンベルの言った通りだね。ありゃ、何だい?

二枚目なんて言葉では、到底片付けられる様な御面相じゃないよ、あれは──店の女連中が、いかれちまった……注文を取ってきた店員を叱咤して、我に帰らせたくらいだ。

誰が注文の品を持っていくかで、揉め始めたので、一喝して大人しくさせた──はあ、全く……「私が行くよ。あの客とは、ちっと話してみたいからねえ」

冷たい香草茶と塩焼き菓子を、盆に乗せ運ぶ。

直々に客の接客なんて、随分久し振りだねえ……女連中の、背後からの罵声は無視する。

 

「お待ちどうさん」

不意の声。全く気付かなかった……コン、と煙草盆に灰を落とす。

「ありがとうございます」

エプロン姿の、眼光鋭い、引き締まった体の女性が立っていた。髪の色が、リンベルさんと似ているな……。

「あたしはロザンナ、ここの女将をやってんのさ。いい煙草盆だね。ちょいと、借りるよ」

向かいの席に座るロザンナさん。手前に煙草盆を引き、エプロンから煙管と煙草葉を取り出し、葉を詰める。

パチン、と指を鳴らし、煙管に火をつけた。

生活魔法だ……すうっと一口吸い、ぷかり、と美味そうに煙を吹いた。微かな甘い香りが、宙に漂う──「早く飲みな、温くなるよ」

香草茶の冷たさが、爽やかに喉を降りていく。

「あたしもね、あの試し合い観させてもらったけどね、いや中々に血が騒いだよ」

んっふっふ、と楽しそうに笑うロザンナさん。

「ロザンナさんは、元冒険者だったんですか?」

焼き菓子を食べる。塩がいい塩梅だ。

「ああ、そうだよ。十年前に、リンベルとバルドルでパーティ組んでたのさ。ギルド本部から、リンベルにグレイオウル領のギルドマスターにならないかと、打診があったのさ。それを切っ掛けに、あたしらも引退を決めたのさ」

ぷかり、と煙を吐くロザンナさん。

 

「あれ。ここに来てたの」

銀髪のハーフエルフ。レンディアさんだ。

背後に二人。一人は、長髪を丁寧に纏め上げている二枚目の、がっしりとした体格の男性。美丈夫といった雰囲気。衣服は上下ともに黒色。ブーツも黒。黒ずくめの男だ。ただ、肌の色は、血色の良さそうな肌色。

整った顔立ちは、貴族然とした雰囲気を醸し出している。目が合った。何か、驚いた顔をしている。何ぞ?

 

もう一人は、猫族の女性。というにはちと、若いかな……茶色の瞳。細身ですばしっこそうな体付き。明るい栗色の、短めの三つ編みを二つ、両肩から下げている。

男性とは、真逆の服装。赤、青、黄の多色。派手だ。キョトキョトと、落ち着きない……。

「あ、この人ね。えらく艶っぽくて、まともに顔見たら、えらい事になるって人は」

ビシリ、と俺を指差してきた。止めないか、人を指差すのは。

「止めろ。無礼だ」黒づくめの美丈夫が、指差す腕を下げさせる。

「ここに来ていたなら、話は早いわ。この二人が、パーティメンバーなのよ」

レンディアさんがいう。黒づくめの美丈夫が会釈をする。猫族の娘が、ニコニコしながら握手を求めてきたので、応じる。

「まあ、そういう事よ。自己紹介は、湖畔の庵亭でしましょうよ」

明るく笑う、レンディアさん。

「若い者同士、仲良くやんな」

んっふっふ、と笑う。ロザンナさん。

「私達のパーティ名はね、碧水の翼(へきすいのつばさ)というのよ」

レンディアさんがいう。

「ま、クレイドル君。湖畔の庵亭で話そう」

美丈夫さんが言った。

「炭焼きがねえ、ホントに美味しいのよ!」

猫族がはしゃぐ。賑やかなパーティになりそうだな……。

 

ロザンナは、笑みを浮かべて若手達を見ていた。

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