邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第62話 精霊剣士と暗黒騎士と斥候

 

 湖畔の庵亭。頑丈で武骨な造りが、いかにも老舗といった風情を見せている。

「こんにちは。個室、使いたいんだけど空いている?」

「おう、お嬢。相変わらず、元気そうで何よりだな……おっと、新顔だな」

 建物と同じく、武骨。といった感じの亭主が出迎えて来た。

「女給連中には、対応させられないなあ」

俺を見て、あっはっは、と笑う……何ぞ?

 

二階奥の個室に通された。豪華ではないが、こだわりの装いが、店の雰囲気を感じさせる。

質実剛健の造り。無駄な物は何もなく、最低限の装飾だが、それがこの部屋に合っていた。

優に、六人は掛ける事が出来る広い、テーブル席。個室だけはあるな……。

 

「ええと……今日のお勧めは、何があるの?」

「おう、いい形のハマ貝があるから、それの炭火焼きだな。あとはアサ貝の塩汁かな」

「うん。取り合えず、それと……あとは、ミズタコとエビのマリネをお願いよ」

「……そうだな。小エビの素揚げを」

「香辛料の白身煮もお願い!」

美丈夫と猫族が言う。おおう、楽しそうだな。

メニューを見ると……あった、これだ。

「山葵の葉漬けを、お願いします」

ワサビは大事。何にでも合う、いや合わせる。

 

それぞれ酒を頼む。いつもの果実酒炭酸割り。

レンディアさんはワイン。シェーミイさんは果実酒。グランさんは、黒ワイン──確か、黒ワインは──黒づくめの姿といい──

「グランさんは、ええと……暗黒神の信徒ですか?」

「やはり、分かるか。いかにも、大いなる父君の子だ」

微笑む美丈夫。品格あるな……。

 

「改めて自己紹介しようか……私はグラン。暗黒都市の騎士団に所属している、暗黒騎士だ。パーティー内での、私の役割は盾だ」

「固いなあ、グランさん。クレイドルさんが引くよ……私はシェーミイ、田舎出身の、斥候が取り柄の女の子だよ!」

グランさんとシェーミイさん、か……。

「改めて、挨拶します。俺は、クレイドル。接近戦が取り柄ですが、他に出来る事は……浄化と軽治癒に、生活魔法を少々、ていうとこですね」

「へぇ、生活魔法に浄化、軽治癒ね。城塞都市で、伊達にベテランに鍛えられた訳じゃないのね」

「ふむ。名有りのベテラン達に、鍛えられたという事は、ギルドマスターから聞いている」

 

酒が運ばれて来た。「まずは、一献」とグランさんの声に、乾杯をする。

シェーミイさんが、ぐうっ、と果実酒を半分飲み干す。おおう、飲むなあ……。

料理が、次々と運ばれて来た。炭火焼きの匂いが、身に染みる。最初にマリネが、目に付いた。

「すいません、ワサビを一皿貰えませんか?」

料理を運んで来た店員さんに、頼む。

 

炭火薫る中、タコとエビのマリネを取り皿に取る。追加のワサビを箸で摘まみ、タコの上に乗せ、一口……ツン、と来た。ワサビはいいものだ な。

「クレイドル君、それ箸か。珍しいな、遥か東国の物だと聞いているが?」

グランさんが尋ねてきた。うん? やはり、珍しいのかな。前世からしたなら、馴染みの道具何だよな……。

「露店で、珍しそうだから思わず買ってしまったんですよ」

「ほう……結構、扱いに慣れているみたいだね」

関心しながら、俺の箸扱いを興味深そうに見るグランさん。中央大陸では、たまに見られる物だという。

「使ってる人、初めてみた!」

何故か、シェーミイさんがはしゃぐ。

「ふん。器用に、掴むわねえ」

炭火焼きのハマ貝を、貝殻からむしり取るの見た、レンディアさんが感心したようにいう。

大ぶりの身、プリプリとした歯応え。美味い。ほくほく、と温かい身。

単純な塩味と、噛むとにじみ出す汁が、何とも言えず──美味い。

「ああ、改めて自己紹介するわよ。私はレンディア。風属性魔術と、水の精霊と契約しているので、精霊術を行使出来るのよ」

「基本は、私が盾で正面から魔物の攻撃を受け、レンディアが横合いから、相手を突く」

グラスに口を付け、残った黒ワインを飲み干すグランさん。

「剣なり、術なりで攻撃するんだけど、相手の数が多ければ、どうしても手数が足りなくなるのよ」

ハマ貝を手掴みに取り、素早く身を吸う、レンディアさん。あれが、本来の食べ方なのか?

 

「おう、お待ちどうさん。アサ貝の塩汁は、もうちっと待ちな」

小エビの素揚げと、香辛料の白身煮が運ばれて来た。おお、香辛料のいい香りがする。素揚げも良さそうだ。

亭主さんの名は、ロドリゴといい、南方出身だそうだ。ロドリゴさんに、追加の飲み物を注文する。

「すいません、山葵の葉漬けもお願いします」

何故か、誰も山葵の葉漬けを食べなかったので、俺一人で平らげていた……何ぞ?

「おおう。山葵好きかい? ご領主が喜ぶだろうなあ。山葵の葉漬け、追加な」

あっはっは、と妙に楽しそうに笑う、ロドリゴさん。

 

香辛料の白身煮を、取り皿に分けるシェーミイさん。ふわり、と香辛料の薫りが食卓に漂う。

「柔らかい身は、味が染みてておいしいんだよね~」

さっそく、白身をパクつくシェーミイさん。

負けじと、白身に手を伸ばす──おお、香辛料が混ざり合った、薄口の煮汁にひたされた白身。

煮汁が含まれた白身が、口の中でとろけるようだ……いや、美味い。さて、小エビの素揚げはどうだろうか。

 

アサ貝の塩汁は、さすがの逸品だった。レンディアさんがいっていたように、湖畔の庵亭自慢の汁物だ。貝以外の具は、一切無いのが、いい。

貝の出汁がたっぷりと出た、汁と貝の味わいはさすが、逸品と言われるに相応しい物だ。

小エビの素揚げ。味付けは無し。塩一粒とて振られていない──素材の味。微かな甘味がある。

これは、酒が進む……よし、飲もう。

 

「私はねえ、ショートボウと短剣を武器にしてるのよ。といっても、牽制が主なんだけどね」

パクパク、と小エビの素揚げを平らげながら、果実酒を飲むシェーミイさん。酒、強そうだな。

「斥候と罠探知が、私の仕事。戦闘は、二の次なの。牽制と、仕止められるなら、仕止める──そんな風にしてきたの」

「うむ。シェーミイには、罠の発見に解除。かなり助けられているからな。技術は間違いない」

グランさんが、グラスに口を付ける。

「んっふっふ。伊達に、“疾風の指”を祖父にもってないの……すいませーん、小エビの素揚げとハマ貝のバター炒め。あと、果実酒おかわりくーださい!」

食うし、飲むなあ……猫族だから、魚介類が好物なのだろう。

「まあ、そういう事よ。今までこのやり方でやって来たけど、手数を考えたら、純粋な戦士が必要なのよ」

ワインに、口を付けるレンディアさん。

「それでだな、連携の訓練を早速やりたいんだが……実戦で、試したい。どうだ?」

くっ、とワインを飲み干し、グランさんが言った。いきなりの実戦か。それぞれの戦い方は聞いた……頭の中で、何となくイメージしておこう。

「構いません。何か、手頃な討伐依頼でもあれば」

ふうん、とレンディアさん。楽しそうに微笑んでいる。

「すいませーん、果実酒炭酸割り、くーださい!」

「黒ワインの、おかわりを頼む」

「私は、オウルリバー炭酸割りを」

 

飲み過ぎないで欲しいのだが……。

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