邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第63話 コボルト討伐 コボルトリーダーとの対峙

 

夜明け前。昨日は少々飲みすぎたが、酔いは残っていない……酒、強くなってるのか?

窓を開け、外気を入れる──少し冷たい風が心地いい。陽が出るまで、魔力制御といくか……。

 

ベッドに胡座をかく。深呼吸、一つ、二つ……鳩尾を中心に、魔力の感覚。おお、良いぞ……ジワジワと、体に充ちて、来た……。

 

窓から、朝陽が射し込んで来た。よし、ここまでにするか。軽い疲労感が、妙に心地いい。

煙管を吸う前に、水を頼むか──早速、ベルを鳴らす。

時間にして、五秒足らず……コココン、小刻みなノックと同時に、ドアが開いた。超スピードでやって来たのは、ルーリエちゃんだ。

「クレイドルさん、御用は何でしょうか!!」

「……あ~、お水頼めるかな」

「はい、直ぐに!!」

再び、超スピードで出ていくルーリエちゃん。

声、でけえな……まあ、一服するか。

レンディアさん達との合流は、朝食後。ギルドで合流し、何かしらの討伐依頼を受ける事に決まっていた。

煙管に火をつけ、深風を一服する。プカリ、と吹かす。さて……討伐依頼は、何になるか……。

「お待たせしました!!」

今回は、さすがに超スピードではなかった。水瓶と盆を運んでいるからな。

「うん、ありがとう。少ないけど、これ」

チップに、銅貨数枚を渡す。ルーリエちゃんは、遠慮がちに受け取ってくれた。

「今日の朝食は何かな?」

「え~とね、ハムと卵に丸パン、玉葱とキャベツのスープだよ。あと、ほうれん草の酢漬け」

なるほど、ご機嫌な朝食だ。

「もう少ししたら、食べに行くよ」

うん! じゃあ、あとでね!! と再び、超スピードで出ていった──ドアは閉めていこう、うん……運ばれた水瓶で盆を満たし、顔を洗う。

浄化で済ませばいいが、味気ないんだよな。たまには顔を洗ったり、風呂に入らないと、精神的に安らげないんだよなあ……。

 

階下の喧騒が少なくなったタイミングをみて、下に降り、いつものカウンター席に座る。

「やあ、お早う。ルーリエに、チップありがとうね。朝食、どうだい?」

「お願いします。卵は、半熟の目玉焼きで、ハムは少し強めに焼いて下さい」

ああ、分かったよ。と、注文に入るラルフさん。あいよー、とラルフさんの奥さん、ナジェナさんの声が厨房から聞こえた。

 

 

身仕度を整え、宿から出る。盾とスケルトンキラー(鋼造りのショートソード)と手斧。バトルアクスは置いてきた。

冒険者ギルドに到着。朝から、なかなかの賑わい。先輩達に色々声を掛けられながら、喫茶室に向かう。

 

レンディアさん達が、テーブルに付いているのが見えた。よう、とグランさんが手を挙げた。

皆、武装している。レンディアさんの装備は前に見たが、グランさんとシェーミイさんの武装は初めてだな……グランさんは、頑丈そうな漆黒の鎧と籠手、膝から爪先までのブーツ。交差する短剣が装飾された、黒いマント……暗黒騎士の装いか。

長方形の盾、カイトシールドと、ブロードソードが壁に立て掛けられている。

 

シェーミイさん。灰色の革鎧と金属で補強された革の籠手。毛皮のブーツ。腰には短剣。

ショートボウと矢筒は、壁に立て掛けられている。

「お茶飲んでいるといいよー。私が適当に依頼見つけるからねー」

シェーミイさんが、掲示板に向かって行った。

「遅れましたか。申し訳無い」

「いいえ、丁度いいくらいよ。まだ注文したお茶、来ていないもの」

明るく笑う、レンディアさん。

 

シェーミイさんが受けて来た依頼──コボルト討伐。確認された数は八体。しかし、これから増える可能性はある。そうなれば──コボルトリーダーが出現する可能性は高いそうだ──場所は、街道筋から離れた、林近く。

「丁度、手頃な相手だと思うよ。リーダーが出ていたら、油断ならないけどねー」

シェーミイさんが、明るい口調とは裏腹に、その顔には強かな笑みが浮かんでいる……。

 

「まあ、いいんじゃないの。コボルト討伐は初めてじゃないし、リーダーも手強いでしょうけど……まあ、何とかなるわよ」

「早速、出向くか。数が増えたら、面倒だ」

レンディアさんとグランさんがいう。

そうか。オークと同じ様に、コボルトも増えたら、そのリーダーも出てくる可能性も、あるんだったな。

ハイオーガに、コボルトリーダーか……ふん、面白いな。

 

領内から出て、街道から離れて一時間もしない内に、林が見えた。煙が、立っている──野営の気配。

「ちょっと、見てくるねー」

シェーミイさんが、静かに駈けて行った……速いな。

 

煙管を吸う暇もなく、シェーミイさんが戻って来た。

「コボルト十二体……リーダー来ているねー」

依頼とは違った状況。引き返して報告しても、依頼料は貰える──だが討伐すれば、依頼料に上乗せした報酬が、得られる。

ここの見切りが、中々に難しい事なのだろう。リーダーの資質が、問われる所──レンディアさんが言う──「やりましょうよ。何も怖れる事無いわよ。新しく連携を試す頃合いよ……いつも通り。中央、グラン。左右に、私とクレイドル。シェーミイ、背後で牽制……いいわね」

やはり、リーダーはレンディアさんか。

「クレイドル君。君には、遊撃を頼みたい。私は盾として相手の注意を引く。つまり……」

「好きにやれって事よー。牽制は、私に任せてー」

にひひ、と笑うシェーミイさん。頼もしいな。気負いも、油断も無い──いい、パーティと感じた。

よし、俺のやれる事をやろう……。

 

焚き火を囲み。ギャアギャア騒いでいる狗面連中。犬というより、狗だな。可愛さなぞ欠片もなく、毛は短く汚い。人より、背は低め。

ボロ革、ボロ布、辛うじて革鎧の形をしたもの──装備はまちまち。側には、錆びた槍、剣、荒削りの棍棒。縁が欠けている小盾が置かれている──

 

「焚き火を囲んでるのが、六体。少し離れたとこで、ごろ寝してるのが四体。あとの二体とリーダーは、奥の洞穴で、食事中」

黄色い実を付けた、胸までの高さの灌木に身を潜めて、コボルトを観察中。

「奥の洞穴は、どれくらい離れているの?」

「ん~とね、五十メートルくらいかな。もうちょい近付けば、焚き火を囲んでる連中を撃てるよ」

「一度に倒せるのは、何体だ?」

「三体かな。即死でなくとも、戦闘不能には出来るよ」

レンディアさん達の作戦会議……三体を戦闘不能。あとの三体を始末。さて、ごろ寝の四体が、騒ぎに気付き、向かって来る時間はどれくらいだろうか……?

「クレイドル君、どう見る?」

グランさんに声を掛けられ、我に帰る。

レンディアさん、シェーミイさんも俺を見ている。

「焚き火周りのコボルトを始末。ごろ寝しているコボルトが向かって来たら、始末。その頃には、奥のリーダーが向かって来ますかね?」

あくまでも、そういけばいいな。という楽観論だ。実戦は、そうは上手くいかないだろう。

「ふむ。焚き火周りのコボルト、ごろ寝のコボルトを始末か……レンディア、術を行使したら時間短縮になるな?」

「ええ……シェーミイ、射程距離に入ったら、焚き火のコボルト三体撃って。二体は私が溺れさせるわ。グランとクレイドルは、一体を始末。ごろ寝連中が来るかどうかは分からないわね。ま、焚き火連中を先に始末しましょうよ」

シェーミイさんとグランさんが頷く。直ぐに作戦が決まった……さすが、というか、溺れさせるて何だよ、おっかねえ……。

 

シェーミイさんを先頭に、静かに移動する。重装のグランさん、ほとんど物音立ててないな……重装移動に、馴れているのだろうか。

先頭を歩く、シェーミイさんが、足を止める。

膝立ちになり、矢筒から三本を抜き出し構えた。

「私が撃ったら、進んで~」

すうっ、とシェーミイさんが息を吸った──ビビッビィィン、弓の弦が鳴る──矢の三連射。凄いな。ほぼ、一息だぞ。

三体に命中。矢を受けたコボルトは、倒れて動かない。

同時に、レンディアさんが進む──来たれ水 息を包め──詠唱と同時に、二体のコボルトの頭部を、一塊の水球が、包んだ。ボゴリ、と息を吐き出し、倒れるコボルト。

何が起きたか分からず、慌てるコボルトに駆け寄り、抜き撃ちに仕留めた……ごろ寝しているコボルト連中は、起きない──「静かに、仕留めるわよ」

レンディアさんがいう。グランさんが、寝ているコボルトに近付き、今だ起きぬコボルトの首を踏み潰した。えげつないな……スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)で、コボルトの胸を突き、深く刺す……二体目のコボルトを踏み殺すグランさん。俺は、最後の一体を刺す……。

 

速攻戦──反撃を一切、させる間の無い、あっという間の決着。さて、あとはコボルトリーダーと取り巻き、二体……。

「グラン、前に。クレイドルと私は、グランの左右。シェーミイ、牽制頼むわよ」

 

陸で溺死させる……水の精霊術えげつないな。

あとは、リーダーと取り巻き二体。コボルトリーダーは、どんなもんだろうか。

 

「さすがに気付いたみたいねー。来るよ、リーダーと二体が」

獣耳を、ピンと立てたシェーミイさんがいう。

うん……? 微かな地響き──ゴアァァアッ!!

獣の咆哮──姿を見せたのは、並のコボルトとは、一線を画す巨体のコボルト。俺達を見下ろすほど背も高く、筋肉質の体付き。

一番、目に付いたのは──少々錆び付いているものの、頑丈そうな胸鎧と籠手。

手にしているのは、百センチ以上はある曲刀。

目が合った──気がした。違うな、コボルトとは明らかに違う。濁り無く、強い光を宿している。怒りと殺気だな……。

左右にいるコボルト二体も、並のコボルトと装備が違う。古びた革鎧、小盾にショートソード。親衛隊、といった感じか。

グルル……リーダーの唸り声。殺気宿す目で、こちらを睨みつけている──警戒しているらしく、直ぐには仕掛けてこない。

 

「グラン、リーダーの目眩まし、お願い。同時に、私とクレイドルが左右の二体を仕留めるわ。シェーミイ、牽制と補佐頼むわよ」

「レンディア、目眩ましは、長くは持たない。精々、三秒とみてくれ。暴れるだろうから、気を付けろ」

「分かったわ。クレイドル、左を頼むわよ」

チィッン──レンディアさんが、剣を抜く。抜いた剣は……日本刀か!? 反り浅く、切っ先長めの刀。刀身、八十センチくらいか? ううむ……日本刀か……。

「クレイドル、聞いてる?」「大丈夫です」

「レンディア、やるぞ──闇は集い 濃い霧は 光を閉ざす──黒霧(ダークフォグ)──」

グランさんの詠唱と同時に、コボルトリーダーの頭部を、黒く濃い霧が包んだ。

いきなり視界を防がれたリーダーが、頭を振り回しながら、後退する。

いいぞ、やり易くなった。リーダーの狼狽ぶりに、慌てるコボルト──一気に踏み込み、袈裟斬りに仕留める。

レンディアさんが、コボルトの首を跳ねたのが見えた……。

 

グオォァアッ!! 頭部を覆う黒霧を振り払ったリーダーが、曲刀を構える。

おお、様になっているな。戦い方を知っている構えだ──ズンズン、とグランさんが盾を構えながら、リーダー目掛けて突き進んで行く。

振り下ろされる曲刀を、真正面から受け止めたグランさんは、ビクともしない。

ブロードソードを突き出すが、リーダーが身を引いて避けた──ヒヒュッ、と二連射の矢がリーダーに向かう。リーダーは半身になり、避けた。

素早いな。いや、さすが──だがな、隙が出来てるぞ──左右から、俺とレンディアさんが挟み撃ちに出来る……すれ違い様に、俺が膝裏を切り裂くと、リーダーが、地面に片膝立ちになる。

それに合わせ、レンディアさんが喉元から首筋にかけて、切り裂いた……ごぼり、とコボルトリーダーの口から、大量の血が吐き出される──立ち上がろうとするコボルトリーダー。だが、片膝を切り裂かれているので、立てない。そのまま横倒しになり……動かなくなった。

 

 

「……昼近いわね。討伐証明と、魔石の回収は私とグランがやるわ。シェーミイとクレイドルは、洞穴の調査を頼むわよ」

「はいはーい。クレイドル、行くよー。ガラクタしかないだろうけど、掘り出し物有るかもよー」

シェーミイさんの明るい声に、緊張感が解れる……勝ったんだな。

「今、行きます」

フェイスガードを引き上げ、空を見る。快晴の風が、涼やかに頬に触れて行く──

 

 

 

 

 

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