邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第64話 グレイオウル領への帰還 “碧水の翼”加入決定

 

十二体のコボルトの魔石、全て土属性。魔力量は、少量との事。リーダーの魔石は、火属性だそうだ。コボルトは土属性と聞いていたが……。

「基本はそうなのよ。リーダーってのは、特異体なので属性が変わる事も珍しくないのよ」

 

コボルトリーダーから取り出した魔石。大きい。コボルトから取り出した魔石は、手のひらにすっぽり納まる大きさだが、リーダーの魔石は、鷲掴みする程に、大きい。

 

「リーダーの魔石、なかなかに上質な魔力よ。さすが、と言っておくわ。そういえば洞穴からは何か掘り出し物あった?」

掘り出し物、ねえ……錆び付いた武具に、鍋や釜に雑貨多数。行商人を襲って入手した物だろうか……ガラクタだな。

「何も。持って帰る様な物は有りませんでしたよ」

「……雑貨やらはともかく、武具は持ち帰りましょう。コボルトやオークが居着いて、身に着けたら厄介よ」

なるほどな、そういう考えもあるか。

 

「昼食作るよ~」

シェーミイさんが俺達を呼ぶ。俺が貸した魔道コンロにグランさんが火をつけ、湯を沸かしている。

乾燥豆と野菜のスープに炙り干し肉。仄かな塩味のビスケットに干し果物──文句無い、野営食だ。

 

「昼が済んだら戻るか。武具は適当な所に持ち込もう。二束三文でも、買い取ってくれるだろうからな。多少物が良ければ、整備して中古品として出回るだろう」

グランさんが、スープを啜りながらいう。

「鉄屑は、鍛冶屋に歓迎されるんだよ~。中古品は、お店次第かな~」

干し肉を噛りながら、シェーミイさんがいう。

「夕方前には、戻れるだろう。依頼以上の事が果たせた。報酬は期待出来ると思う」

グランさんが、ビスケットを噛り、干し果物を口に含む。

 

煙草盆を出し、煙管に葉を詰める。パチリ、と火をつけ、一吸い──ふうっ、と吐く……少しの苦味。後から爽やかな香りが、口の中に広がって行く……旨いな。

 

 

 

グレイオウル領に着いたのは、夕方前。

回収した錆び付いた武具の持ち込み先は決めてあるという、グランさんとシェーミイさん。

ギルドに討伐証明を持ち込むのは、レンディアさんと俺の役割となった。

 

 

「コボルトの尻尾、十二。コボルトリーダーの尻尾……あとは魔石十三、ですね。リーダーの両目と、魔石は全て買取りですね」

受付嬢さんが、トレーに討伐証明と買取り品を綺麗に並べる。リーダーの両目は、錬金術の素材やら、魔術の触媒になるらしい……レンディアさんが、コボルトリーダーの両目を指で抉り取ったのは、なかなかに衝撃的だった……。

 

「買取り品は査定に回しますので、番号札を持って、お待ち下さい。」

「依頼報酬と、買取り金は別にお願いよ」

「分かりました」

レンディアさんに、頭を下げる受付嬢。というか、さっきからチラチラこっちを見るのは、何ぞ?

「ちょっと、時間かかるだろうから、お茶でも飲んでいましょうよ。グラン達も直に戻って来るでしょ」

 

端のテーブルについている二人。レンディアさんと……クレイドル、君だったな。姉曰く“ありゃ、油断ならないよ”と言ってたな。試合は、所用が合って見る事が出来なかったんだよなあ。

聞いた話だと、手に汗握る内容だったらしい──というより、クレイドル君の容姿……凄いなあれは……姉から聞いていた以上だ。女給連中が、使い物にならなくなった。叱咤して正気に戻したが、今度は誰が注文を持って行くかで、揉め始めた──「仕事を、しろ」

冷たい声が、厨房に響いたのをクレイドル達は知らない。

 

「お待ちどうさま」

風属性と水の精霊術との、親和性について身振り手振りで話す、レンディアさんに閉口している所に、注文の品が来た……レンディアさんの話は、うん。分からん、といったものだった……。

注文品は、グレイオウル特産の香草茶と、香草が練り込まれた、しっとりとした感じのクッキーだ。香草茶の香りがいいな……クッキー、美味しそうだ。

「初めまして、だね。俺はルバート。ロザンナの弟だ。宜しくな。暇な時は、ここを手伝っているんだ」

三十代前半くらいの、細い目をした、愛想のいい整った顔立ち。優男に見えるが、引き締まった体格からは、油断ならない雰囲気が覗いている……。

 

香草入りのクッキーは思った通り、しっとりとした口触り。微かな甘味が、いいな。控え目という訳じゃないのが、いい──うん、美味い。

香草茶にも微かな甘味。香りも味も良しだ。特産というだけはある……。

 

「回収した武具は、全部引き取って貰った。鍋やらは、鉄屑として鍛冶屋に引き渡した。まあ、二束三文とまではいかなかったが、それなりの値だったぞ」

「武具はねえ、錆落としのあとは、中古品として扱えるらしくて、中古品に回せるんだって」

 

戻って来たグランさんとシェーミイさんが、席に付き、茶を注文する。

「中古品を扱っている店があるんだ。そういう店は、初級の冒険者には重宝されるんだよ」

「面子だの何だので、中古品を嫌うのは良くないんだよねー」

「そういえば、クレイドル。私とシェーミイには、さん付けしなくていいわよ」

なるほどな、二人とは年は変わらない……グランさんは、二、三上っぽいからな。

「分かりました……レンディア、シェーミイ。それで、いいですね」

「いいわよ、それで。グランは年長だから。グランさん、でいいわよね」

「お……うむ」

畳み掛ける様な物言いに、渋々と頷くグランさん。二人は呼び捨てなんだが……。

 

依頼報酬、金貨一枚銀貨二枚が、跳ね上がった。金貨十二枚。

コボルトリーダーは、かなり厄介で、単体でも強力な上、放置するとコボルトが続々と集まり、軍勢並に膨れ上がるそうだ。その危険度から、この報酬。

「報酬を分ける前に、クレイドル。パーティー口座の事は知っているわよね?」

パーティー口座。パーティー共通の貯金だ。

食料等の消耗品等を購入したり、治癒院や神殿での治療。武具の補修や修理。それらに使用される──

 

「そ、知っているなら話は早いわ。入金は報酬の大体、一、二割ってとこよ」

「私が通帳を管理している。レンディアは、無頓着な所があるし、シェーミイは、大雑把に過ぎるからな」

「お金の事は、グランに任せてるのよー。どの依頼で、どれくらいの報酬得たか、しっかり記録してるのよー」

思い思いに、茶と菓子を楽しむ。レンディアが、茶と菓子のお代わりを頼んだ。

 

報酬等の分配は、丁度、金貨三枚と銀貨二枚。あとの端数、銀貨一枚と銅貨五枚を、パーティー口座に入金する事となった。

茶を終える頃には、もう陽が暮れていたので、夕食にする事になり──淡水の庭亭に、決まった。

「庭亭は、煮物とシチュー、スープが美味しいんだよねー!」

「湖畔亭とは、また違う品揃えなのもいいな」

シェーミイとグランさんがいう。

 

魚と貝の鍋。くつくつと煮たった鍋が美味しかった……魚介類と白菜。ぶつ切りの、太葱たっぷりの塩味の鍋。大根おろし乗せの、魚の甘味タレの照り焼き──照り焼きも、あるのかと思った。

先人だな。先人の影響に違いない──

 

飲んで食べて、飲みに入った頃──「じゃあ改めて、クレイドルの、“碧水の翼”加入決定ということで、乾杯」

レンディアが、ぐうっ、とオウルリバーの炭酸割りを呷りながら言った。

ぐびり、とシェーミイが果実酒を呷り、にひひ、と言葉を次いだ。

「まあ、色々やりましょうよー。ダンジョン探索もあるしねー。遠出する事もあるでしょうねー」

グランさんが、苦笑しながら黒ワインを口に含む。シェーミイが、酒の摘まみを注文する。

「すいませーん。貝の甘煮と、小魚の塩揚げくーださい。あと、果実酒炭酸割りも、お願いしまーす!」

「黒ワイン頼む。それと、貝とホウレン草のバター炒めもな」

おおう……飲むわ食べるわで、凄いな──

 

宿の話になった。俺は、灰月亭の一人部屋に宿を取っている事。レンディア達は、光翼亭という所に、宿を取っているそうだ。

「明日は休暇にしましょうか。グレイオウル領は、なかなかに広いわよ……湖に果樹園に川、観光地でもあるのよ」

「ここの湖は、帝国内の絶景の一つなんだ。ギルラド領の、四季の庭園に勝るとも劣らぬ、風景だ……オウルレイクは、何とも詩的だぞ」

黒ワインのグラスを傾けながら、グランさんがいう。

「んじゃ、明日はクレイドルの観光案内にする?」

シェーミイが言ったが、大概には知っているんだよな……ああ、中古品を扱っている店を知りたいな。

「観光は大丈夫。中古品を扱っている店が知りたいんだけど」

観光は、灰月亭のルーリエちゃんに頼んだ方が、いい気がするしな。

「今日は解散にしましょうよ。また、明日」

レンディアが、いう。

「んじゃあ、解散ねー! 明日、ギルドで合流ねー!」

すっかり出来上がったシェーミイを、グランさんが抱え、宿に向かっていく。

じゃあ、明日ね。と手を振るレンディアに、手を振り返す。

 

時刻は、もう夜になっている。妙に人通りは、無い──酔い冷ましのために、一人、中央広場に立つ──酒に会っては歌うべし。友よ盃に注いでくれ──か……おお、俺も結構酔っているな。

気分がいい──空を見上げると、月が出ている。星はない──月は煌々として 孤独に地を照らし 行く先はただ荒野 月は孤独を照らすとも常に側に有り──言葉が、流れていく……特に、意味は無い……酔っているなあ……おお、倒れそうだ。まあ、いいか──力強い手で、支えられた。何ぞ……?

グランさんに、抱えられていた。

「いや……相当に、酔っていた様に……見えたのでな。気になって……」

「何で、泣いているんです」

グランは、涙を流していた。

 

酔っ払ったシェーミイを抱え、光翼亭に送り届けた。部屋に戻ろうと思ったが、クレイドル君の事が少し気になった。

何となく、中央広場に足を運んだ。灰月亭に行くなら、そこを通るだろうと思っての事だ……いた。

クレイドル君は、空を見上げていた。声を掛けようと近付くと──月は煌々として 孤独に地を照らし 行く先はただ荒野 月は孤独を照らすとも常に側に有り──クレイドル君の、切々とした声、歌い声が聞こえてきた。

月光に照らされる荒野の道。大いなる父君、暗黒神の教えにも似た……いや、違うな。

クレイドル君の、心からの歌だな。何故か、泣けてしまう──ぐらり、とクレイドル君の体が揺れ、倒れそうになる──急ぎ、抱える。

 

安らかに眠っているかの様な顔立ち──不味いな、これは……輝く金髪に整った顔立ち、薄紅色の唇に、白磁の肌──間近に見るのは、不味い。

すうっ、とクレイドル君が、目を開く──「何で、泣いているんです」

「分からない……あまり、私を、見るな」

グランは、ただ、涙を流していた──

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