十二体のコボルトの魔石、全て土属性。魔力量は、少量との事。リーダーの魔石は、火属性だそうだ。コボルトは土属性と聞いていたが……。
「基本はそうなのよ。リーダーってのは、特異体なので属性が変わる事も珍しくないのよ」
コボルトリーダーから取り出した魔石。大きい。コボルトから取り出した魔石は、手のひらにすっぽり納まる大きさだが、リーダーの魔石は、鷲掴みする程に、大きい。
「リーダーの魔石、なかなかに上質な魔力よ。さすが、と言っておくわ。そういえば洞穴からは何か掘り出し物あった?」
掘り出し物、ねえ……錆び付いた武具に、鍋や釜に雑貨多数。行商人を襲って入手した物だろうか……ガラクタだな。
「何も。持って帰る様な物は有りませんでしたよ」
「……雑貨やらはともかく、武具は持ち帰りましょう。コボルトやオークが居着いて、身に着けたら厄介よ」
なるほどな、そういう考えもあるか。
「昼食作るよ~」
シェーミイさんが俺達を呼ぶ。俺が貸した魔道コンロにグランさんが火をつけ、湯を沸かしている。
乾燥豆と野菜のスープに炙り干し肉。仄かな塩味のビスケットに干し果物──文句無い、野営食だ。
「昼が済んだら戻るか。武具は適当な所に持ち込もう。二束三文でも、買い取ってくれるだろうからな。多少物が良ければ、整備して中古品として出回るだろう」
グランさんが、スープを啜りながらいう。
「鉄屑は、鍛冶屋に歓迎されるんだよ~。中古品は、お店次第かな~」
干し肉を噛りながら、シェーミイさんがいう。
「夕方前には、戻れるだろう。依頼以上の事が果たせた。報酬は期待出来ると思う」
グランさんが、ビスケットを噛り、干し果物を口に含む。
煙草盆を出し、煙管に葉を詰める。パチリ、と火をつけ、一吸い──ふうっ、と吐く……少しの苦味。後から爽やかな香りが、口の中に広がって行く……旨いな。
グレイオウル領に着いたのは、夕方前。
回収した錆び付いた武具の持ち込み先は決めてあるという、グランさんとシェーミイさん。
ギルドに討伐証明を持ち込むのは、レンディアさんと俺の役割となった。
「コボルトの尻尾、十二。コボルトリーダーの尻尾……あとは魔石十三、ですね。リーダーの両目と、魔石は全て買取りですね」
受付嬢さんが、トレーに討伐証明と買取り品を綺麗に並べる。リーダーの両目は、錬金術の素材やら、魔術の触媒になるらしい……レンディアさんが、コボルトリーダーの両目を指で抉り取ったのは、なかなかに衝撃的だった……。
「買取り品は査定に回しますので、番号札を持って、お待ち下さい。」
「依頼報酬と、買取り金は別にお願いよ」
「分かりました」
レンディアさんに、頭を下げる受付嬢。というか、さっきからチラチラこっちを見るのは、何ぞ?
「ちょっと、時間かかるだろうから、お茶でも飲んでいましょうよ。グラン達も直に戻って来るでしょ」
端のテーブルについている二人。レンディアさんと……クレイドル、君だったな。姉曰く“ありゃ、油断ならないよ”と言ってたな。試合は、所用が合って見る事が出来なかったんだよなあ。
聞いた話だと、手に汗握る内容だったらしい──というより、クレイドル君の容姿……凄いなあれは……姉から聞いていた以上だ。女給連中が、使い物にならなくなった。叱咤して正気に戻したが、今度は誰が注文を持って行くかで、揉め始めた──「仕事を、しろ」
冷たい声が、厨房に響いたのをクレイドル達は知らない。
「お待ちどうさま」
風属性と水の精霊術との、親和性について身振り手振りで話す、レンディアさんに閉口している所に、注文の品が来た……レンディアさんの話は、うん。分からん、といったものだった……。
注文品は、グレイオウル特産の香草茶と、香草が練り込まれた、しっとりとした感じのクッキーだ。香草茶の香りがいいな……クッキー、美味しそうだ。
「初めまして、だね。俺はルバート。ロザンナの弟だ。宜しくな。暇な時は、ここを手伝っているんだ」
三十代前半くらいの、細い目をした、愛想のいい整った顔立ち。優男に見えるが、引き締まった体格からは、油断ならない雰囲気が覗いている……。
香草入りのクッキーは思った通り、しっとりとした口触り。微かな甘味が、いいな。控え目という訳じゃないのが、いい──うん、美味い。
香草茶にも微かな甘味。香りも味も良しだ。特産というだけはある……。
「回収した武具は、全部引き取って貰った。鍋やらは、鉄屑として鍛冶屋に引き渡した。まあ、二束三文とまではいかなかったが、それなりの値だったぞ」
「武具はねえ、錆落としのあとは、中古品として扱えるらしくて、中古品に回せるんだって」
戻って来たグランさんとシェーミイさんが、席に付き、茶を注文する。
「中古品を扱っている店があるんだ。そういう店は、初級の冒険者には重宝されるんだよ」
「面子だの何だので、中古品を嫌うのは良くないんだよねー」
「そういえば、クレイドル。私とシェーミイには、さん付けしなくていいわよ」
なるほどな、二人とは年は変わらない……グランさんは、二、三上っぽいからな。
「分かりました……レンディア、シェーミイ。それで、いいですね」
「いいわよ、それで。グランは年長だから。グランさん、でいいわよね」
「お……うむ」
畳み掛ける様な物言いに、渋々と頷くグランさん。二人は呼び捨てなんだが……。
依頼報酬、金貨一枚銀貨二枚が、跳ね上がった。金貨十二枚。
コボルトリーダーは、かなり厄介で、単体でも強力な上、放置するとコボルトが続々と集まり、軍勢並に膨れ上がるそうだ。その危険度から、この報酬。
「報酬を分ける前に、クレイドル。パーティー口座の事は知っているわよね?」
パーティー口座。パーティー共通の貯金だ。
食料等の消耗品等を購入したり、治癒院や神殿での治療。武具の補修や修理。それらに使用される──
「そ、知っているなら話は早いわ。入金は報酬の大体、一、二割ってとこよ」
「私が通帳を管理している。レンディアは、無頓着な所があるし、シェーミイは、大雑把に過ぎるからな」
「お金の事は、グランに任せてるのよー。どの依頼で、どれくらいの報酬得たか、しっかり記録してるのよー」
思い思いに、茶と菓子を楽しむ。レンディアが、茶と菓子のお代わりを頼んだ。
報酬等の分配は、丁度、金貨三枚と銀貨二枚。あとの端数、銀貨一枚と銅貨五枚を、パーティー口座に入金する事となった。
茶を終える頃には、もう陽が暮れていたので、夕食にする事になり──淡水の庭亭に、決まった。
「庭亭は、煮物とシチュー、スープが美味しいんだよねー!」
「湖畔亭とは、また違う品揃えなのもいいな」
シェーミイとグランさんがいう。
魚と貝の鍋。くつくつと煮たった鍋が美味しかった……魚介類と白菜。ぶつ切りの、太葱たっぷりの塩味の鍋。大根おろし乗せの、魚の甘味タレの照り焼き──照り焼きも、あるのかと思った。
先人だな。先人の影響に違いない──
飲んで食べて、飲みに入った頃──「じゃあ改めて、クレイドルの、“碧水の翼”加入決定ということで、乾杯」
レンディアが、ぐうっ、とオウルリバーの炭酸割りを呷りながら言った。
ぐびり、とシェーミイが果実酒を呷り、にひひ、と言葉を次いだ。
「まあ、色々やりましょうよー。ダンジョン探索もあるしねー。遠出する事もあるでしょうねー」
グランさんが、苦笑しながら黒ワインを口に含む。シェーミイが、酒の摘まみを注文する。
「すいませーん。貝の甘煮と、小魚の塩揚げくーださい。あと、果実酒炭酸割りも、お願いしまーす!」
「黒ワイン頼む。それと、貝とホウレン草のバター炒めもな」
おおう……飲むわ食べるわで、凄いな──
宿の話になった。俺は、灰月亭の一人部屋に宿を取っている事。レンディア達は、光翼亭という所に、宿を取っているそうだ。
「明日は休暇にしましょうか。グレイオウル領は、なかなかに広いわよ……湖に果樹園に川、観光地でもあるのよ」
「ここの湖は、帝国内の絶景の一つなんだ。ギルラド領の、四季の庭園に勝るとも劣らぬ、風景だ……オウルレイクは、何とも詩的だぞ」
黒ワインのグラスを傾けながら、グランさんがいう。
「んじゃ、明日はクレイドルの観光案内にする?」
シェーミイが言ったが、大概には知っているんだよな……ああ、中古品を扱っている店を知りたいな。
「観光は大丈夫。中古品を扱っている店が知りたいんだけど」
観光は、灰月亭のルーリエちゃんに頼んだ方が、いい気がするしな。
「今日は解散にしましょうよ。また、明日」
レンディアが、いう。
「んじゃあ、解散ねー! 明日、ギルドで合流ねー!」
すっかり出来上がったシェーミイを、グランさんが抱え、宿に向かっていく。
じゃあ、明日ね。と手を振るレンディアに、手を振り返す。
時刻は、もう夜になっている。妙に人通りは、無い──酔い冷ましのために、一人、中央広場に立つ──酒に会っては歌うべし。友よ盃に注いでくれ──か……おお、俺も結構酔っているな。
気分がいい──空を見上げると、月が出ている。星はない──月は煌々として 孤独に地を照らし 行く先はただ荒野 月は孤独を照らすとも常に側に有り──言葉が、流れていく……特に、意味は無い……酔っているなあ……おお、倒れそうだ。まあ、いいか──力強い手で、支えられた。何ぞ……?
グランさんに、抱えられていた。
「いや……相当に、酔っていた様に……見えたのでな。気になって……」
「何で、泣いているんです」
グランは、涙を流していた。
酔っ払ったシェーミイを抱え、光翼亭に送り届けた。部屋に戻ろうと思ったが、クレイドル君の事が少し気になった。
何となく、中央広場に足を運んだ。灰月亭に行くなら、そこを通るだろうと思っての事だ……いた。
クレイドル君は、空を見上げていた。声を掛けようと近付くと──月は煌々として 孤独に地を照らし 行く先はただ荒野 月は孤独を照らすとも常に側に有り──クレイドル君の、切々とした声、歌い声が聞こえてきた。
月光に照らされる荒野の道。大いなる父君、暗黒神の教えにも似た……いや、違うな。
クレイドル君の、心からの歌だな。何故か、泣けてしまう──ぐらり、とクレイドル君の体が揺れ、倒れそうになる──急ぎ、抱える。
安らかに眠っているかの様な顔立ち──不味いな、これは……輝く金髪に整った顔立ち、薄紅色の唇に、白磁の肌──間近に見るのは、不味い。
すうっ、とクレイドル君が、目を開く──「何で、泣いているんです」
「分からない……あまり、私を、見るな」
グランは、ただ、涙を流していた──