「へぇ。珍しい採掘依頼があるわよ」
レンディアが指差す依頼─ロックリザードの巣窟付近の採掘─との事。
「巣窟付近に近付くのは、危険なのでは?」
「巣に入らなければ、少し警戒されるだけで済むのよ。巣窟近くからは、質のいい鉄鉱石。運が良ければ、金や銀の鉱石も出る事があるのよ」
いうが早く、依頼書を剥がす。
「ほら、依頼内容見て」
ええと……鉱石の種類問わず。複数有れば良。
種類に応じて、報酬額の増加あり……基本報酬額は、銀貨五枚か。採掘依頼にしては、報酬いいんだろうが……。
結局、依頼を受ける事にした。依頼受領を受付に報告するレンディア。
またしても、リネエラさんとの睨み合いになりかけたが、感情と仕事の責任感とで、仕事への責任感が勝った様だ……ギリギリの所で。
奥で、能面状態のサイミアさんが、ジッとレンディアを見つめていたが──
城塞都市から東側。荒野と草原が半々の大地。
そこをしばらく進むと、小高い丘と林が見えた。丘の反対側が、採掘場所だそうだ。
「ロックリザードの巣穴は、すぐ分かるわよ。二、三匹ほど巣穴の近くをうろついているから」
なるほどな、その上で近付かなければいいんだな。
「採掘中、ロックリザードが近くをうろつくと思うけど、気にしないでいいわよ。ちょっかいかけたら、大変な事になるからね」
異世界知識では──人を恐れず、好奇心旺盛。戦闘力は並みじゃない、だったな。体高六十センチ強に、体長百二、三十センチだったか?
「もし、近付いてきたならどう対処すれば?」
「丁寧な無視よ。因みに、余計な手出しをして、年に十人ほど殺されているらしいわよ」
……一歩間違えれば、危険生物になり得るんだな。気を付けよう……。
丘に到着。早速、裏手に廻ると洞窟が見えた。
ぽっかりと、大きく開く入り口。大人が二、三人横並びになれるほどの、広さだ。
入り口近くに、二匹のロックリザード。ゴツゴツとした岩肌の、大型のトカゲといった感じか。
その内の一匹が、首を持たせ上げてこちらを見てきた。
「早速、警戒してきてないか……?」
「そうね、まあ大丈夫よ。それより、ほら、これ」
レンディアが差し出してきた物。貸出しの小型ピックだ。折り畳み式で中々に頑丈そうだな。
「巣穴周辺の、岩肌の多い所が狙い目よ。鉱石が出たら、すぐ分かるわよ。これだと思ったら、周囲を丁寧に削ぐように叩けば、鉱石は落ちるわよ」
早速、二手に別れ、巣穴周囲を探る……岩肌の多い場所、か。探り探り、岩肌を確認する──うん? 足下を見ると、小型のロックリザードがこっちを、つぶらな黒い瞳で見上げている。
子供……? いや、子供が近付いて来るのは、まずいんじゃないか!?
野性の動物の子供に、迂闊に近付いて大変な目に合う話は、よく聞いた──今の状況、大丈夫なのか? レンディアは、丁寧な無視。と言っていたな……まあ、大丈夫だろう。キィ、とロックリザードが鳴いた。
岩肌を丁寧に叩き続けると、一握りの岩が落ちた。拾い上げると──鈍い銀色の、石の塊だ。
はっきりいって、鉱石の違い何ぞ分からない。
取り合えず、ピックと同じく、貸し出された収納袋に納めておくか。
それからも、コツコツと岩肌を叩く。赤らんだ石の塊や、白みを帯びた石の塊──四つほどの鉱石? を入手した頃に、レンディアから声がかかった。
小粒な赤色の塊を、小型のロックリザードに放る。それに気付いたロックリザードが、ちょこちょこと近付いて来て赤色の塊を咥えると、ささっ、と去って行った。
「どう、何か集まった? 正直、私にも鉱石の事は分かんないのよ。変わった色の石の塊という事くらいしかね。土属性持ちなら、多少は分かるんでしょうけどね」
なるほどな……レンディアは六つの鉱石。俺は四つ。こんなもので、いいのかな──「クレイドル、ここから離れましょう。面倒なのが近付いて来たわよ」
面倒事か。何かは分からないが、離れるなら早い内だ──「引き付けて、始末するわよ」
引き付けるって、何ぞ? それはいいのだが……「相手は、何だ?」
「
鉱石や岩、何でも食べるという事は……ロックリザードの天敵か。
「それが来るのが、何故分かった?」
「水の精霊が教えてくれたのよ。鎧喰いは堅いけれど、大丈夫。水の精霊の力を借りて戦えば、どうとでもなるわよ」
あっはっはっ、笑うレンディア。軽い地響きが響いて来た……これか。結構、大きめだな──
キーキギィィー! とロックリザードの、鳴き声が背後から聞こえる。警戒の声か……? さて、どうする?
林の木々を押し倒しながら、出現した魔物とも魔獣ともつかないもの──黒光りする、鱗状の歪な肌。四肢から伸びる鉤爪。鈍く輝く瞳に、歯並びの悪い口。
貪欲な雰囲気が、全身から滲み出ている。大きさは、ロックリザードよりも一回り以上はある。
俺達の存在は予想外だったのだろう。面食らった感じで一瞬戸惑いを見せた──チイッン──レンディアが剣を抜く音。
「猛き水玉。叩き伏せよ」
言葉短き、詠唱とも言えない詠唱──無数の水玉が降り落ち、鎧喰いの背を叩いた。
一撃一撃の圧力が、どれほどの物かは分からないが、これほどの数の水玉を叩き込まれる鎧喰いは、身動きが取れないでいた──「クレイドル! ロックリザードの巣穴から、引き離すわよ!」
水玉を降らせながら、レンディアが移動する。鎧喰いが、首だけを廻しレンディアを見た。
水玉の雨が、不意に止む──巣穴から、引き離し……引き付けて、始末する──よし。
挑発するなら音だ……スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を抜き、盾を叩く。叩く、叩く、これでもかと、叩く──ふふふっ……いかん、笑ってしまった。
だが、挑発はしっかりと効いたらしい。水玉の圧力から解放された鎧喰いは、怒りを前面に押し出しながら、意外と素早い動きで迫って来ている。
地響きを立てながら、追って来る鎧喰い──さて、何処まで引っ張る?
林付近。鎧喰いに踏み荒らされ、ちょっとした広場の様になっている──ここだな、ここで始末するか……背後に迫っていた鎧喰いと、向き合う。お前も同じ考えか? 鎧喰い……でもな、忘れたか? 相手は俺一人じゃないんだよ……。
鎧喰いの頭部に、緑色の風が逆巻きながら刃となり墜ちて来て、突き立った──ぶつり、と骨肉を貫く音──「鈍いわよ。鎧喰い」
剣を引き抜きながら、頭部から舞い降りるレンディア。
だめ押しに、首筋に狙いを澄まし……突く。
ズッズズ、と深くまで差し込む──ビクッ、と脊髄反射。もう鎧喰いは、動かない。
レンディアは、刀を懐紙で拭い、鞘に収めた──
「精霊術と魔術の、魔力消費量の違いは?」
「ふん。簡単にいうと、精霊術は精霊の力が及ぶ範囲内ならば、まず消費しないのよ。だけど、精霊の範囲外となると、消費量が増大したり、効果が減少するのよ。それを補填するために魔力がある。という考え方になるのよ。まあ、精霊術士それぞれ、考え方があるのよ」
干し果物を口に含むレンディア。なるほど、精霊術と魔術の違いは、それなりにあるんだな。
「どちらが有利不利、という訳じゃないのか」
煙草盆を取り出し、煙管の準備をする。
「そうね……魔石以外には、鉤爪に……頭部を持ち込みましょうか」
人数が居れば、全身を持ち込む事もあるそうだが、二人では魔石はともかく、部位の一部で充分となった……運搬用の紐を使い、両前足を束ねる。
頭部は、俺が背中に、運搬用の紐に括り付け運ぶ事にした。
「戻りましょうか。昼過ぎには着けるでしょうね」
束ねた両前足を小脇に抱え、レンディアがいう。
鎧喰いの死体は、骨も残らずロックリザードが“再利用”するそうだ……エコだな。