城塞都市に向かう街道で、荷馬車に乗せて貰えた。鉱石類はともかく、鎧喰いの部位が地味に重く、運びにくかったので、荷馬車は助かった。
門近くで降ろしてもらい、礼を言って手間賃を渡す。
帰りついでだったから、いらねえよ。というのを、いや。冒険者としての、義理が立たないから──と言って、握らせた。銀貨二枚、必要経費というやつだ。
レンディアの言った通り、時刻は昼少し前に着いた。時間的には、ギルドが空く時間帯だ。
ギルドに荷を卸したいので、早速ギルドに向かう──リネエラさん達がいたら、また揉めそうだが……思わず、警戒してしまう。
「こんにちは。取り合えずの依頼報告をするわよ」
何の警戒もせず、ギルド内に踏み込むレンディア。幸いにも、カウンター前にいたのは受付嬢三人組では無かった。
正面カウンターにいたのは、馴染みのある男性職員。リストさんだ。勤続二十年以上の、真面目な公務員といった感じの人。
「クレイドルさん、お久し振り……というほどではないですね。では早速、依頼書と依頼品の提出をお願いします」
レンディアが依頼書を提出する。それを確認しながら、依頼品用のトレーを持ってくるよう、他の職員に指示を出した。
手早く効率良く、流れるような古参ならではの動き。さすが、ダルガンさんから『辞められたらどうなる事か』と評価されるだけはあるな……。
依頼品を提出したあとは、鎧喰いから回収した部位をギルド内の、買取り受付に持ち込む。鎧喰いの魔石は土属性で、自分達には、特に使い道が無いため、一緒に持ち込む事に決まった。
「んん? クレイドル、もう戻って──」
「違うんですよ。護衛依頼でたまたまです」
買取り受付にいた強面の職員。ベージュの長袖シャツを肘まで捲り上げている。灰色のベストに、灰色のズボンに黒のブーツ──伊達男風の装いをした、“革鞣し”ゴルディさんだ。
受付担当と同時に、解体所の責任者。粋な風体をした、五十代の男性。
解体をしても、一切の返り血を浴びず、服に一滴も血を滲ませない、精密な解体技術を持つ達人だ。
「ちょっと、見てもらいたい回収品があるんですよ」
俺が小脇に抱え、背中に括り付けている物を見たゴルディさんが、苦笑する。
「よし、預かるぜ……久々に見るな、鎧喰いはよ……おい、台車持ってこい!」
採掘依頼の鉱石と、回収した鎧喰いの素材の査定は、やはり時間がかかるらしいので、取り合えず喫茶室に行く事にした。
鎧喰いの素材はともかく、採掘した鉱石類は俺達から見たら、何か色の着いた石にしか、見えないのだ。
土属性持ちのレンケインさんなら、分かったんだろうな……。
「鎧喰いの査定は、そうかからないと思うけど、問題は鉱石ね。素人目には、分かんないわよ」
砂糖入りの豆茶を、ゆっくりと啜るレンディア。豆の風味と砂糖の甘味が、何ともいえないそうだ。
「レンディア、鉱石の査定は今日中に終わるかな?」
果実水の炭酸割りを飲む。この微かな甘味が良いのだ。
「う~ん、どうかな。依頼主の学者さん次第かな。依頼書見たでしょ? 変わった鉱石でもあったら、変に質問攻めに合うかもね」
うお……面倒事。としか思えんな。
「まあ、そこの所はギルドマスターの領分よ。私達が、あれこれ考える事じゃないわよ」
すいませーん、豆茶のお代わりお願いしまーす。 レンディアが店員を呼んだ。
少し、小腹が空いてきた……軽食なら、ここでも済ませる事が出来るが、ちゃんと腹を満たしたいんだよな……。
「レンディア様、受付までお越し下さーい!」
「クレイドル様ー、買取り受付にどうぞー!」
同時に、呼ばれた。レンディアがいう。
「買取り値は任せるわよ。適切に、ね」
パチリ、とウィンクをしてレンディアが去って行った。
鎧喰いの、適切な値段なんて知らんがな──異世界知識の発動無し! 魔女の婆さんか!!
「上手く仕止めたものだな……刺突か。急所を、一突き後……首筋に、止めの一突きか……文句の無い、仕止め方だな。お嬢がやったんだな?」
「ええ、そうです……刃筋で分かりますか」
解体所に呼ばれ、台に乗った鎧喰いの頭部を、再び見せられていた……何ぞ?
「ああ、お嬢の剣だと直ぐ分かった……そんな面すんな。確認したかっただけだ。悪かった」
空腹からの、微かな苛立ちが顔に出ていたらしい。まあ、反省はしないが……腹が、減った。
提出した依頼品。回収した鎧喰いの素材。やはり査定には、時間がかかるそうだ。
鎧喰いの素材は中々に珍しく、依頼品の鉱石は、種類の特定に時間がかかるらしい。
「鎧喰いの査定は、二時間ほど見てくれ。状態はいいから良い値が付くだろうよ。お嬢にもそう伝えておいてくれ。飯でも食って来な」
ゴルディさんは、解体作業に戻って行った。因みに、鎧喰いは食用には全く適さ無いそうだ。
「クレイドル、お腹空いたわ……何か食べに行きましょうよ」
レンディアの声が、やや険しい。俺と同じく、腹が減ったら、気が荒くなるらしい。
「同感だ。俺の知っている店は……鶏源亭に煮鍋亭、オーガの拳亭くらいかな」
正直、ミランダさんには会いたくない。知り合いからの二度見。あれは中々に恥ずかしいんだよ……。
「お嬢、久し振りね~! せっかくだから、奥個室にする? 二名様、奥個室にご案な……クレイドル君!?」
ああ、クソ。気付かれた。しかも、二度見の手本みたいな、ガッツリとした二度見!!
煮鍋亭にしようと、いったのだが『二人で鍋は寂しいわよ』と却下。鶏源亭は今の私達には、軽すぎる──他の店は、遠い。とにかくガッツリ腹になっている今は……レンディアは、ぱん、と手を叩き。
「ガッツリなら、オーガの拳亭よ! ニンニクソースのポークソテーに、スパイスたっぷりの揚げ鶏に揚げジャガイモ!」
昼過ぎ。夕方前の往来で、食欲の化身と化したハーフエルフが緑色の旋風となり、通りを駆け出して行った──
そして、今個室にいる訳だ。先ずは直ぐに出せる料理なりツマミを、頼んだ。
鶏皮と玉葱の辛煮。豚バラと青菜の炒めもの。そして、酒。同じ果実酒炭酸割りだ。互いに料理を、パクつく──うん、美味い。ツマミにも飯の当てにも、出来る。
「酒はこの一杯で済ませるわよ。食事を済ませたら、一旦ギルドに戻って話を聞くわよ」
「ああ。カリエラさん達は、宿に戻るかな?」
「そこら辺は言って無かったけど……私達が宿にいなかったら、冒険者ギルドに行くでしょ」
お……ニンニクの薫りだ。ニンニクソースのポークソテー来るか! 玉葱と大根のサラダもな!
「相変わらず、良い薫りよね。さっと食べて、ギルドに戻るわよ」
ざくり、とポークソテーを切り分け、口に運ぶレンディア。先程までの不機嫌さは、最早無い。
俺は、ベジファーストといこう。玉葱と大根のサラダの味付けは甘酢。酸味柔らかく、甘味抑え目の味。あっさり過ぎると少し思ったが、ポークソテー、ニンニクソースの濃い味と、実に合う。
サラダを食べ終え、改めてポークソテーを大振りの一口台に切り分け、口に運ぶ──柔らかい。
美味いな……端が焦げている脂身の、ぷにっとした感触が良い──なんのかんの言っても、この店は良い店だ……。
「カリエラちゃんの護衛で、戻ってきてたのね~」
金細工が施された、黒い長煙管を燻らせ、ミランダさんが沁々とした声でいう。普通の煙管の倍以上はないか?
「ミランダさん、カリエラさん知っているんですか?」
「五、六年前くらいだったかしらね~。メルデオさんとこに、下働きに来てたのよ~」
ふうぅぅ~、と豪快に煙を吐くミランダさん。
来た当時は、カリエラさん。接客も何も滅茶苦茶だったそうだ。帳簿付け、物品の買い入れ取引等、事務仕事ならほぼ、完璧だが──接客が、絶望的。客商売の基本中の基本を、教わったそうだ。
「そこのとこを、メルデオさんが辛抱強く、教えたらしいわよ~」
ぷかり、と煙を吐いた──誰にでも、下働き時代はあるものだな……。
先ずはギルドに──という事で到着。職員が俺達の姿を確認すると、直ぐにリストさんがやって来た。
「レンディアさん、回収してきた鉱石は依頼主が査定をするまで、少しかかるらしいですね」
やはり鉱石は、そうなるか。こちらとしては構わないんだが……。
「別に問題無しよ。後からでも報酬、受け取れるのよね?」
「もちろんです。城塞都市には護衛依頼で来ているのですよね。グレイオウル領に戻っても報酬は、振り込まれます。デメリットは、報酬の交渉が出来ないくらいですかね」
「ふん。問題無いわよ。じゃあ、それでお願いね。振込先は、グランの冒険者口座にして頂戴」
分かりました、とリストさんが書類を出す。
「ああ、クレイドルさん、ゴルディさんが買取り受付に顔を出してくれとの事です」
鎧喰いを頼んでいたな。レンディアに一声かけ、直ぐに向かう事にする。
「おう、来たか。早速だが、鎧喰いの頭部と前両足で、金貨十枚飛んで銅貨六枚だな。土属性の魔石が金貨三枚。計金貨十三に銅貨六だ」
うお。かなりの額だな……こんなものなのか?
まあ、これは任されているしな。
「構いませんよ。それで、お願いします」
「よし決まりだ。換金札渡すから、書類にサインしてくれ。上質のいい素材になるぞ、あれは」
何でも、鎧喰い装備というのがあるらしく、一式揃えて身に着けると、各種何らかの耐性が上昇するらしい。
換金札を受け取り、少し雑談後、ゴルディさんと別れた。
レンディアに換金札を渡すと、少し目を丸くした。
「へぇ、結構な額になったわね。今換金しておいて、シェーミイ達と分配しときましょ」
さっそく換金すべく、受付に向かうレンディア。パーティーで別行動していようと、依頼報酬はきちんと分配する。
それを道理としているんだな……いいパーティーだと、何となく思った。