邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第71話 特殊依頼 クレイドル フルスロットル!! 2nds

 

 

 

朝食が終わっても、カリエラさんは部屋から降りて来なかった。レンディアが、店員さんにカリエラさんの部屋に、さっぱりとしたスープとお茶を頼んでいた。

「さて。準備して、冒険者ギルドを覗いて見ましょうか。何か手頃な依頼があればいいけど」

「その頃には、カリエラさん起きてるかなー」

残ったお茶を飲み干し、席を立つ。

 

さて、武器だが……バトルアクスかな。盾は置いて置こう。肩掛けバッグよし、腰のポーチよし、だ。黒鷲の兜のフェイスガードを降ろし、ガンガンと叩く──景気付けというやつだ。

 

上宿には、一部の冒険者以外は、あまり泊まらない。懐に余裕のある人達の宿なのだ。冒険者とは、縁遠い人達から見たら、やはり冒険者は威圧感のある存在。なら、どうするか──部屋を離す。

冒険者達の朝の準備は、どうしても音が出る。早朝から武具の装着音や、準備はうるさい。そのための措置として、一般客とは離すのだ。

 

もう一つは、出入り口を分ける。武装状態の冒険者達が、出入り口をうろつくのは外聞が良くないので、専用の裏口や裏階段を使う。

それを厭う冒険者はいない。まあ、仕方ないな、で済ませる。荒くれ共の、最低限の気配りというやつだ。因みに、これらの気配りは、何も上宿に限った事ではない──さらにいうなら、この気配りも、冒険者の査定に影響されるそうだ。

 

一般客使用禁止の裏階段。一般客が使用出来るのは、緊急時のみ。

「じゃあ、カリエラさんの事、お願いね」

「畏まりました。どうかレンディア様も、皆様方も、お気を付けて」

白い制服姿の、背筋の伸びた初老の男性。灰色の髪を丁寧に撫で付けている。いい歳の取り方をしているな、と思わせる様な人だ。

「この人は、ここの支配人のカーディスさんよ。昔から世話になっている人なのよ」

カーディスさんが穏やかな笑みを浮かべ、頭を下げる……隙が無いな。ただ者じゃないんだろうな──じゃ、行って来るわ。ひらりと手を振り、レンディアが、階段を降りて行った。

カーディスさんと、フェイスガード越しに、一瞬目が合った……「御武運を」

 

冒険者ギルド前に到着すると、何やらざわめいている。何時もの喧騒とは少し様子が違う。

「ちょっと、様子見てくるねー」

シェーミイが、するりと人混みを抜けて行った。何かあったのか?

 

戻って来たシェーミイがいうには、ピックホッパーの大量繁殖が発生したらしく、その駆除のために、人員を募集しているとの事だ……あのイナゴか……。

何でも、ごくたまに、冬近くになると繁殖し、手当たり次第に食べられる物を食い尽くすそうだ──害獣と化したピックホッパーの駆除は、優先事項になるらしい。

「ふうん。この依頼、特殊依頼になるわよ。ランクアップには、丁度いいと思うわ……どう、思う?」

イナゴか……あのイナゴなあ。特殊依頼をこなすと、ギルドへの貢献度は上昇するらしいが、どんなものかなあ……虫かあ。

「数が問題だな。百は下らないぞ、繁殖期のピックホッパーは」

レンディアとグランさんがいう。う~ん、ここは正直に言っておくか……「俺は、虫嫌いなんだよ」

 

 

ふうん、とレンディア。レンディア達が俺を見る。いや、済まない。ほんと虫だけは──「もう、受けたわよ。こういう特殊依頼は、ランクアップの近道になるからね」

レンディアがいう……覚悟を決めないとなあ……。

「ピックホッパーの氾濫が直ぐにでも来る。森の中の虫けら共は、衛兵と森に詳しい連中に任せとけ。その他の連中は、森から抜けてきた虫共の始末だ」

ダルガンさんが、冒険者達に激を飛ばす。

「パーティーを組んでいる連中はそのまま。そうでない者達は一時の仲間を集え──部隊編制だ。群れなす魔物に対しては、それが最良のやり方だ。時間は無いぞ、急げ!!」

 

パーティーを組んでいる連中はともかく、普段はソロの人は大丈夫だろうか、と余計な心配をしてしまったが──結局、即席パーティーはほどなく決まり、一部の待機組以外は、意気揚々と出掛けて行った。

待機組は、予備戦力というより後方支援として、回復などを担うそうだ。

ギルドで用意された、治癒ポーションや清潔な包帯や毛布を準備していた。負傷者がいつ来てもいいように待機するのだという。

 

門から出ると、マーカスさんが冒険者達に指示を出していた。衛兵と共に、森に入る先行組。

森から抜けてきた、ピックホッパーを始末する待受組。待受組は、森近くの街道沿いで待ち伏せるとの事──他の衛兵達は、門の周囲で待機。

待受組を抜けて来るピックホッパーが、街に入らないように始末するためだそうだ。

いわば、三重の備え──「よう。“碧水の翼”には期待してるぜ。お嬢」

マーカスさんが、レンディアにいう。今気付いたが、マーカスさんは武装していた。

頑丈そうな革の籠手と胸当て。その下から、チェインメイルが覗いている。腰には、少し反りのある剣を引っ提げていた。

「門から先は、俺達が通さねえよ。背後は任せな」

ニヤリ、と微笑むマーカスさん。頼もしいな。

 

早速、街道沿いを移動する。先を行く冒険者達の中に、少し気になる三人組がいた。

先頭は、なかなかの体格をした少年? 背に中型の盾を背負っている。腰にはロングソード。

その後ろからは、杖をついたローブ姿の少女二人──前衛一人に、後方支援の術士二人だろうか?

「お、先行組が森に入って行ったな」

グランさんがいう。すでに街道沿い。森までそう距離は無い──誰がいう事もなく、冒険者達が立ち止まり、森を見つめる。同時に、即戦体勢を取り始めた。

 

森が、ざわめき始め──鳥が一斉に飛び去って行く……同時に、ピックホッパーが森から飛び出して来た──ああ、イナゴだ……ほんとに全く、気持ちの悪い。

虫は、誅滅しないとな……死ね───死ねぇっっ!!

 

バトルアクスを肩担ぎにしてピックホッパーの群れに突っ込む──殺さないとな、虫は!

バトルアクスを横凪ぎに払う。いい手応え。

手当たり次第に……払う、払う、振り上げ、叩き落とし、薙ぎ払う──虫滅!

ピックホッパーの体当たり。どういう事もないな……死ねっ!!

 

「ちょっと……あれは。虫嫌いって……ああ、そういう……事ね」

レンディア達は、クレイドルの狂乱を呆れた様に見ていた。他の冒険者達の──ああ、あれか。虫嫌いクレイドルってのは本当だったのか。

無茶にもほどがあるだろ──「クレイドルに遅れるな! 駆逐するぞ!!」

誰の声だったか。おう!! と冒険者達が跳ね回るピックホッパーを蹴散らすべく、進んで行く……「やれやれよ。私達も行きましょ。グラン、ピックホッパー散らして。シェーミイはいつも通り補佐。クレイドルは放って置きましょ。もちろん、目を離さないでね」

ピックホッパー相手に荒れ狂うクレイドルを、横目に見ながら、レンディアが冷静に指示を出す。

チイィッン──レンディアが剣を抜く。

 

来い。イナゴ。数多いな──上等だ、片端から潰してやる。虱潰しだ──「おおおあぁぁぁぁ!!」

振る払う叩く痛えな寄るなほら叩き落としてやる起きるなよほら踏み潰してやる嫌な感触だなまだ来るかさあ来いよ片っ端から潰してやるイナゴ共が──「あっははは!! 死ねぇ死ねぇ!!」

 

嬉々として、迫るイナゴの群れを叩き潰していくクレイドル。その高らかな笑い声は、邪神の声そっくりなのを、クレイドルは知らない。

 

 

数十のピックホッパーの骸。その三分の一は、クレイドルが始末したといっても過言ではなかった。ピックホッパーの骸を、街道からよける者。

森から抜けて来るピックホッパーを、警戒している者達に分かれていた。

ピックホッパーの魔石、食用可の大腿部の回収は、事が済んでからまとめてやる事になった。

 

 

そしてクレイドルは、レンディアから説教を受けていた──「申し訳ありませんでした。はい、虫だけは、本当に……いや、虫以外には、あんな事にはなりません」

「全く……止める間もなく、飛び出していくから、何事かと思ったわよ」

はあ、とため息混じりにレンディアがいう。

「ピックホッパーの攻撃を、完全に無視していたな……鎧が頑丈だからといってもな……」

「あんな、無茶、もう止めてよー」

グランとシェーミイにも、軽く説教をされるクレイドル。

 

 

「おーい、森は済んだぞ! 一掃は完了だ!!」

森の中から出てきた、衛兵が告げる。安堵の声が、冒険者達から上がった。

「直ぐ、魔石と大腿部の、回収に入ってくれ!!」

分かったと、冒険者達が衛兵に手を振る。

 

 

「さてと。私達も回収始めるわよ……クレイドル、出来るわよね?」

「……はい、大丈夫です」

クレイドルは、力なく答えた。

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